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この世界では千人の凡人を相手に、一人の強者が圧倒する。どれだけ癒着や権力の渦巻く貴族社会だろうと、武力がものを言う。
その武力という一点において、エルゼは自らの力で受けた評価を覆していた。己の価値を証明した。いや脅威を知らしめた。
敵に回せばどうなるのか、闘技場で示した。試合もとんとん拍子に進み、夕方頃には呆気なく優勝を飾る。
既にエルゼを表立って悪く言える者は僅かなものだ。
貴族や騎士団の中で、エルゼに勝てる者はいない痛感する一幕。もはや名立たる貴族の子息達は我先にとエルゼに媚びを売る列を成す。
優勝後、エルゼの周囲には多くの貴族が集まっていた。飛び交う称賛の嵐に、エルゼは少し居心地が悪そうに、困った様な笑顔を浮かべる。
その表情には、少し顔に疲れが見えて取れる。大衆の視線を浴びて、かなりストレスが溜まっているのかも知れない。
「――兄さん!」
ぱぁと顔を明るくして、エルゼはトテトテと駆け足で近寄り、近くにいた僕の腕を取り抱き付く。
「申し訳ありません。兄さんと約束していたから……、もう行かないと」
先程までの表情とは打って変わり、凄く安心した様な態度のエルゼ。
「い、いえ、こちらこそ申し訳ない。是非、次回のパーティーでゆっくりお話ししましょう」
その場で最も身分の高そうな男子生徒が少し目を泳がせながら、相手に配慮した言葉を選ぶ。見惚れてしまったらしい、エルゼが不意に見せた安堵した表情に。
「そうですね、その時は是非。では失礼します」
軽く会釈して、僕の腕に抱き付いたまま通路を歩く。周囲の目が怖いのか、僕から離れようとしなかった。
当然周囲の生徒達は声を掛けようとはしないものの、僕達に注目していた。
エルゼって人目を気にしているのか、気にしてないのか、分からないな……。
「剣を使わず無双なんて快挙だな。僕も同じようにした方がいいの?」
「女がやるからインパクトあるんだって……。兄さんは格好良く剣技で倒して」
「そうだった。格好付けないといけないんだった」
「何か新入生の男子に少し強そうな人いたけど、兄さんなら大丈夫だよね?」
エルゼは僕の実力の底を知っている訳でないので、何やら不安に思っていたらしい。
「……当たり前だろ?」
思わず僕は一瞬、目を丸くし、少し困った様に笑ってしまう。だって自分が敗北するだなんて全く想像もしてなかったから。
そうか、エルゼからしたら僕の実力は未知数なのか……。丁度いい機会だし、兄が天才だということを教えてあげないとね。
「兄さんなら大丈夫だと信じてる。絶対、負けないでね? 誰にも」
僕の表情の変化で虚勢を張っていると判断したのか、エルゼの抱き付く力が強くなる。
「……仮にエルゼと戦っても僕が勝つよ。そもそも僕は一級と戦った事が何度もあるけど全勝してるからね」
これは事実。僕は歩きながら何気なく本音を口にした。
「…………ッ! ……そっか」
エルゼは驚いたようにビクッと体を震わせると、抱き付いていた僕の腕から離れる。そしてエルゼは僕の耳を指で挟みながら頬に手を添え、引き寄せる。
無意識だったのだろう。エルゼは僕と唇を重ねた。そして「あ……」と間抜けた声を漏らして顔を真っ赤に染める。
無意識だったのだろう。いつも暇さえあればセックスばかりしていた所為で、キスで何とも思わない関係になっていた。
だから外だと言うのに、エルゼは人目を忘れて僕にキスしてしまったらしい。
「~~~~ッ」
顔が赤いまま、再度僕の腕に抱き付くエルゼ。何か誤魔化す様に、「試合まで時間があるんだし、何か食べに行こっか……」と提案する。
「「…………」」
共感性羞恥で顔を赤く染める周囲の生徒。貴族の坊ちゃんや令嬢達は潔癖な者が多いので、公衆の面前で接吻するなんて見た経験が無いのかも知れない。
「……まぁ、その、アレだよね。…………その、癖って怖いよね」
歩きながらボソリと弱々しく呟く。エルゼは気不味そうにしつつ、「ごめんね、兄さん……」と謝ってきた。
「流石に人前だと恥ずかしいなぁ~」
「~~~~っ! ごめんって……。私だって恥ずかしいから。わざとじゃないし」
揶揄って笑う僕に、エルゼは更に顔を赤くしてギュッと腕を抱き寄せる力を強める。
「エルゼ様の方から……。しかも癖って……」
「仕方なく結婚した訳じゃなく、相思相愛だったの……?」
「嫌々って訳じゃなさそうだな……」
「エルゼ様の方が乗り気だったってこと……? 意外……」
周囲からすれば、エルゼがブラコンにしか見えないらしい。
エルゼの方から駆け寄って、エルゼの方から腕に抱き付いて、エルゼの方からキスしてきたからな……。
まぁこんな場面見ちゃったら、エルゼの方から兄に求婚した様に見えるよね……。
いや、何してんの、この子……。
「……兄さん、ちょっと恥ずかしいかも」
「自分からしておいて何を言ってんのぉ?」
か細い声で反省するエルゼに、僕は呆れて溜息を吐いた。
「……そういえば知り合いが店を経営してるから、そこに行こう」
恥ずかしがってるエルゼ可愛いなぁ。
正直――癖に刺さる。
これはもう手早く試合を終わらせて、エルゼを乱暴に犯しまくるしかないな!