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『エルゼ様は本当に圧倒的でしたね! 拳一つでボッコボコにするなんて! 前代未聞ですよ!』
映像では女性スタッフが興奮した様にエルゼの強さを語っていた。
「強すぎだよ……、エルゼちゃん……」
控え室。行儀悪くベンチに寝っ転がり、黒い短髪の褐色少女――ハンネは溜息を吐く。普段は元気っ子という感じの彼女だが、今はそんな余力もないらしい。
強烈な魔力の圧によって精神的な負担は大きかったのだろう。傷一つ付かない形式の試合な上、魔導師は自然治癒力も高い訳だが、それでも受けた精神的負担は無視できない。
「剣術だけでも一番強いのに……、魔力密度まで……。というか、大会で剣を一度も抜いてないんだけど……」
隣のベンチで、長い黒髪を腰まで伸ばした長身の少女――ダイラは紙コップに口を付ける。甘ったるいコーヒーをゴクゴクと飲みながら、高い位置に設置されたモニターへ視線を向けていた。
「体術だけでも圧倒的でしたね……、ははは……。こてんぱんにされちゃいました……」
ウェーブの掛かった茶髪を腰まで伸ばした少女――ベレン。かなり小柄な体躯も相俟って、綺麗というより可愛いに全振りした様な印象。
試合が終わり服を着替えている最中。彼女のあまりに豊満な胸の揺れに、ぺたんこ胸のハンネは羨ましそうな視線を向けていた。
「多分、これからエルゼちゃんを筆頭に新たな派閥が形成されちゃうよねぇ。少し貴族社会全体が荒れそう。貴族社会ってのは代々築き上げた功績も大切だけど、飛び抜けた才能も同じくらい評価される訳で……。エルゼの場合は二つとも揃っちゃってるから……」
ハンネは気を取り直して、エルゼの話題を続けた。ベレンの胸から目を逸らし、天井を眺めながら話す。
「それでなくても王派閥はライザー家を切り捨てた後だし、派閥を新しく築くには丁度いい機会なのよ」
「アラン君、どうしてんだろね、今頃。こうなった発端はアラン君の行動にあるんだし、重たい罰を課されるかも」
ダイラは少し険しい表情になり、その様子の変化をハンネは気づく。
「どうでもいいでしょ、あんな奴。愛情なんて上っ面。女を置いて逃げたクソ野郎なんだから、罰を受けて当然」
ダイラは思い出したのは、悲し気なエルゼの表情だった。試合が終わったばかりのエルゼは、周囲が話しかけても殆ど話そうとしなかった。壁を作っている様子で、気不味そうに目を逸らすだけ。
だからこそダイラはアランを許せなかった。幼馴染の友人を傷つけた彼を恨まずにはいられなかった。
「……でもさ、黒ゴブリン相手じゃ勝ち目ないし、仕方ないんじゃない?」
「アンタや私がエルゼの隣にいたら、絶対見捨てなかったでしょ?」
「そ、それはそうだけど……」
「アイツはその程度の男だったって訳」
一応アランも友人なので庇おうとするハンネだったが、ダイラは一切言い訳を受け付ける気はなかった。
「…………」
ベレンは二人の会話に口を挟まず、そっと目を伏せた。
私が傍にいたら、きっと見捨てる事なんてしなかった……。何でアラン君はエルゼちゃんを見捨てたんだろ……。
婚約者に見捨てられたエルゼの事を考えると、ベレンは胸が痛くなった。
決して貴族社会は女尊男卑という訳ではないが、それでも女の命は男より優先されることが多い。
それは子供に才能を受け継がせる役目が女にあるからだ。故に子供の頃から貴族の殆どが、男は女を守るべき存在だと教え込まれる。
だからこそアランの行為は貴族社会の御法度であり、ダイラが憤るのも当然。ベレンやハンネも強く庇う気にはなれなかった。
たとえアランが王族で、貴族とは区別される存在だとしても関係がなかった。それはアラン自身もよく理解している事であり――。
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『対するは、第三王子‼ アラン=オールストンだ――――ッ‼』
「…………」
夜に差し掛かった頃、闘技場は明るく、中心のステージは特に光を集めている。名を呼ばれてアランはステージに向かって歩みを進める。
こうなった以上、僕は重たい罰を受ける事になる。別にエルゼが悪いことをしたわけじゃないのは理解してる……。しているが――。
これはあんまりじゃないか……?
エルゼだって分かってるはずだ。王派閥とライザー家の分断で、僕が責任を取らされる可能性を。
ライザー家に味方する貴族が増えれば、きっと僕は兄妹からも父さんからも責任を追及されてしまう。決して軽くない罰を受ける事となる。
エルゼ……。君は僕がどうでもいいのか? もう兄と結ばれ、子供まで産んだから、僕には何の未練もないって事なのか?
だからってこの仕打ちは……。
……いや、これは逆恨みだ。冷静になれ。彼女は十分に傷ついていて、それに比べたら僕が取らされる責任なんて些細な事だろう。
それに……、あの時、僕はエルゼを見捨てたことは事実なんだ――。
取るべき責任から逃げちゃ駄目だ。
歩いてステージに上がっていた時、彼は自分があからさまに思い詰めた表情を浮かべていたことに気づいていない。
「……こんな時に考え事ですか?」
観客席に居た時と違い、今のフィルは軍服を着ていた。この軍服は学生に訓練用として支給されており、大会に出場する生徒が着用する事を義務付けられている。
エルゼは公爵家故に黒い軍服姿だったが、下級貴族や平民出身の生徒は白と黒が基調の軍服である。
「はは……、すまない。色々と立て込んだ事情があってね。少し集中に欠けていた」
アランは頬を掻き困った表情を浮かべて謝罪を口にした。因みに彼の着用する黒の軍服には、王族を表す金の装飾が施されている。
容姿が良いという事もあり、非常にアランは似合っているのだが、男にしてはかなり小柄な為、格好いいより可愛い印象が目立っていた。
『ではでは! 両者向かい合い軽い言葉を交わした所で早速始めてもらおうか! 本戦の初戦は新入生トーナメント優勝のフィル=ニールと‼ 秀才、第三王子アラン=オールストンの激突だ‼ 身分の違いはあれど、ここは闘技場‼ 今は武闘祭‼ 遠慮なく、とことんどつきあいやがれ‼ 試合開始だぁ――――ッ‼』
エタンが放送席から声を荒げると、同時に開始のゴングが鳴り響いた。
『うおおおおおおッ!』
観客達も盛り上がり、どちらが勝つのか多くの者が興味を惹かれ熱狂した。