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『特別ルールの発表だ! 今回は特殊な結界と呪印を採用! それにより、ななな、なんと! 結界で観客席に魔力や瓦礫は飛ばないが! 魔力の殺傷性は制限しねぇんだとよぉ!』
「「――――ッ⁉」」
エタンの説明に観客達が違和感を覚え、一瞬静まり返る。
「それって……」
観客の一人が呟くと――。
『つまり、死ぬリスクがあり! ガチの決闘だって話だ――――ッ!』
エタンの声は会場中に大きく響き、それにテンションがブチ上がった者達が歓声を上げた。
「マジかよ……」
「うっそだろ……?」
「相手は学生だろ? 流石にやりすぎ……」
「いや、何の為にそんな……」
多くの人が歓声を上げる中、やはり付いていけず困惑する者も少なからず存在する。
『勿論、戦いの継続が不可能なほどの重傷だと判断されたなら、その時点で試合は終了とする! だが、これはお遊びの模擬戦じゃない! 正真正銘の決闘なんだ! 死人が出るかも知れねぇからよぉ! 見たくねぇ奴は一時的に退出することをオススメするぜ!』
エタンはノリノリで言いながらも、何でこんなことになったんだという気持ちは拭い切れない。だが――先程のヴィムの力と発言。
底知れない彼に本気を出させるには、ヴァンダ=グロールしかいないだろうと、エタンは考える。
特にヴィムの力は今まで見た力の本質とは違って見えたが故に、どんな戦いになるのか想像できなかった。
故に困惑以上に、楽しみで仕方がなかった。
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教皇ディックは、狼狽えていた。ヴィム=ライザーの戦いぶりを見て、ではない。寧ろそこについては驚きなんて欠片もない、何故なら――――。
彼は知っていたから、冒険者ヴィムの存在を。
その底知れない強さを。
かつてディックがオキザリス王国で活動していた時、冒険者と騎士団によって計画を阻まれた。台無しにされてしまった。
その時、もっとも厄介だった人物、それこそが冒険者――ヴィム。
モニターに映る彼の姿は成長で多少の変化はしているが、先程の戦いぶりから間違いなく同一人物だと踏んで、ディックは急いで来賓席に向かった。
「これは、一体、どういうことですかな? オーガスト」
席に着いた皇帝の後姿に向かって、ディックが言葉を掛けた。
「教皇……、私も何がなにやら分からんのだ。というか分かりたくもない」
振り返りもせず、疲れた様に肩を竦め床を見つめるオーガスト。見て分かる程の心労。その様子から、ヴァンダの我儘に付き合わされたというのは、想像に難くなかった。
「ヴァンダ様が手綱を握っているということですか……。いやはや、彼女には困ったものですね。最近はめっきり政府へ口出しをしなくなったと思っていましたが、やはり人というのは簡単に変わることは出来ないらしい……」
言いながら、教皇はオーガストの席に着く。ヴァンダが座っていた席とは別。ローレと皇帝の間の席は、モニター越しでヴァンダが座っていたことを確認している。
今は瓦礫と化したステージ上にいるとはいえ、そこに座るのは失礼というものだろう。
「随分と急いできたみたいっすけど、やっぱ教皇様も気になります? ヴィム=ライザーとヴァンダ=グロールの戦いが」
「私もそれなりに鍛錬してますからね。ヴァンダ=グロールの戦いを生で見られるなら、仕事どころじゃないですよ」
意味深に目を細め笑うローレに、当たり障りのない回答を口にするディック。
「…………」
ディックは席から見下ろし、ヴィムの姿を見た。
間違いない……。身長の伸びて顔立ちも少し変わっているが、彼だ。ナタリー=ウェストの傍にいた、あの冒険者だ。
素性を探っても何も出てこないと思ったら、まさか貴族だったとは。
しかも公爵家……。
意図せずのことでしょうが、やられましたな……。
目ぼしい貴族は頭に入れていましたが、まさか貴族のパーティーすら欠席し続けるボンクラ息子が――奴だとは……。
公爵家の貴族が顔も隠さず、堂々と本名で活動しているなんて、誰が想像するのか。
まぁいい……。力の底をわざわざ見せてくれるというなら、是非もない。その方が対策を講じる材料が増える。
それにあの得体の知れないヴィム=ライザーの実力なら、ヴァンダの本気を一欠片でも引き出せるかも知れない。
精々彼には健闘して欲しいものですね……。ヴィム、ヴァンダ、この二人の実力次第では、今後我々の方針も大きく影響するのだから。
「死闘……。なんて野蛮で時代錯誤な……」
「命を懸けるなんて、仕事だけで充分でしょうに……」
フローラとセレストとは観客席で、不快感を顔に出していた。冒険者を生業としている彼女達にとって命懸けとは、仕事であって遊びじゃない。
理解ができなかった、意味もなく命を懸けた試合に臨むなんてことは。
「でも正直、生温い試合じゃ本当の実力って分かんないしね。ガチの戦いをしたいってのも分かるかも。……ていうか、もっとヴィム君の力を見てみたい」
アリシアがワクワクとした様子で、能天気に話す。先程の戦いを見て、ヴィムの力に強く興味を持ったらしい。
命懸けの決闘の是非なんてどうでもいいくらい、好奇心の方が優先されている様だ。
というか三姉妹の中では最も好戦的なのはアリシアであり、決闘には多少の理解があるのだろう。
「…………。まぁ確かに最強の異能と魔力密度を持つヴァンダ=グロールに、彼がどう立ち向かうのか。少し気になりますね」
緊張感のない末っ子も発言に、溜息を吐くフローラ。彼女は真剣に考える事をバカバカしく感じてしまったらしい。
そもそもこんな無茶苦茶な決闘、誰がどう見てもヴァンダ=グロールの決定なのは一目瞭然。
仮に彼女の行いが悪だとしても、それを誰が止めるというのか。善悪なんて考えるだけ無駄だ。そう割り切ってしまった。
「……異能については微妙じゃない? 噂じゃヴィム君は無能力者らしいよ? ヴァンダ様の異能封印が機能しないじゃん」
アリシアはバーガーをモグモグと食べながら話す。
「異能の気配がないからって、異能者じゃないと決めつけるのは軽率ですよ。周囲に影響を与えない異能なら、気配は外に漏れないんですから……。本人が異能者じゃないと言ったところで信用はできません」
それに先程の力……。アレを異能なしに成したとはとても……。
フローラはヴィムがアラスターを倒した光景を思い出し、目を細めて顎に手を当てた。
ありえないとは思いますが……、仮に、仮にですが……。
アレが異能なしで成した技だとすれば、もしかすると――――。
あのヴァンダ=グロールに傷一つくらいは付けられるかも知れませんね……。