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『何なんだこの二人‼ 開始して間もないのに、全く常識が通用しねぇ‼ 異能が二つで⁉ 魔眼の無効化⁉ 聞いたことねぇよ‼ 何がどうなんってんだ⁉ 誰か教えてくれ――ッ‼』
エタンは唾を飛ばしながら、興奮を抑え切れない様子。マイクを手に持ち、手摺越しに身を乗り出して実況していた。
まさかのまさか。噂以上に強いヴァンダ=グロールに、ヴィム=ライザーが拮抗するという展開。会場の熱が更に上がり、歓声が大きくなる。
『……一瞬驚いたけど、なるほど。ノーリスクって訳じゃなさそうね。その異能の無効化を発動している間、貴方は魔力密度が制限される。つまり私と貴方は、更に身体能力に差が開いたということ。受け切れるかしら? その程度の魔力密度で、私の剣を』
薄ら笑いを浮かべているものの、決して油断はしていない。油断して良い相手ではないことは既に理解している。
余裕の態度を見せつつも、剣を握る手の力は決して緩めていなかった。
『……遠慮なく殺す気できてください。お互い負けた後に、手加減してましたなんて言い訳は無しにしましょう』
明らかにその表情から、余裕が少し薄れていた。ヴィムが魔人であることは、イーディスやセリアなど、シエスタのメンバーくらいしか知らない事実。
只人としてこれから活動したい都合上、ヴィムは魔力密度を底上げするわけにはいかない。故に、現在の魔力密度で戦う必要が有る訳だが――。
流石にギリギリの戦いになるかな……。
『それに、常に無効化する必要は有りません……。体が動く範囲で石化は受け入れ、ヤバくなれば無効化すればいいだけでしょ』
『まぁ、それもそうね』
ヴィムの安易な案に、ヴァンダはクスリと笑って片足を下げ腰を落とす。そして彼女は地を蹴り、真正面に飛んで急接近する。
『――――ッ⁉』
真正面から突撃して剣を振るうだけ? ホントに芸がないというか、強者故の傲慢な戦い方だなぁ……。
でも僕にとっては好都合だね。単調な動きなら、簡単に対処可能。
少し呆気ないけど――もう終わらせようかな。
ヴァンダが急接近しても魔力により体感時間を引き伸ばし、ヴィムは余裕で目で追えてしまう。故に迎え討つつもりで剣を振るおうとした時、腕の動きが鈍いことに気づく。
…………ッ! 石化が……? 加速して……?
まさか……、近づくだけでも石化の速度が速まるっての……? そんなの聞いた事が無いんだけど……?
ヴィムは目を細め、苦しそうな表情に変わる。瞬間的に護法は発動させたものの、自分が可能な動きの計算が大きく狂ってしまう。
これにより若干の隙が生まれてしまい――――。
『く…………!』
今度はヴィムが吹っ飛ばされて、壁に激突する。首に迫る刃を左手で掴むことでギリギリ致命傷には至っていない―――――が。
『なんだか妙な手ごたえだったけど、それでも――……』
地面に転がるヴィムの親指を見て、ヴァンダは薄ら笑いを浮かべた。
いつ以来だろうか、攻撃が当たり、剣から伝わる手応えに達成感を覚えるのは。彼女は無意識に、かつて失った戦いへの執念を取り戻しつつあった。
分を弁えるべき。亜人は亜人と、只人は只人と競い合うべき。研鑽では限界がある。魔力密度の大きな開きは覆しようがない。
だから格上を倒すなんて夢見ず、分相応の生き方をすればいい。
そう思っていたが――――。
『落胆させないでくれる? これで終わりじゃないんでしょ?』
ヴァンダは無意識に、魔力密度が自分より遥かに下であるヴィムに立って欲しいと願っていた。ここで幕切れにはしたくないと、強く願っていた。
『はは……。今のが本気だとしたら……、こっちこそ落胆ですね……』
手で土煙を払い除け、ヴィムは姿を現した。左手は勿論、頭から血を流し、少し息が乱れていた。左手で力を消し去れず、刃が頭部を掠めていたらしい。
完全に直撃したわけではないが、ヴァンダの魔力密度が高すぎて、無視できないほどの負傷に届いている。
『マジかよ! まだやる気かよ! 今の一撃を食らって! まだ立ち上がんのか‼ だがその負傷で勝機はあるのか⁉ 指の間が裂かれ、親指が欠損してんじゃねぇか‼』
実況に慣れているだけあり、エタンはヴィムの負傷を瞬時に見抜く。エルゼも兄の負傷には気づいており、『兄さん……』本当は負けを認めて欲しいと思っていた。
だが気持ちを呑み込む。彼女は知っている、ヴァンダ=グロールが満足するまでこの戦いが終わらないことを。
降参なんて簡単に許す様な人ならば、最初から無理やりこんな試合は組まない。だからこそ下手に兄の気持ちを削ぐような真似はしなかった。
ただ青ざめて、何も手助けすることができないことに悔しい気持ちを抱いている。
私の為に武闘祭に出場した所為で……、ヴァンダ様に目を付けられて……。私の所為で……。
『やせ我慢が下手なのね』
『――そう見えますか?』
クスクスと笑うヴァンダに、ヴィムは左手を見せた。
――その瞬間、彼の負傷した手がボコボコと泡立つ様に肉が膨れ上がり、みるみるうちに部位を再生させた。
頭に受けた傷も当然、既に完治済み。
『はぁ――――ッ⁉ 何だその回復速度は‼ さっきから有り得ねぇことばかりしやがって‼ マジで無敵かよ‼ 治癒は魔力操作に強く依存するとはいえ‼ それだけじゃ説明できねぇよ‼ どんな地獄のような鍛錬を重ねたらそんな速度で回復できる様になるんだ⁉』
モニターでも映し出された体の再生速度。エタンは呆れ交じりに納得しつつ、観客への説明を踏まえつつ実況した。『流石というか、何というか……』と、エルゼもドン引きしていた。
「ヴィムさん、相変わらずですね」
「グロいほど速いんですよね、あの人の治癒……」
セリアはあらあらと頬に手を当て苦笑しつつ、イーディスは顔を引き攣らせていた。