――終章、突入!
第30話 振られた重たい女。
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晴天。真冬で風は冷たいが、馬は軽快に箱馬車を牽引していた。
伐採されているだけで、碌に舗装されていない道だが、魔力を持つ馬なら余裕で横断できる。ヴァンダはキャビンの中で揺られ、木々を見つめながら物思いに耽っていた。
「――そんなに名残惜しいですか? またすぐに会えますよ」
隣の席で顔半分を仮面で隠した銀髪少女――イレインが大きく溜息を吐いた。
「……今まで1年が一瞬で過ぎ去る様に感じていたけど、私はきっと酷く退屈していたのね。半年会えないと思うだけで、気が遠くなるほど長く感じるわ」
ヴァンダは足を組み、景色を眺めて小さく呟く。
そんな彼女を見て、イレインは「……惚れ込むのもいい加減にした方がいいかと。幾ら歳が離れていると思っているんですか」と呆れていた。
「見た目だけなら、お似合いなはずだけど……」
実際見た目だけなら学生に見える程に若々しい。ヴァンダは優しそうなお姉さんっぽく、色気が漂う容姿というだけ。百を超えているとは到底思えない外見だった。
「実年齢が重要なんですよ。今どきは厳しいんですから……。亜人が老けずらいという理由で、年齢隠して学生に手を出す事件が多いのは大きな社会問題です。貴女がそんな調子では下々の者達に示しが付きません」
イレインの発言は尤もだ。実際に亜人が多い国では、実年齢を重視する傾向が強い。何故なら教職員が生徒に手を出す等、大人が子供を食い散らかす被害が後を絶たないから。
子を持つ親達からすれば、これほど悍ましい話も然う然うない。自分の娘が、十も二十も離れた相手に肉棒を突っ込まれて、中出しされているなんて、想像したくもないはずだ。
「意味の分からない社会ね。成長を終えた年齢で、合意の上なら誰と子作りしようと問題ないでしょ。何歳まで子ども扱いするつもりよ……」
四歳から一人旅してきたヴァンダとしては、十を過ぎて自分の行動に責任を持てない人が理解できないのも無理はない。
ただ彼女が特別であり、例外というだけで、他の者に同程度の自立を求めるのは無茶というものだろう。
「百歳も離れているんですよ? ヴィム君が求婚を受け入れていたら、ギルドの長が変態扱いされてしまう所でした……」
「初めて男を好きになったのに……、振られてしまったわ……」
ジト目で釘を刺すイレインを無視して、ヴァンダは少し目を伏せた。まるで普通の少女の様に、失恋に落ち込んでいた。
「ちゃんとそういうのショック受けるタイプなんですね。でもそういうものですよ。振られたとこがない人の方が珍しいくらいです。次の男を探せばいいじゃないですか」
イレイン自身は恋愛経験は皆無だが、周囲で恋愛絡みの揉め事が多いので、知識としては豊富だった。
見栄を張って恋愛豊富だと嘘を吐いている彼女は、他人から相談される事も多く、この手の会話にはなれている。ただし、実際に目の前で性的な行為を見るのは苦手。
「……いや、十年経てば気が変わるでしょ。待つわ。時間は腐る程あるんだもの」
ヴィムの姿を思い浮かべて頬を赤らめたヴァンダは、不貞腐れた態度でカバンから取り出したチョコを食べ始める。
「…………重たいですよ、流石に」
パキパキと音を立てて板チョコを食べる彼女を見つめ、イレインは先が思いやられると不安を抱いていた。
何せギルドの長が学生相手に本気で惚れてしまっているのだ。こんなことが知れ渡れば世間がどんな反応するか分かったものじゃない。
意外とお似合いだと祝福されるかも知れないが、そういう声ばかりじゃないのは間違いないはずだ。
所属する冒険者達にもメンツというものがある。イレインとしては、これはどうしたものかと頭を抱える案件だった。