褒めて欲しい(承認欲求)
[浅草某所]
「ここが私の家。
好き勝手使ってちょうだい」
私の家に零を招いた。
結構広い日本家屋なのでまあ、人数が増えたところで
問題ないでしょう。
そう思っていると零とキャスターが驚いたように
「いいのか……?
俺を信用して」
「マスター……?
あの、いくらなんでもちょいとばかし不用心が過ぎるのでは?」
そろいもそろって質問してくる
仕方なくめんどくさそうに私は答える
「何気にしてんのよ?
昨日の敵は今日の友って言葉があるくらいでしょ?
細かいことには一々こだわらないの」
「細かくないですよ?
あのね。
男と女が一つ同じ屋根の下で寝るっていうのは……」
「あんたとバーサーカーの性別」
「そういう事じゃなくて、ですねえ!」
もう眠くなった私はキャスターの心配など横に置いておいて
さっさとベッドの高さを合わせて何とかベッドへと移り
介護士さんに横に置いておいてもらった布団をかぶってさっさと眠ってしまう
「あ、お客さん用の布団なら押し入れの中に入ってるから
勝手に取り出して……ね……て?」
これには流石に呆れたキャスターも
「やれやれ……
これだからはねっかえりは。」
霊体化して消えてしまう
零は渋々ふとんを押し入れから取り出すと布団の中に潜り込むのだった
あの少女の味を知れば自分は愛を知ることができるのか?
下らないことをと思いつつ。
[????]
死線を潜り抜けた仲間がいた。
仲間……だったはずだ。
肌を重ねた事も何度かあった。
ある日そいつから銃を向けられた
「貴方はあまりに機械的で……
人の愛を知らなすぎる
本当にあなたは零ね
何をかけても答えは零になる。」
俺は……
俺はそいつを撃った
撃って殺した。
その時の血がいまだ拭いきれない気がして……
震えが止まらない。
寒いのが止まらない。
俺は――どうすればよかった……?
[自宅]
「はあっはあっはあっはあっ……」
俺は夜明け頃に悪夢で目を覚ました
あいつの夢を見るなんて久しぶりのことだ
寒い。
凍える。
ただ、温もりが欲しい。
人肌の温もりが。
その時俺の視界に入ったのは……灯だった
俺の視界に映る灯はとても温かそうで柔らかそうだった
あの肉が欲しい
あの温もりが欲しい
あの快楽が欲しい
俺は本能の命じるまま……灯を襲う
いや?
襲おうとしてすんでのところでキャスターに止められる
「いえ、ね。
マスターに多少の痛い目を見てもらう事も考えたんですが……
あんたの目は依存しすぎていると思ってね」
「うるさい、どけ」
「まあ、とりあえず
あたしのマスターに触れないでもらいましょうか?」
「邪魔するなら俺はお前を……」
その時。
「どうしたの、零?」
灯の声がした
「寒いんだ、凍えそうなんだ
一緒に……」
「良いわよ?
添い寝くらいなら」
「なっ……!?
あんた自分で自分が何言ってるかわかります?!」
俺は……驚いてその後自分を恥じた。
あまりにも俺は外道過ぎる。
そのまま帰ろうとして灯に止められる
「怖い夢を見たんでしょ?
入ってきて夢の内容、話しなさいよ?
言っておくけど、キャスター
零を止めたら令呪を使ってでもあんたを止めることになるから」
「あんたねえ……っ!!」
「あんたこそ黙ってて
私の令呪が大事なら」
それっきり邪魔はいなくなった
心臓が高鳴る
涎が垂れそうになる
忍び込むように布団に入ると灯は笑っていた
「で、どんな怖い夢を見たのよ?」
毒気を抜かれた俺はとつとつと過去を話し始める
「いや、その昔……同僚に、な?
『貴方はあまりに機械的で……
人の愛を知らなすぎる
本当にあなたは零ね
何をかけても答えは零になる。』
そう……言われてな」
「なにそれ?
あんた何も言い返さなかったの?」
「言い……返す?」
俺にとっては目から鱗が落ちる思いだった
しかし当たり前のことのように灯は言う
「あのねえ。
あたしはその人とあんたの間に
何があったかは何も知らない。
それでも人に対して
あんまりな物言いじゃない?
第一、あんたが仮に零だったとしても
足せば一にも二にもなるじゃない!」
俺は……自分のことのように怒ってくれる
灯が有り難くて……嬉しくて。
気が付いたら泣いていた
「そうか……
俺は――怒ればよかったんだな。」
「そうよ、もし今度逢う事があるなら
そいつに言い返すなり
思いっきり殴ってやんなさい。
わかったら
明日も朝早いんだし寝なさい。」
そう言われて俺は……灯と添い寝をした
灯の布越しのぬくもりを感じ
久しぶりに顔も覚えてはいない両親の夢を見た気がした。
[自宅]
お昼過ぎ、俺は目を覚ましてぎょっとした
灯があまりに無防備な顔で眠っているからだ。
でも起こしては悪いと布団から抜け出し
背後から声をかけられた
「坊やはずいぶんよい子に出来たようですねえ」
「そっちはずいぶんと過保護だな、キャスター?」
「それは……私のマスターですから。」
少し。
キャスターが弱気になった気がした。
その時だった。
一発の弾丸が俺の頬をかすめ
灯の寝ている場所の壁に撃ち込まれたのは。
俺は……怒りに燃えながらどこか冷静に
まず灯のベッドを弾道から外れた場所に素早く動かした。
次に遮蔽物の陰に隠れて相手の正体について様子を伺いつつ考える。
狙撃兵独特のスコープのチラつきは見えない。
観測員の姿も見えない
その時
今度は俺の額を狙って弾がまたかすめた右こめかみをかすめた。
これはアーチャーではなくアサシン。
しかも、恐ろしく遠くから狙っている
恐らくこんな芸当のできる相手(狙撃兵のサーヴァント)は……シモ・ヘイヘ!!
糞、分が悪い!!
このまま消耗戦に挑むか
それとも……
俺はどうすれば灯を守れる?
その時会話が俺の脳に響き
――俺にある案が思い浮かぶ。
この場は俺が守る……!!
[森の中]
あたし……『リディア・ノクス』は鷹の目を使って
はるか遠くにある敵の寝所を覗く
「まずいわね……
敵は長期戦に臨む気よ?」
「何の……問題がある?
マスターよ」
「まずいに決まってるでしょ!?
相手はあの有名な『終点(ターミナル)』の零よ?
さっき殺しきれなかったのは不味かったわ……」
あたしは焦っていつものように爪を噛む
この戦争にもしかしてなどあってはならないから
そしたら、あたしもシモ・ヘイヘも死んで消えてしまうから。
時計塔に5歳のころから7年もいたのに
何も得られなかった自分が口惜しい!
せめて、先生に恵まれたら……
せめて、学友に恵まれたら。
そんなこと考えても使用が無い!
あたしは私の持てる魔術で
迎撃しなきゃならないんだから……!!
あたしが追い詰められていると
シモ・ヘイヘはあたしを元気づけるように
無能な言葉をくれる
「俺の……狙撃で殺しきれないものなど居ない」
「そう言って外したのは何処のどいつよ!?」
「ここの気候は酷く読み難い……
何よりこの独特の湿度が
狙いを外させる大きな要因だろう
が、宝具を使わせてくれれば外さない」
「良いわ、宝具を許可します。
あ、身を乗り出すつもりよ!」
シモ・ヘイヘの雰囲気が冷たいものに変わり
独特の狙撃体勢に切り替わる
「任せろ……
『白い死神(White Death)』……!」
5月の暑い気候からロシアの寒く乾いた気候へ弾道上だけ変わってしまう
そして目標に着弾
「やったわ!!
……え?」
が……撃ったものは。
「あれは……デコイだ。
すぐに場所を動くぞ。」
「な、何でよ!?
ここからあいつを撃った方が効率がいいでしょ?」
しかし、シモ・ヘイヘは反対する
「いや、あまりにもここに居過ぎた。
今頃相手の……」
次の瞬間
あたしの頬を槍がかすめシモ・ヘイヘが防御に使った
モシン・ナガンM28-30小銃をも切り捨てて
次の瞬間、ターミナルから指示が飛ぶ
『今だ、宝具を撃て』
「承知!
『豪勇無双・七本槍之誉(ごうゆうむそう・しちほんやりのほまれ)』……!!」
槍は瞬く間にシモ・ヘイヘのKP31サブマシンガンを弾ごと溶かす様に破壊し……
シモ・ヘイヘは最後の願いを口にした
「俺は死んでもかまわない。
だが……マスターだけは助けてやってくれ」
ターミナルの糞野郎から指示が飛ぶ
あたしにもっと強い魔術が使えたら
あたしがもっと有能だったら
いくら後悔してもし足りない
だって……
『殺せ。
そいつは俺の大切なモノを……』
シモ・ヘイヘは消える
何をしてもしなくても。
それでも
シモ・ヘイヘはなおも声を張り上げる
「俺は殺しても構わない!!
だが、マスターは……
この傲慢で阿呆なマスターだけは……どうか!!」
一瞬……ターミナルからの指示が止まって
ターミナルはその異名、一度見たら後は終わりの終点とは
似ても似つかない思いもよらないような、言葉を口にした。
『そいつらをこちらまで連れてこい、ランサー
ただし殺せる準備はしておけ』
それから……
[自宅]
私がお味噌汁の匂いに誘われて朝起きると
そこにはキャスターが作ってくれた
朝食が1,2,3,4,5,6,7……?
ごめんごめん、ちょーっと見覚えのない
白い全身タイツのようなものに身を包んでいる男の方と
西洋人形のように可愛らしいお嬢さんが食卓にいらっしゃる……?
「えっと……こちらの朝食をご一緒なさってる方は?」
「シモ・ヘイヘ……アサシンの捕虜とマスターのリディア・ノクスだ
こっちはさっき話したキャスターとバーサーカーのマスターの久遠 灯だ。」
零はさも当然のように答える。
まあ、捕虜なら仕方ないわね
私もいただきますをしてご飯を食べ始める
はしたないけれど時間は有効に
ご飯を頂きながらマスターさんのリディアに
俯いてばかりの所、話しかけてみる
「じゃあ、その隣のお嬢さんがマスターさんのリディアかしら」
「あたしが何でこんな平民の豚飯食べなきゃいけないのよ!?」
「あら、豚飯だと思うなら食べなくても結構よ?」
私が少しばかり意地悪を言うと意外と話の分かるアサシンは
私の意見に同意してマスターに立場というものを教えようとする
「傲慢にして貪欲にして愚鈍なマスターよ……
我々は今捕虜の身である
それで格別にこんな温かいものまでいただいているんだ
どうかお静かに
まあ、出来ないから阿呆などと呼ばれるのだろうが……」
本当に一言余計だと思うけれど
その余計な一言がよほど刺さったマスターの方は
涙を目にためて叫ぶ
「アサシン!!
あんた、どっちの味方よ!?」
アサシンはため息を吐いて一旦食事を止める
「どちらの味方もないだろう?
君は今敵の腸の中に居て
敵の舌三寸で命が消えるか助かるか決まるのが分かっているのか?」
「うわああああああああああああんんんんんんん!
アサシンのバカあ!!」
とうとうマスターの少女は泣いて逃げてしまった。
流石にあんなに可愛い子を泣かしたままというのも気がかりなので
アサシンに後を追わないのかそれとなく尋ねてみる
「あの子、泣いて行っちゃったわよ?
ちょっと、あの年頃の子に厳しいんじゃない」
アサシンは心の奥底から面倒そうなため息を吐いて
それでも食事を止め主を追う。
お粗末様です