朝来玲の淫果異聞1 百合調教の果て、理不尽報復に責められて 作:高牧園
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朝来玲と雨夜が顔を合わせるのは、実に一年ぶりのことだった。
雨夜の屋敷で性奴隷となった妹・莉乃を助けるために初めてここを訪れてからはもっと長い年月が経っている。しかしそんな思い出話に興じる余裕もなく、玲は顔を合わせるなり自分たちの状況を伝えたのだ。
「念の為言っておくと、莉乃が行方不明になったことに私は関与していないわ」
「分かってる」
雨夜の言葉に頷く玲は憔悴しきっていた。
涼やかな目元にはクマがあり、努めて冷静でいようとしているのにティーカップを持つ指は震えている。紅茶の香りも分からないだろう玲は、雨夜に説明したばかりの現状を回顧する。
(――莉乃が攫われた)
雨夜に用立ててもらった家で、玲と莉乃は穏やかに過ごしていた。
その日は、玲が一人で買い物に出ていた。
二人が性奴隷としての苦難の日々を終えてまもなく一年になろうとしていた。クリスマスも近いのだ、せっかくだから盛大にパーティーをしようという話になって、玲は思いつくままに色々と買い込んだ。
美味しそうな食べ物に飾り付けの道具、それから莉乃が好きそうなハンドミラーのプレゼント。両手いっぱいの買い物を終えて家に戻った玲は、めちゃくちゃに荒らされた無人の家を見たのだ。
(急に、あんな――)
家にいたはずの莉乃の姿はない。買ったばかりの卵が割れるのもお構い無しに買い物袋を放り投げた玲は半狂乱になって莉乃を呼ぶが返事はなく、莉乃の部屋にはタイプライターで打ち込んだような書き置きがあったのだ。
莉乃を連れ去った何者かからの置き手紙は短い。
警察に通報すれば無事は保証しないと文言の後に、探しても無駄だとも書かれているだけだった。
(だからって、諦められるわけがない)
前と同じように、何があっても莉乃を捜し出すと心に誓う玲だが、莉乃に繋がる手がかりは何一つない。
頭を悩ませた玲は、自分の知り合いの中でもっとも人身売買や裏社会に近い雨夜に助力を求めるため、この忌まわしい屋敷へと戻ってきたのだ。
「話は分かったわ。でも」
玲を見つめる雨夜は口を開く。
「私を頼るということは、対価を払ってもらうわ。分かっているのでしょう?」
「……ええ」
悲愴な覚悟を決めて玲は頷く。
「莉乃を取り戻すためだもの。もう一度あなたの性奴隷になって――」
言いかける玲に、しかし雨夜はかぶりを振った。
「泥堂のこと、貴女には随分と世話になったわ。さすがの私でも、恩人を奴隷には堕とせない」
それは、裏社会に生きる雨夜なりの線引きなのだろう。
紅茶を飲み下す雨夜の頭の中でどのような勘定が巡ったのか。ティーカップを置いた雨夜は静かに、確固たる言葉を吐き出した。
「住み込みの仕事なら回せるわ」
雨夜はこの屋敷とは別に、いくつものスタジオを有している。
そこでも、雨夜の手中にある女たちのアダルトビデオの撮影や調教が行われている――雨夜が提案するのは、そこでの仕事だった。
住み込み労働中の生活は万全に保障され、玲に代わって雨夜が莉乃の捜索を行う。給与は出ないが、莉乃の救出を第一に考える玲からすれば十分すぎるほどだった。
「分かった。それでお願い」
こうしている間も、囚われの莉乃は恐ろしい目に遭っているだろう。
事態は一刻を争う。交渉も検討もしている余裕もない玲が頷くと、雨夜は使用人に契約書を作らせるのだった。
●
契約書に捺印した玲は、数日の準備期間を経て仕事場となるスタジオへ案内された。
「資料はもう見たわね?」
スタジオの前で合流するなり雨夜に言われて、玲は雨夜から渡された資料を思い出す。
スタジオ内の間取りなどと合わせ、このスタジオにいる二名の性奴隷の詳細も知らされていた。渡された資料の中にある写真には見覚えのある性奴隷の姿があり、玲は静かに彼女たちの姿を思い起こす。
(由宇と、乙女……)
彼女たちの顔と名前を知ったのは、雨夜の屋敷が泥堂に乗っ取られた時のこと。
雨夜の管理下では性奴隷たちが顔を合わせる機会はまずなかったのに、泥堂が雨夜からあの屋敷をぶんどった時期は、激しい混乱の中で性奴隷たちが顔を合わせる機会が増えた。
特に、親しい二人組のうち片方を人質に取ってもう片方を弄ぶ趣味を持つ泥堂は、玲と莉乃、由宇と乙女の組み合わせを好んで『使った』のだ。
(由宇は、いつも乙女を庇おうとしていた)
泥堂が乙女に触れようとするだけで、由宇は外ハネのあるショートボブを振り乱してヒステリックに叫んだ。何をしてでも乙女を守りたがる由宇の姿は鬼気迫ってすらいて、乙女のために背の高い玲より長身をよじりながら泥堂に性奉仕をする姿は痛々しくすらあった。
(乙女も、いつも由宇のことを気にしていた)
女性の平均身長よりは背が高いはずなのに、涙目で怯える乙女はどこか小動物のようでもあった。
ふわふわした焦茶色のロングヘアを泥堂に撫でられるだけで悲鳴を上げる脆いところがあるくせに、調教や奉仕が終われば真っ先に由宇を抱きしめる。弱さと紙一重の優しさは玲や莉乃にも向けられて、痴態を晒して泣きじゃくる莉乃が落ち着くまで背中を撫でてくれたことは一度や二度ではない。
「……」
事前に渡された資料と間取りに違いはない。
住み込みで働く玲の個室は手狭だが、雨夜の屋敷で奴隷として過ごしたあの部屋よりは住み心地が良さそうだ。
少ない荷物を部屋に置いた玲は、雨夜に連れられて撮影スタジオの備品も確認することとなった。
「……」
ベッドが据えられた撮影スタジオは、玲が莉乃とともにAV撮影をやらされたあの部屋と酷似している。
撮影用のカメラや数々の淫具もあの屋敷にあるものと同型。違うのは、ここに立つ玲が性奴隷ではなく、性奴隷
を使う側に回ったことくらいだ。
「……」
スタジオの確認も使用人たちとの顔合わせも終われば、雨夜はスタジオを出て屋敷に戻ることに。
二人で玄関へ向かうとすでに車が停まっていた。運転席には使用人がいて、発車の用意は万端に整っているようだ。
「スタジオもあの二人も好きに使って良いわ。使用人たちにも、貴女の指示に従うよう言ってあるわ」
「……ええ、分かった」
何から何まで手筈を整えた雨夜に頷くと、雨夜は嫣然と微笑んで。
「働きぶりが良ければ、莉乃の捜索人員は増やしてあげる。分かっているだろうけれど、決して手は抜かないことね」
念押しの言葉を最後に、雨夜は玲の前から立ち去る。
「……」
しばらく、玲はその場に佇んでいた。
後ろに控える使用人は、黙って玲の様子を窺うのみ。性奴隷だった頃なら使用人は冷たく命令を下し、玲を次の場所へ追い立てたことを思えば待遇は随分と違う。
扱いが良くなったというのに、玲の気持ちは翳るばかり。
(あの二人は、今も……)
苦痛に満ちた性奴隷としての日々から離れて一年ほど。
平和な日々を享受すればするほど、屋敷で性奴隷として扱われた時の苦しさは濃い影となる。
由宇と乙女は、玲が穏やかな日々を過ごす間も性奴隷として受難の時を過ごしたのだ。彼女たちの前に、かつて性奴隷だった自分が使用人を携えて現れることの残酷さは考えるまでもない。
「……やらないと」
それでも、玲の覚悟は決まっていた。
莉乃を助けるためなら何でも出来る――誓いを胸に、玲は長髪を翻してスタジオへ戻るのだった。