朝来玲の淫果異聞1 百合調教の果て、理不尽報復に責められて 作:高牧園
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気付けば、玲がこのスタジオで仕事を初めてから半年も経っていた。
スタジオで過ごすうちに冬も春も過ぎ去り、気付けば初夏が迫っている。しかし初日に顔を合わせて以来雨夜からの連絡はなく、玲の焦燥は募るばかりだ。
(莉乃……どこにいるの?)
玲から雨夜に連絡を取るすべはない。
生きているかどうかも分からない莉乃に繋がる手がかりがまったく手に入らないのだ、使用人たちのおかげで衣食住は万全とはいえ、玲の心はちっとも安らがない。
「……」
加えて玲を苛むのは、今日も由宇と乙女を辱めなければいけないこと。
由宇の視線は日増しに刺々しくなり、乙女も怯えと諦めが混ざった表情で悶える。かつて性奴隷として同じ立場にあったはずの玲に調教されることが二人を傷付けていると分かっていても、玲は一日だって呵責の手を止められないのだ。
(今日、は――)
自分で立てた調教計画を思い出すだけで玲の気持ちは暗くなる。
自分が過去に受けた仕打ちを二人に再現させることも多い。今日は由宇の尿を乙女の肛門に溜めさせる調教をする予定になっているが、玲自身が莉乃とともにその調教を受けた時のことが自然と蘇ってしまう。
「っ……」
苦しいだけの日々が、莉乃が隣にいたというだけで愛しくすら感じられそうで。
(……違う、あんなの――嫌な思い出なだけ……!!)
莉乃と会えない時間のせいで、あの苦しかった性奴隷生活を自分がどう思っているのかすら見失いそうだ。
狂気が少しずつ自分を蝕んでいる自覚はあるのに、玲にはどうすることも出来ない。由宇と乙女の調教に自分のトラウマをえぐることでしか、玲は理性を保てなくなっていた。
●
「ぁぐ……ッ、う……やめ、て……もう、乙女に……っ」
今日も調教が始まる。
クリップ留めされたカテーテルで無理やり尿を溜めさせられる由宇に、由宇の尿を肛門いっぱいに詰め込まれる乙女。
乙女の腹には由宇の尿が三リットルほど入ったところだろうか、乙女の腹には無視できない膨らみが見え、乙女は苦しそうに息を乱している。
「ふ――ぅう……っ、う――由宇、ちゃ……」
「お、とめ……」
苦悶の表情を浮かべながらも互いを思いやる由宇と乙女の姿を見るともなしに眺めていると、不意に部屋に使用人が現れた。
「失礼します――雨夜様からお電話です」
「!!」
電話の子機を手にした使用人の言葉に、玲はハッと目を見開く。
子機を受け取って受話器を耳に当てると、雨夜は挨拶もなしに切り出した。
『莉乃が見つかったわ』
「っ――……!!」
待ちに待った言葉に、玲は安堵の息を吐く。
『救出も済んでいるから、今から来なさい。場所はさっき伝えたから――』
「分かった、すぐに――すぐに行く……!!」
息せききって頷くと、玲は顔を上げる。
「場所は伺いました」
玲に子機を渡した使用人が言う。
シンプルなメイド服のポケットからは車の鍵。運転もできるらしい彼女に頷くと、玲は性奴隷の二人に背を向ける。
「すぐに行くわ」
「調教は私どもが進めてまいります」
「っ……何が起きて……玲、どこに行くんですか……!?」
部屋に残る使用人や由宇の言葉はもう耳に入らない。
スタジオを飛び出す玲は、由宇が恨めしげな表情をしていることには最後まで気付かなかった。
●
使用人が運転する車は港へ向かった。
(莉乃……莉乃、莉乃……!!)
半年ぶりに見た外の景色は目に入らず、玲の意識は莉乃一色。
ものの三十分もしないうちに雨夜との合流地点である港に辿り着いた玲は、転がるようにして雨夜の待つ倉庫の一つへ。薄暗い倉庫に飛び込むが、そこには莉乃はいなかった。
「莉乃ッ――莉乃はどこ……!?」
「落ち着きなさい。莉乃は病院よ」
明らかに常軌を逸した様子の玲に呆れたように言って、雨夜はクリアファイルの中の書類を玲に差し出す。
「!!」
受け取った書類は、近くの病院の名前が書かれた入院同意書。
「衰弱していたから入院させたわ。それより、これ」
言われて雨夜の視線を追って、玲は足元に男が転がっていることに気付く。
簀巻きにされたうえ頭にズタ袋を被せられた男の顔は分からないが、開襟シャツの胸元からは入れ墨が覗き、明らかに堅気の者ではない。雨夜はハイヒールの爪先で男をつつき回しながらこう告げた。
「これが莉乃を攫った犯人よ。……私の友達だった男でね、貴女たちが性奴隷だった時に口を滑らせたのが悪かったようね」
気まずそうに言う雨夜だが、玲にはそんなことはどうでも良い。
「何でも良いわ。莉乃は無事なのね?」
「入院が必要なくらい弱ってはいるけど、大きい怪我や後遺症はないわ。一ヶ月くらいで家にも戻れるはずよ」
「――……そう……」
頷く玲は、気が抜けてその場にへたり込んでしまう。
「ちょっと」
莉乃を攫った犯人と視線の高さが同じになってしまうが、男のことなど眼中にない。
「莉乃が無事で……良かった……」
今の玲にとっては、それだけで充分だった。
「――少し会わないうちに、また重症になってるわね……」
雨夜は呆れて呟いてから。
「それで? この男の処遇、貴女にも決める権利があるけれど?」
「何でも良いわ。任せる。……もう取り引きは終わりよね」
「ええ」
言われて、玲は立ち上がると雨夜に背を向ける。
(もう、終わった)
この半年間、苦しいことばかりだった。
行方の分からない莉乃に、由宇と乙女への調教と撮影を繰り返す日々――玲自身は人前に肌を晒していないのに随分と汚れた気がして、莉乃を見つけてくれた雨夜とも今は話したくはない。
「待って」
だというのに、雨夜は玲を呼び止める。
「……何かあるの?」
疲労の色を滲ませて振り向く玲の前、雨夜は静かに佇んでいる。
その美しさは、数年前に初めて会った時と変わらない。玲が半年経験しただけでうんざりするような出来事を長く続けているのに艷やかな美貌が今はとんでもなく不潔に感じられて、とにかく一緒にいたくなかった。
「貴女の作ったAV、思った以上に売れているの」
雨夜の隣に立つ使用人は、手にしたタブレットの画面を玲に向けていた。
アダルトビデオの売上と思しきグラフが表示されているようだが、玲はそれを見なかった。雨夜も無理に見せるつもりはないようで、玲を見つめたまま続ける。
「莉乃を助けて入院させた程度じゃ足りないくらいにね。お礼に特別ボーナスを払いたいのだけれど、金額が金額だから相談がしたくて」
雨夜が口にした金額は、信じがたいほど高額。
それだけあれば何だって出来るくらいの額だが、その金を真に稼ぎ出したのが自分ではないことを玲は知っていた。
「私はいらないわ。……代わりに、由宇と乙女を解放してあげて」
由宇と乙女が出演させられたアダルトビデオなのだ、そうするのが当たり前だと思えた。
いくつもの記憶がよぎる。泥堂の元で凌辱されていた時に途切れ途切れに語った、性奴隷をやめた後にやりたいこと。由宇はフルマラソンに出たいと言って、乙女は南国でバカンスをしてみたいと目を輝かせた。
――玲さんは何がしたいですか?――
乙女に訊かれて、玲は答えられなかった。
(莉乃だけがいれば良いと思っていた私と違って、あの子たちはやりたいことが沢山あるはず)
彼女たちがそれぞれの幸せを掴むためにこそ、その金はあるはずだった。
「私は、莉乃さえいれば何もいらない。あの二人を解放してあげて」
「だからって、あの二人にそこまでする義理がある?」
「とにかく、私は受け取らない。そのお金は私のものじゃないわ」
玲の声は硬い。
一度は雨夜に振り向いた玲は再び雨夜に背を向ける。今度は雨夜は呼び止めず、玲には見えない場所で肩をすくめるだけだった。
「……貴女が望むならそれで良いわ。――受け取った方が良いとは思うけれどね」
返事はせず、玲はその場を立ち去った。