僕のファーストキスを奪った幼馴染が、超ドSだった件 作:微熱@
土曜日。おあずけ六日目。
美優からの連絡がなかった。
朝起きて、いつものようにスマホを確認する。LINEの通知はない。美優からのメッセージは、昨日の放課後以降、一通も届いていない。
普通なら「休日まで監視されない」と喜ぶべきなのだろう。だが、この一週間で美優の存在が僕のより深く、生活の中枢に組み込まれてしまっていた。連絡がないことが、かえって不安を増幅させる。
(美優様、怒ってるのかな……昨日、ひまりちゃんと一緒にお弁当食べたから……)
何かする気にもなれず、僕は自室のベッドの上で、ただ天井を見つめていた。
土曜日の午前中。部屋の中は静かで、階下から母さんが掃除機をかける音だけが微かに聞こえる。普通の、何の変哲もない休日。
だが僕の股間では、六日間の蓄積が限界を迎えつつあった。
貞操帯の中でぱんぱんに膨れ上がった肉棒は、もう自分の意志ではコントロールできない段階に入っていた。ベッドの上で寝返りを打つだけで、金属が亀頭を擦り、全身にビリビリと電流のような快感が走る。枕に顔を押し付けて呻き声を殺しながら、僕はひたすらに時間が過ぎるのを待つしかなかった。
(出したい……出したい、出したい、出したい……)
頭の中がその四文字だけで埋め尽くされていく。貞操帯に阻まれてオナニーはできない。触ることすらできない。金属の檻に閉じ込められた肉棒は、主人の許可がなければ永遠に解放されない。
美優に連絡をしようか。「お願いします、鍵を開けてください」と懇願しようか。いや、それこそ美優の思う壺だ。美優は僕が自分からすがりついてくるのを待っているのかもしれない。それに今の彼女が、とても許可してくれるとは思えなかった。
そんなことを考えながら悶々としていた午後二時。
スマホが鳴った。
美優からだ、と反射的に画面を掴んだ。しかし、表示された名前は違った。
『橘ひまり 着信中……』
ひまりちゃんからの電話だった。
僕は数秒間、画面を見つめたまま固まった。
出るべきか。出なければ無視したことになる。でも出れば、美優の検閲を通さずにひまりちゃんと直接話すことになる。LINEのメッセージなら文面を見せろと言われていたが、電話については何のルールも定められていなかった。
四コール目で、僕は通話ボタンを押した。
「も、もしもし……」
「あっ、堀田君! 出てくれた! よかったぁ」
ひまりちゃんの声が、スマホのスピーカーから直接耳に流れ込んでくる。LINEの文字越しではない、生の声。少し息を弾ませたような、弾むような声。
「えっと……どうしたの、ひまりちゃん」
「うん、あのね。昨日の続きなんだけど……電話の方がちゃんと伝えられるかなって思って」
昨日の続き。手紙の返事のことだ。
「あ、あの……手紙は、まだちゃんと……」
「うん、わかってる。急かさないよ。ただ、堀田君の声が聞きたくて」
声が聞きたくて。
その言葉が、予想以上に深く僕の胸に突き刺さった。
「あのね、堀田君。私ね、人見知りで友達も少ないし、自分から誰かに話しかけるの、ほんとに苦手なの。でも、堀田君とだけは自然に話せるんだ。修学旅行のとき、すごく楽しかったのは、堀田君が隣にいてくれたから」
「ひまり、ちゃん……」
「それでね、私、ずっと考えてたの。堀田君って、坂本さんとすごく仲いいでしょ? 幼馴染だし、いつも一緒にいるし。私なんかが入る隙間、ないのかなって」
ひまりちゃんの声が、わずかに震えた。
「でもね、修学旅行のあの夜……堀田君が来てくれた時、私、本当に嬉しかったの。堀田君は、坂本さんだけじゃなくて、私のことも見てくれてるんだって思えたから」
あの夜。美優に命じられて女子部屋に忍び込み、布団を間違えてひまりちゃんの隣で寝てしまった、あの夜。ひまりちゃんは、あれを僕が自分の意思で来たのだと信じている。
「ひまりちゃん、あの夜のことは……」
「うん?」
真実を言うべきだ。あれは美優の命令で、僕は美優の布団に入ろうとしたのだと。しかし、それを言えば美優の秘密に触れることになる。そして何よりも、ひまりちゃんの純粋な記憶を壊してしまう。
「……うん。覚えてるよ」
結局、僕はそう答えることしかできなかった。嘘ではない。覚えている。ただ、ひまりちゃんが信じている文脈とは、まるで違う記憶として。
「ほんと!? あっ、えへへ……なんか照れちゃうな」
ひまりちゃんの声が嬉しそうに弾んだ。電話越しに伝わるその温度に、僕の胸が甘く痛んだ。
そして同時に気づいた。
貞操帯の中で、肉棒がさっきよりも明確に脈打っている。ひまりちゃんの声を聞いているだけで、僕の体が反応していた。
美優の声に条件反射的に反応するのとは、全く異なる種類の興奮。恐怖や従属から来るものではなく、もっと温かくて、もっと自然な──。
(だめだ。これは、まずい)
罪悪感が胸を焼いた。美優に対する裏切り。ひまりちゃんの純真を利用している自分。どちらに対しても、僕は不誠実だ。
「ひまりちゃん、あの……ちゃんと、手紙の返事するから。もう少しだけ、時間をくれないかな」
「うん! 全然いいよ。焦らないで。でも、こうやって電話で話せて、嬉しかった。堀田君の声、やっぱり好きだな」
「あ……ありがとう……」
「じゃあね! また学校でね、堀田君!」
プツン。通話が切れた。
僕はスマホを握りしめたまま、しばらく動けなかった。
ひまりちゃんの「好き」という言葉が、耳の中で反響し続けている。手紙の文字ではなく、声で直接聞いた「好き」。それは活字とは比べ物にならない質量で、僕の心を揺さぶった。
同時に、もう一つの事実に気づいてしまった。
この電話のことを、美優に報告しなければならないのだろうか。LINEの検閲は命じられている。だが電話については、何も言われていない。言われていないから、黙っていてもルール違反にはならない。
しかし、黙っていること自体が、美優への裏切りになるのではないか。
そして何よりも恐ろしいのは──もし美優にバレたら、どうなるのか。
スマホの画面を見つめる。美優からのLINEは、依然として一通も届いていない。
沈黙という名の罰。存在しないことによる支配。会いに来なくても、連絡を寄越さなくても、美優は僕の頭の中を占拠し続けている。
ひまりちゃんの温かい声と、美優の冷たい沈黙。その対比が、六日間溜まった欲望と混ざり合って、僕の精神をぐちゃぐちゃに攪拌していた。
その夜、僕はベッドの中で悶え続けた。
右を向いても左を向いても、金属が擦れて快感が走り、そのたびに脳裏に浮かぶのは美優の冷たい瞳と、ひまりちゃんの弾んだ声が交互に入れ替わる万華鏡のような光景だった。
出したい。誰でもいい、この地獄から解放してほしい。でも鍵は美優が握っている。美優だけが、僕を救える。
結局、僕は一睡もできないまま、日曜日の朝を迎えた。