僕のファーストキスを奪った幼馴染が、超ドSだった件 作:微熱@
八月二十日。
朝の八時に美優からLINEが飛んできた。
『今日、由紀人をお姉ちゃんに一日貸してあげることになった。鍵も渡してある。言うこと聞きなさい』
美優の姉で彼女を超えるドSである奈緒に一日レンタル? もう嫌な予感しかしない。
続けてもう一通。
『別に、あたしが負けたわけじゃないから。ちょっとした取引があっただけ』
取引。美優と奈緒の間で何があったのか、想像するだけで胃が縮み上がる。美優が「負けたわけじゃない」とわざわざ言い訳しているあたり、きっと何かしらの勝負をして負けたのだ。美優が不機嫌そうなのは文面から明白で、それはつまり──僕に対する八つ当たりが後日降り注ぐことを意味している。
九時ちょうど。玄関のチャイムが鳴った。
開けると、アロハ柄のシャツワンピースを一枚羽織り、デニムのショートパンツからすらりと長い脚を伸ばした坂本奈緒が立っていた。サングラスを額に引っ掛け、キャメル色のトートバッグを肩に掛けている。大学生の余裕が全身から滲み出る夏の装い。
「おはよう、由紀人くん。今日一日、あたしのものね」
奈緒は薔薇の香水の匂いを纏いながら、僕の顎を指先でくいと持ち上げた。妖艶な微笑みが朝の日差しの中で眩しい。
「美優から聞いてるわよね。鍵もここに」
彼女はデニムのポケットから、見慣れた小さな鍵を取り出して見せた。僕の貞操帯の鍵。美優以外の人間がそれを持っているという事実が、背筋に冷たいものを走らせた。
「は、はい……何でも言うことを聞きます……」
美優の許可が出ている以上、言うことを聞くしかない。いや、そうでなくてもこの人の命令に正面から逆らえる気はしないけど。
「よろしい。じゃあ行くわよ。電車に乗るから」
「電車……? どこに──」
「お姉さんとデートよ。文句ある?」
デート。奈緒と。言葉通りには受け取れない。
文句など言えるえるはずもなく、僕は言われるままに、奈緒の後について駅に向かった。
電車に揺られて約四十分。降りたのは隣の市のターミナル駅だった。駅ビルに直結する大型のショッピングモールが、ガラス張りの外壁に真夏の太陽をギラギラと反射させている。
「まず、あんたにまともな服を着せるわ。そんなヨレヨレのTシャツと短パンじゃ、一緒に歩く身にもなってよ」
奈緒は僕の腕を掴み、メンズのセレクトショップに引きずり込んだ。
店員が「何かお探しですか」と声を掛けてきた。奈緒は僕のことを「弟」と紹介し、手慣れた様子で次々と服をハンガーごと抜き取っていく。白のオープンカラーシャツ、ベージュのチノパン、薄手のネイビーのカーディガン──普段の僕なら絶対に手に取らない大人っぽいコーディネートだった。
「はい、これ着て。試着室」
カーテンで仕切られた試着室に押し込まれた。ファストファッション店の試着室は狭くて、カーテンの下から自分と隣の客の靴が見える。隣のブースでは若いカップルが何やら楽しそうにお喋りしている。カーテン一枚向こうには店員もいるし、他の客の気配も濃い。
Tシャツを脱ぎ、ハーフパンツを下ろした瞬間──
「ねぇ、由紀人くん」
カーテンの向こうから、奈緒の声が降ってきた。
「見せて。貞操帯」
「えっ……こ、ここでですか……?」
心臓が暴発した。カーテン一枚の向こうは売り場だ。人がいる。すぐそこに。
「そう。カーテン、ちょっとだけ開けて。私からしか見えないように」
僕は、恐る恐るカーテンの端を数センチだけ開いた。隙間から奈緒の目が覗いた。その視線が、僕の股間──パンツを下ろしたチンポに装着された金属の貞操帯に向けられる。
「ふぅん。ちゃんとつけてるのね。鬱血してないかチェックしてあげる。もうちょっと開けて」
これ以上開いたら、他の人にも見えてしまうかもしれない──でもそれでも、僕には従う以外の選択肢はなかった。
カーテンを少し広げた。奈緒の手が隙間から入り込み、冷たい指先が貞操帯の金属のフレームに触れた。固定部分のベルト、錠前の部分、そしてケージの中に封じ込められたペニスの位置を確認するように、指先が金属の上を這い回る。
「あっ……奈緒さん、ここ……人が……」
「静かに。声出したら丸聞こえよ?」
隣のブースから若い女性の笑い声が聞こえる。カーテン一枚の向こうで、普通の買い物客がコーディネートの相談をしている。その数十センチ先で、僕は貞操帯を露出し、大人の女の指に股間を検分されている。
奈緒の指が錠前をカチャカチャと弄んだ。ポケットの鍵を取り出し、鍵穴に近づけて──
えっ、ここで開ける!?
しかし、奈緒は手すぐに引っ込めた。
「冗談よ。ここじゃ開けないわ。でも、今日中にチャンスはあげる。楽しみにしてなさい」
僕は白のオープンカラーシャツとチノパンに着替え、試着室から出た。鏡に映った姿は、普段の地味な男子高校生とは別人だった。奈緒が選んだ服は僕の華奢な体型を妙に色っぽく見せる効果があり、年齢も数歳年上に見える気がする。
「うん。いい感じ。やっぱり素材は悪くないのよ、由紀人くんは。これ買ってあげる」
「え、い、いいですよそんな……」
「お姉さんからのプレゼント。感謝して着なさい」
奈緒はカードで支払いを済ませ、僕の古い服は紙袋に突っ込まれた。
次に連れて行かれたのは、モール内のシネマコンプレックスだった。
「何が観たい?」
「えっと……何でも……」
「じゃあこれ。ホラー」
奈緒が選んだのは、洋画のサイコスリラーだった。観客は少なく、薄暗いスクリーンルームの後方の席に二人で座る。
予告編が始まった。エアコンが効きすぎて少し寒い。暗闇の中で、隣の奈緒の薔薇の香水が際立って匂う。
「寒いの? ほら」
奈緒がアームレストを上げ、こちら側に体を寄せてきた。シャツワンピースの下の素肌が、腕に当たる。温かい。大人の女性の体温。
本編が始まった。
スクリーンに暗い映像が映し出され、不穏な音楽が流れる。観客は前方に数人。最後列の僕たちの位置は、誰にも見えない。
上映開始から三十分。
「由紀人くん」
奈緒の手が、暗闘の中で僕の太ももの上に置かれた。
「奈緒さん……?」
「しっ。黙って映画観てなさい」
指先が、太ももの内側をなぞり始めた。チノパンの布地越しに、奈緒の長い指が円を描きながら徐々に上へと這い上がっていく。
鼠径部に達した指先が、一度止まった。そしてそのまま──チノパンの上から、貞操帯の金属のフレームの輪郭を確かめるように、指がゆっくりと這い回った。
「ん……っ」
「映画館で大きな声出しちゃだめよ」
奈緒の指が僕のお尻の下に入り込み、貞操帯の裏側──会陰部にあたるチノパンの布地を重点的に押し始めた。
以前のように。美優に見本を見せた時と同じように。肛門と陰嚢の間にある会陰部を外側から刺激することで、前立腺を刺激する手技。
だが今回は服の上からだ。直接肌に触れていない分、刺激は鈍い──はずだったが、一ヶ月以上のおあずけで性感が極限まで敏感になっている体は、布越しの圧迫だけで尋常ではない反応を返した。
「あっ……ぁ……」
「映画に集中して」
スクリーンでは殺人鬼が暗い廊下を歩いている。暗闘のシーンと重なるように、奈緒の指が会陰部を圧迫する。何重にも円を描くように、じわじわと、しかし確実に前立腺のある位置を布越しに突き上げていく。
ドライオーガズムの手法。精液を出さずに前立腺から快感だけを搾り取る。貞操帯で射精が物理的に不可能な状態でも、この方法なら快感だけを与えることができる。
「んんっ……ぁ、あ……っ」
「上手ね。声を押し殺すの。美優の教育の賜物かしら」
快感の波が下腹部から全身に広がっていく。射精感のない、だが脳を直接揺さぶるような、深くて鈍い快楽。意識が白く飛びかけて、椅子の肘掛けを握り締める指先が震える。
スクリーンの暗い映像が、視界の端でぼやけていく。音楽だけが遠く聞こえる。暗闇の中で、奈緒の指だけが僕の世界のすべてになっていく。
「はい、もう一回」
二度目の波が来た。声にならない息が漏れ、全身がびくんと硬直する。映画館の座席できつく膝を閉じた姿は、端からはホラー映画に怯えているようにしか見えないだろう。
「……っ、はぁ、はぁ……」
「四回目まで行ってみましょうか。映画、あと一時間あるし」
地獄の映画鑑賞だった。