※この作品はR-18です。

スーパーチートオリ主が 謎催眠パワーでアルクェイドを恋人にして 桜を救ってもらうために聖杯戦争を頑張ってもらうお話   作:kitsutsuki

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03話

03話

 

 

 

朝が来た。冬木の空は薄曇り。

穏やかな陽光が住宅街を照らしているが、街全体にうっすらと緊張が漂っている。

 

聖杯戦争——その幕がもうすぐ上がる。

 

 

士郎は台所に立って朝食を作っている。

人数が多すぎるせいで食材が足りるか不安だった。

 

セイバーは居間のコタツに正座で待機。背筋がぴんと伸びている。

 

桜はエプロンをつけて士郎を手伝っている。

 

「先輩、お味噌汁の具は豆腐でいいですか?」

 

ああ、と短く返す。桜との距離がいつもより近いことに少し戸惑っている様子。

ふすまを開けてのそのそとアルクェイドが現れた。寝癖がすごい。

 

「おはよー。いい匂い。」

 

5人分の朝餉が卓袱台に並んだ頃、時計は午前6時を指していた。

妙に静かな朝食だった。みなが何かを考えている。

士郎の頭にも昨晩が頭に焼き付いていた。

 

登校にはまだ相当早い——が、

アルクェイドは味噌汁を飲み干すと士郎を見た。

 

「ごちそうさま。で、そろそろ行く? 遠坂凛ちゃんのところ」

 

「えっ、今? 登校前だぞ?」

 

「こういうのはアレね、スピード勝負よ。

 寝起きが悪いはずの彼女の所に突撃してしまいましょう。

 セイバーと士郎くん、ライダーと桜ちゃん、ついでに私。

 なんとかなるなる。

 遠坂凛ちゃんは自宅で昨晩のうちに残りのサーヴァントを呼んでいるはず」

 

箸を置いて立ち上がった。

 

「セイバークラスは昨夜士郎くんに呼ばれたばかり。

 つまり凛ちゃんが呼べるのは残り一枠——アーチャークラス。確定よ」

 

セイバーはその名にわずかに反応した。

弓兵のクラスに思うところがあるらしいが口には出さなかった。

 

食器を片付けながら。

 

「遠坂のところって——まさか、こんな朝からあいつの自宅に突撃するのか!?」

 

あっけらかんと。

 

「当然。寝起きドッキリよ。

 彼女がちゃんとサーヴァントと契約できてるか確認しないと」

 

ライダーは桜に目配せして。

 

「準備はいいですか、サクラ」

 

こくんと頷いた。

 

 

午前七時前。衛宮家を出発した。先頭に士郎とセイバー。その後ろにアルクェイド。

少し離れてライダーと桜。通学路を逆走する異様な一行だが、早朝の住宅街に人影はほとんどない。

 

セイバーが歩きながら小声で。

 

「アルクェイド。あなたがそこまで急ぐ理由は何だ」

 

「実はね、今日中に終わらせたいのよ聖杯戦争」

 

足が一瞬止まった。

 

「今日中——だと?」

 

セイバーだけに伝えたのは賢明だった。

この話を士郎や桜の耳に入れれば余計な動揺を招く。

 

声を落として。

 

「聖杯に願いを叶えてもらおうなんて思ってるマスターもいるでしょうけど、

 聖杯そのものが汚染されてる可能性が高いの。願えばろくなことにならない」

 

目を細めた。

 

「聖杯の、汚染?」

 

「そ。後で詳しく説明するけど、冬木の聖杯でまともな願いは叶えられない」

 

 

セイバーの脳裏の焼き付いている第四次聖杯戦争の最期の光景。

 

マスターであった衛宮切嗣によって令呪ニ回を重ねられて放つことになった聖剣の奔流に飲み込まれた聖杯。

 

このアルクェイドと名乗った女の言葉には、奇妙なほどの説得力があった。

 

――あれは、まさか? 

  切嗣が最後に何かに気づいた結果のものだった?

 

つまり自らの願いは叶えられないことにある。

いや汚染されている聖杯などで叶えていい願いではない。

あくまでも冬木の聖杯であって、他の聖杯戦争に呼ばれればいいだけの話だ。

此度の聖杯戦争の目的が変わったというだけだ。

 

「それは——聖杯の降臨を阻止するということか。

 しかし、それならば尚のこと時間が必要では。」

 

首を横に振る。

 

「逆よ。ぐずぐずしてると街が消し飛ぶ。

 今日やる。

 だから同盟もスピード勝負なの。全陣営が準備を整える前にまとめて、一気に片をつける」

 

しばらく黙ってアルクェイドの横顔を見ていた。やがて静かに。

 

「——了解した。事実であるならば私も全力で協力しよう。

 私もそのような汚染された聖杯などに願いを聞き届けてもらうつもりはない。

 ただし一つ聞く。

 

 あなたは一体、何者の命で動いている?」

 

「こ、恋人。そんな恥ずかしいこと言わせないでよ。

 もちろん聖杯が浄化できるならそっちを選ぶ。

 ちゃんとセイバーの願いを叶えさせてあげる。

 選定の剣をやり直す。その願いが本当にいいのか、私にはなんとも言えないけど」

 

目を見開いた。「恋人」という単語にではなく、その後の言葉に。

 

「——知っているのか。私の願いを」

 

ばつが悪そうに耳を赤くしながらも。

 

「まあね」

 

しばらく黙り込んだ。前を向いたまま歩く横顔に影が差す。

 

「浄化できるなら、と言ったな。確証はないのか」

 

正直に。

 

「ないわ。

 これ、そう簡単にいくものでもないわ」

 

足を止めた。振り返らないまま。

 

「選定の剣をやり直す。

 ——それが本当に正しい願いかどうか、私にもわからない。

 ただあの結末を変えられるならと、それだけを抱えてきた」

 

朝の風がセイバーの金髪を揺らした。

その背中は小さくはなかったが、どこか孤独だった。

王として国を滅ぼした少女の、たった一つの祈り。

 

ふっと息を吐いて再び歩き出す。

 

「——まずは目の前のことからだ。同盟と、大聖杯」

 

 

 

 

 

遠坂邸。洋風の瀟洒な佇まいが朝日に映えている。

門の前に立つ5人の姿はどう見ても近所の通報案件だった。

 

士郎がインターホンを押そうか、迷い、手を引っ込める。

はよ押せ、とアルクェイドの視線

士郎がインターホンのボタンに指をつけた瞬間——上から連打。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピピピピンポンピポピポピポポポポポ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっはよーございまーす!」

 

士郎が顔を青くして

 

「おい馬鹿やめろ! 近所迷惑だろ!」

 

一分後、玄関の扉が蹴り開けられた。

寝巻き姿の遠坂凛が仁王立ちしている。髪はぼさぼさ、目は据わり、手には宝石。

 

低い声。

 

「殺すわ」

 

満面の笑み。

 

「あ、起きた」

 

桜は凛の姿を見て小さく目を逸らす。

寝起きの姉は怖い。

 

凛の表情にセイバーが士郎の一歩前に出て身構える。

 

「マスター、敵襲か?」

 

遠坂凛はセイバーを見て一瞬硬直。

 

「——サーヴァント!?

 なんで衛宮くんがうちの前に——ってか何この人数!?」

 

 

 

 

 

 

 

「こちら衛宮士郎くん。学校ではお知り合いよね。

 でも実はモグリの魔術師でした。

 聖杯戦争に参加するためセイバーを召喚しちゃいました。

 こっちは間桐桜さん。まぁ貴女はよく知ってるわよね? で、ライダーを召喚しています」

 

うんうん良く出来た説明だとアルクェイド頷いた。

 

「ということで、これ外でする話でもないでしょ?

 中に案内してね」

 

顔が一瞬で切り替わった。

 

「モグリの魔術師」「聖杯戦争」——この単語の組み合わせが意味することを即座に理解したのだろう。

 

宝石から手が離れた。

 

「……桜がマスター?」

 

びくっと肩を震わせたが、逃げなかった。

舌打ち一つ。

 

「いいわ、入りなさい。リビングで話す」

 

手のひらを返したように凛は踵を返し屋内へ戻っていった。

さすがの判断力。外で聖杯戦争の話など御法度中の御法度だと弁えている。

 

士郎はほっと胸を撫で下ろして。

 

「助かった……。」

 

警戒を解かぬままの凛の後に続く。

 

通されたリビングは広く、調度品は上品だが隅々まで掃除が行き届いていた。

「遠坂」の看板に恥じぬ家だ。

テーブルに着いた凛は紅茶を淹れもせず

 

——それどころではないとばかりにアルクェイドを睨んだ。

 

椅子に深く腰掛けて。

 

「で? あんたが仕切ってるわけ? 全部吐きなさい、最初から」

 

「貴女は呼ばなくていいのアーチャーを」

 

ぴくりと眉が動いた。

「アーチャー」——まだ一言も口にしていないクラス名を言い当てられた。

 

「——なんで知ってるのよ」

 

肩をすくめて。

 

「勘よ、勘。昨夜呼んだでしょ?」

 

数秒の逡巡。それから指を鳴らした。

 

「——来なさい、アーチャー」

 

リビングの空気が揺れた。

霊体化を解いた赤い外套の男が音もなく凛の背後に現れる——

白髪に褐色の肌、鋼のような目つき。

 

室内の面々を一瞥して、皮肉げに口の端を上げた。

 

「随分と賑やかな朝食会だな、マスター」

 

アーチャーの姿を認めた瞬間、空気が張り詰めた。

セイバーは無意識に剣の柄に手が伸びている。

 

アーチャーはセイバーを見返して——ほんの一瞬、複雑な表情が過ぎったがすぐに消えた。

何かを知っている目だった。

 

「紅茶、美味しいわね。本当に美味しい。これすごいわね」

 

凛は不意を突かれたように瞬いた。さっきまでの険しい顔にわずかな戸惑いが混じる。

 

「……当然でしょ。トワイニングのプリミアムブレンドよ。

 茶葉の量も蒸らし時間も完璧に計算して淹れてるんだから」

 

いつの間にか紅茶が出ていた。

話に夢中で誰も気づかなかったが——用意したのはアーチャーだった。

壁際に立ちながら給仕までこなす辺り、このサーヴァントの苦労性が垣間見える。

 

自分の紅茶には手をつけず腕を組んだままのアーチャー。

 

「世間話をしに来たわけではあるまい。本題に入ったらどうだ」

 

凛はカップを持ち上げかけて、はっと我に返ったように置いた。

乗せられるところだった、と言いたげな顔でアルクェイドを指差す。

 

「そうよ。あんたの番。全部話しなさい」

 

紅茶に口をつけた途端、目が僅かに見開かれた。

何も言わなかったが——二口目に手が伸びた。

 

「そうね。私の紹介をしないと始まらないか。

 私は貴女の大師父ことをよく知っているわ」

 

がたっと椅子が鳴った。

 

「——大師父ですって?」

 

遠坂凛にとってその名は特別な重みを持つ。

魔術師としての原点、根源への到達を目指す一族の頂点に立つ人物。

それを「よく知っている」と言われれば動じないわけがない。

 

アーチャー壁に寄りかかったまま目を細めた。警戒の色が一段上がっている。

 

声を抑えながらも語気が鋭い。

 

「ハッタリなら今のうちにやめなさい。大師父のことを軽々しく口にできる人間なんて——」

 

カップをことりと置いて、凛をまっすぐ見た。

 

「冬木の聖杯が汚染されてることも知ってる」

 

「――汚染?」

 

「そうよ。汚染。ドロッドロのぐちゃぐちゃね。

 第三次聖杯戦争でアインツベルンがアンリマユを混ぜたから」

 

 

空気が凍った。アーチャーですら一瞬目を見張ったのを隠せなかった。

それは魔術協会の最上層でなければ知り得ない情報——いや、知っていても口外しない類の禁忌だ。

 

唇が震えた。怒りではない。恐怖に近い何か。

 

「あんた——何者なの」

 

 

 

リビングに満ちる気配が変質していく。

 

 

 

「星の精霊だとか、アーキタイプアースだとか、別に吸血鬼でもいいし。

 呼び名は色々あるし場合によってはよく変わるわね」

 

空間が軋んだ。

比喩ではない——アルクェイドから滲み出る圧力が遠坂邸の結界をびりびりと震わせていく。

しかし家具は揺れない、紅茶の表面ですら波立たない。

 

「ただ、魔術師ならば知らないとは言わせないわ――真祖という言葉を」

 

凛の肌は粟立ち、アーチャーは反射的に双剣を投影しかけていた。

セイバーは反射的に剣に手をかける。

 

「私の名前はアルクェイド・ブリュンスタッド。よろしくね。遠坂凛さん」

 

——嘘でしょ。

 

 

顔から血の気が引いた。「真祖 アルクェイド・ブリュンスタッド」

——その名前が意味するところを、魔術師としての教養が正確に教えてくれる。

 

「星の——抑止力の具現体……!?」

 

椅子から立ち上がりかけて、膝が笑った。

それでも歯を食いしばって踏みとどまる。

遠坂の当主として、格上の存在に怯える姿を見せられないという意地が彼女を支えていた。

 

アーチャー双剣の投影を中断した——無意味だと悟ったからだ。低く呟く。

 

「勝てんな。どう足掻いても。」

 

凛は喉を鳴らして唾を飲み込み、それから——

 

「……よろしく、なんて気軽に言える相手じゃないでしょうが」

 

桜はライダーの腕にしがみついていた。

顔から血の気が引いていた。ライダーがそっと肩に手を置く。

 

 

力の奔流が潮を引くように収まった。

リビングに正常な空気が戻り、全員が同時に息をつく音が重なった。

セイバーですら肩の力が抜けていたのだから、先ほどの十数秒がいかに異常だったか分かる。

 

凛は震える手でカップを掴み、紅茶を一口飲んだ。

それからゆっくりと息をついた。

虚勢だろうが——背筋は伸びた。

 

「——で。

 星の精霊がわざわざこんな極東の島国まで来て、モグリ魔術師と手遊びしてる理由は?」

 

「ここにいる士郎くんとセイバー、桜ちゃんとライダー。ついでに私。

 そして貴女、遠坂凛ちゃんとアーチャー。仲良く同盟組みましょ?」

 

額の汗をさりげなく拭う凛。

 

「同盟……」

 

アーチャーは剣を消したが、視線はアルクェイドから外さない。

声だけを凛に向けて。

 

「突然のこれだ。

 断るべきだ、と言いたいところだが――選択肢がないな、これは」

 

凛はちらりとアーチャを見上げる。

それから士郎、桜、ライダー、そしてアルクェイドを順に眺めた。

 

「衛宮くん? 貴方、いつからこんな愉快なことになっていたの?

 それにモグリの魔術師だったとはね。後でしーーーっかり話をさせてもらうわよ」

 

士郎はばつが悪そうに頭を掻いた。どこから説明したものかと迷っている顔だ。

 

凛は指先でこめかみをとんとん叩きながら、

寝起きで叩き起こされたばかりの思考に火を入れていく。

プライドと現実の間で天秤が激しく揺れていた。

 

「条件次第よ。対等など同盟でなきゃ――」

 

にこっと笑った。

 

「その前に、そうね。桜ちゃん。言っていい?

 言っちゃうけど。ごめんね。

 私が冬木市に来た最大の目的が桜ちゃんになるわ――」

 

「はぁ? 桜を? さらに意味が分からないわ」

 

視線がアルクェイドから桜に映る。

ぴくりと肩が跳ねた。桜は顔から一切の色が消える。そしてコクリと頷いた。

紅茶の湯気だけがゆるゆると立ち上る中、アルクェイドは語り始めた。

 

遠坂から間桐の家に養子に出された経緯から、そして――。

 

「え? 養子? 桜は、遠坂と姉妹だったのか?」

 

「その話は後でいいでしょ。続きを」

 

凛が士郎を制する。

 

 

――アルクェイドはそこで何をされていたのか事実を並べていく。

 

 

蟲のこと。

慈悲もなく躊躇もなく。臓硯による蟲蔵での調教、魔力の搾取。人格の破壊。

埋め込まれた聖杯の欠片のこと、心臓に巣食い続けていた臓硯本体のこと。

1つ1つ丁寧に並べていく。

 

凛は拳が白くなるほど握りしめていた。

今まで学校でも桜から感じていた違和感。

その点と点が繋がった瞬間、凛の目に灼熱の怒気が宿った。

実の妹をあの家に送り出したのは――。その事実が、刃のように突き刺さっている。

 

士郎は歯を食いしばって俯いている。

妹のように自宅に通い続けていた桜だ。何も知らず何もできなかった事実。

その顔は血が滲むほど唇を噛んでいた。

 

ぽたりとスカートに雫が落ちた。桜は声は出さなかった。

 

「私は冬木に来て、速攻で間桐臓硯は殺したわ。

 ――心臓を巣食っていた本体もね」

 

凛は声にならない声を絞り出した。

 

「殺し――た? アレを?」

 

頷いた。何でもないことのように。

 

桜は口を覆った。嗚咽が指の隙間から溢れ出す。

昨夜からの衝撃、そして姉である凛にも知られてしまったこと。

知られたくなかった。でも知って欲しかったこと。

今まで積み上げられていた重石が外された事実を、改めて実感し始めたのだ。

 

士郎は動けなかった。目の奥が熱い。何かを言おうとして言葉にならなかった。

 

凛は唇を震わせて、それから――深く頭を下げた。

遠坂の当主としてではない。姉として。

 

「――ありがとう」

 

アーチャは目を開けた。

アルクェイドを見る目から警戒が消え、代わりに奇妙な安堵が浮かんでいた。

 

「で、桜ちゃんに幸せに生きてもらいたいんだけど。

 どうしてもこの聖杯戦争が邪魔でねー」

 

桜はまだ泣いていた。声を殺して、子供のように。

ライダーが黙ってその肩を抱いている。

しゃくり上げながら、かすれた声で。

 

「わたし――わたしのために……?」

 

柔らかく微笑んだだけで答えなかった。

代わりに話の軸を聖杯戦争へと引き戻す。

 

凛は頭を上げて目元を乱暴に拭った。涙は見せないという意思表示。

それからアルクェイドを真っ直ぐ見据えた。

 

「聖杯戦争が邪魔――つまり同盟の目的は聖杯の奪い合いじゃなくて」

 

「私の来た理由は実は、聖杯戦争どうこうじゃなくてね。

 桜ちゃんを不幸にする要素を可能な限り消しておきたいのよ。

 で、大聖杯を調べてみれば、まーアレ呪いの泥の塊じゃない? 

 誰かが願いを叶えれば、いずれ抑止力は来るのでしょうけど、冬木市は名前がなくなるわよね」

 

凛は顔色が変わった。

呪いの泥。

「冬木市が名前ごと消える」——それが何を意味するか、優秀な頭脳は即座に弾き出した。

 

「十年前の大火災——まさかあれも」

 

「あ――」

 

士郎はあの夜を思い出しているのだろう。

街中を襲った炎の記憶。あれが聖杯のせいだとすれば——

 

首を横に振った。

 

「あれは前回の聖杯が漏れた余波。

 次はもっと酷いわ。

 受肉したサーヴァントが暴れれば冬木どころかこの地方一帯が地図から消える。

 だからね、そうならないように同盟を組みましょうというお話」

 

テーブルに肘をつき、組んだ指の上に額を乗せるように俯いた。

長い沈黙。やがて顔を上げる。覚悟を決めた目だった。

 

「乗るわ、その話。ただし一つ条件がある」

 

全員の視線が凛に集まった。

 

「条件、いいわね聞かせて」

 

背筋を伸ばし、指先をアルクェイドに突きつけた。

 

「聖杯の汚染。そう、事実なのでしょうね。

 貴女みたいな人が嘘をいう理由は思いつかない。

 でもね、私がこの目で大聖杯を調査する。これだけは譲れない」

 

一拍置いて。

 

「遠坂の悲願は根源への到達。

 聖杯はその手段の一つに過ぎないけど、もしアレが本当に使い物にならないなら

 ——別の道を探す材料が要るの。自分の目で確かめなきゃ納得できない性分なのよ、悪い?」

 

アーチャーは微かに口角が上がった。「らしいな」とでも言いたげに。

 

「よーし、じゃあ今からレッツゴーね」

 

全員の「は?」という顔。

 

「今から!?」

 

ぱんと手を叩いて立ち上がった。

 

「思い立ったが吉日ってね。善は急げよ凛ちゃん」

 

凛は、ちゃん付けに一瞬むっとしたが、それどころではない。

 

「準備もなしに大聖杯に近づくなんて——」

 

「私は賛成だ。夜まで待つ理由がない」

 

外套の裾を払いながら凛にコートを差し出した。

 

衛宮士郎は立ち上がる。

エプロンを外しにかかえる癖が出て、手を止め苦笑した。

セイバーもすでに立っていた。問答は不要。マスターの行く道に従うのみ。

 

桜の目はまだ赤かったが、ライダーに支えられて立ち上がっていた。

 

「私も――行きます」

 

 

朝八時。冬木の街は穏やかな日常に包まれている。

これから向かう先に何が待ち受けているかなど、通学路を急ぐ学生たちは知る由もない。

 

「柳洞寺の奥まった所に大聖杯に続く道があるわ

 門番にアサシン、柳洞寺にはキャスターがいるけれど、

 こっちにはサーヴァントが3人にいるのだか押し通って行きましょう」

 

歩きながら目を丸くした。

 

「ちょっと待って。キャスターとアサシンが柳洞寺に?

  なんでそこまで知ってるわけ?」

 

ひらひら手を振って。

 

「企業秘密」

 

霊体化したまま念話で。

 

「門番がアサシンということは、キャスターは同盟関係にあると見ていい。

 厄介だな。暗殺者と魔術師の組み合わせは相性が良すぎる」

 

 

山門へ続く石段の前で足を緩めた。

見上げれば朝靄の中に柳洞寺の伽藍が佇んでいる。

 

「三対二。数では勝るが——」

 

セイバーの言葉に士郎はごくりと唾を飲んだ。

 

「キャスターって、アルクェイドさんが言うには神代の魔女なんだろ。

 まともに戦ったらやばくないか」

 

桜はライダーの傍で不安げに石段を見つめている。

 

柳洞寺へ至る石段。

朝の静謐な空気に混じって、微かな

 

——しかし確かな魔力の気配が地の底から立ち昇っていた。大聖杯は近い。

 

「倒してもいいし、倒さなくてもいいわね。

 私はどっちでもいいわ

 強く当たって後は流れで、これね」

 

石段を登りきった先、山門が見えた。そしてその前に——一人の男が立っていた。

 

青い着流し。長身痩躯。腰に佩くは物干し竿と渾名される長大な刀。

風に黒髪がなびく様はまるで散歩の途中のようだったが、

纏う気配は紛れもなくサーヴァントのそれだった。

 

セイバーが剣を抜き放った。

 

「アサシンのサーヴァントか」

 

ゆるりと刀の鯉口を切った。薄い笑みが口元に浮かぶ。

 

「ほう。朝から物騒な客人だ。——いや、客というには些か数が多いな」

 

 

アーチャー実体化して凛の横に並んだ。干将・莫耶を両手に構える。

目の前の侍が持つ刀の記憶を読み取る。

佐々木小次郎ではない何か。まさか侍ですらないとは。

剣の腕は最上、燕を斬ろうとした逸話の男だ。

武器は長刀——山を裂くとまでは言わんが位置取りと合わせれば、厄介な間合いだ。

 

遠坂凛は魔術回路を起動しながら。

 

「サーヴァント三騎で押し通るって話だったわよね。——やるわよ」

 

ふ、と短く笑って構えた。

 

「数の利に文句を言うつもりは毛頭ない。——だが一手、付き合ってもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

「ライダーが眼帯取ったら終わりそうな気もするけど、効かないのかしら?」

 

ぽつりとアルクェイドは呟いた。

ライダーが眼帯に手をかけて。

 

「石化の魔眼ですか。通用するかは相手次第です。

 高い対魔力があれば弾かれます。アサシンに対魔力は——」

 

横からアーチャー。

 

「ないだろうな。アサシンのサーヴァントだ。

 その上、本来の山の翁ではなく、おそらくキャスターによって何らかの不正召喚が行われている。

 気配遮断と引き換えに他のステータスは軒並み低い」

 

刀を構えたまま、涼しい顔。

 

「何やら物騒な算段をしているようだが」

 

ぽんとライダーの肩に手を置いて。

 

「試してみればいいじゃない。タダなんだし」

 

 

一瞬躊躇ったが——眼帯を外した。紫水晶の瞳が露わになる。

 

 

魔眼が輝いた瞬間、佐々木小次郎の足元の石畳にひび割れが走った——が。

 

 

ぐらりと体勢が崩れかけ——踏み留まった。顔色は青白いが、刃を構える手はまだ震えていない。

 

「ぐっ——これは。」

 

凛は目を見張る。

 

「効いてる! 効いてる! でも完全には落ちない——半分ってとこかしら」

 

セイバーが好機と見て一気に踏み込もうとした。

 

 

 

「私が言ってなんだけど、これ、なんか可哀想になってきたわね。

 セイバーがまともに戦ってあげたら喜ぶんじゃないから」

 

踏みかけた足を止めて、アルクェイドを見た。

 

「……私に一騎打ちをしろと?」

 

肩をすくめて。

 

「だって彼って、燕を斬りたくて英霊になったような人よ?

 三人がかりでボコるのはちょっと」

 

石化に抗いながらも、その言葉に反応した。震える口元が笑みの形を作る。

 

「——ほう。剣士が相手をしてくれるか」

 

小さく息をついた。剣先を下げ、正眼に構え直す。

 

「いいだろう。騎士として、名乗りもせず数で押しかけるような戦いは本意ではない」

 

体の痺れを振り払うように長刀を一振り。風切り音だけで境内の木の葉が散った。

 

地を蹴った。黄金の剣が朝日を弾いて閃く。

二つの斬撃が交差し——甲高い金属音が柳洞寺の山門に響き渡った。

 

 

残りの面子は少し離れて観戦する形になった。

士郎が桜を庇うように立ち、凛は腕を組んで二人の剣戟を見守っている。

ライダーは眼帯を戻し、少し申し訳なさそうな顔をしていた。

 

 

「見ててもあれね。

 時間が惜しいわ。

 私たちは奥に行きましょう。士郎くんは令呪でカバーしてあげてね」

 

頷いてセイバーの背を見送るように振り返り——それから前を向いた。

 

「わかった。セイバーなら大丈夫だ。任せろ」

 

 

セイバーと佐々木小次郎の間で三合、四合と刃が噛み合う音を背に、

一行は柳洞寺の本堂を迂回して奥へと進んだ。

苔むした石の道は次第に地下へ向かって下っていく。

空気が変質する。冷たく、重く、そしてどこか甘い腐臭が混じり始めた。

 

歩を進めるたびに凛の顔が険しくなる。

 

「この魔力——近いわね。」

 

アーチャーが先頭に立ち、洞窟の闇を警戒しながら。

 

「罠の類はなさそうだ。キャスターが気づいていないはずはないが」

 

やがて開けた空間に出た。巨大な地下洞穴。

その中央に黒く脈動する魔法陣——大聖杯。

そしてその傍らに、紫のローブを纏った女が一人、静かに佇んでいた。

 

 

振り返った。

神代の王女の眼差しが侵入者たちを射抜く。

 

「——随分と大所帯で来たものね」

 

「こんにちわコルキスの王女様。お話し合いしましょ? 

 ダメだったら、このライダーとアーチャーーが相手になるわ」

 

わずかに目を細めた。

「コルキスの王女」

 

——真名を看破されている。警戒の色が濃くなった。

 

「話し合い? 敵の陣営が武器を構えて押しかけてきて?」

 

一歩前に出た。

 

「武器は下ろさせるわ。——アーチャー」

 

「ライダーお願い」

 

凛と桜が同時にサーヴァントに指示を出す。

キャスターは少し意外そうにアルクェイドを見た。

 

「あなたがマスターではないの? 随分と奇妙な集団ね」

 

にかっと笑って両手を開いた。丸腰アピール。

 

「聖杯戦争やめませんかっていうお誘い。

 大聖杯、見ての通りもう腐ってるでしょ? 

 誰が願いかけても冬木ごと吹き飛ぶわよ」

 

大聖杯に目を向けた。

黒い泥がじわりと表面を這っている。否定しなかった。

 

凛は畳みかけるように

 

「あなたの望みが何かは聞かない。

 でも聖杯が使えないなら戦う意味がないでしょう?」

 

「どう? キャスター、貴女の力で、これの浄化できそう?」

 

アルクェイドが指を指す。後ろのナマモノに。

 

長い睫毛を伏せて大聖杯を見下ろした。

その横顔には、神代の魔女としての矜持と、どうしようもない現実への諦念が同居していた。

 

「……できなくはないわ。

 ただし膨大な時間と魔力が要る。

 百年単位の儀式になるでしょうね」

 

 百年、という言葉に眉をひそめたが

——すぐに口を開きかけて閉じた。「待った」が必要な情報だ。

 

あっけらかんと。

 

「じゃあ私が魔力出せば短縮できる?」

 

振り返ってアルクェイドを値踏みするように見つめた。

 

「あなたは何者?

 サーヴァントではない。けれど人間でもない。

 その存在規模——私でも底が測れない」

 

アーチャーが壁に背を預けたまま。

 

「彼女の魔力量は規格外だ。少なくとも私のマスター百人分はある」

 

信じがたいという顔をしたが

——大聖杯の黒い泡立ちを見つめてから、小さくため息をついた。

 

「仮にあなたの力を借りて浄化を進めたとして 

 魔力だけではなく、必要なのは技術もなのよ。

 ——十年近くはかかるわ」

 

十年。

つまりこの聖杯戦争中に大聖杯どうにかすることが不可能ということだ。

出来るのは応急処置だけになるだろう。

 

 

「ちょっと待って少し考えるわ。

 

 キャスター、貴女の願いは受肉ね? 

 学校のなんとか先生と一緒に暮らして、故郷を見たい。そんな話しじゃなかった?」

 

目が大きく見開かれた。動揺を隠せなかった——この王女にしては珍しいことだ。

 

「なぜそこまで——葛木のことまで」

 

凛は「葛木」「学校の先生」の部分に引っかかったらしく。

 

「ちょっと待って。学校って穂群原?

 あんたあの葛木先生とよろしくやってたわけ?」

 

頬にわずかな赤みが差した。それを振り払うように咳払いをひとつ。

 

「——黙りなさい、小娘」

 

ぽん、と手のひらを打った。考えがまとまったらしい。

 

「ねえキャスターさん。受肉させてあげよっか? 浄化とは別に」

 

今度こそ完全に固まった。

え、という声が素で出た。

 

「それだけで退場してくれるなら、そんな安い話ないでしょ?

 私としては落ちて退場するサーヴァントも一体でも減らしたいのよ」

 

沈黙が長かった。

髪の奥で眼が揺れている。

疑い、困惑、そして

——希望。

 

「本気で言っているの?」

 

ひょいとキャスターに近寄って手のひらを見せた。

 

「こう見えて魔力だけは有り余ってるのよね私」

 

ぼそりとアーチャー。

「こう見えて」も何も、見たままだろう。

 

キャスターはアルクェイドの手に視線が吸い寄せられた。

そこに渦巻く力の密度を感じ取ったのだろう、喉が小さく鳴った。

 

 

凛は指折り数えるように。

 

「えーと。つまりキャスターが脱落して、

 大聖杯は浄化する方向で進めてセイバーとアーチャーとライダーは同盟続行。残りはランサー、バーサーカー、今戦闘中のアサシンね」

 

キャスターは一歩、前に出ていた。気づけば。

 

「条件があるわ。葛木宗一郎——あの人を巻き込まないこと」

 

にっと笑ってアルクェイドは凛を見た。

 

「彼女がいるかどうかで聖杯の浄化スピードは桁違いよ?

 魔力だけってのも味気ない受肉ね。

 せっかくだし、ライダーと桜には2度目だけど、私の宝具的なアレをお披露目しましょうか」

 

 

アルクェイドが両腕を広げた瞬間、洞窟全体が光に呑まれた。

黒かった大聖杯が放つ呪いの光ではない

——もっと温かく、もっと圧倒的な、星の息吹そのもののような輝き。

 

「――刮目しなさい

 空想具現化――マーブルファンタズム――」

 

 

息を呑んだ。

 

「神代」を生きた魔女ですら、この光景は見たことがない。

 

 

「な——」

 

 

光が凝縮し形を成していく。

キャスターの霊基に染み込むように、一滴、また一滴と

 

——受肉のための物質が編み上げられていく

 

「この世に在る」という存在の根を、魂の髄まで刻みつける作業。

そんな大儀式を要するそれを、アルクェイドは鼻歌交じりにやってのけた。

 

自分の手を見た。

霊体化のできない半透明ではない血の通った肌。爪の先まで実体がある。

 

「嘘——」

 

膝から力が抜けた。その場にへたり込み、震える指で頬に触れる。

一同は呆然と立ち尽くしていた。言葉が出ない。

それは1度見たはずのはライダーと桜でも変わらない。

 

赤い外套の下で、背中に冷たい汗が伝っていた。

「宝具的なアレ」——冗談ではない。

あれは神の御業に片足を突っ込んでいる。

いや違う。私は何を惑わされている。片足どころでもない。

正しく神の御業、あるいはそれ以上のナニかだ

 

ぱちん、と指を鳴らして光を収めた。

 

「はい、おしまい。どう? 足の裏までちゃんと地面感じるでしょ。

 受肉成功。質量がずっしりしてるでしょ? 妊娠とかしてないわよね?」

 

まだ地面に座り込んだまま、自分の腹をぺたりと触った。

それから意味を理解して顔を真っ赤にした。

 

「してるわけないでしょう!! 何を言っているの!!」

 

凛はつられて赤くなって。

 

「ちょっと、こんな場所でそういう話しないでくれる!?」

 

アルクェイドが、けらけら笑っている。

 

「いやーだって受肉って言ったらそこまで面倒見ないと不親切かなって」

 

アーチャーは天井を仰いだ。深いため息。

 

桜はきょとんとした顔で。

 

「妊娠……ですか?」

 

ライダーは桜の耳をそっと手で塞いだ。

 

 

ようやく立ち上がり、ローブの裾を整えた。

まだ頬は赤かったが——その目には涙が光っていた。今度は悲しみではなく。

 

「……感謝するわ。メディアの名にかけて、浄化の件は全力で手伝いましょう」

 

コルキスの王女は、故郷へ帰る足と体を同時に手に入れた。

 

「ということで浄化の手段も得た。

 凛ちゃんも実際に大聖杯見たけど――これ、使いたいって思う?」

 

 

 

 

 

 

 

大聖杯を睨むように見据えた。

黒く蠢く泥、歪んだ魔力の渦。優秀な魔術師の眼はごまかしが効かない。

 

「——思うわけないでしょ、こんなもの」

 

吐き捨てるように言った。

 

「これ見て願いを叶えたいなんて思う奴の顔が見てみたいわ」

 

 

 

若干の2名ほどいるのだから困ってしまう。

特に1名は貴女が何年も師事していた相手よ、アルクェイドは思わず言いたくなってしまった。

 

 

アーチャーは主の横顔を静かに見つめていた。

「遠坂」の悲願を誰より知る男だ。その言葉の重さを噛みしめるように目を閉じる。

 

振り返った。目に迷いはない。

 

「浄化に全面協力する。それが遠坂の答えよ。

 ——泉下のお父様には後で報告する」

 

ぐっと親指を立てた。

 

「話が早い」

 

 

 

その時、外から足音が聞こえた。軽い——しかし堂々とした歩調。

セイバーと士郎が刀傷一つなく戻ってきた。

その後ろから。

 

着流しが少し裂けている程度で、涼しい顔をしているアサシン。霊核には届いていないらしい。

 

「見事な剣だった。満足だ。——して、そちらの話はまとまったか?」

 

「あれ、生きてた」

 

からからと笑って。

 

「殺す気がなかったのはそちらも同じだろう、手加減されては燕も斬れん」

 

セイバーと士郎がわずかに目を逸らした。図星だったのだろう。

ぽりぽりと頬を掻いて。

 

「ごめんねー、急いでたもんで」

 

刀を鞘に収めながら。

 

「して、門番の役目は終わったと見てよいのか」

 

受肉した体で一歩前に出て、

かつての同盟者を見上げた。今はもうマスターではない。

 

「小次郎。あなたも退場しても構わないのよ。

 この子が——まあ、この方が退去の面倒を見てくれるそうよ」

 

興味深そうにアルクェイドを見やった。隠す気もない好奇心。

 

 

「ほう。死した身で再び消えることに未練はないが

 ——せっかくだ。もう一手所望したいところだが」

 

凛がじとっとした目でアルクェイドを見て。

 

「あんたの退場させていいサーヴァント一体でも減らしたいって方針、早くも破綻してない?」

 

「んー、受肉させてもいいけど

 貴方って現世を生きることにまるで執着がないでしょ? 

 困るのよね、そういうの」

 

ふむ、と顎を撫でた。あっさりとしたものだった。

 

「執着か。——ないな。燕は斬った。

 ならば次は何を斬る、と問われても答えがない」

 

困った顔。

 

「ほらー、やっぱり。

 受肉させても、さて散歩に行くかって消えちゃうタイプでしょ」

 

アサシンは否定しなかった。むしろ清々しい笑顔だった。

 

 

キャスターがため息混じりに。

 

「贅沢言うわね。普通は受肉なんて望んでも手に入らないのに」

 

 

冷静にアーチャーが

 

「消去法でいけば退去させるしかあるまい。本人が未練がないのだから」

 

アサシンはふと思いついたように。

 

「ああ、一つだけ心残りがあるとすれば

 ——この街には美味い食事処があると聞いた。一度くらいは腹一杯食ってみたかったな。

 サーヴァントの身では味が分からんのでな」

 

 

 

アルクェイドはチラっとキャスターを見る。

もう一度、二度見である。

 

「サーヴァントって普通味覚あるけど、そこまで削って使役してたの?」

 

キャスターばつが悪そうに目を逸らした。

 

「戦力として召喚したのだもの。余計な感覚はカットして当然でしょう」

 

アサシン自体は特に恨みがましい様子もなく。

 

「まあ、主の方針だ。従うのみよ。」

 

 

 

全員がうわあ、という顔でキャスターを見た。

 

「あんた鬼ね……」と凛。

 

むっとして。

 

「使い魔に味覚を与える魔術師がどこにいるの」

 

ぱんっと手のひらを合わせた。閃いた顔。

 

「よし。こんな場所でする話じゃないわ

 みんなお寺に移動!最後にご飯食べさせてあげましょ。士郎くん出番よ!」

 

え、俺?という顔をしたが——すぐに表情が変わった。料理人の顔だ。

 

「任せろ。何がいい?」

 

アサシンは少し考え込んで。

 

「山のような白飯と——肉があれば」

 

「ついでにアーチャーも手伝いにゴーよ」

 

一瞬固まってから、苦虫を噛み潰したような顔。

 

「私がか?」

 

ひらひら手を振って。

 

「いいから行ってらしゃい、あなたは料理が上手そうな顔をしてるもの」

 

反論しようとして——やめた。この手合いに口で勝てた試しがない。

凛がぷっと吹き出して。

 

「いいじゃないアーチャー。腕の見せ所よ?」

 

「了解した、地獄に落ちろマスター」

 

霊体化して消えた。

 

 

 

 

寺に到着すると

——台所の方角から包丁がまな板を打つ音がすぐに聞こえ始めていた。

拒否はしない男だ。

 

音のする方を向いて、アサシンは不思議そうに首を傾げた。

 

「あの赤い弓兵も料理をするのか」

 

 

 

 

寺の広間は、いつの間にかまだ昼だというのに宴会の会場に様変わりしていた。

キャスターは呆れた顔、セイバーは無表情、ライダーは桜と顔を見合わせて微かに笑い合っている。

 

「本当に満足して消えちゃったわね」

 

 

佐々木小次郎は山盛りの白米と三皿の焼き肉を平らげた後、縁側で茶を一口啜り

 

——静かに消えた。

 

 

「馳走であった」とだけ言い残して。光の粒子が夜風に溶けていくのを誰もが見送った。

 

湯呑みを両手で包みながら、その残光を見ていた。

 

「食い逃げね、ある意味」

 

アルクェイドは笑った。

凛が隣に腰を下ろして。

 

「一騎減ったわ。で、次はどうするの」

 

アーチャーが台所から戻り、エプロンを外しながら。

 

「ランサー、バーサーカーの2騎だが」

 

メディアが状況の補足をしていく。

 

「ランサーはすでに1度この寺にも来たわ。

 正体は隠すつもりないのでしょうね。

 あの槍を見れば分かるわ。アイルランドの大英雄、クー・フーリンでしょう。

 小次郎と適当に戦って、適当に帰っていったわね。

 あれは令呪で縛られていたわ。戦って撤退せよかしら?」

 

「クー・フーリン。とんでもない大物じゃないの」

 

凛が息を飲む。

 

「ランサーは確かに強大な敵ではあるけれど、

 ここに集まった戦力をどうにでも料理できるわ。もちろん私は抜きでよ? 

 私はもう抜けたのだから戦うつもりはないわ。あの槍兵に魔術が効くとも思えないし。

 

 ――問題はバーサーカーよ」

 

「バーサーカーが問題?

 貴女には悪いけど魔術師でしかないキャスターより問題視されているのがバーサーカーよ」

 

興味なさそうにメディアは鼻を鳴らす。

 

「キャスターの評判なんて私にとっても、どうでもいいことよ。

 バーサーカーはアインツベルンのホムンクルスが使役していたわ」

 

「アインツベルン、ね。なるほど。

 燃費最悪のバーサーカーに予備のホムンクルスを利用して魔力供給の融通でもしているのかしら」

 

ようやく出てきたわねと凛は考える。

アインツベルン。その名にセイバーも反応して眉をひそめる。

 

「私の使い魔の前でご丁寧に挨拶までするのだから、

 ずいぶん甘く余裕を見せてられるものねと思ったけど。

 

 ――その余裕も納得の理由だったわ」

 

本堂の縁側。

アルクェイドが食べていた煎餅のパリッと割れる音が奇妙なほど全員の耳に響いた。

 

「バーサーカーとして召喚されて私の知っている姿形ではなかった。

 けれど私があれを見間違えるはずがない。

 あのアホに連れられて、アルゴー船に乗った――ギリシアの大英雄、ヘラクレスそのひとよ」

 

 

 

 

 

 

 

 




おかしい何で本編書いてるんだろう
なんで、なんで、桜とオリ主のエロシーンが書きたかっただけなのに
超絶カットで巻きまくるしかない
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