※この作品はR-18です。

せともの。~クラスの銀髪の美少女に、僕が攻略される話~   作:霧里

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瀬戸凪。イメージ





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秋月律。イメージ



瀬戸さん

 

 

昼休み。

 

スマホの振動に呼ばれて、秋月 律はズボンのポケットに手を忍ばせた。

待ちわびた恋人からの連絡。気持ちとしてはだ。生まれてこの方、彼女なんて出来たことはないし。ちやほやされるのも、スマホのゲームの中でだけ。

 

勇者さま♪

 

金色の長い髪。キラキラした青い瞳。いまいち防御力の低そうな鎧の中に、大きな胸を押し込んで。いかにも美少女然としたキャラクターが、話しかけてくる。

そう呼ばれるのにも慣れてきた。記号としての勇者は、代名詞と変わらない。

僕の代わりにそう呼ばれる誰かがいる。画面越しに触れては見ても、返ってくるのはガラスの感覚だけだ。

 

「あははっ、くすぐったいですよ♪」

 

はにかんだ笑顔がまぶしい。だけど、視線が合った事は一度もなかった。

彼女が見ているのは僕じゃない。僕には世界を救えない。彼の肩越しに向こうを見せてもらっているだけ。

 

ガチャを回して、女の子を侍らせて。たまに虚しくなることもある。それでも、ゲームを続けている理由は一つだ。

 

ー イベントシーンを再生しますか? ー

 

画面に触れるその直前、指が固まった。意味もなく周りを見回して、誰も僕なんて見ちゃいない。休み時間中にスマホをいじる。そんな人はいくらでも。誰が何を見ているか。気にしたって仕方がなかった。

 

魔が差したんだ。

 

次の授業が始まるまでの、手持ち無沙汰も手伝って。

せめて、もっと人が少ないところへ行けばよかったのに。立ち上がる時間ですら惜しかった。耳に押し込んだイヤホンが、雑音を遠ざける。逸る鼓動を抑えて画面に触れると、甘い吐息に耳をくすぐられた。

 

照れくさそうに染まった頬に、少女は耳の先まで赤くして。

 

目の前に広がった裸に目を奪われる。いつもスキンシップが多めな彼女が、初めて自分の女性を意識していた。両手で体を隠してみても、その恥じらいこそが余計だ。儀式の為。そんなゲーム的な都合は、彼女にとっての真実だ。

作業的に済ませる娘もいる中で、初めてを大切に思う気持ちは輝いて見える。

 

どこまでいっても普通の女の子。

 

そうまでしても、誰かを守ることを選んだ強い女の子。

 

せめて……。そう願う気持ちは、僕も勇者と同じだった。

戸惑いながらも体を開く。そんな彼女を優しく抱きしめた。肌に触れ、声に艶が増す。初めて見たモノに、慌てる姿も可愛らしい。

 

やっぱり失敗だったな。

 

のめり込みすぎだ。自分のものが埋まっていく錯覚すら覚えてしまう。

一突きするたび、大きな胸が揺れる。「勇者さま、勇者さまぁ……っ♥」夢見心地な嬌声は、だんだんと乱れていった。近づいてくる絶頂に身悶えながら、彼女は勇者にしがみつく。

 

お気に入りのキャラクターの初シーンだ。

 

見入る。見入ってしまう。ここが何処で、今が何時なのかも忘れるほど。

隣を誰かが歩いたのすら気づかない。肩に何かが触れる。拍子にイヤホンが転がり落ちた。流れ込んできた雑音が、僕を一気に現実へと引き戻す。

 

「あ、ごめん」聞こえた女の子の声は、彼女のものじゃない。

彼女はまだ、イヤホンの向こうで幸せそうに余韻を噛み締めている。

 

見られた?

 

「あ、うん」会話ですらない。反射的に頷いてしまっただけ。教室で誰かと少しぶつかるなんて、そう珍しくもないから。スマホを片手にしていれば尚更だ。何も言わずに遠ざかっていく背中。なんだろう? 香水の匂いかな? 

想像していた彼女の匂いとはだいぶ違う。

 

もっと涼しげで、苦みがある。

 

柑橘類の、シトラスような残り香が、火照った頭を冷やしていった。

 

 

******

 

翌日。

 

冷静になってみると、やっぱり気になる。

 

教室の後ろ側。扉から入ってすぐの位置。

早まった。のは確かにそう。体で隠していたつもりでも合った。机の下ならバレないだろうとタカを括って。それも、肩に手が触れるほど近くにいたら分からない。覗き込まないでも、あるいはと。今更になって不安が顔を覗かせる。

 

「おはよう瀬戸さん」「凪おはよー」

 

口々に聞こえる朝の挨拶。

 

ガラリと開いた扉に背筋が伸びた。

 

「ん、おはー」

 

渋い声だ。眠たそうと言うか、退屈そうと言うか。

また、シトラスの匂いが鼻をくすぐった。涼しげと言うには少し苦い。昨日と同じ。すぐ横を通り過ぎていく彼女は、僕の方を見てもいなかった。

 

瀬戸 凪。

 

クラスメイトと言っても、それだけだ。話すどころか、顔を合わせたことも無い。

最初に見た印象は、冷たそうだ。銀色の髪が、降り積もった冬の夜を思わせたのかもしれない。髪型が、狼のたてがみにも見えた。鋭い目つき。重たそうな瞼。色素の薄い瞳はスマホ見つめるばかりで、他人への興味を欠いている。

 

美人なのは間違いない。

 

カフスやチョーカー、カラフルなマニュキュアも、白い肌によく映えた。

 

そう、なんていうかな。

 

瀬戸物みたいだ……。

 

綺麗なのに、冷たそう。氷とはまた違う。溶けて消える儚さよりも、欠けて割れる切なさを描いてしまう。

 

教室の端と端。ちょうど対角線に彼女の席はあった。

まるで、自分との距離を示すようだ。友人たちに声を掛けられても生返事。スマホを撫でる親指は、船を漕ぎ続けている。

 

不良……とまでは言わない。悪い噂も聞こえてこない。

ただ なんとなく、自分とは違う世界の人なんだと線を引く。それこそ、ゲームのキャラクターを見ているような現実感のなさだ。

 

少しだけほっとした。

 

向こうが絡んでこないなら、きっと何もなかったんだろう。

見えてようが無かろうが、彼女の目には映らない。勿体ないな。笑えば可愛いと思うのに。気が緩む。つい瀬戸さんの横顔を見つめてしまって。

 

「へ?」

 

目が合った。

 

気のせいか?

 

そう思うほど僅かな一瞬。彼女の瞳の中に僕が映ったような。

あらためて見ても、頬杖をついたまま瀬戸さんは動かない。置物のようにそこにある。僕どころか、周りを囲う人にすら興味を示してはいなかった。

 

何を考えているんだろう?

 

今日一日 背中を追っていたせいで、余計な気を回してしまう。

スマホを弄ってはいるみたいだけど、熱心に何かを見てるわけでもない。楽しげな会話の片隅で、彼女はひたすらに退屈そうだった。

 

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