※この作品はR-18です。

せともの。~クラスの銀髪の美少女に、僕が攻略される話~   作:霧里

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バーガーショップ

 

翌日。

 

授業開始のチャイムが鳴り終わっても、瀬戸さんは顔を出さなかった。

放課後になっても、それは同じ。秘密基地も覗いてみたけれど、中身の干上がったオレンジジュースのパックが転がっているだけだった。

 

「やっぱり……でも」

 

そういえば、一人でこの階段を降りるのも初めてか。

いつも呼び出されては、帰りは途中まで一緒だったし。どうにも足が重い。

振り返って、思い出してしまう。忘れられるわけがなかった。

 

瀬戸さんの……

 

何なんだ。本当に。

 

あの場で引っ叩かれたほうが、まだ諦めもついた。昨日の今日で休まれると気が気じゃない。彼女の体調を気にかけながらも、保身を考えてる自分がいやだ。

 

謝ろうか?

 

スマホを握る指は動かない。自分だって、ノリノリで触ってきたくせに。

思い返せばまだ、股間が甘く痺れるようだ。文句の一つも浮かぶけど、それは中途半端に止められた事への不満が大きかった。

 

白状すれば、ホッとしたんだ。

 

合わせる顔がなかった。

 

問題の先送り。明日もまた、同じ心配をするんだろう。

瀬戸さんが僕のことをどう思っているかなんて、彼女にしか分からないんだから。

 

校門を抜けると同時に、ポケットの中でスマホが震えだす。

なんとなくそんな感じはした。通知は瀬戸さんからのもの。そこに文字はなく、あったのは一枚の写真だけ。

 

どこだろう?

 

看板だけ映されても……ちょっと困る。

 

個人店ならまだしもだ。何処にでもあるバーガーチェーンの看板は、特徴的な分だけ見分けがつかない。そもそも、僕にどうしろっていうんだ。忠誠心でも試されているとか? 呼びつければ、すぐに来ると思って……。

 

「バーガーの新作だっけ?」

 

埋め合わせるでもないけれど、それでチャラになるなら分かりやすい。

一番、近くの店は? もう、考えるのは止めにした。こんな写真一枚で何が分かるはずもない。少なくても、ココに行けばいるはずだ。すれ違ってもそれはそれ。

その時は、バーガーの写真でも送りつけてやろう。

 

 

******

 

 

居た。

 

入口から見て一番奥の席に瀬戸さんは座っていた。

人もまばらな時間帯。いるのは学校帰りの学生が主だ。見慣れた制服から、そうではないものまで、同年代の少年少女が思い思いに過ごしていた。

 

やっぱり目立つな。

 

そう思ったのは僕だけじゃないらしい。

注文の列に並ぶ間も、遠巻きに様子見していた何人かが瀬戸さんに声を掛けている。実に不機嫌そうだ。舌打ちの音が、こっちまで聞こえてきそう。スマホから顔を上げることもない。察しのいい人はそれだけで、鈍い人は睨まれてようやく。

 

イヤだな。

 

それでも、しつこい人はいるもんだ。

 

普段の僕なら、きっと近づきもしないだろう。

変に絡まれてる女の子を助ける度胸なんてない。ただ、それでも。友人を放っておけるほど、薄情にもなりきれなかった。

 

「あの、退いてもらえませんか?」

 

強引に相席していた輩に声を掛ける。内心はもうビクビクだ。気を抜けば、手にしたトレイの重さに負けてしまいそう。邪魔するな、言わんばかりに睨み返されて足が震えだす。

 

「お、なんだキミも可愛いじゃん。なに、友達? 今から遊びにいこうって話しててさ。3人でカラオケとかどう?」

 

睨めつけてきた視線が急に丸くなる。声は一段と弾んで猫を撫でるようだ。

今までも、女の子に間違われることはあった。でも、まさかこの場面でか。

ふと横を見れば、瀬戸さんの肩がプルプルと震えていた。口元を抑えて、必死に笑いをこらえているようだ。

 

相手になんかしてられない。

 

タイミングもちょうど良かった。

 

隣を歩いていた恰幅の良い店員さんに声をかける。「すみません」たった一言で察してくれたようだ。シャチの擬人化。あるいは、クジラが服着て歩いているような。そのへんの不良が逆らえる筋肉じゃなかった。この店員さんと比べたら僕なんて、確かに女の子と変わらない。「どうぞ、ごゆっくり」手慣れたもので、ひょいと不良を放り出した店員さんは笑顔を残して去っていく。

 

「いつまで、笑ってるのさ……」

「いや、だって、笑うでしょ……いひひひっ。なんで、あっきーまでナンパされてんのさ、あはははっ♪」

 

肩を震わせるのにも耐えかねて、いよいよと吹き出した瀬戸さんは、お腹を抱えて笑い出す。さっきまでの不機嫌は何処へやら、代わりに唇を尖らせたのは僕のほう。

 

「別に、今までだって間違えられることはあったし……」

「かわいい顔してるもんね?」

「悪い?」

 

頬杖をついてそっぽを向くと、つい悪態が口をついてしまった。

子供っぽいと、分かっているのにどうしてだろう? 瀬戸さんの調子に乗せられて口が軽くなってしまう。

 

「良いと思う。あたしは好きだな?」

 

同じように頬杖を付いた瀬戸さんは、満面の笑みを浮かべてみせた。

からかわれているのは分かっても、嫌な気分はまったくない。どうしてか、彼女の顔を素直に見れなくなった。「好き」の言葉に、僅かな期待が煽られる。忘れたいのに、どうしても。熱を持ちそうになった感情を慌てて吹き消した。意識するたび焼き直しては、印象が深く根付いていく。

 

「あの、これ」

「?」

 

頬の熱を誤魔化すように、もってきたトレイを瀬戸さんの方へ押しやった。

 

「バーガー奢るって。だから、新作の」

「出したらって話でしょ? え、あっ。ごめん、ごめん。そっかそっか」

「ちがっ!? ちょっと、勝手な勘違いしないでよっ」

 

おっとっと。一瞬、きょとんとした瀬戸さんは、足踏みしたように口を閉ざす。

まるで、理解のある彼女のよう。けれど、その勘違いをそのままにして置けなかった。

 

バーガーに伸びた手を掴む。

 

自分でも驚くほど大胆に。

 

瀬戸さんは余裕を崩さないまま。立ち上がりかけた僕を見上げてほくそ笑んだ。

 

「勘違いねぇ。自撮り、使わなかったんだ? あたしはてっきりさ」

 

出鼻を挫かれる。しぼんだ勢いは、立ち上がりかけた足をそれ以上に持ち上げない。

 

「既読無視はよくないとおもいまーす♪」

「それは、忘れてただけで……」

「なんで?」

「なにって別に、いいでしょ。たまたまで、悪かったよ」

 

掴んだ手が逃げていく。バーガーの包装紙を開いた瀬戸さんは、狼のように大口を開いて齧り付いた。

 

「おほっ、うまっ。ていうか、あっきーの分は? なんも食べないの?」

「いいよ、僕は……」

 

意外と高かった。期間限定の高額商品は、急な出費にしてはちょっとつらい。

美味しそうにバーガーを頬張る彼女の姿が、せめての救いだった。

 

「あたしだけ食べるのもなぁ。あ、そうだ。じゃあ、ポテトを恵んであげよう」

 

細い指が一本と、ポテトをつまみ上げる。

そのまま僕の方へと手を伸ばした瀬戸さんは、ニコリと微笑んだ。期待してたわけじゃない。お金出したの僕なんだけどって、文句も多少は。

 

一つ、分かったことがある。

 

瀬戸さんはわりと、好きなものには執着する方らしい。齧りかけのバーガーを寄越してくるかと思えばそうじゃない。オレンジジュースと一緒に、腕の内側に確保してあった。外側に追いやられたポテトが、ちょっと憐れに思う。

 

恥ずかしがってもしょうがないか。

 

キスする直前までいったことを思えば、こんな悪戯ぐらいで顔色を変えてられなかった。塩気と、カリッとした食感。噛めば噛むほどポテトの甘さが広がって、唇に触れた指先の柔らかさが離れなくなる。

 

絶対わざとだ。

 

口を開いた瞬間、強引に押し込んできてさ。油を塗りつけるように、唇を撫でられた。指先をペロッと舐めた瀬戸さんは、そのまま何事もなかったかのようにバーガーに齧りつく。

 

なんだろう?

 

ふと足の上に、何かが転がり落ちてきた。

机の下を覗き見れば、床に転がった学生靴。白い靴下に包まれたつま先が、ちょんっと、からかうように伸びてくる。くすぐられて、くすぐったい。つま先で足を突かれるくらいならまだ、いつもの僕らの距離感のはずだった。

 

脛から、膝へ。

 

足を伸ばして太ももの内側にまで、入り込んでくる。

思わず立ち上がりかけた。ガタっと大きく机が揺れてもお構いなし。集まってくる周囲の視線に射竦められた僕は、大人しく席へ戻るしか出来なかった。

 

「で、感想は?」

「感想って、なんの?」

 

知らないふりをした。分からないはずがない。

送りつけられた自撮り写真は、まだ僕のスマホに残ったままだ。瀬戸さんの表情は変わらない。一見すれば うまうまと、バーガーに齧りついているようにしか見えなかった。

 

脱ぎたてのつま先は少し蒸れていて、靴下越しに伝わる熱が、太ももの内側に汗を浮かび上がらせる。これ以上は……。足を閉じて、手で押し返す。股間の周りでモゾモゾされると、イヤでも反応が大きくなった。

 

違うんだ。間違ってるよ。

 

瀬戸さんは勘違いをしているんだ。多分、僕が一人で続きをしてしまっているか、自撮り写真をオカズにしたんだと思ってるはず。

 

だけど……

 

出来なかった。明日、合わせる顔がなくなってしまうから。あまりのやましさに指が止まって、エロゲの世界に逃げ込んだ。好きなシーンを再生しながらも、頭の中では彼女の顔がチラついて仕方ない。それでも、なんとか強引に抜いてしまおうとした時だった。

 

スマホの通知に、視線が泳ぐ。

 

曝け出された白い肌が瞼に焼き付いた。

 

艶のある唇。大きく開いた胸元と、縁を飾るブラのレース。

心臓が止まるかと思った。反射的に既読を押してしまう。慌てた指がスマホを取りこぼして、昨日はそれきり。結局何もできないまま。変な夢を見るたび飛び起きて、興奮は今も解消できていない。少し悪戯されくらいで、抑えていた衝動が吹き出しそうだった。

 

「瀬戸……さん。ほんとに、まって。今は、ダメだから」

 

大きく膨らんだ僕のモノが、親指に蹴り上げられる。

中途半端な刺激が余計に辛い。直接触れてほしくなる。下腹に力が入った。今にも出しそうになるのを飲み込んで、それでも先端から溢れるものを止められない。

もう、最悪だ。パンツの中が濡れて、滑りがよくなっていく。周囲の雑談が笑い声に聞こえていた。情けない自分を指さして、皆で僕を笑っているみたいだ。

 

 

******

 

 

様子がおかしい。

 

ちょっとからかうだけのはずだった。伸ばしたつま先に、固いものが当たっているくらいはなんでもない。真っ赤になって、慌てた顔も可愛いと思う。

もうちょっとだけ。お気にの男の子にちょっかいをかける。ぐっと足を押し込んだ。残念でしたのまた明日。イジケた顔が見たくなって、つい調子乗ってしまったんだ。

 

足の裏がヌルリと滑る。

 

靴下越し、ズボンの上からでも、そこがどうなっているかなんて簡単に予想が出来てしまった。あまりに早すぎる。なんでもう濡れてんだ、コイツ。バーガーを齧る口が止まって、包装紙越しに秋月の顔を覗き見た。

 

耳までもう真っ赤。

 

俯いて、肩で息をしている。

 

「瀬戸……さん。ほんとに、まって。今は、ダメだから」

 

震えた声は、秘密基地での一件を思い返すのに十分だった。

ううん、それ以上だ。消え入りそうなほど掠れた声に、意地を張る余裕はのこっちゃいない。じゃあ、今はなんだっていうの? ちょっと触っただけじゃん。

そんな反応はまるで、昨日の続きをしているみたいで。

 

「は? あんた……マジ?」

「だから、ほんとに、足……やめ。もう、無理だから」

 

「なんで?」聞かずにいられなかった。

あたしですら、さっさとオカズに使ってしまったっていうのに。そんなになるまで、ずっと我慢してた意味が分からない。

 

「なんでって……。何もされてないからって、イヤでしょ? できないよ。友達に……そんな、雑につかうなんて」

 

罪悪感。

 

今更になってだ。

 

遊び半分で使ってしまった自分に突き刺さる。友達と言われて嬉しい反面、なにか腑に落ちない。抜いてしまったと、白状されればそれまでだったのに。そんな風に言われたら、伸ばした足の置き場に困ってしまう。あたしにとっての秋月は、ただの……。

 

「ちょっ、まっ!? なに、して。だめって……」

 

もう、余裕なんかないくせに。それでもまだ我慢するんだ。

伸ばしたつま先を押しのけられると、妙に胸がざわついた。ムキになってるのは、お互い様か。出したい彼と、出させたい あたし。気持ちは同じ筈なのに、決定的に噛み合わない。

 

「あたしの、せいなんでしょ?」

「……」

 

だったら早く。

 

首振って、それだけ。秋月はもう、声も出せなくなっていた。

熱の籠った吐息は、快楽を吐き出し続けている。このまま止めていい。もう時間の問題だ。自分の身じろぎ一つで果ててしまう彼の姿は、きっと映えるだろう。

 

でも、なんだかイラつく。

 

ここまでしてやってんのにさ。

 

じゅっと、オレンジジュースを吸い込んで、ストローをガジガジと噛み締めた。

甘酸っぱくて、いつもより苦い。こっちまで変な気分になってくる。冷えたジュースを流し込んでいないと、顔に出てしまいそうだ。

 

早く出せって、もう。

 

通りすがり、怪訝な顔を浮かべた誰かを睨みつけて追い払う。

周囲の視線が鬱陶しい。端から見ればケンカしてるカップルにでも見えるのか。

自分の容姿を抜きにしたって、過剰な注目を集め始めていた。

 

「……使えば、いいじゃん」

 

ぶっきらぼうに呟いた。

 

秋月の前髪が揺れている。

 

顔を上げ、息を呑んだ彼の瞳を見れない。つま先に意識を向けて、視線から顔を背けた。心臓を踏みつけてるみたい。鼓動は膨らんで、大きくなる。挟んだ足の指を押しのける勢いだ。あの時の続きにしては、あんまりに乱暴だった。足で擦るたび、彼の吐息は深くなっていく。

 

バーガーショップの奥の席。

 

誰の人目がある場所で、ヤバいと思うのに、止められない。

 

早く、出せ。

 

気持ちは急いて、足の指がつりそうだ。

 

ガタっと、小さく机が揺れた。

波のように広がる視線に、心臓が飛び出しそう。

 

閉じた太ももの隙間に、つま先が挟まれた。

濡れた指先から伝わる熱に、彼の残り香を思い出す。ズボンの向こう側を想像してしまった。白く濁ってドロドロと。据えた匂いが糸を引くように、滲んだ汗が肌を伝い落ちていく。彼の瞳を盗み見る。そこに映るあたしはまるで、ゲーム画面のあの子のようだった。

 

達成感と、ちょっとの不満。

 

苦し紛れに齧ったポテトは、すっかりと萎びてしまっていた。

 

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