※この作品はR-18です。

せともの。~クラスの銀髪の美少女に、僕が攻略される話~   作:霧里

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既読無視

 

 

通い慣れたコンビニで、凪が手にしていたのは男物の下着だった。

 

流石にやりすぎだ。

 

何がそうさせたんだろう。からかうにしたって、あんな場所で、あそこまでするつもりは……。本当になかったか? 自問して、思い悩む。バーガーショップがブレーキになっていたとして。じゃあ、いつもの場所だったら? 友達をオカズに使えない。あっきーのくせになにさ。使ってしまった あたしがまるで__まるで。

 

「ちっ……無地しかないな」

 

いや、柄物もあるにはあるけど、選べるほどの種類は全然。

そもそも彼に似合うパンツとは? 純朴な見た目と重なったのは、白いブリーフだった。仮にあっきーがそれを履いていたとして……。

 

想像してしまった。

 

縮こまって、赤くなった顔を。両手で必死に体を隠す姿。脱げたズボンに、真っ白い布地が目に入る瞬間。ちょっと冷めそう。同じダサいにしても、ちっちゃな赤リボンがついてる方が似合いそうで困る。

 

まぁ、無難に黒で……。

 

ボクサーパンツっていうんだ。見た目にトランクスとの違いは分からないが、彼のイメージからも離れちゃない。あれで、私服が妙にカラフルだってこともないだろうし。それはそれで何かイヤ。

 

「はっ……イヤってなんだよ」

 

鼻で笑う。隣で歩く自分の背中を追い払うように。

何でも無いはずだ。あたしにとっての あっきーはただの……なんだ。「友達」そうなんだとは思う。少なくとも、つまらないショート動画を流しているよりは、一緒にいてずっと楽しい。

 

「あの、お支払いは?」

「え、あ、えっと……」

 

店員にせっつかれて、慌ててスマホを取り出した。

気づけば、後ろに列は伸びていき、せっつくような視線が背中に突き刺さる。

 

何やってんだか。

 

朝のコンビニで、男物のパンツを買うなんて。こんなの誰かに見られたら面倒だ。

レシートも受け取らないまま、パンツを学生鞄の奥へと突っ込んだ。

 

自動ドアを抜けると、朝日の眩しさに瞼を落とす。

 

一方的にからかうだけの関係に名前がついた。

そういう意味では相思相愛だ。だけど、そこに線を引かれたみたいで、なんだかモヤる。振り返った自分の行為は、明らかに度を越えていた。

嫌われてない。許してくれてたんじゃない。友達だと、彼がそういったのは遠回しな拒絶だったんじゃないか。

 

後悔。

 

何をいまさら。

 

晴れやかな天気とは裏腹に、気だるい朝の始まりだった。

 

 

*****

 

 

しと、しと……

 

今朝はあんなに晴れていたのに、1限を過ぎる頃には曇りだし、あれよあれよと雨はふる。屋上前の踊り場に差し込む光は ただ重く、湿気た空気にカビ臭さが匂い立つ。

 

_きて

 

スマホに浮かぶ最後のやり取りに返事はなかった。

壁のように立ちはだかる既読。それを見上げたあたしは、こみ上げる何かを無理矢理に飲み込んだ。まあ、うん。誰が悪いかと言われたら、あたしが悪い。ここだけの話ならまだしも、外でまで。同じ事されたら、間違いなくぶん殴ってる案件だ。

 

「はぁ……めんどくさ」

 

心の何処かで期待していた。追いかけてこいとは言わないけど、せめて。

授業中ですら、スマホを手放せない。「どうしたの?」「大丈夫?」心配してくれた あっきーからのメッセージを期待してスマホを撫でる。

 

「ちっ……。既読無視は止めろって言ったじゃん」

 

きっと照れてるだけだ。女の子とのやり取りなんて、いかにも慣れていなさそうだし。返事を考えてる間に、授業が始まってしまって後回しになってるだけ。

だけど、もし。頭の中でグルグルと、不安が渦を巻いていた。

 

パンツを買うまでは、まだ何とかなると思ってたんだけどな。

 

まさか、渡すタイミングすら見つけられないとは。

話したいなら、引きずってでもこればよかったんだ。でも、出来ない。ふっと、目を逸らされたら? 手を振り払われてしまったら? 想像しただけで、しんどくなった。

 

__クシャリ

 

握りつぶしたビニール袋に手のひらを引っ掻かれる。

 

もう、どうでもいいか。

 

思い返せばイヤな女だったかも。下心丸出しで、鬱陶しいと思っていた男どもと同じような事をしていた。イジメだと思われても仕方ない絡み方。ゲームだと許されていた行為だって、好きがあってこそ。何よりこっちは現実だ。今のあたしはヒロインよりも、悪の女幹部の方が似合うだろう。

 

「ふふっ……」

 

吹き出しても笑えない。

 

握りしめたパンツを振りかぶる。

 

壊れたオモチャを投げ捨てる子供みたいだ。

仲直りをするよりも、諦めて距離を置く。もういいや。こんなに面倒くさいなら、友人らしい友人なんて。

 

 

******

 

 

授業中。教室を抜け出す瀬戸さんを見た。

 

保健室だとかなんだとか。サボりの口実でも、そう言われると先生も口を挟みづらい。お節介。なんだと思う。本当に気分が悪いだけかもしれない。

ただ、退屈そうにスマホを弄るその横顔が、思い詰めているようにみえた。

 

授業を抜け出すなんて、初めてだ。

 

自分でも何やってんだろうって思う。

 

「と、トイレに……」

 

恐る恐る手を上げるだけで、集まってくる周囲の視線。

我関せず、どうどうと。瀬戸さんのようには出来ない。一番扉に近い席で本当によかった。ビクビクと縮こまりながら、彼女の後を追いかける。

 

校舎の端へ。階段を降りずに上へと上がった。

 

どうせ、保健室になんていないだろう。

 

_きて

 

授業が始まる前。スマホに送られてきたメッセージは、たったそれだけ。

ネイルにピアスに、髪の色だって。普段着飾っている彼女からは、考えられないほど簡素な文面には、場所も時間もかいてない。

 

放課後に顔を出せば良いのかな?

 

休み時間まで待つべきなのか。

 

迷った僕は、結局彼女の後を追いかけた。

放っておけばいい。今までされたことを思い返せば、もう。お人好しだと、誰かは言うんだろう。あるいは、同情してるだけなのかも。教室で退屈そうしている瀬戸さんと、秘密基地で笑う瀬戸さんが結びつかない。

 

友達。

 

あの日、初めて彼女をそう呼んだ時の驚いた顔。

一瞬表情が消えたかと思えば、ストローをガジガジと噛みだして。何を、苛立っていたんだろう? 僕が思い通りにならないのがそんなに?

 

……使えば、いいじゃん。

 

思い返すだけで、汗が吹き出しそうだ。

僕を煽るだけの言葉。止めを刺すための最後の一声。とても、そんな風には。

どちらかといえば、同じ沼に引きずり込もうとする力があった。もっと、友達以上の距離感を望まれたような。

 

同じ授業を、一緒にサボって。

 

まるで、共犯者。

 

__クシャリ

 

秘密基地に足が届く直前、ビニールを握り潰すような音がする。

気になって顔を覗かせると、男物のパンツを握りしめている瀬戸さんと目が合った。

 

 

 

 

「何、やってんの?」

 

突然に声を掛けられて、あたしはがっつり固まってしまった。

来るはずないと諦めて、来て欲しいと期待して。振り上げたパンツの落としどころが分からない。訝しげに目を細める彼の仕草に、ぱあっと顔が熱くなる。

 

「えと、ちがっ。これはだって……この間、ダメにしたから。代わりにって」

「うん、うん、それで? ふふっ……」

「笑うなよっ!?」

 

右を見て、左を見る。もう捨ててしまおうかと思っていたのに。

振り返った自分の姿はどうだ? 男物のパンツ握りしめて興奮してる女とか、エロゲの中ですらまだお目に掛かったことはない。

 

「アンタのなんだからっ!」

 

なんて言い草だ。自分で処理できなくなった感情を、パンツに変えて投げつける。

イヤなキャッチボールだ。でも、受け取ってもらえた。拾われていくパンツを見て、緊張の糸が緩む。いつもとは立場が逆なんだ。笑いをこらえる彼の姿に、どうにも調子が出なかった。

 

 

 

笑いすぎたかな?

 

膝を抱えた瀬戸さんは、僕の隣で すっかりとむくれてしまっていた。

 

掛ける言葉に迷いながらも、その隣へと腰を下ろす。

盗み見た横顔は悪くはない。不機嫌そうに見えても、教室を抜け出した時よりは随分と機嫌はよさそうだ。

 

「履いて欲しいとかじゃないから。黒で、無地の。一番無難だっただけ。あっきーの趣味とか分かんないし。だから別に、いらないなら捨ててよ」

「使うよ。せっかく瀬戸さんがくれたんだし」

「そういうんじゃなくてっ! あーっ、もういいっ」

 

沈黙に耐えかねて、聞いてもない言い訳を並べ立てる。

立場が逆ならそうだろう。もし僕が女物のパンツを握りしめていたとして、まるっと変態だ。なんとしてでも誤解を解きたいと思うはず。

 

それに失敗してしまったら?

 

誤解も何も。開き直ってしまえば僕だって、きっとそっぽを向くだろう。

頬が赤い。肌が白い分だけよく目立つ。まるで赤い風船のようだ。指でつついたら、ぷすっと空気が抜けてしまいそう。

 

替えのパンツか。

 

どうせなら、その日にほしかったな。

濡れたまま帰るのは、なかなかに心地が悪かった。

 

付き合いきれないと、距離を取るには十分過ぎる。

もともと僕に興味があったわけじゃない。エロゲってものに引かれて、そこにいたのが僕だった。ただの気まぐれ。小動物を突っつくようなぞんざいさ。

彼女にとっての僕は小兎か何か。抱いた手の中から逃げてしまえば、追いかけるまではしないはず。

 

思い返せば腹も立った。

 

流された僕も悪いが、やっぱりアレはない。

だけど「友達」とまで言ったんだ。後ろ足で蹴飛ばすには、まだ少し。本当の所を、僕はまだ瀬戸さんに聞いていなかった。

 

「もういいじゃなくてさ。ごめんなさい、でしょ?」

「ぅっ……」

 

あからさまに言い淀んだ。

 

いつも主導権を握っていた彼女が、初めて言葉を詰まらせる。

不器用なんだ。パンツまで買ってきて。ごめんと言ってくれれば、僕は許せたのに。だから、瀬戸さんの顔を覗き込む。だって、まだ聞けていない。許すのはそれからだ。

 

抱えた膝に顔を埋めて、視線が遮られる。

それでも構わず彼女を見続けた。罪悪感がある分だけ、沈黙が苦しいのは瀬戸さんの方だ。僕はいつまでだって待ってられるし、その瞬間がちょっと楽しみでもあった。

 

「っ……さい」

「え、なに? 聞こえないんだけど?」

 

煽ってるつもりはない。ただ、本当に聞こえなくて耳をそばだてた。

抱えた膝の裏側で、何かブツブツと呟いてはいる。そのうち肩は震えだし、カンカンに熱した鉄みたいに耳が赤くなった瞬間。

 

それは、吹き出した。

 

 

 

「うっさいっ!!」

 

うがぁぁぁぁっ!

 

吠えたあたしは、勢いのまま あっきーを押し倒していた。

肩で息をしている。心の中がグチャグチャだ。彼の言う通り、まずは「ごめんなさい」だ。

 

言いたかったことはそれだけ。

 

ちょっと煽られたくらいで、なんで。せっかくくれたチャンスなのに、台無しにしてしまった。

 

「悪いのは、あっきーでしょっ。既読無視はやめろって言ったじゃん、なのにっ! あたしが、どれだけ……っ。パンツ無駄買いしたかなって、お小遣いピンチでっ、モヤって、捨てるところだったじゃんっ!!」

 

一気に捲し立てて、ようやく頭が冷える。

押し倒した彼の顔すらまともに見れない。失望、軽蔑? 冷めた視線を向けられるのが怖かった。えっと、だから、その。早く言わなきゃいけなのに、余計な感情が口をふさいで、勇気が出てこない。

 

「ごめんね、瀬戸さん」

 

もう、最悪。顔から火が出そう。先に言われてしまった。

お手本を見せられたみたいでイヤになる。完全に子供扱いだ。言われなくたって、言ってやる。今言おうと思ってたのに。あっきーが変な空気にするんじゃん。

 

「……ごめん」

 

ようやく絞り出した一声は、あんまりにもダサすぎた。

 

 

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