※この作品はR-18です。

Teaching Sweet Feeling   作:こまごめピペット

10 / 18
貴方に捧げると決心した日。

「ん、んん……」

 

 考え込むうちに、いつの間にか寝落ちしていたらしい。

 

 ……今、何時だろうか。

 

 ベッドから起き上がり、時計を見る。

 

「もう、朝か……」

 

 ……隣に居たはずの彼は、もう居ない。

 

 まさか寝坊してしまったのだろうか。

 

 慌てて身体を起こす。

 

 寝間着を脱ぎ、着替えを済ませて、部屋を出た。

 

 台所の方へ向かおうとして、テーブルの上に紙が置かれているのに気付いた。

 

 彼の字だった。

 

『急患で呼ばれた。昼過ぎには戻る。家の事は頼んだ』

 

 ……。

 

 誰かが、彼を必要としていたのか。

 

 昼までなら、まだ随分時間がある。

 

 とりあえず、いつも通り家事を始めようと思った。

 

 ◇◆◇

 

 掃除を終え、洗濯物を干し終える頃には、もう昼が近かった。

 

 いつもより静かな家の中、することがなくなって、手が止まる。

 

 することがないと、また考えてしまう。

 

 お返しできるもの。

 

 家事はしている。掃除も、料理も。

 

 それだけだ。それだけしかない。

 

 店員の言葉が、また頭に浮かぶ。

 

 お嬢さん自身が見つけることですわ。

 

 ……見つける、なんて。

 

 簡単に言ってくれる。

 

 何かを返したい。

 

 そう考えているはずなのに……どうして頭に浮かぶのは、彼に撫でられた時の手の温もりばかりなのだろう。

 

 ……分からない。

 

 分からないからこそ、自分のことを知りたくなった。

 

 部屋に戻り、何気なく鏡の前に立った。

 

 鏡の中の自分を、しばらく見つめる。

 

 銀の髪。

 

 火傷跡の残った白い肌。

 

 薄い身体。

 

 いつかの自分とは、もう何もかも違う。

 

 家事の他に何もできない自分が、唯一持っているもの……。

 

 鏡に映る身体を、見つめる。

 

 考えが、そこへ辿り着いた瞬間、頭の中が、ふっと静かになった。

 

 ……これしか、思いつかなかった。

 

 奴隷として、いつでも差し出せるもの。

 

 女の身体だからこそ、差し出す事が出来るもの。

 

 他に何も持っていない自分が、唯一返せるもの。

 

 ……でも。

 

 本当に、それでいいのだろうか。

 ……求められたわけでもないのに。

 

 こんな痩せた身体に、何かを求める人がいるのだろうか。

 

 考えれば考えるほど、自分の中の何かが、後押しするように騒いだ。

 

 ……一度、確かめてみるべきかもしれない。

 

 彼に差し出す前に、自分でも分からないままでは、いけない。

 

 そう、自分に言い聞かせてみる。

 

 ベッドへ腰掛けた。

 

 今は、家に誰もいない。

 

 彼が帰るまで、まだ時間がある。

 

 深く息を吸って、自分の腹のあたりに、そっと手を当ててみた。

 

 

 ……少し身体が熱くなる。何故だか悪い事をしている気分だ。

 

 

 もう少しだけ、そう思った時には、手はもう止まらなかった。

 

 身体が、自分のものではないみたいだった。

 

 知らない誰かが、自分の中で息をしているみたいだった。

 

 ……これが。

 

 これが、この身体の……。

 

 息が、乱れる。

 思考が、ぼんやりと霞んでいく。

 頭の奥が、じんと痺れるような感覚があった。

 

 ……っ。

 

 声が、漏れそうになった。

 

 堪えようとした。

 堪えきれなかった。

 

 小さく、唇の隙間から何かが、零れた。

 

 ◇◆◇

 

 しばらく、何も考えられなかった。

 

 天井を見上げたまま、息を整える。

 

 身体の奥に、まだ余韻が残っていた。

 

 ……なんだ、これ。

 

 義務として確かめるつもりだったのに。

 奉仕として、差し出せるかどうか確認するつもりだったのに。

 

 何も、分からなくなった。

 

 これは、僕の身体なのか。

 それとも、私の身体なのか。

 

 男だったはずの自分が、こんなに……こんなに。

 

 言葉が、続かなかった。

 ゆっくりと身体を起こす。

 

 乱れた服を、直す。

 

 息を整えながら、天井を見上げた。

 

 ……見つけた。

 

 これも、返せるものの一つなのかもしれない。

 これで、彼に何かを返せるのかもしれない。

 

 まだ、怖い。

 まだ、分からない。

 

 でも……少しだけ、答えに近づいた気がした。

 

 静かな部屋の中で、しばらくそのまま座っていた。

 昼過ぎには、彼が帰ってくる。

 

シルヴィになんて呼ばせよう……

  • ご主人様
  • 先生
  • 貴方(様)
  • 旦那様
  • グリス
  • その他(コメントとかマシュマロから)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。