Teaching Sweet Feeling 作:こまごめピペット
「ん、んん……」
考え込むうちに、いつの間にか寝落ちしていたらしい。
……今、何時だろうか。
ベッドから起き上がり、時計を見る。
「もう、朝か……」
……隣に居たはずの彼は、もう居ない。
まさか寝坊してしまったのだろうか。
慌てて身体を起こす。
寝間着を脱ぎ、着替えを済ませて、部屋を出た。
台所の方へ向かおうとして、テーブルの上に紙が置かれているのに気付いた。
彼の字だった。
『急患で呼ばれた。昼過ぎには戻る。家の事は頼んだ』
……。
誰かが、彼を必要としていたのか。
昼までなら、まだ随分時間がある。
とりあえず、いつも通り家事を始めようと思った。
◇◆◇
掃除を終え、洗濯物を干し終える頃には、もう昼が近かった。
いつもより静かな家の中、することがなくなって、手が止まる。
することがないと、また考えてしまう。
お返しできるもの。
家事はしている。掃除も、料理も。
それだけだ。それだけしかない。
店員の言葉が、また頭に浮かぶ。
お嬢さん自身が見つけることですわ。
……見つける、なんて。
簡単に言ってくれる。
何かを返したい。
そう考えているはずなのに……どうして頭に浮かぶのは、彼に撫でられた時の手の温もりばかりなのだろう。
……分からない。
分からないからこそ、自分のことを知りたくなった。
部屋に戻り、何気なく鏡の前に立った。
鏡の中の自分を、しばらく見つめる。
銀の髪。
火傷跡の残った白い肌。
薄い身体。
いつかの自分とは、もう何もかも違う。
家事の他に何もできない自分が、唯一持っているもの……。
鏡に映る身体を、見つめる。
考えが、そこへ辿り着いた瞬間、頭の中が、ふっと静かになった。
……これしか、思いつかなかった。
奴隷として、いつでも差し出せるもの。
女の身体だからこそ、差し出す事が出来るもの。
他に何も持っていない自分が、唯一返せるもの。
……でも。
本当に、それでいいのだろうか。
……求められたわけでもないのに。
こんな痩せた身体に、何かを求める人がいるのだろうか。
考えれば考えるほど、自分の中の何かが、後押しするように騒いだ。
……一度、確かめてみるべきかもしれない。
彼に差し出す前に、自分でも分からないままでは、いけない。
そう、自分に言い聞かせてみる。
ベッドへ腰掛けた。
今は、家に誰もいない。
彼が帰るまで、まだ時間がある。
深く息を吸って、自分の腹のあたりに、そっと手を当ててみた。
……少し身体が熱くなる。何故だか悪い事をしている気分だ。
もう少しだけ、そう思った時には、手はもう止まらなかった。
身体が、自分のものではないみたいだった。
知らない誰かが、自分の中で息をしているみたいだった。
……これが。
これが、この身体の……。
息が、乱れる。
思考が、ぼんやりと霞んでいく。
頭の奥が、じんと痺れるような感覚があった。
……っ。
声が、漏れそうになった。
堪えようとした。
堪えきれなかった。
小さく、唇の隙間から何かが、零れた。
◇◆◇
しばらく、何も考えられなかった。
天井を見上げたまま、息を整える。
身体の奥に、まだ余韻が残っていた。
……なんだ、これ。
義務として確かめるつもりだったのに。
奉仕として、差し出せるかどうか確認するつもりだったのに。
何も、分からなくなった。
これは、僕の身体なのか。
それとも、私の身体なのか。
男だったはずの自分が、こんなに……こんなに。
言葉が、続かなかった。
ゆっくりと身体を起こす。
乱れた服を、直す。
息を整えながら、天井を見上げた。
……見つけた。
これも、返せるものの一つなのかもしれない。
これで、彼に何かを返せるのかもしれない。
まだ、怖い。
まだ、分からない。
でも……少しだけ、答えに近づいた気がした。
静かな部屋の中で、しばらくそのまま座っていた。
昼過ぎには、彼が帰ってくる。
シルヴィになんて呼ばせよう……
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ご主人様
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先生
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貴方(様)
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旦那様
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グリス
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その他(コメントとかマシュマロから)