Teaching Sweet Feeling 作:こまごめピペット
あれから。僕と彼の関係は変わらなかった。
いつも通り、彼は手が空くたびに僕の頭を撫でてくれる。
その手が頭から離れると、少しだけ物足りなくなる。
……そんなふうに思ってしまう自分が、不思議だった。
撫でられていた場所だけが、まだ温かい気がする。
手はもう離れている。
それなのに、その感触だけは残っていた。
確かめるように頭へ手を添える。
……もちろん、触れているのは自分の手だけだった。
それでも、彼の温もりは消えない気がした。
そんな日がしばらく続いた。
家事を終えるたび、窓の外をぼんやり眺めるようになっていた。
そんな僕を見かねたのか、彼が声を掛けてくる。
「……シルヴィ。今日は出かけようか」
また街へ行くのだろうか。
前のように何か買われても、今の僕には返せるものなんてないのに。
「お出かけですか? どちらまでですか……?」
「今日は森に行ってみようか。ちょっと散歩がてらな」
「……はい、分かりました」
身だしなみを整え出かける準備をし、彼について行く。
街を抜けて、森に入る。
木々の隙間から漏れる光が、地面にまだらな影を落としていた。
葉擦れの音と、彼の足音。
それだけが聞こえる時間が、しばらく続いた。
「……あれは……食べられる野草ですか……?」
「……アクが強いが、持って帰ってみようか」
「あのキノコはどうでしょう」
「キノコはやめておけ、その道のプロでも難しいからな……」
見慣れない草花が目につく。
茂みの向こうでは、小動物が駆ける音もした。
「疲れたか?」
「……少しだけ」
彼が示したのは、苔むした倒木だった。
二人で並んで腰を下ろすには、ちょうどいい高さ。
僕が座ると、彼もすぐ隣に腰を下ろした。
木陰は、思っていたより涼しい。
汗ばんだ首筋に、風が触れて少し冷たかった。
すぐそばに、彼の体温がある。
……離れる理由も、見つからなかった。
「ここ、たまに来るんだ。誰も来ないから」
「ご主人様の、秘密の場所ですか?」
「そんな大層なもんじゃないよ。……ただ、落ち着ける場所だろう?」
彼はそう言って、目を細めた。
木漏れ日が彼の顔に落ちて、影がゆっくり動く。
彼は何も言わず、森の景色を眺めていた。
僕も、同じように景色を眺めた。
……隣にいるだけで、不思議と落ち着く。
前の僕なら、きっとこんなふうには思わなかっただろう。
「……さ、日が落ちて冷え込む前に帰ろうか」
「はい」
彼が立ち上がり、僕の手を引いてくれた。
……その手を握り返したくなる自分がいた。
まだ日が落ち切る前の薄明かりの中。
彼の後ろを黙って歩いていた。
時折吹く風が頬を撫でていく。
───帰る。
帰ってもいいんだ。
誰にも怒られずに。
怯えなくていい場所に。
「……こんな所に連れてきて頂き、ありがとうございます」
「あぁ」
それだけの返事だった。
それでも、胸の奥が少しだけ温かくなる。
気づけば、繋いだ手に少しだけ力が入っていた。
シルヴィになんて呼ばせよう……
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ご主人様
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先生
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貴方(様)
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旦那様
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グリス
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その他(コメントとかマシュマロから)