※この作品はR-18です。

Teaching Sweet Feeling   作:こまごめピペット

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貴方と初めて森に出かけた日。

 あれから。僕と彼の関係は変わらなかった。

 いつも通り、彼は手が空くたびに僕の頭を撫でてくれる。

 

 その手が頭から離れると、少しだけ物足りなくなる。

 

 ……そんなふうに思ってしまう自分が、不思議だった。

 

 撫でられていた場所だけが、まだ温かい気がする。

 

 手はもう離れている。

 

 それなのに、その感触だけは残っていた。

 

 確かめるように頭へ手を添える。

 

 ……もちろん、触れているのは自分の手だけだった。

 

 それでも、彼の温もりは消えない気がした。

 


 

 そんな日がしばらく続いた。

 家事を終えるたび、窓の外をぼんやり眺めるようになっていた。

 

 そんな僕を見かねたのか、彼が声を掛けてくる。

 

「……シルヴィ。今日は出かけようか」

 

 また街へ行くのだろうか。

 

 前のように何か買われても、今の僕には返せるものなんてないのに。

 

「お出かけですか? どちらまでですか……?」

 

「今日は森に行ってみようか。ちょっと散歩がてらな」

「……はい、分かりました」

 

 身だしなみを整え出かける準備をし、彼について行く。

 

 街を抜けて、森に入る。

 木々の隙間から漏れる光が、地面にまだらな影を落としていた。

 

 葉擦れの音と、彼の足音。

 

 それだけが聞こえる時間が、しばらく続いた。

 

「……あれは……食べられる野草ですか……?」

「……アクが強いが、持って帰ってみようか」

 

「あのキノコはどうでしょう」

「キノコはやめておけ、その道のプロでも難しいからな……」

 

 見慣れない草花が目につく。

 茂みの向こうでは、小動物が駆ける音もした。

 

「疲れたか?」

「……少しだけ」

 

 彼が示したのは、苔むした倒木だった。

 二人で並んで腰を下ろすには、ちょうどいい高さ。

 僕が座ると、彼もすぐ隣に腰を下ろした。

 

 木陰は、思っていたより涼しい。

 汗ばんだ首筋に、風が触れて少し冷たかった。

 すぐそばに、彼の体温がある。

 ……離れる理由も、見つからなかった。

 

「ここ、たまに来るんだ。誰も来ないから」

「ご主人様の、秘密の場所ですか?」

「そんな大層なもんじゃないよ。……ただ、落ち着ける場所だろう?」

 

 彼はそう言って、目を細めた。

 木漏れ日が彼の顔に落ちて、影がゆっくり動く。

 

 彼は何も言わず、森の景色を眺めていた。

 

 僕も、同じように景色を眺めた。

 

 ……隣にいるだけで、不思議と落ち着く。

 

 前の僕なら、きっとこんなふうには思わなかっただろう。

 

「……さ、日が落ちて冷え込む前に帰ろうか」

「はい」

 

 彼が立ち上がり、僕の手を引いてくれた。

 ……その手を握り返したくなる自分がいた。

 

 まだ日が落ち切る前の薄明かりの中。

 

 彼の後ろを黙って歩いていた。

 

 時折吹く風が頬を撫でていく。

 

 ───帰る。

 

 帰ってもいいんだ。

 

 誰にも怒られずに。

 

 怯えなくていい場所に。

 

「……こんな所に連れてきて頂き、ありがとうございます」

「あぁ」

 

 それだけの返事だった。

 

 それでも、胸の奥が少しだけ温かくなる。

 

 気づけば、繋いだ手に少しだけ力が入っていた。

 

シルヴィになんて呼ばせよう……

  • ご主人様
  • 先生
  • 貴方(様)
  • 旦那様
  • グリス
  • その他(コメントとかマシュマロから)
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