※この作品はR-18です。

Teaching Sweet Feeling   作:こまごめピペット

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貴方とタルトを分けた日

 初めて抱かれてから三日以上経つが、誘いはない。

 

 頬に触れられたり、軽くキスされたりするのには嬉しいが、その先を期待してしまう自分に少し落ち込む。

 

 別に同性愛者という訳ではない……はずだ。

 

 元は男だった。

 

 気付けば女に産まれ変わっていて、奴隷にされて、痛みで叫ぶことでしか自分の価値を確かめる方法しかなかった

 

 そんな僕を彼はすくい上げてくれた。

 その果てに、女として彼に抱かれて。

 

 今、この身体は、また彼に触れられたいと思っている。

 

 これは誰の感情なのか。

 

 僕の感情なのか、私の感情なのか。

 それとも、もう分けて考えることに意味なんてないのか。

 

 今日もいつも通り、ベッドを共にしているが、誘われることはなく、隣で静かな寝息を立てていた。

 

 ◇◆◇

 

 彼が一人で街へ出かけると、家の中は急に静かになった。

 

 いつもの家事を終えても、まだ時間がある。

 

 僕は、繕いかけの服を手に取った。

 彼の上着の袖口が、少しほつれている。

 

 針に糸を通す。

 

 前の主人の元にいた頃は、こんな細かい作業をさせてもらえることはなかった。

 

 目を凝らし、慎重に針を進めていく。

 一針、また一針。

 

 繰り返すうちに、指先が慣れてきた。

 

 チクチクと軽く縫い付け、しばらくして、袖口の繕いが終わる。

 仕上がりを確かめて、小さく息を吐いた。

 

 ……悪くない。

 

 中々に達成感はある。だが、時間はまだ、たっぷりあった。

 

 僕は、棚に置かれた本に目を向けた。

 つい先日、彼が「これを」と、差し出してきた本だった。

 

「……手芸の本、ですか?」

 

 尋ねると、彼は視線を逸らしながら言った。

 

「またあの商人を見かけてな。君の好きそうな物を持ってきたんだ」

 

 自分のためではなく、僕のために買ってきてくれたものだと分かって、思わず本を抱きしめてしまった。

 

 文字の練習にもなるから、と、彼は付け加えていた。

 開いてみると、絵と一緒に、短い言葉が並んでいる。

 

 編み物、皮の裁縫、刺繍、そしてボタニカルクラフト等。沢山の手芸に沿ったものが載っていた。

 

 一文字ずつ、指でなぞりながら、覚えている音と照らし合わせていく。

 

 ……この形は、確か。

 まだ、全部は分からない。

 

 それでも、少しずつ、意味のある塊として見えてくる文字が、増えてきた気がした。

 

 彼が見ている世界に、ほんの少しだけ、近づけた気がする。

 

 そんなことを考えていると、玄関の扉が開く音がした。

 

「……ただいま」

「おかえりなさいませ、ご主人様」

 

 僕は本を閉じ、迎えに出る。

 

 犬のように軽く撫でられ、

 僕に小箱を渡した。

 

「これは……なんですか?」

「あぁ、開けていいぞ」

 

 壊れ物を扱うよう開けると、フルーツタルトが入っていた。

 

「わぁ……! おいしそうなタルトですね」

 

 この身体になってからというもの……元々そうだったかも知れないが……なんだか甘い物に目がない。

 

 

「あぁ、あの喫茶店に寄ったら目に付いてな。つい買ってきたんだ」

「じゃあ、お茶の時に一緒にいただきましょうか。ありがとうございます」

「あぁ」

 

 その日の午後、僕たちはテーブルを挟んで、タルトを分け合った。

 

 サクリと軽い音を立てて崩れる生地。

 中には、色とりどりの果物が敷き詰められている。

 

 一口含むと、甘酸っぱい果実の香りと、バターの風味が口いっぱいに広がった。

 

「……サクサクで、果物も新鮮で……おいひいです……」

「伝えたいのはわかったから……」

 

 生地の欠片と果汁が口元から落ちて行く。

 

 タルトを頬張る僕を見て彼は、満足そうに目を細めていた。

 

 窓の外では、午後の光が、少しずつ傾き始めている。

 食べ終えた皿を片付け、僕は再び棚の前に立った。

 

 まだ、乾かしている途中の花びらが、布の上に広げられている。

 時折、指先でつまんで、乾き具合を確かめる。

 

 完全に乾くまでには、あと数日かかるらしい。

 

 その間、僕は貰った本を開いては、少しずつ文字を追う練習を続けた。

 

 分からない文字や読み方は彼に聞き、何度も反復する。

 そう決めて、覚えた分だけを、頭の中で繰り返す。

 午後の時間は、そうやって、静かに過ぎていった。

 

シルヴィになんて呼ばせよう……

  • ご主人様
  • 先生
  • 貴方(様)
  • 旦那様
  • グリス
  • その他(コメントとかマシュマロから)
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