※この作品はR-18です。

Teaching Sweet Feeling   作:こまごめピペット

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貴方と再び服を買いに行った日

 

 僕達は今、あの服屋に来ていた。

 もう顔馴染みと言って差し支えない不気味な女性店員。オーレリアという人が、僕を着せ替え人形にしていく。

 

 鏡の前に立たされた僕の身体を、白い布が包んでいく。

 

 清潔感のある、襟付きのワンピースのような看護服。

 スカート部分は膝よりも上に来ていて少し心許ない。

 

 

「……どうですか? ご主人様」

「あぁ、似合うな。仕事の手伝いをしても良さそうだな」

 

 その言葉に、心臓が小さく跳ねた。

 

「……手伝い、ですか」

「ああ。包帯の交換や、器具の準備くらいなら、教えればすぐできるだろう」

 

 それを聞いたオーレリアさんが、満足そうに頷きながら、裾の位置を整えていた。

 

「お医者様のお手伝いだなんて、それはとても素敵ですわね」

「……私で、務まるでしょうか」

 

 思わず、そう零れた。

 家事とは違う。人の命に関わる場所で、役に立てるということ。

 

 それは、これまで思い描いてきた、お返しとは、少し違う重みを持っていた。

 

「無理にとは言わない。ただ、お前が望むなら」

 

 彼の声は、いつも通り、静かだった。

 僕は、鏡の中の自分を見つめた。

 白い布に包まれた姿は、まだどこか、自分のものではないような気がする。

 それでも。

 

「……やってみたいです」

 

 自然と、そう答えていた。

 彼が、小さく笑った。

 

「そうか」

 

 オーレリアさんが、両手を合わせて喜んだ。

 

「ふふ、それでは寸法を合わせて差し上げますわね。しっかり働けるように、動きやすく仕立てましょう」

 

 

 まだ女性として慣れないその姿に、少しずつ、自分の輪郭が重なっていくような気がした。

 

「シルヴィ、他に気になるものがあれば見繕うぞ?」

「……良いんですか?」

「あぁ、好きなものを選ぶと良い」

 

 その言葉に、以前、喫茶店で同じように言われたことを思い出す。

 

 

 

 そんな事を言われると少しだけ迷ってしまう。

 

「オーレリアさん、他には、どんな物が……」

「あら、それでしたら」

 

 オーレリアさんは、待っていたとばかりに、店の奥へと向かった。

 しばらくして、彼女が抱えて戻ってきたのは、ズボンだった。

 

 

「こちらなど、いかがかしら。普段使いもできて丈夫なジーンズですのよ」

 

 差し出されたのは、しっかりとしたデニム生地で仕立てられたズボンだった。

 

「……こういうのも、あるんですね」

「ええ。動きやすさを求める方には、こちらも人気ですのよ……こちらと合わせると、少し、少年らしい雰囲気になりますわよ」

 

 そう言いながらオーレリアさんはシャツとジャケットをセットで持ってきた。

 

 その組み合わせは、どこか懐かしかった。

 

 この身体ではずっと、スカートや、丈の長い服ばかりを勧められてきたから新鮮だ。

 

「じゃあ……それも着てみます」

 

 自然と、そう口にしていた。

 オーレリアさんが、目を輝かせる。

 

「あら、素敵。それでは、どうぞこちらへ」

 

 僕は、衝立の奥で、渡されたシャツとジャケットに袖を通した。

 思っていたよりも、しっくりと身体に馴染む感覚があった。

 

 

 デニム。

 

 前の身体だった頃には、何度も履いたことがある。

 硬くて、最初は少し窮屈で。それでも、履いているうちに自分の身体に馴染んでいく。

 

 ……けれど。

 

「ただ……お尻の辺りが、少しきつい……」

 

 思わず呟いて、自分の身体を見下ろす。

 

 前と同じ服なのに、同じようにはいかない。

 更衣室から出て、彼に見せると少し意外そうな表情をした。

 

「おお、可愛いな」

 

 女性らしい服を褒められる時とは、また違う響きだった。

 

「……可愛い、ですか?」

「ああ。よく似合ってる」

 

 彼の言葉に、これはこれで悪くないのかもしれない、と思えてくる。

 

「……少し、きついかもしれません」

 

「あら、それでしたら、何度か着ているうちに、ちょうど良くなりますわ」

「そうなんですね……」

 

 

 あの女性らしい姿も、こういう姿も、どちらも今の自分だ。

 それを、彼が両方とも「似合う」と言ってくれることが、なんだか嬉しかった。

 

「では……これもお願いします」

「えぇ、お包み致しますわ」

 

 オーレリアさんは、そう言いながら、選んだ品々を丁寧に畳んでいく。

 

 ナース服に、ジーンズとシャツとジャケット。

 

 今日だけで、また随分と服が増えた。

 

「良いんですか……? こんなに、いただいてしまって」

「気にするな。お前が、自分で選んだものだしな」

 

 

 また頂いてしまった。

 もう、一生かけても、これだけの優しさに追いつける気がしない。

 

 

 

「それでは、お会計をいたしますわね」

 

 オーレリアさんが、品物を包み始める。

 僕は、その手元を見つめながら、ふと、今週を振り返った。

 

 繕い物、識字の練習、タルト、そして服選び。

 

 何気ない日々の積み重ねなのに、少しずつ、自分が自分らしくなっていくような、そんな感覚があった。

 

「シルヴィ」

 

 名前を呼ばれ、顔を上げる。

 

「今日は、付き合ってくれてありがとう」

 

 彼が、そう言って、微笑んだ。

 

「……いえ、こちらこそ。楽しかったです」

 

 素直に、そう答えられた。

 店を出る頃には、外はもう、夕暮れに染まっていた。

 包みを抱えながら、僕たちは、並んで家路についた。

 




どうも、こまごめです。

アンケート投げておきました。
反映するかしないかは話の速度次第です……。


シルヴィになんて呼ばせよう……

  • ご主人様
  • 先生
  • 貴方(様)
  • 旦那様
  • グリス
  • その他(コメントとかマシュマロから)
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