Teaching Sweet Feeling 作:こまごめピペット
早朝。朝食を食べ、白い看護服に身を包み、彼の診療所に立つ。
……閑古鳥が鳴いているような気がするが、僕は気を引き締め、彼の手伝いを始める。
「ご主人様……このラベルの瓶はどちらへ?」
「そこの棚だ、探しやすいように整理しておいてくれ」
「はい、わかりました」
僕は彼の指示を聞いてこなしていく。
が、それも、この小さな診療所では2時間も持たなかった。
「……」
「……」
カルテを見る彼の背中を、じっと見つめる時間になってきていた。
彼はそれらしい白衣を羽織って聴診器を首に下げていた。
いつもとは違う装いだが、妙に様になっていた。
診療所という場所にいる彼は、家にいる時とは、また違う顔をしている。
真剣な横顔。時折、ペンを走らせる音だけが響く。
僕は、手持ち無沙汰なまま、その姿を眺めていた。
「……ご主人様」
「ん?」
顔を上げた彼に、僕は正直に切り出した。
「その、……何もすることがなくて」
彼が、小さく笑った。
「そうだな。今日は、患者も少ない」
「……いつも、こんな感じなんですか?」
「いや、日によるな。忙しい日は、目が回るほどだが」
彼は、そう言いながら、カルテを閉じた。
「じゃあ……勉強の続きをしようか。こっちおいでシルヴィ」
「……えっ、はい」
彼の座っていたカウンターに座らされ、目の前に分厚い本が置かれた。
「この本を……ですか?」
表紙には、簡単な図解と共に、大きな文字で何か書かれていた。
まだ全部は読めないが、いくつかの単語には見覚えがある。
「基礎的な応急処置と、よく使う薬の扱い方が載っている。難しい医学書よりは、ずっと分かりやすいはずだ」
彼が、ページをめくって見せてくれる。
包帯の巻き方、傷の消毒の手順。絵と一緒に、短い説明が添えられていた。
「まずは、ここからだな」
彼が指差したのは、包帯の巻き方の項目だった。
「読んでみるか?」
僕は、文字を目で追った。
……ゆっくりと、たどたどしく。
「か……傷を……清潔に……」
一文字ずつ、拾うように読んでいく。
「そうだ。よくできてる」
彼の声に、頬が緩む。
「……続き、読んでみます」
僕は、本に向き直り、また文字を追い始めた。
彼は、隣で、静かにそれを見守っていた。
◇◆◇
文字の理解に反して内容は分かり易かった。
現代でも口酸っぱく教えられる応急処置の方法だったり、人体の構造なんかがざっくりと載っていた。
薬品の頁はかなり難しいが……効能と関連付けして覚えていくしかないだろう……。
「……今日はこれくらいにしておこうか」
そっと髪を梳かすように撫でられ、僕は本から顔を上げた。
「……はい」
「よく頑張ったな」
……その一言がやっぱり嬉しく思ってしまう。
「まだ、全然読めないところも多いですけど……」
「焦らなくていい。少しずつ、続けていけば、いずれ読めるようになる」
僕は、看護服の裾を軽く直しながら、立ち上がった。
窓の外を見ると、琥珀色の光が差し込んでいた。
シルヴィになんて呼ばせよう……
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ご主人様
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先生
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貴方(様)
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旦那様
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グリス
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その他(コメントとかマシュマロから)