Teaching Sweet Feeling 作:こまごめピペット
ベッドの上で目が覚める。
裸の上から、布団をかけられていた。
「ん……」
部屋の中には、まだ昨夜の匂いが籠っている。
窓を開けなければ……。
熱を帯びたまま、鈍く疼いている。
まだ慣れきってはいないのだろう。
隣に、貴方は居ない。
物音もないから、出掛けているのだろう。
「……ご主人様……」
僕は……貴方に、お返しが出来ただろうか。
ただ受けに回ってばかりで、本当に満足してもらえたのだろうか。
貴方はきっと、「無理をしなくていい」と言う。
「気にしなくていい」とも言う。
でも、それだけじゃ、足りない気がする。
僕は身体を起こそうとして、また鈍い痛みに顔をしかめた。
「……っ」
昨夜のことが、じわりと蘇ってくる。
あんなに、じっくりと求められて。
あんなに、大切に扱われて。
それなのに、僕は……返せない、返しきれない。
いつも、服も、食事も……この心さえも、貴方に貰ってばかりだ。
僕はゆっくりとベッドから起き上がり、服に袖を通した。
テーブルの上に、書き置きがないか視線を巡らせる。
見当たらない。
今日は、何も残さずに出かけたのだろうか。
身体は、まだ少し重い。
それでも、いつまでも寝ていられない。
「……食器も、洗濯物も……このベタベタのシーツ、洗っておこうかな……」
忙しいな、と小さく呟いて、軽く伸びをする。
動いているうちに、身体の重さも少しずつ紛れていく気がした。
シーツを剥がし、洗濯籠へ放り込む。
台所へ向かうと、昨夜使った食器がそのまま置かれていた。
水に浸け、丁寧に洗っていく。
こうして手を動かしている方が、余計なことを考えずに済む。
「お返しが出来ているのか」なんて。
指先が水に触れるたび、昨夜、彼に触れられていた感触が微かに蘇る。
彼に引き取られてから、過ごしてきた日常。
前の主人とは違う、幸福な日々。
僕の一生を買われた時点で、返せるはずもない。
それより、今、目の前にあることを、一つずつこなしていく方がいい。
シーツを洗い終えた。
洗ったものを詰め込んだ籠と、空の籠を持って外に出る。
昨日干していた洗濯物を空の籠へ移し、濡れたシーツを干していく。
日はもう高く昇っていた。
風に揺れる白い布を見上げながら、ふと、彼の帰りが気になった。
……まぁ、もう暫くは帰ってこないだろう。
多分。
書き置きも残さないほど、切迫していたのだろうか。
部屋に戻り、取り込んだ洗濯物を診療所用と家用に分けて畳んでいく。
手を動かすたび、「これで少しは、お返しになっているだろうか」という考えが、チラチラと頭をよぎる。
ふと、手の止まる洗濯物があった。
「……これは……」
洗っても取り切れなかった匂いが、ふわりと香る。
彼のシャツだった。
昨日と同じ匂い。
手を止めて、もう一度、鼻に近づける。
彼の匂いが、ここにある。
その香りだけで、徐々に心臓の鼓動が煩くなっていく。
胸の奥が、くすぐったいように熱を帯びていくのがわかった。
……困ったなぁ。
どうやら僕は、もうダメになっていたらしい。
もっと、貴方の近くにいたい。
傍に感じていたい。
そんな、単純で、どうしようもない想いが、胸の奥から込み上げてきた。
僕は自分の服を脱ぎ、彼のシャツに袖を通した。
……ブカブカだ。
肩が落ち、袖が指先まで覆う。
けれどそれが彼に抱きしめられているようで……。
「ふぅ……ご主人様……」
そのまま、彼のシャツの袖をぎゅっと握った。
鼻に近付け、肺いっぱいに香りを吸い込めば、あの桃色の花弁みたいに、貴方が恋しくなる。
自分の部屋のベッドに転がり、袖からより匂いを堪能する。
思い出してしまう。
甘く、優しく、蕩けそうなほど求められた僕を。
それが、徐々に別の熱を帯びていく。
前の主人のような貴方に、強く、乱暴に、苛烈に求められ、快楽に溺れる私を。
身体の奥が、昨夜の余韻を引きずったまま、じくじくと熱を持っている。
鈍い疼きの中に、甘くて、逃げられない何かが混じっているのがわかる。
太ももに残る傷の上を、ゆっくりと指でなぞる。
熱い。
昨夜、ご主人様の指が辿った場所が、まだ少し腫れたように敏感だ。
「……っ」
指先が、自然と内側へ滑る。
意志で動かしたというより、身体が先に求めてしまった。
濡れている。
自分の指なのに、昨夜の感触が重なって、頭がくらくらする。
優しかった。
確かめるように、痛みを避けるように、何度も「大丈夫か」と聞いてくれた。
あの声を思い出しながら、指を沈める。
なのに——。
妄想は、すぐに別の色を帯びる。
もっと深く。
もっと強く。
逃げられないように、腰を押さえつけられて。
「我慢しなくていい」と、耳元で低く囁かれながら、何度も、何度も、壊されるまで。
汗が滲んで滴っていく。
「んっ……ふぅ……」
再び指を使い、ぐちゃぐちゃと淫靡な音が聞こえる程、自分の中を掻き回していく。
「……はぁ♡ん……ご主人様……♡」
声が、シャツの袖に溶ける。
指の動きが速くなる。
腹の奥が疼き、快楽が毒みたいに全身へ回っていく。
「っ、ぁ、ご主人様……ご主人様……♡」
呼ぶたびに、指先から足の先まで、痺れが広がっていく。
前の主人の影が、貴方の優しさの上に、ゆっくりと重なっていく。
掌で陰核を擦ると、より電撃が走っていく
……どうして。
そんなこと、考えたくないのに。
怖い。
なのに、止まらない。
身体が、昨夜の続きを欲しがっている。
お返しもできないのに、また、受けてしまっている。
指の長さが足りない。
……もっと、深かったのに。
「ふぅー……はぁ……♡」
呼吸するたび、貴方の匂いが脳の奥まで染み込んでくる。
足を曲げて、腰を小さく浮かせる。
「っ! ♡……ふぅっ……♡」
波が、来る。
初めの時よりも、強く、大きく、熱く、深く。
身体が強ばり、視界が白く弾ける。
温かいものが太ももを伝って、シーツを汚す。
「ん……♡」
意識の端で、何かが剥がれていくのがわかった。
『僕』という薄い膜が、ゆっくりと溶けて、
その下から『私』が、じわりと滲み出してくる。
力が、入らない。
勝手に、身体が震えている。
「はぁ……はぁ……♡ ご主人様……♡」
目がフラフラと焦点を結べないまま、扉の方へ視線が落ちた。
……誰か、いる。
ぼんやりとした視界の向こうで、誰かと目が合った。
「……ご主人様……?」
絞り出すような声が出た……。
……見られた。
全部、見られた。
シャツを着て、指を使って、汚して。
頭の中が、白く散らばる。
何を言えばいいのか、わからない。
謝らなきゃ。でも、何を?
起きなきゃ。このままじゃ、いけない。
震える腕に力を込めて、上体を起こす。
シャツの裾が太ももの内側に張り付いて、生温かい。
その感触だけで、また顔が熱くなる。
「あ、あの……ご主人様……」
膝を立てようとして、力が抜けて、一度沈む。
もう一度、歯を食いしばるようにして立ち上がる。
ご主人様の視線が、肌に刺さるのがわかる。
逃げたい。消えたい。
「……どこまで、見て……?」
掠れた声が、部屋に落ちる。
……沈黙。
次に聞こえたのは、予想していた叱責でも、嘲笑でもなかった。
「……可愛かったよ」
低く、穏やかな声。
困ったように眉を寄せながら、優しく髪を撫でられる。
「……」
……恥ずかしい……見られてしまった……。
火が出そうなくらい暑い。
「……あ〜お昼にしようか……?」
誤魔化す様に彼は言った。
シルヴィになんて呼ばせよう……
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ご主人様
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先生
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貴方(様)
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旦那様
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グリス
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その他(コメントとかマシュマロから)