※この作品はR-18です。

Teaching Sweet Feeling   作:こまごめピペット

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貴方に何もされなかった日

 ベッドの上。


 お互いが別の方を向いて寝ている。

 

 少し動けば足が当たり、布団が擦れる。

 


 今までこのベッドがこんなに狭いとは思ってなかったな……。

 

 

 背中越しに規則正しい呼吸が聞こえる。


 起きているのか、眠っているのか……分からない。

 

 夕食の間もいつもより口数が少なかった。


 気まずいのとは違う。ただ、お互いに言葉の置き場を探していた。

 

 ……見られてしまった。

 

 あんなところを。


 貴方のことを想いながら、耽っていたところを。

 貴方は扉の前で、先に「すまない」と……それから、「可愛かったよ」と。

 

 ……僕のことをどう見ているんだろう。

 

 奴隷にしては余りにも自由がある。

 愛玩用にしては、あの二度程で済んでいる。

 襲われる覚悟はしていたのに……。

 

 頭を撫でられた感触が、まだ残っている。

 

 私は、ゆっくりと寝返りを打った。


 暗がりに溶けた貴方の背中は、普段より大きく見える。

 

 恐る恐る、手を伸ばす。
 指先が、背中の布に触れた。温かい。

 そのまま、額を寄せる。

 

「……んっ……」

 

 布越しの体温。薬草と、乾いた紙の匂い。


 規則正しい脈が額に伝わってくる。

 

 優しいご主人様。


 貴方は……僕に、私に……。

 

 瞼が重い。


 衣擦れが聞こえ、何かに包まれる感触と共に、意識が途切れた。

 

 ◇◆◇

 

 ……いたい。

 息をするたび、傷跡が疼く。


 

 鞭で裂かれ、薬品で溶かされた痕が、焼けるように痛い。

 なのに。
 一番価値のある声だけが出ない。


 

 喉が詰まる。苦しくて、苦しくて——

 

「────……っ」

 

 心臓がうるさい。


 息は浅く、背中の汗が冷たい。

 けれど、それは長くは続かなかった。


 

 目の前に、彼の顔があった。こちらを見ている。

 

「……おはよう」


「おはようございます……」


「魘されていたな。大丈夫か?」


「……はい。大丈夫です」

 

 しまった。見られていた。


 彼は髪をそっと撫でてから、身を起こした。

 

「朝食にしよう、シルヴィ」


「はい、ご主人様」

 

 トーストにはブルーベリーのジャムを塗った。


 彼が温めたミルクには、砂糖が少し溶けている。

 

「……美味しいですね」


「ああ、そうだな」

 

 カップを包む指先が、ゆっくり温まっていく。


 その朝は、急ぐものが何もなかった。

 

 ◆◇◆

 

 昼前は、彼の隣で本を開いていた。


 一文字ずつ指でなぞり、読めた音を拾っていく。

 分からない字で詰まるたびに、頭へ手が乗った。

 読めた、と告げれば、もう一度。


 そうしているうちに、陽が高くなっていた。

 軽い昼食のあと、ご主人様がお茶を淹れてくださった。

 

「言ってくだされば、私が準備したのに……」

 

 置かれたカップから、湯気が立つ。
 爽やかな香りが、先に鼻へ届いた。

 

「まぁ、色々あってだな……この前のピンクの花とは別の、青いやつを香り付けに少し入れたんだが」

 

 ……思い出す。

 

 あの森で採った青い花。確か、気持ちを落ち着かせる花だ。
 前回はピンクの効能が強すぎた。彼も慎重になっているらしい。

 

「そうなんですね……私は、ご主人様が淹れてくださったものなら、何でも嬉しいです。きっと、美味しいです」

 

 彼は「そうか」と言って、自分のカップを持ち上げた。

 湯気の向こうで、視線が少しだけ泳いでいる。

 

 私も、両手でカップを包んだ。

 

シルヴィになんて呼ばせよう……

  • ご主人様
  • 先生
  • 貴方(様)
  • 旦那様
  • グリス
  • その他(コメントとかマシュマロから)
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