※この作品はR-18です。

イスタール年代記-快楽の修練者と藍色に染まる少女たち-   作:錫鹿とらちよ

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第14話~赤い髪のミニス

一方、その頃。 

 

 

 

ポーターと同じくガトン収容所から引き取られ、街の有力者オイラーの屋敷に身を寄せた赤髪の少女――ミニスもまた二度目となる「愛情の修練」の終わりに立ち会っていた。

 

 

 

修練の部屋の扉が開くと同時に修行者ルイスが部屋から出てくる。

 

 

 

その額には隠しきれない汗が光り、呼吸には事後の昂ぶりが生々しく残っていた。 

 

 

 

扉の傍らで控えていたのは使用人の少年アロンだ。

 

彼はポーターにおけるルッツのように、ミニスに日々の業務を教え公私ともに彼女をサポートする存在だった。

 

 

 

「お疲れ様です」

 

 

 

アロンは手際よく汗拭き用の布を差し出す。

 

その直後、廊下の奥から主であるオイラーが姿を現した。

 

 

 

三十代半ば、常に薄ら笑いを浮かべている飄々とした男だがその細められた瞳の奥には、決して隙を見せない鋭利な理知が宿っている。

 

 

 

「ミニスはどうだったかな、ルイス」

 

 

 

オイラーが問いかけるとルイスは布で顔を拭い、深く吐息をついてから答えた。

 

 

 

「正直に申し上げて……逸材ですね。修行者である私も不覚ながら未熟にも我を忘れるところでした」 

 

 

 

ルイスはそう言って僅かに俯き、自らの自制心を揺るがせた少女のポテンシャルに畏怖すら抱いているようだった。

 

 

 

オイラーは「ふんふん」と満足げにその答えを受け止め、彼の肩をポンと叩いて見送った。

 

 

 

 

 

「ミニス、入るよ」

 

 

 

オイラーが足を踏み入れた室内には強烈な「雌」の匂いが充満していた。 

 

オイラーはむせ返るようなその淫臭に眉をひそめる。

 

それは濃厚な汗の香りと、熟れきった果実が爆ぜたような甘い官能の芳香。

 

この部屋で今日、どれほど執拗な愛情が彼女に注がれ彼女がどれほど乱されたのか…。

 

その道の手練れであるオイラーにはそれだけで全てが理解できた。

 

 

 

ベッドの端に腰掛けていたミニスはちょうど服を着替え終えたところだった。顔は林檎のように赤く染まり、肩で刻む呼吸はまだ微かに荒い。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「あ、オイラー様……僕、じゃないや……わたし……」

 

 

 

「『僕』でいいよ。その方が君も言い慣れているだろう?」

 

 

 

オイラーの許しにミニスはホッとしたように肩を落とした。

 

 

 

「すみません……僕、今日はちゃんとできていたのか不安で……」

 

 

 

男兄弟の中で育った彼女は幼い頃からの「僕」という一人称がどうしても抜けなかった。

 

ガトン収容所ではそれを格好の的にされ、一生懸命に伸ばしていた髪を無慈悲に切り落とされ、「まるで男みたいだ」と嘲笑われながら尊厳を汚された。 

 

 

 

自分を汚した男たちが去った後、床に散らばった自分の髪を震える手で拾い集めながら大粒の涙を流した夜の冷たさは今も彼女の胸に消えない痣となって残っている。

 

 

 

 

 

実際、彼女は美しい顔立ちをしていた。

 

だがそれはたおやかな女性の美しさというよりは凛とした貴公子のそれであった。

 

凹凸の少ない小柄で華奢な身体、短く切り揃えられた赤髪。

 

着ている服によっては、誰もが「可憐な美少年」だと見紛うだろう。

 

 

 

そんな自分が修行者の満足に応えられたのか…彼女には自信が持てないのだ。

 

 

 

「部屋を換気して、汗を流してきなさい。ルイスに聞いたが特に問題はなかったようだ。お疲れ様」

 

 

 

「……それなら、よかったです。僕、自分からは何もできずに…ただ身を任せるだけだったので」

 

 

 

安堵の溜息を漏らしミニスは窓を半分ほど開けた。

 

吹き込んできた夜風が彼女の短い髪を揺らす。

 

 

 

彼女はペコリと頭を下げると身体を清めるために浴場へと歩いていった。

 

 

 

 

 

夜風が吹き込み少しずつ空気が入れ替わっていく。 

 

しかし、床に、壁に、そして乱れたシーツの繊維にまで染み込んだ「雌の残滓」は、オイラーの鼻を誤魔化せはしなかった。

 

 

 

「アロン、どう思う?」

 

 

 

新しいシーツを抱えて入ってきたアロンにオイラーは問いかけた。

 

アロンは紺色の長い髪を後ろで結んだ端正な横顔を向け、淡々と、しかし確信を持って答える。

 

 

 

「前回の……初めての修行者の方も、あんなに素晴らしい受け手は初めてだと興奮した様子で帰っていかれましたから」

 

 

 

「ふむ……一体この部屋で、何が行われているんだろうね」

 

 

 

オイラーは飄々と肩をすくめた。

 

だが、その鋭い目は今は主のいないベッドの上で繰り広げられたであろう濃密な光景を克明に描き出していた。 

 

かつて自らも修行者であった頃の血が騒ぎ、尽きることのない好奇心が首をもたげる。

 

と同時に、自らが身請けした少女が並み居る修行者から最上の評価を受けているという事実に隠しきれない誇らしさを覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アロンが用意してくれた温かな湯船に浸かりながらミニスは不安の渦の中にいた。

 

 

 

(イスタールの方々は皆優しい。あの修行者様は僕を気遣って嘘を言ってくれたんじゃないだろうか)

 

 

 

今日も自分は何もできなかった。

 

ただ絶え間なく注がれる愛情に翻弄され、乱され、獣のような嬌声を上げて、されるがままに終わってしまった。 

 

 

 

こんな色気のない、凹凸のない身体。

 

女の子らしくない短い髪。

 

そんな自分に修行者たちは本当に満足しているのだろうか。

 

がっかりさせて見捨てられたりはしないだろうか。

 

 

 

ミニスは布で髪の水分を拭い、鏡に映る自分を見つめて呟いた。

 

 

 

「もっと……綺麗な女の子みたいだったら、よかったのに」

 

 

 

脳裏に浮かぶのは収容所から出された際、大浴場で身体を洗われていた他の四人の姿だ。 

 

透き通るような肌と美しい白銀の髪を持つ美女。

 

柔らかな桃色の髪と、多くの男性に好まれそうなあどけない表情を持つ少女。

 

羨ましいほどに豊満な肢体を持つ褐色の肌の少女。 

 

 

 

そして――監獄での唯一の友人であり、ミニスが「綺麗な女の子」を形にする時に真っ先に思い浮かべる、キルヴィ。

 

 

 

(キルヴィは今頃どうしているだろう。あんなに世の男達を恨んでいたけれど……安全に過ごしているといいのだけど)

 

 

 

彼女たちに比べ鏡の中の自分はひどくつまらない。

 

男が退屈を覚えるであろう起伏のない風貌。

 

惨めな気持ちが胸を焦がすが、ミニスは強く首を振った。

 

 

 

「いけない、何を考えてるんだ。今は僕に与えられた役目をこなして……見捨てられないように、しっかりしなきゃ」

 

 

 

弱気な考えを振り払い、彼女は支給された清潔な寝間着に袖を通した。 

 

たとえこの身体に女らしい曲線がなかろうと、あの優しく逞しい修行者が与えてくれた熱い衝撃だけは確かに自分の中に刻まれている。 

 

何もする事もできずに何度も、何度も達してしまった先ほどの行為を思い出す。

 

 

 

「僕、…快感に弱いのかな…」

 

 

 

二回の修練を終え、僅かに自分の中に芽生えている疑問。

 

それにそっと蓋をしてミニスは自室に戻り、まだ微かに熱を持つ身体をシーツに沈めた。

 

彼女の新しい人生はまだ始まったばかりだった。

 

 

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