イスタール年代記-快楽の修練者と藍色に染まる少女たち- 作:錫鹿とらちよ
「なんなんだ、この子は……。私の方が虜になってしまいそうだ」
修行者カナンの胸の内にはいまだかつてない戸惑いとそれを凌駕するほどの高揚が渦巻いていた。
視線の先では短く赤い髪の少女——ミニスが、拘束された四肢を震わせ、あられもない姿で快楽の余韻に喘いでいる。
その姿は一見すれば耽美な少年のようでありながら、放たれる熱量は誰よりも濃密な「女」のそれだった。
ミニスの名は修行者たちの間で密かに、しかし確実に広まっていた。
本来、イスタールの修行者たちは受け手の品評などという無粋な真似はしない。
女性を敬うことを教条とする彼らにとってそれは失礼な行為だからだ。
それでも誰からともなく漏れ聞こえる「ミニスという子は逸材だ」という噂。
(そんなに良いのだろうか…)
カナンは当初、その噂を半信半疑で受け止めていた。
だが、運命は巡る。
自分の次の相手が体調を崩し代わりの受け手を決める際、カナンは興味本位でミニスを指名した。
内容は「快楽の修練」。
感情に溺れず、冷徹な技術をもって肉体を屈服させる研鑽の場だ。
オイラー邸の修練の間に通されたカナンが最初に抱いた印象は、正直なところ拍子抜けに近いものだった。
ベッドに腰掛け行儀よく膝を揃えているのは、一見すると華奢な美少年にしか見えない少女。
「はじめまして修行者様、ミニスと申します」
立ち上がって挨拶をした彼女の声は鈴を転がすように清らかで、そこでようやくカナンは彼女がれっきとした少女であることを再認識した。
カナンは努めて冷静に準備に取り掛かる。
彼女の細い腕を拘束し、ベッドへ優しく横たえた。
自分は本来、豊満で色香の漂う女性を好むはずだった。
しかし、ブラウスのボタンを外しその隙間から小ぶりで形の良い膨らみが露わになった瞬間、カナンは得も言われぬ背徳感に背筋を焼かれた。
少年のように無垢な外見と、そこから覗く確かな「雌」の記号。
そのギャップが、カナンの理性をじわりと浸食していく。
驚くべきは、ミニスの反応速度だった。
まだ腕を縛り服をはだけただけだというのに彼女の頬は赤く染まり、呼吸は何かを期待するように熱く乱れ始めている。
(この子は…人一倍、興奮しやすい質たちなのか)
カナンは期待を胸に彼女の足も拘束し、視界を遮るマスクを被せた。
そこからの修練は、カナンにとって未知の連続だった。
イスタール人の読心能力で読み取った「弱点」。
そこに指を這わせれば、期待した十点満点の成果を、彼女は十五点、二十点の過剰な反応で返してくる。
それは、技術者としてのカナンにとって最高の成功体験の連続だった。
「ひ、あぁっ……!!」
膣内の急所を二本の指で抉るように刺激するとミニスの身体が大きく跳ねた。
それは小さな痙攣などではない。
拘束具を引き千切らんばかりに全身をのけぞらせ、撃ち抜かれたような衝撃を断続的に受けている。
一度、二度、三度。
のけぞる度に彼女の魂が快楽の雷に打たれ、削られていくのが手に取るようにわかる。
「ぁがっっっ……はぁっ……!!」
最後の砲撃のようなアクメが彼女を貫いた。
ミニスはそのままの姿勢で硬直したあと、全身を細かく震わせその姿からは想像もできない獣じみた断末魔のような喘ぎと共に舌を出し、無様な姿で痙攣し続けた。
(随分と…気持ちよさそうに絶頂するのだな…)
冷静でいなければならないはずの修行者は、いつしか我を忘れていた。
目の前の少女をもっと壊したい。
もっと奥の、誰も触れていないような絶頂の果てを見せてやりたい。
他の修行者が暴けなかった程の——。
カナンの技術は、修練の域を超えて「執着」へと変質していく。
「も、もうやめて……っ!! お願い、やめてぇ!!」
泣き叫ぶような制止の声。
そこでカナンは、ようやくハッと我に返った。
夢中になりすぎた。
連続して何度も、何度も、数え切れないほど彼女を限界以上の絶頂へ追い込んでしまった。
「す、すまない。大丈夫か?」
慌ててアイマスクをずらし、彼女の顔を確認する。
次の瞬間、カナンは息を呑んだ。
そこにいたのは最初に出会った「少年のような少女」ではなかった。
乱れきり、よだれを垂らし、眉をひそめて顔を真っ赤に染め、涙に濡れた瞳でこちらを射抜く——。
それはカナンの人生で出会ったどんな美女よりも妖艶で、暴力的なまでに魅力的な「女」の顔だった。
その表情こそが、修行者の誇りという最後の砦を粉々に砕く。
「お好きに……好きにして……」
半開きの唇から紡がれた、あまりに甘美な降伏宣言。
修行者としての矜持は熱を帯びた欲望の渦に飲み込まれて消えた。
カナンはついに限界を迎え、一人の「雄」としての本能を剥き出しにし重なるように彼女の上へと覆いかぶさった。
もはやこれは修練ではない。
一人の男と女が、互いの命を削り合うような、熱烈な略奪の始まりだった。
「……やってしまった」
嵐が過ぎ去った後の静寂の中、修行者カナンはベッドの端で頭を抱えていた。
隣では激しい昂ぶりの余韻に浸るミニスが、息絶えたように横たわっている。
その白い肌には彼が力任せに掴んだ指の跡が赤く浮き上がっていた。
「……っ、すまない。ミニス、大丈夫か?」
カナンの問いかけにミニスは紅潮した顔を少しだけ動かし、そっと彼の脚に震える手を添えた。
「僕は、大丈夫です……。あの、そんなに気に病まないでください……っ」
まだ荒い呼吸を整えようと努めながらミニスは健気にも加害者であるはずの男を気遣った。
あの一瞬、アイマスクの奥に見えたミニスの瞳と「好きにして」という一言。
それがカナンの理性を完全に決壊させた。
カナンは飢えた獣のように彼女に襲いかかり、愛撫によって限界までほぐれきった膣内へと、容赦なく己の剛直を突き刺したのだ。
本来、修練における挿入は「射精」を目的としたものではない。
イスタール人の逞しく硬い男根は、あくまで女性をより深く、より烈しく乱れさせるための「生きた武器」に過ぎない。
指や舌では届かない深淵の急所を的確に穿ち、叩き、女性を歓喜の極致へと誘う。
それがイスタールの矜持であった。
しかし、今回、カナンはその境界線を踏み越えた。
この極上の少女を自分の力で狂わせたいという征服欲。そして、その肉体で己の性欲をすべて吐き出したいという醜悪なまでに純粋な「雄」としての渇望。
カナンはミニスの細い腰を両手でガッチリと固定し、今回暴いた彼女の最も敏感なポイントに自らの最も感ずる部分を激しく擦り付けた。
荒々しいピストンにミニスは涙で濡れた目を白黒させながらも必死にカナンを見据える。
弱点を強烈な摩擦で追い詰められ絶頂の予感に震える彼女の唇を、カナンは奪うように塞いだ。
小さな舌を吸い上げ、口内を淫らに舐め回す。
そして、その結合の最奥で——おびただしい量の精液を決壊させた。
拘束された手足、封じられた呼吸、そして最深部で爆ぜる熱い奔流。
逃げ場を失ったミニスの肉体は今日一番の、そして人生で最も烈しい絶頂へと押し上げられたのだった。
「……自分の肉体的な欲求のために君に乱暴な真似をした。修行者として、あるまじき失態だ。本当にすまない」
カナンは沈痛な面持ちで再び詫びた。
だが、ミニスはゆっくりと首を横に振る。
「いいえ。最後は僕も問題なく……いえ、これまで以上に、感じていました。それで…少し分かったことがあるんです」
「分かったこと?」
ミニスは顔の半分をシーツで隠し、潤んだ瞳だけをカナンに向けた。
「カナン様は、最後にご自分の快感を満たすために激しくしてくれましたよね。その時……僕、これまでにないくらい興奮してしまったんです。尊敬すべきこの方が私の身体に夢中になって、自分の欲求のために腰を打ち付けている。…その『身勝手さ』そのものに、ありえないくらい感じてしまったんです……」
カナンは絶句した。
修行者として最も恥ずべき「独りよがりな行為」を、彼女はあろうことか「それこそが至高の快楽」として肯定したのだ。
「恥ずかしながら…カナン様が僕を快楽で満たしたいと思ってくれるのなら……。あんな風に、男性としての欲望を素直にぶつけられる行為も……僕はとても幸せでした。また、次にお会いした時も…あんな風にお願いしたいくらいに……」
少女の独白は、カナンの内側に残っていた最後の自制心を焼き尽くすには十分すぎた。
この子はどこまで男を狂わせるのか。修行者としての未熟さを指摘されるどころか、欲望のままに振る舞うことを望まれる。
彼女の濡れた瞳を見ているうちに、カナンの股間は再び、修練の道具としてではなく、ひとりの男の象徴として熱く脈打ち始めた。
「次に会った時なんて……言わないでくれ。今からでも、いいか?」
カナンの低く掠れた声に、ミニスは熱い吐息を漏らしシーツを握りしめる。
「あ……はい…っ♡」
今日の修練はとっくに終了していたはずだった。
だが二人は修行者と受け手という仮面を投げ捨て、ただの男と女として果てなき欲望の深淵へと再び堕ちていった。