イスタール年代記-快楽の修練者と藍色に染まる少女たち- 作:錫鹿とらちよ
「んっ……んんっ………ぷはっ……!!」
深く、深く舌を絡め合っていたキルヴィとアロンの唇が名残惜しそうに離れる。
今日だけでこれで五度目だろうか。
時間さえも忘れるような長く深い接吻を互いの気が済むまで堪能しきった二人は、紅潮した顔を至近距離で晒しながらただじっと見つめ合った。
潤んだ瞳が互いの熱を映し出し、そしてまた磁石のように吸い寄せられ――。
お互いにとって初めてとなる、羽毛が触れ合うような優しい口づけを何度か重ねた後のことだった。
不意に、しかし必然のように口内に侵入してきたアロンの舌。
その熱く湿った侵入者が驚くキルヴィの粘膜を撫で上げた。
互いの肉が絡み合い擦れ合う感触に、キルヴィはこれまでに経験したことのない劣情を覚え抗うことなく彼の舌に身を委ねた。
ぬるり……と絡め取られ、支配されていく感覚。
彼女は教えられるまでもなく、真似るようにして相手の舌を必死に舐め回し追いすがった。
(これ……頭がぼーっとする……)
視界が白く霞み、粘膜の上を粘膜が這いずり回るという異様な感覚にすべての神経が集中していく。
キルヴィは生まれて初めて味わう「舌での性交」とでも呼ぶべき感覚、脳が痺れるような錯覚を覚え、いつしか我を忘れて夢中になっていた。
それから何度もお互いを貪り、長い時間が過ぎる。
彼女は少し斜めに顔を傾け、より深く彼を受け入れられるようさらに強く唇を重ねる。
そうして六度目となる深いキスに没頭していった。
ミニスの修練を見る限り接吻の時間はとうに過ぎているはずだった。
本来であれば衣を脱ぎ去り、次の段階へと移っているべき頃合いだ。
しかし、長い時間をかけて互いの口内を蹂躙し合い一度唇を離しては紅潮したアロンの端正な顔を見つめるたびに――
キルヴィの方から、どうしてももう一度と唇を求めてしまうのだ。
彼からすれば、他にしたいことや進めるべき手順があるはずだろうに。
申し訳ないという思いを心の片隅に抱えつつも、この魔性の感触からどうしても離れられずにいた。
お互いに舌先を硬く尖らせ、先端同士を幼い遊びのように突っつき合い戯れる。
かと思えば舌の広い面をべったりと密着させ、「面」で押し潰し合う接触の重みに悦びを感じる。
あえて舌の中でも最もざらついた部分を互いに擦り合わせ、不快感の先にある微細な快感を確かめ合う。
お互いに協力し合うように、あるいは競う合うように
「こんなのはどう?」と提案し合うかのごとく、様々な方法で相手を求め合う
(いやらしい……こんな……私……)
意識は白濁し、口内を弄り合う獣のような行為に耽っている自分を恥じ入る。
だが、その羞恥心さえもが甘い刺激となって彼女をさらに奥へと引き込んでいった。
「んっ……んっ……んんーっっ……!!……ぷはっっ……はあっ……はぁっ……」
アロンに舌を吸い上げられ、その状態で敏感な舌先をねちっこく舐め回された瞬間、キルヴィは自らの下腹部に何かが熱く広がるような感覚を覚えた。
その未知の衝動に怯え、彼女は慌てながらやや強引に自らの舌を引き抜く。
じゅぽっ……と、静かな部屋に気恥ずかしい水音が響き、六度目の長いキスがようやく終わった。
二人は激しく肩で息をしながら互いの瞳の奥を覗き込んだ。
「ご、ごめんなさい……私ってば……ずっと続けて。…他にしたい事、あるでしょうに…でも」
私の身体を好きにして。
技の研鑽のために必要だと思うことはどんなことでもしてほしい。
先ほど、彼にそう伝えたはずだった。
それなのに自分自身の止められない欲求に負け、いつまでもこの甘美な行為から抜け出せずにいる。
「ああ……ごめんなさい…」
アロンの瞳を見つめていると、またすぐにこの少年と再び舌を絡め合いたいという強烈な欲求に駆られる。
これで最後、これで最後だからと自分に言い聞かせるように、彼女はまたしても吸い寄せられるようにその唇を重ねた。
アロンにとっても、キルヴィとのキスは我を忘れてしまいそうになるほど衝撃的なものだった。
何より、あくまで「受け手」という義務をどこか事務的に全うしようとしていたはずの彼女の方から飢えたように自らを求めてくることが彼には何よりも嬉しかった。
彼女の欲求に全力で応えようとアロンは全神経を集中させる。
口内のあらゆる箇所を探り、イスタールに伝わる「読心」の技を静かに開始した。
(……そこ)
彼女の思考を読もうとする意識の中で、微かな「声」を拾う。
その小さな舌を軽く吸い伸ばし裏側から先端にかけてなぞり上げるように舐め取った最中、脳裏に響いたのは彼女の確かな心の声だった。
本来、イスタールの読心の技は明確な「言葉」として拾えるものではない。
わずかな機微の変化や朧げな気配を汲み取る程度の技術である。
だが、稀に、微かではあるが確かな言語としてより明確に相手の思考を読み取れる天賦の才を持つ者が現れる。
オイラーが数年に一人現れるかどうかの逸材として傍らに置いて期待をかけていたのがまさにこのアロンだった。
アロン自身、女性に読心を試みたのは今日が初めてだった。
しかし、意識を研ぎ澄ませるほどに、彼女の欲求を驚くほど正確に読み拾っていくことができた。
舌を軽く吸われながら、伸ばされた裏側を手前に向かって執動になぞられる。
何度も、何度も、じっくりと。
キルヴィは自分が口内を愛撫される中で特に気に入った動作を彼が狙い澄ましたかのように執拗に繰り返してくることに戸惑った。
(それっ……好きっ……、な、なんで……?)
先ほどまで行われていたあらゆるランダムな刺激は止まり、もはやアロンは彼女がお気に入りのその行為だけに集中し、何度も繰り返してくる。
あまりの刺激に彼の肩を掴んで引き離そうと試みるが、逆にその手を取られ力強く抱きすくめられた。
逃げ場を塞ぐよう、唇がいっそう強く密着する。
「んんっっ……んーっ!……んんーっっ……!!」
非難の声か、あるいは静止を求める動作か。
駆け出しの修行者であれば、ここで戸惑い手を止めてしまうかもしれない。
だが修行前の身でありながら、アロンはさらに深く彼女の思考の深淵を読み取る。
(……もっと)
それは、彼女自身さえも意識していない深層心理の奥底。
表面で静止を求めていてもその裏側に隠された「もっと続けてほしい」という真実の欲求を見つけ出し、アロンはより強く彼女の舌を吸い上げ、弱点である裏側の前後運動を加速させた。
「んっっ……!!?……んふーっ……!……んんんんっっ……!!」
何か下腹部の奥底から湧き上がる異質なまでの熱。
それに気を取られている彼女の舌先を吸い伸ばし、その大部分を自らの口内に収めた状態でアロンは彼女の舌に、少しずつ、ゆっくりと歯を立てた。
「っ……!!??」
相手の口内に預けていた自らの舌に起こった異変にキルヴィは目を見開いて狼狽した。
そんな彼女の頭をアロンは逃がさないようしっかりと両腕で抱え込む。
舌に食い込ませる上下の歯に、徐々に、しかし確実に力を込め――。
痛みを感じる寸前、限界まで食い込ませた瞬間だった。
「………………っっっ!!!!」
一瞬の静寂が、部屋を包み込んだ。
ピタリと動きを止めた彼女に、一拍置いて不意打ちのように衝撃が走る。
先ほどから感じていた下腹部の違和感が突如として大きく弾け、爆発を起こしながら脳天に向けて突き進んだ。
体内をズタズタに切り裂きながら爆進する絶頂の波。
襲い来る快感に対して何の準備も、受け止める心構えもしていない無知な彼女の身体を、その爆流は容赦なく完膚なきまでに貫いていった。
ビクン!!……ビクッ!!……ビクッッ!!!
その瞬間、キルヴィの全身を形容しがたい異質な衝撃が突き抜けた。
これまで彼女が人生で経験してきたどの感覚とも違う、明らかな「快感」という名の激震。
それはまるで、長年ずっと痒くても手の届かなかった魂の最奥にある痒部を最も欲していた強さで思い切り掻きむしられるような、
野蛮で、けれど抗いようもなく甘美な充足感であった。
自分の身に起きたあまりにも急激な異変に戸惑い、抗う術も知らずキルヴィは断続的に襲い来る甘い衝撃に翻弄され続ける。
やがて、その激しい熱の波が引き彼女が力なく弛緩していく頃合いを見計らってアロンは静かに、その熱い唇を解放した。
「………んはっ……!!……はあっ……はあっ……!!」
いまだ冷めやらぬ痙攣に身体を細かく震わせながらキルヴィはどこか魂が抜けたような呆けた顔でアロンを見つめる。
「なっ……何……?…今の……」
修行者としての実戦経験のないアロンにとってもそれは未知の領域であった。
しかし、目の前で文字通り弾けた彼女の反応を見るにそれが何であるかは確信に近い直感として理解できた。
今、彼女を襲った感覚は女性が至る最高の快感ーー「絶頂」。
アロンは、いまだ荒く息を吐き上気した肌を晒す彼女の瞳をじっと見つめ返し、静かに問いかけた。
「気持ち……よかった?」
その問いに、キルヴィは先ほど自分の内側をめちゃくちゃに掻き回したあの爆発的な感覚を反芻するように思い出し、頬を染めながらも静かに、けれど確かに頷いた。
「今の…全身が爆ぜるような感覚が、もしかして……『イク』ということなの……?」
親友のミニスがあのベッドの上で何度も、壊れたように宣告していたあの言葉。
そして、あの尋常ならざる反応。
知識のない者同士ではあったが、修行者を目指して日々学びを重ね研鑽を積んでいる彼に頼るように、教えを乞うような眼差しを向ける。
「うん……、おそらく。…キルヴィが絶頂を感じて、少しでも気持ちいいと思ってくれたのなら僕は嬉しいよ」
アロンは優しく、慈しむように彼女の頭を撫でた。
イスタールの技を駆使して女性を快楽に導く。
その一つの到達点として「絶頂」という感覚を彼女に与えられた事実に、彼は安堵していた。
キルヴィにとっては気持ちいいどころの騒ぎではない。
下腹部から脳天まで突き抜けた抗いがたい甘すぎる衝撃。
それなりに長く付き合ってきた自分の身体にあれほどの衝撃を生む能力が備わっていたとは驚きでしかない。
「アロン……ごめんなさい……。私、わがままばかりで…。その、今の感覚を忘れないうちに……もう一度、体験してみたいの……」
キルヴィは恥じらいに顔を赤らめ、泳ぐように目線を外しながら消え入りそうな甘えるような声でそう告げた。
いつも毅然とした態度を崩さない彼女のそんな隙を見せるような姿にアロンは鼓動が早くなるような愛しさを覚え、震える熱を持って応えた。
「一度と言わず、何度でも……」
そう言いながらアロンの手がキルヴィの細い肩を滑り、その胸元へと伸びる。
「あっ……そこはっ……」
キルヴィは反射的に自らの胸元へと視線を落とした。
優しく、まるで壊れ物を扱うかのように控えめな丸みを包み込む彼の手。
その指先の温もりが薄い布越しに伝わってくる。
「アロン……私…そこ……んっ……」
何かを言いかけ、拒もうとしたのか、あるいはさらなる愉悦を請おうとしたのか。
彼女の唇が微かに戦慄いた瞬間、アロンはそれを遮るように再び彼女の唇を塞ぎ、吸い上げる。
条件反射のように蕩けた瞳で身体を預ける彼女の柔らかな膨らみを、彼は掌の中で転がすようにゆっくりと、情熱的に愛撫し始めた。