イスタール年代記-快楽の修練者と藍色に染まる少女たち- 作:錫鹿とらちよ
「あなたね……少しは…加減というものを……覚えなさいよ…」
キルヴィは肩で荒く途切れ途切れの息をしながら、目の前の少年へ精一杯の愚痴をぶつけた。
デジャヴ――。
つい先ほどもこれと全く同じやり取りをしたはずだ。
彼女は自分の膀胱を空にしようと躍起になり、限界を超えるほど執拗な胸への責めを繰り返した少年を先刻確かにたしなめたばかりだった。
それなのに。
またしても理性のタガが外れてしまったこの少年は今度は胸よりもさらにデリケートな場所――「陰核」へと病的なまでに執着し、彼女の必死な制止の声も聞き入れず完膚なきまでにその一点を蹂躙し尽くしたのだ。
十数年という長い年月を経て、ようやく外界へとその姿を現し自らの存在を誇示するかのように大きく膨張し、限界まで硬く勃起していた彼女のクリトリス。
小指の先ほどもあるそのあまりにも巨大な快楽の芽は、あっという間にアロンの熱い口内へと絡め取られた。
そして己の無力さと脆弱さを嫌というほど思い知らされるほどに、執拗に、徹底的に舐めしゃぶられたのだ。
彼女の陰核は当初こそ雄々しく、硬く、天を突くように隆起していた。
だが、熱い口内という暗闇の中で何度も何度も絶頂を叩き込まれるうちに、己が「雌」そのものの淫らな器官であると自覚させられるまで完膚なきまでに責め抜かれた。
ようやく解放される頃には、情けないほどに骨抜きにされ、だらしなく弛緩した姿のまま長年その本体を優しく包み守り抜いていた包皮の中へと、逃げ込むように再び隠れてしまった。
今ではその厚い装甲の中で、外の気配に怯えるように、いまだ微かに身を震わせている。
「本当に……申し訳ない……」
アロンは片手で顔を覆い、先ほどと同じように、酷くバツの悪そうな顔で謝罪を口にする。
さすがに笑い飛ばすほどの体力は残っていないキルヴィだったが、この焼き直しのような間抜けなやり取りに、思わず滑稽な印象を覚えていた。
修行前の者の中では圧倒的な能力を持ち天賦の才を惜しみなく発揮するアロンではあるが、やはりこれは彼にとって初めての実戦なのだ。
キルヴィという少女が放つ抗いがたい魅力に当てられ、未熟さが露呈し本能のままに行動してしまう危うさが彼にはあった。
反省しきりの彼に対し再び呆れに近い感情が湧き上がると同時に、その未完成で真っ直ぐな様子に一種の愛らしさをも覚える。
キルヴィは今日二度目となる「仏の顔」を見せた。
「仕方ないわね……。どんな無茶も受け止めると言ったのは、私だもの…」
彼女はこの行為が始まる前に交わした二人の会話を思い出す。
その時は彼がここまで「雄」の本能を剥き出しにする男だとは夢にも思わなかった。
我を忘れた状態の彼を一言で表すなら、それは「執着」だ。
胸の裾野にしろ、陰核にしろ、彼が釘付けになるほどのポイントを一度見つけるとまるでそれ以外は存在しないかのように夢中になり、たった一点を徹底的に責め抜くしつこさを見せる。
標的にされる側はたまったものではないが、先日目の当たりにしたあまりにも冷静すぎて隙のない熟練の修行者クライスのような人物に比べれば、目の前で申し訳なさそうに頭を垂れる不器用な少年の方が今の彼女にはずっと人間味を感じられ好感が持てた。
(こんな貧相な身体の、一体何があなたをそこまで夢中にさせるのかしらね……)
女性としては全く自信のない、起伏の少ない自らの身体。
だが、普段は先輩として凛とした空気を纏っているこの少年を、これほどまでに狂わせ、夢中にさせている。
その事実が、キルヴィの胸に形容しがたい高揚感をいっぱいに満たしていた。
「お水を……飲ませてちょうだい」
「ああ、うん」
ベッドから身動きが取れないまま掠れた声でそう頼むと、アロンはすぐさま立ち上がりテーブルへと向かった。
苛烈な責めを耐え抜くたびに削られた体力を回復させるため水分を摂り入れてきたが、あらかじめテーブルの上に用意されていた水はもう容器の8割ほどをお互いの身体に収めていた。
コップに水を注ごうとする彼の背中を見て、キルヴィが制止の声をかける。
「違うわ……。起き上がれないのよ」
その一言で、彼は彼女の意図を瞬時に察した。
口いっぱいに水を溜め込み、再びベッドの端に腰掛ける。
「飲ませて……んっ…」
二人の唇が重なり、せき止めていた堤防が少しずつ決壊するように彼女の口内へと冷たい感触が流れ込んでくる。
こくっ……こくっ……。
乾ききり、疲れ果てた身体に命の源のような水分が染み渡っていく。
息も絶え絶えだった自らの身体が微かな回復の予兆を見せる中、彼女はそのままアロンの背中に手を回し自分の舌を彼の口内へと預けた。
(甘やかして……)
読心の技を持つ彼に読み取ってもらえるよう、脳裏にその言葉だけを強く浮かべる。
それが伝わったのか、あるいは彼の意思か。
アロンは口内に預けられた小さな舌を絡め取り、優しく、ねっとりと愛撫し始めた。
「んふ……んん……」
疲れ切った身体が回復するまでの間、こうして舌を優しく舐め回されるのがたまらなく心地よい。
今日一日でキルヴィは舌を絡め合うこの行為にすっかり虜になってしまっていた。
明日から、もしこの感覚を味わいたくなったら自分はどうすればいいのだろうか。
オイラーやミニスに見つからぬよう、厨房の隅で、庭の木陰で、あるいは物置の奥深くで――。
隙さえあればこの少年を誘い出し、気の済むまで互いの唇を貪り合えないだろうか。
そんな良からぬ妄想を思い浮かべながら、舌を軽く吸われ、労うように舐めたくられる感覚をキルヴィはうっとりとした目で堪能していた。
ある程度動けるようになるまで身体が回復し、二人はようやく唇を離した。
気付けば自然と自分の上にアロンが乗るような体勢になっていたことに気付き、キルヴィはこの次に来る「最終的な展開」を確信し、予感する。
「……ああ……、アロン……アロン…」
おそらく、自分の身体は十分すぎるほどに準備万端だ。
股間から恥ずかしいほどに溢れ出す愛液が、とっくに男性を受け入れる状態にあるのだと雄弁に伝えている。
身体は、そうなっている。だが、心には依然として拭い去れない恐怖と不安が渦巻いていた。
「大丈夫……」
アロンは彼女の心の揺らぎを察し、その頬に優しく触れた。
「上手く……できなかったら、ごめんなさい。…私のことは気にしないで……。どうか、あなたの…思うように…」
キルヴィは頬に触れる彼の手に自分の手を重ね、祈るように、そして自分に言い聞かせるように呟いた。
カチャ……。
下の方で、何かを外す硬質な音が響く。
彼がベルトを解き、自らの秘部を取り出す様をキルヴィは薄目で恐る恐る確認した。
「……っ!」
下着を脱ぎ去り彼の股間にそそり立つそれは、その端正な顔立ちや細身の身体には不釣り合いなほどに逞しく、勇ましかった。
キルヴィは思わず息を呑む。
かつて牢獄で下卑た男たちが無理やり見せつけてきた醜悪な肉塊とは比べものにならないほど、それは見惚れてしまうほど均整の取れた、立派な男根であった。
形は整っているが、おそらく……女性を悦ばせるための造りがそこかしこに備わっているであろう、理想的な形状。
問題は……彼女の不安を激しくかき立てるその「サイズ」だった。
ミニスを抱いたクライスのそれを見てしまった時も思ったが……イスタールの男性は皆、これほどまでに太く逞しいものを持ち合わせているのだろうか。
(怖い……っ)
瞬間的に、牢獄で激痛にのたうち回りながら挿入されていたあの忌まわしい記憶が呼び起こされる。
アロンも初めての行為に興奮しているのか、今はまだこちらの極限の恐怖を読み取れていないのかもしれない。
彼は今まさに、濡れそぼった入口に自分自身の先端をあてがい、腰に力を込めようとしていた。
(待って!……怖い…… 止めないと……!)
一度、待ってくれと言わなければ。
今日はここまでにして、また後日、心の準備ができたらと――。
彼に願えば、まだ引き返せるかもしれない。
今まさに侵入しようとする彼に、懇願するような眼差しを向け、唇を震わせた。
「…………きて」
しかし、思考とはまるで真逆の。
抗いようのない「女の本能」に任せた言葉が、裏腹に口をついて出た。
ズブッッッ…………
「んぐっっっ!!!……」
彼の先端が容赦なく体内にめり込んでくる。
途端に、身体の主の異変を感じ取ったかのように、少しでも挿入をスムーズにしようと奥から大量の愛液がドプリと溢れ出した。
「はあっ……!!……はぁっっ…!!……」
何度も味わってきた、膣内に異物が入り込んでくるあの感覚。
しかし、嘘みたいに「痛み」がない。
彼女の膣口が、膣壁が、そして子宮が。
この少年の侵入を、心から喜び勇んで迎え入れようとしている。
身体の主が痛みや辛さなど微塵も感じないよう、幸せのうちに最奥まで導けるよう、組織は軟化し、止めどなく潤滑液を分泌し続けていた。
(ここまで、入れば……)
同じく余裕のないアロンも、自らの先端が彼女に出血などさせずに滑らかに入り込んだのを確認し、残りの剛直をゆっくりと、確実に埋めていく。
(ふ、太い……!……のに…っ!!)
圧迫感は、とてつもない。
なのに。
これよりもずっと細いモノも、粗末なモノも、ほんの少し侵入しただけで裂けるような痛みがあったはずなのに。
彼が少しずつ、少しずつ体内を満たしていくことで、そこに生み出されるのは痛みではなく――。
「ああっっ……!!…はああああぁぁ…………!!」
圧倒的な幸福感。
身体も、頭も、心の隅々までが、待ち望んでいた人物の挿入に歓喜の声を上げ大騒ぎで忙しくなっている。
膣内が大きくうねり、太く硬い来訪者を歓迎するかのように、熱く抱きしめる。
(熱っっ……い……!?)
彼女の体内の予想を遥かに超える熱にたじろぐアロン。
己の8割ほどを埋めたところで、先端が彼女の最深部、子宮の入り口へと到達した。
熱く、狭く。なのに不思議と窮屈さは感じない。
生まれて初めて感じる女性の内部という未知の感触に、アロンの心はかつてない達成感と充実感で満たされていく。
何より。
その相手が、他でもない「キルヴィ」であるという事実に彼は胸が張り裂けんばかりの至福を感じ、打ち震えた。
「ア、アロンッ……はあっ……!…はぁっ……!!…」
彼の名を呼び、下腹部いっぱいに詰まったこの巨大な違和感を少しでも慣らそうと必死に息を整える。
次の瞬間。
彼女の両の瞳から、堰を切ったように大量の涙が溢れ出し枕へと流れ落ちた。