イスタール年代記-快楽の修練者と藍色に染まる少女たち- 作:錫鹿とらちよ
「ゲ、ゲーム……ですか?」
目隠しによって視界を奪われた暗闇の中、耳元に届いたその場に似つかわしくない言葉にセイレンは激しい困惑を覚えた。
修練、すなわち性的な儀式が行われるこの密室において、「ゲーム」などという遊戯めいた響きはあまりにも異質で、それゆえに得体の知れない恐怖を孕んでいた。
「そう、ゲームだよ」
ゴトッ……カチャッ……。
相変わらず何が起きているのか分からない不安を煽るように、正体不明の異音が部屋に響き渡る。
その音の主が何であるかを想像するだけで、セイレンの心臓は早鐘を打った。
「今日の修練はおよそ3時間。その間に俺が『5分間』だけ君を責める。その5分の間、一度もイかずに耐えきれたら、君の勝ちだ」
レオンの声はまるで子供に遊びを提案するかのように軽やかだった。
5分。
時間だけで聞けば、それはほんの一瞬のようにも思える。
「もし君が5分間の責めに耐えきれたら、さっきの失礼な態度は俺の心の中にだけしまっておいてあげる。上に報告もしないし、君が想っている彼との仲も俺が保証してあげるよ」
絶望の淵に立たされていたセイレンの心に、小さな、しかし鮮烈な希望の灯がともった。
具体的な責めの内容はまだ見えない。
だが、とにかく「耐え抜く」という明確な目標があり、それに成功すれば救いがあるという事実に彼女は藁をも掴む思いで縋りついた。
「で、でも……その、私がもし、耐えられずに……絶頂、してしまった時は、どうなるのでしょう…?」
不安げに震える声で問い返す彼女に、レオンはどこまでも寛大な響きを含んだ声で応じる。
「別にイってもいいよ。そしたら2回目のチャンスをあげる。それでもダメなら3回目。とにかく、この修練の時間の間に、一度でもいいから5分間を耐えきってみせてよ。そうすれば俺の負け。君を許してあげる」
たった一度。
何度絶頂を迎え、無様に果てたとしても、その後に再び訪れる「5分間」をただの一度だけ耐えきればセイレンの勝利だというのだ。
(一度でも耐えれば……いいのね)
セイレンの中で希望が大きく膨らんでいく。
もともと彼女は自分を「絶頂を迎えやすい体質」だとは思っていなかった。
ましてや内容はあまり好んでいない『快楽』の修練であり、相手は少し苦手なタイプの男性だ。
何よりも、心の中に秘めたグレイスへの深い情愛が彼女に揺るぎない自信を与えていた。
不実を詫び、彼との未来を守るためならどんな刺激にも耐えてみせる。
その決意が彼女を突き動かした。
「や、やります……。やらせてください…!」
「そっか。いい返事だね。じゃあ……準備を始めようか」
レオンの唇が、目隠しで見えないところで醜悪に、愉悦を孕んで歪んだ。
◇
「んあっっ…!! な、何をっ……!? …レ、レオン様っ……!!? ……何っ…!!?」
下腹部、秘所に伝わるじんわりとした熱い感覚。
セイレンの身体の中で最も敏感な部分――クリトリスに、何やら未知の物質を塗りつけられているような異様な感触に彼女は戸惑い、拘束された身をよじらせた。
「動かないで。まだ『準備』の段階なんだから」
レオンは抗う彼女の脚を無慈悲に押さえ込み、その行為を執拗に継続した。
彼が用いているのは、イスタールに伝わる伝説的な媚薬。
一族が尋問に用いる際に使用する、北部の山脈に咲く濃浅葱の花から抽出された秘伝の薬。
かつてグレイスがポーターに用いていたのは液体状のものだったが、レオンが好むのはそれとは異なった。
彼が手にしていたのは、より粘度が高く、粘膜に張り付き体内に吸収されやすい「軟膏状」に練り上げられたものだった。
純度の高い媚薬の軟膏をレオンは指先で丹念に、執拗に、何度も、何度も彼女の陰核に塗り込んでいく。
「ダっ……ダメっっ!! ……あっ、熱いですっっ……!!」
なにか薬のようなものを塗り込まれている――
拘束された腕や足を無理に捻るようにして、その苛烈な刺激から逃れようとするセイレン。
しかし、レオンはそんな彼女の抵抗を易々と封じ込め残酷なまでの精度で「塗り込み」を行っていく。
秘薬は驚異的な速度で粘膜から吸収され、塗りつけられるたびに彼女の肉体の一部へと取り込まれていった。
塗っては乾き、乾いてはまた塗り重ねられる――
その悪夢のようなルーティンが繰り返されるうちにセイレンのクリトリスはかつてないほどに膨張し、熱を帯び、今にも爆発しそうなほどに勃起し始めた。
「あっ……ああっ……!! う、疼きますっっ……!! そこっ……!!」
陰核が自らの快感の源泉であることをセイレンも知っていた。
これまでも様々な修行者が、その小さな蕾を優しく愛でてくれた。
彼女自身、そこを慈しまれる感覚に仄かな幸福さえ感じていたのだ。
グレイスとの修練でも、きっと彼はそこを愛情深く刺激してくれるのだろうと、はしたない想像を巡らせたことさえあった。
だが、今、そこにあるのは「愛情」などではない。
薬漬けにされ、可憐な彼女にはあまりに不釣り合いなほど無骨に膨張し、
ビキビキと音が聞こえそうなほどに猛り、
ジクジクとした疼きが止まらない「淫らな塊」だった。
「あっぐ……っ……はぁ……っ!! ……な、なんでっ……!!」
己の核に芽生えた、未知の感覚にセイレンは驚愕する。
芯から疼き、ただひたすらに、ほんのわずかな刺激さえも貪欲に求めてしまう制御不能な感覚。
「たまらないだろう? 準備もできたことだし、まずは一回イこうか」
そう言うと、レオンはその手に琥珀色の、薄い布のようなものを持った。
「あっ……ぇ……?? ……っ!!!」
シュリッッ……!!
「はっっっ……!! ……あっ……! ……ああああぁぁぁっっ!!!?」
媚薬を吸収し尽くし、極限まで乾ききった陰核を襲ったのは、これもまたあまりにも「乾いた」刺激だった。
視力を奪われた彼女には自分の身に何が起きたのか理解できなかった。
ただ、最も敏感なその箇所を、何か乾いた質感のもので一瞬だけ鋭く擦られた。
その瞬間。
熱く尖りきった核から閃光が走り、それは紛れもない「絶頂」となって彼女の全身を突き刺した。
「っっっ……!!! ………っっ!! ……ぅっっ……!!!」
今この瞬間、自分を幾度も、幾度も貫通しているこの激痛に近い感覚が「絶頂」であることは理解できた。
だが、この街に来てから慣れ親しんできた、あの快楽の高まりとは何かが決定的に違っていた。
快楽がじわじわと迫りくる予感も、
爆発に飲み込まれそうになる、あの甘い兆しも。
何一つ感じぬまま、ただ「スイッチを入れられ、発生させられた」というあまりにも強制的な現象。
「ぁっっ……!! ……ぁっ……ぅっっ……!!」
脳裏を灼くような真っ白な閃光が自らの肉体を何度も貫き、鮮烈極まりない絶頂感にセイレンは言葉もなく身を震わせ続けた。
そんな彼女の無様な姿を眺めながら、レオンは壁の時計を確認し、わざとらしく、意地悪く声をかけた。
「ありゃ……。5分どころか、5秒も経ってないよ?」
「っ……!!」
5分。
先ほどまで、ほんのわずかな猶予だと思っていたその時間が今や永遠にも等しい絶望の壁として立ちふさがる。
セイレンの顔から血の気が失せ、彼女は救いのない戦慄に身を焦がした。
◇
シュリッッ……シュリッッ……。
「んくぅぅぅぅ!!!……だっっ……だめです!!…! それっ……!!……そこっっ…!!!」
局地的に、そしてあまりにも鋭利に突き刺さる尖りきった快感。
セイレンは奥歯が砕けんばかりに歯を食いしばり、必死にその奔流を食い止めようと身を固くした。
銀色の髪が乱れ、拘束された四肢が震える。
「お、新記録かな? そろそろ1分経ちそうだ」
壁の時計を眺めながら、レオンはいやらしい笑みを浮かべた。
その手つきは、まるで手に入れたばかりの玩具を慈しむ幼児のように無邪気で、かつ残酷だ。
彼は今、彼女の最も敏感な一点――媚薬で膨張しきった陰核を、その特殊な布で丹念に「磨き」続けていた。
彼がこの執拗な責めに使用しているのは、一見すると琥珀色の柔らかな布に見えるが、その実態は「快楽の処刑具」と呼ぶにふさわしい代物だった。
幾重にも、そして緻密に織り上げられたその繊細な繊維は、目には見えないほど微細な凹凸を生み出し、人間の指先では決して与えることのできない精密な刺激を一点に集中させる。
ピンポイントで神経を逆撫でするにはこれ以上ないほど適した素材を彼は好んで用いていた。
そして、特筆すべきはその素材が持つ「吸水性」にある。
ひとたび肌に触れれば、そこに滲むわずかな蜜も、塗り込まれた軟膏の油分も、瞬間的に吸い尽くす。
常に「乾いた刺激」を独特のざらつきと共に与え続けるのだ。
ぬるついて摩擦を逃がすような柔らかな慈しみは一切許されない。
敏感な快楽の芽を削るように責め立てるにあたって、これほど相性が悪く、同時に強烈な絶頂を強制するという意味では最高の相性を持つ悪夢のような布であった。
◇
「おっっ……!! お願いしますっっ!!! ……く、薬はもう! …受け入れますからっっ…そ、それ!! それだけはやめてええ!!!」
セイレンは髪を振り乱し、喉が裂けんばかりの悲鳴を上げた。
あれほど嫌悪し、恐怖していた「陰核を薬漬けにされること」すらこの際どうでもよくなっていた。
残酷な交換条件を自ら口にしてしまうほどに、乾いた布が神経を直接削るような逃げ場のない細やかな刺激が耐えられなかった。
「お? おめでとう。初めて1分経過したね」
だが、レオンはその必死の懇願に聞く耳など持たない。
ただ愉快そうに、彼女の快挙をあざ笑う。
(い、1分……!!)
そのたった1分のラインを超えるまでに、彼女は情けなく何度も腰を痙攣させ、鋭角的なアクメを幾度も強制された。
苛烈極まりない刺激。
しかし、絶望的な状況下であっても彼女の肉体は過酷な刺激の中にわずかな「慣れ」を見出し、どうにか抗おうとする。
それでも。 途方もない、永遠にも等しい時間を耐え抜いたはずなのに、まだ目標の五分の一でしかない。
(むっ……無理っっっ!!!)
奈落へ突き落とされるような絶望が、セイレンを襲った。
目の前が真っ暗になる。
どれほど努力しても、どれほど心をグレイスへの想いで固めても、この五倍の時間を耐えることなど今の彼女には不可能に思えた。
シュリッッッッッ!!!
その絶望の隙を突くように、一際強く、股間の布が爆ぜるような摩擦を生んだ。
真っ黒に染まりかけた彼女の思考を、再び白熱の快楽が閃光となって貫通する。
「あっっ……!! ……!!! …イクッッ……!!!」
黒く荒んだ精神の防波堤は、押し寄せた快楽の津波にあっけなく飲み込まれ、一瞬で崩壊した。
ビクンッッ!!!……ビクッッ!!……ビクッッッ!!!
「はうっっ…!!……ぐぁっっ……!!! ……ぁっ……ひ……!!!」
心を、頭を、淫らな快感で塗り潰された直後に襲い来る、全身を駆け抜ける甘美な衝撃。
セイレンは拘束されたまま身体を激しくビクつかせ、末端まで行き渡る甘い痺れに打ち震えた。
心がどれほど絶望に打ちひしがれ、涙を流していようとも。
この絶頂を味わう瞬間、彼女の身体は細胞の一つ一つが悦楽に歓喜し、嬌声を上げてしまう。
(き、…気持ちよすぎるっっ……!!……いやぁ…!!……気持ちいいの……ぃゃ……)
抗いようのない快楽の重圧に何度も叩き伏せられ。
彼女は先ほどまでの絶望が嘘であったかのように、全身を蝕む毒のような快感に酔いしれ、それを貪欲に貪り始めていた。