※この作品はR-18です。

イスタール年代記-快楽の修練者と藍色に染まる少女たち-   作:錫鹿とらちよ

6 / 51
第5話:イスタールの歪な文化♡

使用人としての仕事が一段落した夜、ルッツがポーターの部屋に明日の予定を記した手帳を持って訪ねてきた。

 

ルッツは部屋の入り口で立ち止まり、決して無断で中へは入ろうとせずポーターと一定の距離を保って対峙する。

 

「ポーターさん、明日の仕事の確認は以上です。…何か不安なことはありますか?」

 

 

 

ルッツの問いにポーターは膝の上で指を絡め思い切って尋ねた。

 

 

 

「…ルッツさん。…教えてほしいんです。あなたたちは一体何者なの? 私たちに何をしようとしているのですか?」

 

 

 

ルッツは少しだけ考えるように視線を落とし、それから静かに口を開いた。

 

 

 

「僕たちイスタール人は他者の心が発する『微かな声』を読み取る能力を持っています。それは魔法に近いものですが、僕たちにとっては呼吸と同じ生まれ持った性質です」

 

 

 

「心を読む…?」

 

 

 

「厳密には深層心理や肉体の律動を微細に感じ取る力です。具体的に考えている事が分かるわけではありませんよ」

 

 

 

ルッツは淡々と、しかし丁寧に説明を続けた。

 

 

 

「この力を活かして僕たちは三つの道を選びます。一つはその鋭敏な感覚を活かした戦闘職。騎士や傭兵のほか、貴族や王族の決闘代理人などで重宝されています。もう一つは高貴な女性や王族の欲求を感じ取り房中術で悦ばせる心身を癒やす至高のパートナー」

 

 

 

「そして…あまり名誉な職ではありませんが、その技で女性を性的に屈服させ口を割らせる『尋問官』です」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

性の技で女性を陥落させる「尋問官」…ポーターはその最後の言葉にわずかに身体を震わせた。

 

 

 

「ですから、明日から始まる『修練』も二つのパターンがあります。一つは深い愛を注ぐ恋人のように女性を慈しみ、最高の幸福感を与えるための練習。もう一つは抗えない快楽で理性を溶かし支配するためのテクニックの練習。…カナン様が明日どちらを選択するかは、実際に向き合えば分かります」

 

 

 

「ルッツさんも……いつか、そうなるのですか?」

 

 

 

「はい。僕も今は知識を詰め込んでいる段階ですが、あと一年か二年で修行者になります。その時には僕の修練の相手としてポーターさんの前に立つことになるかもしれません」

 

 

 

ルッツの声に下卑た響きはなかったが、その真っ直ぐな瞳には逃れられない未来への覚悟が宿っていた。

 

 

 

「…怖がらせてしまいましたか? ですが、安心してください。練習の後はまたこうして普通の使用人としての生活が待っています。ここ修練の街には僕たちの母親や姉たち…イスタールの女性はいません。彼女たちは本国で大切に守られて暮らしていますから。この街にいるの、僕たちのような修行の身の男と、そして役目を終えて引退した元奴隷の女性たちだけです」

 

 

 

「引退した人たちがこの街に?」

 

 

 

「ええ。彼女たちは自由の身になった後もイスタール以上に安全に暮らせる場所はないと知って自らこの街に残る方も多いんです。宿屋や商店で働いている女性たちの多くがそうですよ。明日、買い物に行く時に見かけるかもしれません。彼女たちの穏やかな表情を見れば、僕たちが嘘を言っていないと分かってもらえるはずです」

 

 

 

ポーターは、ルッツの話を噛み締めるように聞いていた。

 

自分を救い出し、一人の人間として扱う一方でその能力を磨くためのただの「道具」として身体を求める。

 

それはあまりに歪で、けれど暴力のみに支配されていた以前の生活に比べればあまりに清潔で甘美な「檻」に思えた。

 

 

 

「…詳しく教えてくれてありがとうございますルッツさん。少しだけ明日の覚悟ができた気がします」

 

 

 

「いいえ。僕にできるのはこうして事実を伝えることだけですから。…ではゆっくり休んでください。おやすみなさいポーターさん」

 

 

 

ルッツは一礼して静かに部屋を去っていった。

 

一人残された部屋でポーターは自分の胸に手を当てる。

 

ドクドクと刻まれる鼓動。それは未知の不安と「悦び」という名の刃を待つ獲物の震えのようだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。