夢のようなアルバイト 作:倉羅
「!??」
潤の思考が真っ白に染まった。視線の先にいたのは、間違いなく彼が仕えることになる『主』たちだった。
豪奢な椅子に腰を下ろす三人の女性。その傍らには、すべてを統括する威厳を纏った執事長の男と、一歩引いた位置で控えるメイド長。静謐な空気の中に、どこか緊張感が漂う顔合わせが始まった。
「では、最初にお嬢様方を紹介しますね」
メイド長の声に、潤は「はい!」と背筋を伸ばして応じる。
「あぁ、その前に。あちらに立っていらっしゃるのが、執事長の高橋(たかはし)哲也(てつや)さんです」
「……よろしく」
短く、重みのある挨拶。哲也と紹介された男は、恐らく五十代から六十代といったところだろうか。年季の入った隙のない立ち居振る舞いからは、こちらを射抜くような鋭い威圧感が放たれている。
(うわぁ、めちゃくちゃ厳しそうなおじさんだ……。この視線、ただ者じゃないぞ)
潤は内心で冷や汗をかきながらも、「よろしくお願いします!」と精一杯の誠意を込めて頭を下げた。続いて、メイド長の細い指先が左側に座る女性へと向けられる。
「そして、左から順に。長女の月島(つきしま)玲唖(れいあ)お嬢様です」
「ふふっ、よろしくお願いしますね♪」
鈴を転がすような、艶やかな声。潤は一瞬、息をするのを忘れた。
(何歳だろう。二十歳前後かな……? っていうか、この三姉妹、綺麗すぎて直視できない……)
玲唖は、身長百六十五センチほど。明るい茶髪のロングヘアーは、毛先にかけて柔らかなウェーブを描き、彼女の動くたびに甘い香りが漂ってきそうだ。
何より目を引くのは、左目の泣きぼくろ。それが彼女の美貌にどこか危うい色気を添えている。豊かな胸の曲線も相まって、その姿はあまりにも浮世離れした「完璧な美人」そのものだった。
潤の心臓は、すでに早鐘を打ち始めていた。
「よろしくお願いします!」
潤が勢いよく、深々とお辞儀をすると、長女の玲唖は「ふふっ」と花が綻ぶような笑みを返してくれた。その柔らかな反応に、潤の緊張も少しだけ和らぐ。
「真ん中にいるのが、次女の綾芽(あやめ)お嬢様です」
メイド長の紹介に、潤は視線を隣へと移した。
そこにいたのは、艶やかな漆黒のストレートヘアを腰まで伸ばした少女だった。
「……」
綾芽は何も語らず、ただ鋭い眼光でじっと潤を見据えている。射抜くようなその瞳に、潤は思わず背筋に冷たいものが走った。
身長は百六十センチほどだろうか。十六歳前後と思わしきその肢体は、姉の玲唖に比べればまだ幼さを残しているものの、凛とした気品に溢れている。
「よ、よろしくお願いします……っ」
潤が気圧されながらも挨拶を絞り出すと、綾芽は露骨に視線を逸らし、「プイッ」と横を向いてしまった。
(えぇ……。初っぱなから嫌われてるのか、俺?)
目に見える拒絶に潤が心中で涙していると、隣から玲唖がたしなめるような声を出す。
「綾芽、無視はダメよ」
「……どうせすぐに辞めるんだから、挨拶してもしなくても同じだろ。ましてや、今日の面接で落ちるかもしれないんだし」
吐き捨てられた冷淡な言葉が、潤の胸に突き刺さる。フォローするように玲唖が苦笑いを浮かべた。
「いつもこうですから、あまり気にしないでくださいね」
「あ、はい……っ!」
気を取り直すように、メイド長が最後の一人を紹介する。
「最後に、綾芽お嬢様の隣にいらっしゃるのが、三女の葉瑠(はる)お嬢様です」
「よろしくお願いします!」
「……ぺこ」
葉瑠と呼ばれた少女は、小さく会釈をした。
ふんわりとしたショートヘアーが可愛らしく、身長は百五十五センチほど。まだ身体の起伏も少なく、あどけなさが残る様子からして、年齢は十三歳くらいだろうか。
三者三様の、眩いほどの美少女たち。
(後でメイド長さんに詳しく聞いてみよう。……まぁ、受かったらの話だけどな)
期待と不安、そして綾芽の放った毒に翻弄されながら、潤の運命を決める面接はさらなる深部へと進んでいく。