PM 6:12。
「「いただきます」」
目の前で美味しそうに箸を進める澪を見て、俺は胸をなでおろした。
「美味しいわー。寒い日のおでんは最高ね」
「最高だなー」
ふと、食べている彼女の姿に違和感を覚えた。
「澪、随分尻尾の毛が抜けてない?」
「生え変わりよ」
「そうか、今年は遅いな」
「去年いつ生え変わったか覚えてるの?」
「11月中旬」
「よく覚えてるわね」
「おう」
そんな他愛もない会話を交わしていると、スマートフォンの着信音が部屋に響いた。
Prrr...
「……はい?」
「朝はお疲れ」
電話の主は義宗だった。
「あいよー」
「次の仕事が入ったんだが、勇也と大地が片付けるという事で明日は休みだ」
「わかったー。里奈ちゃん大丈夫? 随分頑張ってたけど……」
「さっきぐっすり寝てたから大丈夫だろう。お前らもゆっくり休めよ」
「了解」
「じゃ、またな」
「うーい」
ピッ……。
電話を切り、俺は予期せぬ休日の知らせを反芻した。明日は一日、澪とゆっくり過ごせそうだ。
「明日一日フリーになった」
陽がそう切り出すと、澪は「良いわねぇ」と相槌を打った。
「どっか行く?」
「こたつでのんびりしたいわ」
「まぁ寒いしな、まったりすっか」
「さんせー」
そんな会話を交わしてから、二人は吸い込まれるようにこたつへと潜り込んだ。
午後九時四十二分。
部屋にはテレビから流れるグルメ番組の賑やかな音だけが響いている。画面には、器から溢れんばかりの山盛り料理が映し出されていた。
「すげー大盛り」
「気持ち悪……」
「見た目もヤバいな」
「もたれそー」
「だな」
そんなやり取りをしていた時、陽の脳裏に直接、里奈の囁きが届いた。彼女が持つ特殊能力――一度顔を見た相手であれば、どれだけ離れていても心に直接語りかけることができる「通信(テレパシー)」だ。
《陽さん、聞こえますか?》
陽は思考を研ぎ澄ませ、心の声で返事をする。
《はいよー》
《寝てましたか?》
《寝てないよー、里奈ちゃんはよく寝たかい?》
《え。……よく寝ました……///》
里奈の照れたような気配が伝わってくる。陽は小さく口角を上げた。
《ふふ、どうしたの?》
《なんか澪さんとケンカ?してる感じだったので……、大丈夫ですか?》
彼女なりの気遣いなのだろう。陽は隣でテレビを眺める澪の様子を確認しながら、優しく念じた。
《あぁごめんね。でもすっかり機嫌良くなったよ、大丈夫だよー》
《そうですか、良かった……》
《ありがとうね》
《いえいえ、では明日ゆっくりお休み下さい》
《はーい》
そこで囁きは途絶える。