テレビの液晶画面の中では、アナウンサーが緊張した面持ちで原稿を読み上げていた。
「今日の午後2時半頃、○○県○○市で女性が謎の変死をするという事件が起きています。又、午後2時~5時の間に近くで3人も同じような変死が相次いでます」
「……」
「変死か」
二人は箸を止め、画面を注視する。
「調査によりますと、4人の女性の遺体は体内から焼かれ、感電死との話も上がっています」
「女性だけ狙ってんのかな?」
「たまたまじゃないの? 冷めちゃうから陽、手伝って」
「はーい」
どこか現実感のないニュースを遮るように、促されて夕飯を運ぶ。食卓に並んだ料理を前に手を合わせ、いつも通りの夕食が始まった。
「うん、相変わらず美味い」
「そう、良かった」
彼女の得意料理は肉じゃがだ。使っている素材は至って普通のものだが、誰もが一度食べれば虜になる、不思議なほど深い味わいがあった。
だが、その平穏は脳内に響いた鋭い声によって唐突に引き裂かれる。
《陽さん!!》
「ハイっ!」
あまりに突然のテレパシーに、思わず声を出して返事をしてしまう。
「……大丈夫?(汗)」
「里菜ちゃんからテレパシーだ」
傍らで怪訝そうな顔をする彼女に短く応じる。脳内に響く声は、かつてないほど緊迫していた。
《今、殺人犯を見付けて追い掛けてて、陽さん家の横を通りそうなんです!》
一瞬で空気が張り詰め、日常の温度が消えた。
「澪、ライフル!」
「弾は?」
「睡眠」
「了解」
返事と同時に、彼女の身体が淡い光に包まれていく。
つい先ほどまで「美味しい」と笑い合っていた彼女は、その姿を冷徹な鋼鉄の銃器へと変貌させた。
夕飯の香りが残る部屋で、その重みを手に取る。窓の外からは、すぐそこまで非日常の足音が迫っていた。
部屋の灯りを落とし、視界を夜の闇に慣らす。ベランダへと躍り出ると、手に馴染んだ銃身を柵に預け、静かにその時を待った。
《里菜ちゃん、指示よろしくね》
《今公園を通りすぎました、陽さんの家から約70メートルです》
脳内に響く緊迫したガイドに合わせ、意識を研ぎ澄ませる。
「ウチから70メートルね……」
「……何事? ニュースの奴?」
銃身となった彼女の低い声が、わずかな振動と共に伝わってくる。
「あぁ、そろそろ……見えた!」
《確認できましたか?》
《できたよ、ウチを通りすぎたら撃つね》
《了解しました》
闇を裂き、不穏な影がアスファルトを駆けてくる。標的が家の真下を通り過ぎた――その刹那、意識を指先に集中させた。
――ダァン!!
乾いた発射音が夜の静寂を切り裂く。睡眠弾は吸い込まれるように、奴の背中目掛けて一直線に突き進んでいった。必中。そう確信したはずだった。
「!?」
だが、完璧な弾道とは裏腹に、確かな手応えが指先に返ってこない。まるで幽霊を撃ったかのような、奇妙な空虚感。
「陽」
「ハッ!」
傍らで震える彼女の声に、我に返る。
すぐさまリロードを試みたが、時すでに遅い。殺人犯の影は、嘲笑うかのように暗闇の奥へと消え去っていた。