「うぃー!!」
嵐のような勢いで部屋に飛び込んできたのは、鈴木(すずき)勇也(ゆうや)だ。お調子者で自分勝手な振る舞いも目立つが、誰よりも仲間を大切にする、根っからの「良い奴」である。
「おぅ、お疲れー」
陽が気の抜けた声で応じると、義宗が辺りを見回しながら口を開いた。
「大地は?」
「帰ったぞ」
勇也の短い返事を聞くや否や、陽がニヤリと笑ってスマートフォンを手に取る。
「よし、電話掛けてみるわ」
「お、鍋パか!!」
勇也の目が輝く。その背後では、女子たちの華やかな声が響いていた。
「りーなちーん! みおちーん! あたしも作るー!」
声を上げたのは、勇也の護り人である金原(かねはら)京子(きょうこ)だ。彼女もまた勇也に負けず劣らずの元気印。スポーツ万能で、その脚力はグループ随一を誇る。小動物のような可愛らしさを持つ彼女だが、本人は低めの身長と、控えめな胸のボリュームを密かに(いや、かなり)気にしているらしい。
「はいっ!」
里奈が快く応じると、澪が冗談めかして包丁を置こうとする。
「じゃあ、私は京子にパスするわ」
「えーっ、みおちんも作るの!」
「えー……」
澪の気だるげな生返事に、部屋がどっと沸く。そんな中、電話を終えた陽が戻ってきた。
「大地、来ないってー」
「残念ですね……」
里奈が少しだけ眉を下げて残念そうに呟く。しかし、湿っぽい空気を吹き飛ばしたのは、やはり勇也だった。
「なら俺が、大地の分まで食ってやる!」
「ふふ、お願いしますね」
里奈の笑い声に誘われるように、準備は急ピッチで進められた。
やがて完成したのは、具材が山のように盛られた凄まじいボリュームの鍋。立ち上る真っ白な湯気の向こう側で、箸を構えた若者たちの賑やかな宴が始まった。
「ほー……。それで躊躇なく、大地と勇也の二人で突入して奴らを捕まえたわけか」
義宗が感心したように、あるいは呆れたように深い吐息をついた。その視線の先で、勇也はどこか誇らしげに、それでいて気だるそうに身を投げ出している。
「疲れたわ。……ほら、ここ切られたし」
勇也が捲り上げた右の肘には、鋭い刃物で裂かれたような切り傷が残っていた。激しい立ち回りの一瞬を物語るその痕跡に、周囲の空気がわずかに緊張する。
「蓮華ちゃんがいなければ、今ごろ凄いことになってたんだよ……?」
傍らにいた京子が、今にも泣き出しそうな瞳で勇也を見つめた。彼女の言う通り、もし護り人の力が、そして蓮華の助けがなければ、ただの掠り傷では済まなかったはずだ。
「ごめんな、心配させて」
「ほんと、気をつけてよね……」
勇也の率直な謝罪に、京子は小さく、けれど強く釘を刺す。この男の無鉄砲さに呆れつつも、無事であったことへの安堵がその声には滲んでいた。
俺たちは、舞い込む相談を何でも解決する「よろず屋」を営んでいる。
普段の仕事といえば、お婆ちゃんの大切な花瓶を運んだり、溜まりに溜まった汚れを掃除したり、時には泣きじゃくる子供の子守をしたりと、長閑で平和なものばかりだ。
しかし、ごく稀に「警察」から特殊な依頼が舞い込むことがある。今回のような、一般人の手には負えない凶悪犯の確保だ。
この国は、一見すれば穏やかで平和な時間が流れているように見える。
だがその陰では、「護り人」という特殊な力を悪用し、法を嘲笑う連中も少なくない。そんな街の闇に立ち向かい、日常を守ること。それもまた、よろず屋である俺たちの、もう一つの顔だった。