※この作品はR-18です。

護り人   作:倉羅

9 / 17
寄り道の理由

 

 

「ここですね」

 

 

里奈が足を止めた先には、圧倒されるほど巨大な門がそびえ立っていた。見上げるような石壁の威圧感に、陽は思わず声を漏らす。

 

 

「うわ、でかっ……」

 

 

呼び出しのチャイムを鳴らすと、間を置かずインターホン越しに快活な声が返ってきた。

 

 

『はい』

 

「よろず屋の鏡音です」

 

『あぁはいはい! どうぞ中へ!』

 

 

重厚な門がゆっくりと開かれ、一行を邸宅へと招き入れる。しかし、陽の背中を流れる汗は止まらない。隣を歩く澪から放たれる空気が、今は刃物のように鋭く研ぎ澄まされていた。

 

 

「……澪?」

 

「なに」

 

 

陽が恐る恐る声をかける。いつもなら包み込むような余裕を見せる彼女の瞳には、今は一欠片の温度も宿っていない。

 

 

「悪かったよ。いつもは怒らないのに、なんで今日はそんなに不機嫌なんだ?」

 

「怒ってないわよ」

 

 

短く、突き放すような拒絶。余計な言葉を一切許さないその響きに、陽はそれ以上言葉を続けることができなかった。板挟みになった里奈は、冷や汗を流しながら二人を交互に見つめる。

 

 

「……? 汗」

 

「あぁ、里奈ちゃんごめんね」

 

「い、いえ……」

 

「里奈、行くわよ」

 

 

澪は陽を見ようともせず、里奈を促して歩き出した。

その後始まった作業は難航を極め、時計の針は無情にも正午を指していた。

 

 

「陽さん、朝から休憩無しなのですから、少し休んでください」

 

 

里奈の気遣いに、陽は強がって笑みを浮かべて見せる。

 

 

「大丈夫だよ、これくらい!」

 

「休め。」

 

 

澪の声が低く、重く響いた。感情を押し殺したようなその響きには、逆らうことを本能が拒否するほどの重圧がある。

 

 

「……は、はい」

 

(怒ってる時の澪は、マジでおっかないな……)

 

 

陽は大人しく引き下がり、主人が用意してくれた椅子に腰を下ろして温かい紅茶を啜る。

 

 

「なに女子に任せて休んでんだよ」

 

「手伝いに来ました」

 

 

不意に聞き慣れた声が響き、陽は弾かれたように顔を上げた。

 

 

「おー! 大地と蓮華!」

 

 

そこに立っていたのは、屈強な体格に似合わず甘いものを好む気さくな堀口(ほりぐち)大地(だいち)と、一行の命を繋ぎ止めてきた専属医師、織部(おりべ)蓮華(れんげ)だった。彼女の腕がなければ、自分たちは何度死に直面した事か。優秀な医師の登場は、停滞していた空気を一気に塗り替えていった。

 

 

「陽さんは朝から休まずずっと作業してたので、休ませてるんです」

 

 

里奈がそう言って気遣ってくれたタイミングで、大地が顔を出した。

 

 

「なるほど。三人とも休んでな、これは義宗からの差し入れだ」

 

 

手渡された袋の中を覗くと、そこには美味しそうな弁当が入っていた。

 

 

「ありがたやー!」

 

「……じゃあ、少し休みましょうか」

 

「そうね」

 

 

里奈と澪の言葉に甘えて、俺たちは一息つくことにした。義宗からの差し入れでしっかりとエネルギーを補給したおかげで、その後の作業は驚くほど捗り、午後3時には全ての仕事を終わらせることができた。

 

 

「それでは、私は事務所に戻りますね」

 

 

里奈が丁寧に会釈をしてその場を離れる。

 

 

「蓮華、俺らも事務所行くか」

 

「うん」

 

 

大地が蓮華を促し、ふとこちらを振り返った。

 

 

「陽たちはどうする?」

 

「……」

 

 

俺は隣にいる澪の顔をじっと見つめる。

 

 

「んー……すまん、今日は帰るわ。次の仕事が決まったら連絡してくれ」

 

「ほう、珍しいな。了解したー」

 

 

仲間たちと別れ、俺は澪と二人きりで静かな帰り道を歩き出した。

 

 

「疲れたなー」

 

「そうね」

 

「寒くない?」

 

「寒くない」

 

 

些細な会話で彼女の様子を窺うが、やはり機嫌が悪そうだ。

 

 

「あぁ、夕飯買わないと。そこ寄って良い?」

 

「家にあるもので良いじゃない」

 

「まぁそう言わずに」

 

 

嫌そうな顔をする彼女の背中を優しく押し、俺たちは夕暮れ時のスーパーへと足を踏み入れた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。