※この作品はR-18です。

ようこそ実力至上主義の社会へ   作:〇彪

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2-7 エピローグ

 

 ───軽井沢の担当先への同行訪問から1週間が経った。

 

 <4月4週目の月曜>

 

 午前9時

 

 俺は約束の時間にこの場所に来た。

 大した用事ではない、先週、会社で売買契約が完了した外食チェーン店の筆頭株主兼監査役に就任したからだ。

 日本最大の飲食チェーンの株式所有の50%という破格の投資。

 しめて400億円の出費。

 

 きっかけは最近電話をくれたある人からのある報告だ。

 

 東京の都心部から少し離れた、とは言え家から車で15分程の距離の所有物件の入口に車を停める。

 今回の案件は俺が担当すると櫛田達に良い、少し長い出張を依頼していた堀北を呼び戻し早々に買収を決めたのだ。

 M&Aに出ている様な案件ではない優良企業のオーナー権限を金の力で奪い取った。

 

 今日出勤すると伝えていたからだろうか、入口には50代を超えるスーツの男性がおよそ30名。

 俺の歩く道で神妙な顔で立っていた。

 車はどこに置けばいいですか?などと聞けるような雰囲気ではない。

 俺が車を降りたら元気の良い挨拶が返って来たからだ。

 

 会社の人間だし、敷地内に停めておけば良いか。

 

 そんな事を思いながら深々と頭を下げる人たちに一瞥もせずに、最上階の社長室を目指す。

 今日はこの会社の雇われ社長に、オーナーとして話があるのだ。

 助手席に座っていた堀北を添えてカツカツと所有ビルの中に入っていく。

 元気よく挨拶してくる50代くらいスーツの男性を見て、サラリーマンも大変だなと思いながら入口へ向かうと、同じく50代くらいのスーツの男性が声をかけてくる。

 俺は気にするそぶりをせずに自動ドアを通ろうかと思ったが声をかけられる。

 

「綾小路さまッ!!ご案内させていただきますッ!」

 

 見ると体格の良い60代位の男性。

 顔写真を見たことがあるし、オンライン会議で一度顔を見ていた。

 彼は雇われ社長だ。

 

 しかし、俺は無視する。

 これはパフォーマンスなのだ。

 後ろにいる堀北から、後でダメ出しが来るのは間違いないが、今回の俺の対応を見て、俺に案件を任せてはいけない事を知るだろう。

 ある程度かき回したら堀北辺りに任せようと思っている会社だ。

 そもそもオーナーの出来ることなど知られている。

 株の配当を増やせというくらいの物。

 しかし監査役ともなれば話は別だ。

 

 無視しても付いてくるおっさんに、先に歩くよう促し、エレベータの操作を任せる。

 道中、スーツ姿の社員達にも同じように元気に挨拶をされた。

 

 一番景色の良い最上階の、最奥に案内される。

 社長室の受付にも興味はない。

 俺の興味関心は一つだけなのだ。

 俺は言われるがまま、社長室に通され、大きいデスクとふかふかのイスが配置される社長席へ案内され、座る。

 すかさず要望していた紙を持って来るのは雇われ社長。

 

「こちら、短期計画書のデータです…!ご確認ください」

 

 デスクに置かれた紙を俺は受け取る事はなく、目で堀北へ合図すると堀北は資料に手を出した。

 数分間、堀北は紙を読み、そして俺の方に目を向けてきた。

 

「堀北、この会社を任せても良いか」

 

「…ええ。そうだと思っていたわ」

 

 そして彼女はデスクの前で深々と頭を下げる社長に目を向ける。

 

「K・Aの堀北です。よろしくお願いします」

 

「はッ!!なにとぞ、よろしくお願い申し上げますッ!!」

 

「よろしくお願いいたします。こちらの要望は週ごとの数値報告です。伝わっておりますか?」

 

 敢えて堀北も俺の態度を見てからか、普段よりも素っ気ない態度を取っているのは、これから何をするのかを事前に話しておいたからだろう。

 

「もちろんでございますッ!!」

 

「分かりました。それで、綾小路くん?」

 

「…あぁ」

 

 俺がここに来た要望は一つだけだ。

 堀北にも言っていない事だった。

 だが、一連の流れを知り、言葉少なに連れて来た堀北は、なんとなく察しているだろう。

 

「10時に高田馬場店に視察に行くから役員に準備させろ。入口に車を回しておくように。社長は席を外しても良いが一緒に行く事。そして、ここに物流の責任者を呼べ」

 

 俺は堀北に指示を出し、堀北は社長に指示を出す。

 せっかく来たのだから日本一の外食チェーン店の物流の話でも聞いてみるか───。

 

 *

 

 先週の火曜日

 

 俺の元へ一通のメッセージが届いた。

 差出人は佐倉愛里。

 届けられたメッセージは2通で、2通目は長文だった。

 

[先日は来てくれてありがとう!忙しい所ごめん。仕事中かな?]

 

[波瑠加ちゃんが、バイト先でセクハラに遭っていて、困っているらしくって。妊娠したかもしれない…。検査もいけない状態らしくて。時間ある時に、相談に乗ってくれないかな?]

 

 ちょうどその頃はアメリカの会社と打ち合わせ中だったが、すぐに返信をした。

 

[分かった。バイト先の情報を教えてもらっても良いか?]

 

[飲食チェーン店の、高田馬場店だよ。急にごめんね。半年前から続いていて、度々相談を受けていたんだけど、先日あったらすごく思い詰めていて。今も近くにいるんだけど、わたしではどうにも出来なくて…]

 

[レイプされたのか?]

 

[うん…動画も撮られていて、脅されているみたい。どうしたら良いかな?]

 

[詳細が知りたい。長谷部は電話出来るか?]

 

 予想以上に大変な事だった様だ。

 

 それから5分後にメッセージが届いた。

 

[大丈夫。今から、夕方の4時までなら一緒にいるから]

 

[会議中だから30分後にこちらから電話する。悪いが佐倉の電話番号を教えてもらえるか?]

 

 すぐに電話番号と、了承の文字が届けられた。

 

 俺はちょうど30分後に佐倉から貰った番号に電話をかけた。

 

 数コールで電話が出た。

 

『……もしもし』

 

 見るからに元気のない声。

 佐倉がトラブルに合った訳じゃないが、二人は親友。

 親友の元気がなければ、元気がなくなる。

 

「綾小路だ、佐倉か?」

 

『うん、そうだよ。わざわざ……ありがとね』

 

「メッセージを見た。近くに長谷部がいるのか?」

 

『うん…。今ベッドで横になってる』

 

「会話出来そうか?難しそうなら、佐倉を介して話をして貰っても問題ない」

 

『…ちょっと、待ってね。確認してみるから』

 

 そうして電話の通信部を手で覆っているのか、くぐもった声が聞こえる。

 電話の向こうで佐倉と長谷部がやり取りとしているのだろう。

 

『大丈夫だって。代わるね』

 

「あぁ」

 

『…きよぽん?』

 

「波瑠加か?」

 

『…そうだよ。久しぶりだね。元気?』

 

「あぁ、俺は元気だ」

 

 暗にお前は元気ではないのか?の意味を持たせる。

 

『…愛里から聞いたと思うけど、きよぽん医者なんだって?妊娠の…検査ってどうしたら良いのかな』

 

 佐倉がなぜ俺に連絡して来たのか。

 その目的を伝えてくる。

 

「流石に知り合いの異性に性的な検査を依頼するのは長谷部も嫌じゃないのか?」

 

『…そうなんだけど、いろいろ事情があって…』

 

「良かったら教えてもらえるか?」

 

 そこから話されたのはお金にまつわる現実的な話だった。

 

 

 長谷部は今両親を頼ることが出来ない状態。

 大学の費用こそ免除ではあるものの、家賃や生活費を全てアルバイト代で賄っているとの事。

 両親を頼ることが出来ないため、社会保険に入っておらず、国民健康保険に加入している。

 月額1万円程。

 そして、東京都内の大学のため家賃が8万円…つまり、国民健康保険を滞納しており、スマホ代や水道光熱費も先月の分が支払えていないといった内容。

 そのため、妊娠検査は3割負担にはならず、10割負担となると結構な金額になる。

 ただでさえ家計を圧迫しているのに、追い打ちをかけてしまっている。

 

『…言いづらいんだけど…先月、愛里からも、明人からもお金を借りてて、それでも悪いからアルバイトしないといけないんだけど、半年くらい前かなぁ。大学の用事で遅刻して行ったことがあったんだ。そこから店長の様子が変わっちゃって…』

 

「…どういう風に変わったんだ?」

 

『もともとその…エロい目で見てくる様な店長だったんだ。知ってるでしょ?私がそういう視線を嫌いなの。でも、親を頼ることも出来ないからしっかりしなきゃって思って、時給は悪くないからやってたんだけど、なんというか…露骨になってきちゃって』

 

「露骨?」

 

『そう。月に一度は飲み会に連れてってくれるような店長だったの。私もこういう性格をしているからさ。下ネタも完全に拒否しないで、笑って流せるようにしてたんだけど、長谷部って処女か?って聞かれて、そうですけど…?って返事してから、徐々に下ネタを振られるようになってきて。一度も遅刻した事なかったんだけど、一度遅刻してから弱みを握ったみたいに、激しくなっちゃって…。先月、店長たちと飲みに行ったの。今年20歳になるし、私も店長からの圧力で断り切れなくて、お酒を飲んだんだよね』

 

 そこで俺は一度話を打ち切る。

 あまりにも生々しい話。

 

「まて、大学1年になってからアルバイトを始めて、半年前からプライベートに踏み込むようになってきて、先月事件が起きた。という事であっているか?」

 

『…うん』

 

 日付のすり合わせが出来た俺は続きを促した。

 

『寝て起きたら、店長の部屋にいたの。言い合いになって…私が同意したところ、動画を撮ってるから警察に行っても無駄だ。会社に報告したらばら撒くって言われて』

 

『私もお店に何度も行っているから知ってる。店長と、社員がもう一人。私も店長の家知ってる』

 

 話の証人というのか、愛里も入って来る。

 スピーカーモードにはなっていないだろうが、非常に近い場所で二人で聞いているのだろう。

 俺は話の内容を整理しつつ、対応策を考える。

 

『きよぽん…私、どうすれば良いかな。ごめんね、巻き込んじゃって。それでも、親とは疎遠になってるし、明人にも愛里にも、啓誠にだって…迷惑かけちゃって…』

 

 電話口で波瑠加が泣いているのが分かる。

 

『…死ぬしかないのかな…』

 

『波瑠加ちゃんッ…』

 

 感情的になっている二人に対して、俺はあえて淡々と対応をすることを決める。

 

「死んでも何も変わらない。波瑠加、お前は今、何がしたい?レイプをされた事実、恥ずかしい所を撮影された事実、妊娠しているかしていないか、確信を持って言えることはあるか?」

 

 話を聞いたうえで、確定している事をお互いに擦り合わせ合う。

 不確定要素も含めて全てごちゃまぜに報告されたにすぎない。

 

「言い辛い事もあるだろうけど、俺は医者だ。安心して答えろ。店長とやらの部屋に行って、起きたときに下腹部に異常があったのか?」

 

『…うん、痛みがあって、出血してた…。でも、分かんない。何か道具?のようなものを入れられたのか、実際にレイプされたのか。私多分睡眠薬みたいなもので眠らされていたと思うから』

 

「そうか。俺も聞きづらい事を承知で聞くんだが、生理との周期は?」

 

『生理の周期はまだまだだったから…それに毎月同じ日に来るくらいだったのに、この件があってから生理が2か月くらい来ていないの』

 

「…そうか」

 

 そこで俺は話を別の方向へシフトする。

 

「愛里の話だと、もう一人社員がいたというが、ソイツの可能性はあるか?」

 

『…分かんない』

 

「そうだ。まだ分かんないんだ。気休めかもしれないが、レイプされていない可能性もある」

 

『…そうだね。明人に、申し訳が立たないよ…』

 

「三宅は元気でやっているか?」

 

『うん、同じ大学で、いつも一緒にいたんだけど…ちょっと距離置いちゃってる』

 

 同じ高校1年生の同級生。

 綾小路グループのメンバー。

 

「三宅は好きか?」

 

『…もちろん好きだよ』

 

「聞いてみた感じ、三宅に今回の件は言ってないんだよな?」

 

『…さすがに後ろめたくって』

 

「そうか。なら、三宅に今の話をするところから始めないといけない。だが、肝心なところは確定ではないと話すんだ」

 

『…うん、分かったよ』

 

「それから、アルバイトは続けられるのか?」

 

『…正直、すぐ辞める事は難しいと思う。言った通り、カツカツで生活しているから、次のアルバイト先見つかる前に、というか先日の件でアルバイトのシフト入れてないからね。仕事は気に入っているし、常連さんとも仲が良いから続けたいんだけど…』

 

 長谷部の後ろで『そうなんだ…』という愛里の声が聞こえてくる。

 愛里が踏み込んでいない話だったのだろう。

 

「そうか、それなら、残酷な様だが、アルバイトをし始めるしかない。友達から借金もしてるんだ、それを返さないと、今後顔を合わせづらいだろ?」

 

『…うん』

 

「あと、最後に一つだ。ウチの病院から、妊娠検査キットを送る。俺以外の医者が対応する。産婦人科ではないので、少し時間を貰うかもしれないが、返送して貰えたら結果が分かる物だ。これはすぐに手配しよう。電話が終わったら愛里経由で電話番号と住所を送ってくれ」

 

『…分かった。ありがとう』

 

 そこで俺たちは沈黙した。何から始めるのか、何をしなければならないのか、波瑠加に腑に落とさせる。

 

「その代わりと言ってはなんだが、その三つを波瑠加が行ったら、俺が一つ約束をしよう」

 

『…約束?』

 

「お前の店の店長と、社員にはしかるべき処置をすると」

 

『…ふふッ。どうやるのか分からないけど、頼もしいね、きよぽん…』

 

 そこでやっと、長谷部が笑ってくれた。その後愛里に電話を代わり、いくつか頼み事をして電話を切った。

 

 4月4週目 月曜

 

 午前10時

 

 飲食チェーン店の前に3台の車が停められると、ドアが開けられる。

 最後に到着した社長用の運転手付きセンチュリーの後部座席が開けられ、俺と堀北が降りる。

 都心のため駐車場などないため路上でハザードを炊きながら駐停車しているが、用事はすぐ済むため問題はないだろう。

 車の通行の邪魔にはなるだろうが。

 俺たちは店の前に並ぶ役員連中に目で挨拶し、店内に入っていく。

 

 店舗の運営に支障をきたしてはならないので通常営業を行っているが、本日各店舗に視察がある事は伝えているため、十分な社員とアルバイトが配置されていた。

 教育が行き届いている影響だろうが、普段は出さない元気な声が店内に聞こえてくる。

 ちなみに視察は店舗役員のみで行うため、高田馬場店のみ全員で行くが他は一人で視察に回る。

 

 店舗は二階にあるため、階段の横に直立しているスーツ姿の50代男性たちを横目に店内に入っていく。

 背後から堀北が書類を持っている事は確認済みだ。

 店舗の入口で店長と思われる40代の男性を目にする。

 目の前まで行くと声をかけてくる

 

「おはようございますッ!監査役。本日はよろしくお願い申し上げますッ!!」

 

「…あぁ。オーナーが代わったからと言ってあまり気にすることはない。店内を少し見せてもらうが良いだろうか?」

 

 勿論でございます!

 と鼓膜が破れそうな元気な声を受けて、店長アテンドの元、店内に入っていく。

 社長や他の役員は、そんな俺の様子を気にしながら、立地状況や店舗状況などを見ていた。

 視察というのは本来、そういうものなのだろう。

 

 日本最大の飲食チェーン店。

 マーケティングが命。

 どこに何を配置するか。

 高田馬場に建ててあるマンションの1階は流石に賃料が高いのだろうか。

 2階にあるのはどういった理由なのか。

 粗利率はどうか。

 そういった計算をしているのだろう。

 

 店内の社員やアルバイトはただならぬ状況に緊張が走る。

 お偉方が勢ぞろい、普段は呑気な店長もガチガチに緊張している。

 少しでも変な事をしたらクビになるかもしれない。

 些細なミスも許されない。

 規定通りの料理を出す。

 接客マニュアルを昨日読み返したものもいるだろう。

 

 俺は来店客の邪魔にならないように店内を見て回る。

 店長と、その後ろに社長と堀北が付いてくる。

 社長と堀北はボソボソ話している所を見ると、事業の相談をしているのだろう。

 堀北がここのお店に来たことがあるかどうかは分からないが、今後業務を行っていく事に対して関係値は上げておくべきだ。

 

 キッチンの中だろうが何も気にせずに入れるだろうが、一応アルコールと手洗いを行いキッチンを見て回る。

 中の社員一人一人の名札を確認しながら、挨拶を貰う。

 特に仲良くする必要もないため、目で挨拶をし、素知らぬ顔で過ごす。

 俺を見て、そして後ろにいる店長を見て更にキッチンに緊張が走っているのが分かった。

 そういう俺は全く緊張していない。

 俺としては気軽に話しかけられたら面白いと思うが、後ろにいる店長を見る限り声をかけるなと圧力をかけているのが見て取れる。

 挨拶を省略しているのは俺をあまりこの場にとどめたくないだろう状況を察してである。

 それに社員は万単位でいるし、入れ替わりも激しい。

 一人一人にオーナーが気を配る事は不可能だ。

 そして誰か一人を贔屓してもいけない。

 

 前時代的だろうと思うが、何層にも折り重なったヒエラルキーが、俺と現場の間に強烈な重みとなってのしかかる。

 正社員は高卒でもなれるが、本社社員や役員連中は高学歴が揃い踏みなのだ。

 

 店内を自由に歩き回り、社会科見学並みに色々みながら、人も観察する。

 そして、最後にスタッフルームに入ると、同級生がいた。俺は店長と同級生の3人がスタッフルームに入ったことを確認する。

 

 堀北と社長はキッチンで何か話し込んでいた。

 

 目の前に飛び込んできたのは従業員用の制服に身を包んだ長谷部波瑠加だった。

 彼女は深々と礼をしながら挨拶をする。

 事前に監査役が来るから元気に挨拶をするようにとお達しが出ているからだ。

 顔をあげた長谷部は思ったより褐色の良い表情をしていた。

 ある程度、問題が解決したからだろう。

 

「おはようございますッ!!…あれ?きよぽん?」

 

「おぉ、波瑠加。奇遇だな。今日出勤日だったんだな」

 

「…スーツ姿初めて見た…。カッコよ…。それにしても、どうしてここに?私ここでアルバイトしてるんだよね。言ったっけ?」

 

「愛里に聞いた。俺は視察と言うヤツだ」

 

「……えっ??マジ?話についていけないんだけど…まぁ良いや。良かったら今度詳しく教えて」

 

 俺の後ろで驚いた顔でいる店長を見て、話を切り上げようとしてくる。

 

「そうだな、啓誠にも、明人にも会いたい。愛里含めた4人で会う機会なんてあるのか?俺も誘ってくれたら嬉しいんだか」

 

「それなら今度日程合わせよ。なんだか今は別々に会う感じでさ、皆でって少ないかも」

 

「そうか。そういえば三宅とは仲直りしたのか?」

 

「…いろいろありがとね。うん、仲直りしたよ。っていうか、ごめん。敬語使うべきだったよね。きよぽん、偉いんでしょ?」

 

 社員であれば気を遣っていただろうが、気軽なアルバイトであり、同級生なのだ。

 

「気にしなくて結構だ。いつも通り接してくれ、しかも俺はオーナー会社の代表だが、この会社の担当は別のヤツを付けたからな。敬うならソイツを敬うべきだ」

 

「ふぅ~ん。まぁ良いや。時間取らせてごめんね…。店長、おはようございます!」

 

 長谷部が元気に店長へ挨拶をする。

 事情を知っている俺から見ると、カラ元気に見えた。

 実際にそうなのだろう。

 長谷部が店長を見る目が、一瞬泳いでいた。

 

「おはよう、は、長谷部さん…その、オーナーと…お知り合いですか?」

 

「あ、はい、同級生なんです」

 

「お久しぶりね、長谷部さん」

 

「堀北さん!!おーお久しぶり!!」

 

 後ろでは店長と社長は驚いて俺たちのやり取りを見る。

 スタッフルームに堀北と社長が入って来たからか、人口密度が多くなってしまった。

 あまり滞在していてはダメだな。

 そう思い、俺はスタッフルームを出ていこうとする。

 

「───あ、そうそう、波瑠加」

 

「ん?」

 

「例の件だが、お前が言っていたもう一人の社員の名前は??」

 

 そういった時の店長の顔が急に青ざめてくる。

 が、逃げ出すそぶりはない。

 これも教育のたまものなのだろう。

 そして言い辛そうに、名前を教えてくれる。

 

「…えーっと、──さん…」

 

「分かった」

 

 俺はキッチンにいた一人の男性社員を思い浮かべ、堀北に向き直り、伝える。

 

「堀北。事前に渡したファイルに書いてあるだろうが、やはりこの店舗で個人情報流出の可能性がある。店長と、さっき波瑠加が言った社員の二名だ。会社の情報が個人のスマホやPCに入っていたら大変な事になる。不祥事はおこしてはならない」

 

「まぁ!それは大変ね。よくある事だけど、会社の情報流出はチェックしなければならないわね」

 

「あぁ、この店舗で契約している監視カメラのチェックと並行し、該当社員は今から本社へ移動しチェックを受けさせろ。さすがに会社の社員だとしても端末を第三者が触る事は出来ないからな。だが中身は必ず一緒に確認するようにしてくれ。その間は別の店舗から助っ人が来るはずだ。実務はないが、規定通り出勤で問題はない。これは就業規則にも記載のある会社の正当な権利だ。今から二人は個人端末に触る事は許さない。そして、家の調査も忘れるな。二人からカギを回収し、三日間、調査するんだ。三日分の食費と宿泊費、そして就業規則にある通り、上限の規定はあるが洋服や薬代、病院代を支給するように。そしてしつこいが携帯会社とプロバイダに連絡して過去の履歴を追う事も忘れるな」

 

 そういって堀北と社長へ目くばせをする。

 

 実は、就業規則は先週変わった。毎年変わっているが、コンプライアンスが厳しくなり文言が増えたのだ。それに俺は一つの文を付け足した。

 

 業務の秩序を乱す可能性があると判断された社員は、会社は正当な目的を提示し内容を精査する事が出来る。

 

 人権、労働基準法スレスレの文章を、社内規定によって可能にする。

 堀北は「分かったわ」と言って、社長の方を見る。そうすると社長も頷く。そして社長が一言店長に伝えた。

 

「疑っていない訳じゃないんだが、店長。良いね?」

 

「は…はぃ…」

 

 うなだれる店長、そして、キッチンにいた社員も同時刻に別の役員に抑えられると、車に乗せられた。

 残っている個人用の衣服や端末を、ロッカーから段ボールに入れられる。

 

 青ざめた表情で淡々と他の役員ともども雑務を行う社長と役員の前で更に堀北に向けて言った。

 

「全く。警察や公安に嗅ぎつけられなくて良かったな。端末のデータも全てクラウドにして…コンプライアンス違反のあるものは削除してくれ。そして二人の異動を命じる」

 

「分かったわ。監査役として、しっかり務めを果たさせてもらう」

 

「あぁ、法律知識に長けたお前だ。信用してなくはない…」

 

「あら?なんか変な言葉ね。『信用している』で良いんじゃないの?」

 

「そうだな…。信用している」

 

 後は堀北から話を聞けばいいだろうが、堀北の背後に座っている長谷部の連絡先を伝えておいた方がいいだろう。

 

「私は今から二人の監査に入るわ。また夕方迎えに来てくれる?」

 

 俺は了承する。見ると長谷部がポカンとした表情でこちらを見ていた。

 彼女は10時半のランチ準備からのシフトなのだろう、まだ多少の時間はあるのだろうが、今までお偉方のトップとして恐縮していた社長に指示する堀北、堀北に指示する俺を見て訳が分かっていない状態だ。

 

 

 ちなみに、数日前、長谷部は生理が来た様だ。

 愛里がそれとなく伝えてくれた。

 

 

 後の問題は、実際に行為があったかなかったか、それと動画の撮影があったかなかったか。

 

 既に堀北に渡した書類に記載をしている。

 

 堀北と別れ、俺は店舗を後にし、車のある本社まで送るセンチュリーの中で愛里にメッセージを送る。

 

 引用返信というヤツだ。

 

 そもそも愛里とはメッセージで頻繁にやり取りを行っていないので、すぐ遡れた。

 

 先週の火曜日まで遡り、[相談に乗って]という文章に、返信する。

 

 

 [完了]

 

 と───。

 

 

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