1
フランスにて。
櫛田発案のヨーロッパ1週間巡り。
総勢9名の社員旅行(?)。
櫛田、堀北、軽井沢、松下、佐藤、一之瀬、網倉、白波、姫野
基本的に全員で移動するが、櫛田の采配で3班に分かれる。
1班 櫛田、堀北
2班 軽井沢、佐藤、松下
3班 一之瀬、網倉、白波、姫野
「結局、高校の時の仲良しグループで固まっちゃったね」
と佐藤。
「1班大丈夫かな……網倉ちゃんとか、姫野さんとか、調整役いた方良くない?」
と軽井沢。
──なんでこんなことになったのか。
櫛田は満喫したかった。
実は二人で来たかった。
何かしらの理由付けをして、日本から離れた場所に行きたかった。
なぜなら、行く土台を作ってしまったからだ。
厳密に言うと、作れる人とたまたま同級生だったという天国の様な今の状態、フランスにある良さげな会社を買うとでも言って、綾小路を説得しようと思えば出来た。
というか、そのつもりだった。
始めに綾小路を誘ったが、普通に断られた。
コーヒー飲む?今はいらないかな。そんな断られ方だった。
視察に行きたいんだけど、一緒に行かない?と、そのレベルだった。
まさか断られるとは思わないだろ?
そう、私の本性はこうなのだ。
まさか……まさか……こんな可愛い私のお願い、淹れたコーヒーを飲まないヤツなどいるわけない。
まぁ良い。
問題はそこからだ。
綾小路くんが行かないなら私も日本にいよっと。そんな風に思った翌日。
綾小路が朝食で皆がいる前で言ったのだ。
「櫛田がフランスの視察に行くって言うんだが、誰か着いて行ってくれないか?写真とか撮るみたいで」
いつもは自由奔放、もとい、放任主義の金だけ出す社長の癖に、こういう時だけそれっぽい事をしやがる。
「フランス?なぜフランスなんだ?」
と、いつのまにか一緒に朝食を取る神崎が聞く。
こいつはいつの間にか綾小路の側近ポジに収まっていた。
女子の多いこの空間に、男子がいるのが心地よいのか、綾小路の財布も緩いらしい。
元来、上昇志向の強い神崎は、綾小路から吸収して知人のIT企業をぐいぐいと伸ばしていた。
「エッフェル塔を見たくてさ」
そんな阿呆みたいなことをいったのを覚えている。
返答としては間違っていないだろう。
綾小路くんは会社の情報を出すことを嫌がる。
神崎くんだろうと例外はない。
アイツに変な誤魔化しは通用しないから、それならはなっから重要なところ以外は、適当な方が良い。
会社の方針を知られないためだ。
するとどうだろう。
「あら、良いわね。貴方が持ってくれるのよね?」
と聞くのは堀北だ。
コイツは最近眼鏡をかけ、地味を装っているが、私は知っている。
毎日髪のセットに、すぐ近くのちょっと高級な美容室に行っている事を。
セットしている事がバレない様なオーダーをし、更に給料で脱毛サロンに通い始めた事に。
「あ、はいはい!あたしも行きたい!」
「ちょっと……良いの?」
綾小路が了解するまもなく、佐藤さんが手を挙げ、満更でもなさそうな松下さんまでもが取り込まれる。
「それじゃ、一之瀬さんにも声かけないとね、だよね?清隆」
私の見立てでは、軽井沢恵と綾小路清隆はエッチはしていない。
仲直り、というか、なぜ綾小路が軽井沢を手元に置いているか分からないが、エッチをしたのであれば、軽井沢の態度に出る。
それでも、過去エッチをしたことがあったという関係が、今は彼氏彼女の関係ではなくとも、特別な人間関係として映る。
それはまるで、南雲先輩と朝比奈先輩のような、そんな間柄だった。
勿論、一個上の先輩方の肉体関係など考えるつもりもないが。
「あぁ、問題ない」
「お金が余って余ってしょうがないって感じだもんね~!あ、でも変な事に使ったらダメだからね、清隆には言わなきゃ分からないと思うからいうけど、キャバクラとかクラブとか、ラウンジとか、他の社長連中に誘われても行っちゃダメだよ、ね?」
「なんでダメなのかは分からないが、心配するな。行くつもりはないからな。無駄な金は使わない。約束しよう」
分かってなさそうな綾小路はおいておいても、彼女面をする軽井沢さんに少しイラっとしつつ軽井沢が取り持つ。
軽井沢はそもそも行くなと言っているが、綾小路はお金を使わないと返答した。
綾小路はニュアンスは伝わっているのだろうが、嘘をつかないためにそう返答したんだろうと推測が出来る。
佐藤さんも松下さんも、会社に休んで良いと言われたらしい。
アルバイト代は振り込むからという事で、毎月扶養控除の範囲内が自動的に振り込まれると言っていた。
4月の買い物でそれだけ莫大な利益を会社にもたらしたのだと分かる。
軽井沢さんが、釘を刺すのは先日一緒に行ったブランドの会社での出来事が起因してそうね。
ま、綾小路くんがカッコいいのは間違いない事だし、会社も落ち着いていて遊びに行っても良いのは確かだから、私はOKした。
2
でも、綾小路くん、アッチの方は堅実だ。
一度肉体関係を持ってからというもの、何度か部屋に入って来るのを期待したが、一度も入ってこなかった。
一之瀬とヤったのも、正味分からない。
本当にBくらいで済ませた可能性も高い。
一緒に南国に旅行に行く。ホテルが別なのは相応の配慮なのだろうが、一之瀬は綾小路に手を出されたとて嫌がらないのは明白だ。
フランス旅行で明確にすべき事案かもしれない。
先日の情事を思い出すと今でもモジモジしてしまう。
私も人並みの女なのだと思った。
「はッ…!」
「何かしら…?」
しかし隣の女、お前はダメ。
怪訝な目を向けて来る女、堀北鈴音。
同じ中学出身、同じ高校、同じ会社。別の大学であることが幸いだ。
綾小路への嫌がらせとして一番高い席を予約し、端から端の、それでも会話が出来る距離にいる堀北に目を向ける。
ヤツはフランス語入門と書かれた本を手に、キャビンアテンダントの接客を受けていた。
芋くさい女。
でも、勝ったのは私だ。
「不思議ね、何か負けた気がするわ」
「堀北が私に勝てた事なんてあった?高2の時の試験も、綾小路くんがいたおかげでしょ?」
高育卒業生は、世間で会話をするときは特別試験の事などをぼやかす形で表現するのが染みついている。
どこで何がバレ、いつ矢面に立たされるか分からないからだ。
「あなた、その話題でいじって来るの何度目?」
「ふんッ……」
「まぁ良いわ。今回は旅行だから、私も目くじらを立てないわ。フランス語の勉強もしたいからね。あなたは綾小路くんから頼まれた仕事があるんでしょう?同じ班として写真撮影手伝うわ」
そう言いながら手元にあったコーヒーを一口啜った。
足元にブランケットをかけ、今日はコンタクトをする堀北を見回す。
「何その余裕…?堀北、あんた綾小路くんとキスでもしたの?」
「……………何を言っているのか、分からないわね」
フリーズした堀北が、ようやっと口にしたのが答えだった。
その後櫛田の激詰めが行われたのは語るまでもないだろう。
3
元一之瀬クラスに、元堀北クラス合同とは言えその隔たりは少ないと言えた。
英語の達者な一之瀬が中心となり、移動中はリーダーの様な役割を担っていたからだ。
それでも白波と姫野は借りて来た猫のように、網倉に付いて回っていたのは言うまでもない。
そんな中でもサバサバとした軽井沢を始めとした2班が交流することにより、気まずさはほとんど無くなっていた。
旅行3日目の夜。
1日目、2日目のフランス
3日目、4日目のドイツ
5日目、6日目のイギリス
3日目のドイツ旅行で泊まったホテル。そのラウンジ。
呼び出された社員達。主犯は櫛田である。
呼び出されたメンバーは櫛田、軽井沢、堀北、一之瀬。
和気あいあいとした話し合い、フランスのどこが良かったかや、イギリスの観光地を楽しむ堀北。
そんな中、櫛田の発言から話し合いはスタートする。
「んじゃ、本題に入ろうか」
「へ?本題?」
「本題に入るまで1時間かかったけど……」
普段はカクテルを飲むが、そこはビールの聖地。
ビールに舌鼓を打つこと1時間。
他のメンツは、ドイツ語が少し話せる松下を中心に近くの店にソーセージを食べに行った模様。
このラウンジでもソーセージが出ており、マスタードと合わせて食べ、ビールを飲み4人は最高の気分であった。
ちなみになんと、ドイツでは保護者同伴であれば14歳からビールを飲むことが出来る。
16歳からビールを。18歳以上であれば全てのアルコール飲酒が可能だ。
「……みんな、誤魔化している様だけど、私にはバレている。」
「な、何をかな?桔梗ちゃん」
「一之瀬さんね……あなた、綾小路くんと、ヤった!?」
1時間置いたのは訳がある。
櫛田の見立てでも目の前の女子は口が堅い。
特に綾小路近辺の事については。
だから、御しやすそうなお酒の力を使ったのだ。
「あぁ~、その話かぁ~」
と、余裕な面持ちで答えるのはその本人。
「櫛田さん、貴女の目論見、私も心当たりがあるの。パプアニューギニアの時ね?」
「まぁ、仕方ないんじゃない?なんていうか、あたしは最早仕方がない事かなって感じ」
「軽井沢さん、貴女それでも良いの?」
「良いの良いの。あたしはそれでなくても一度振られている訳だしね。恋愛感情関係なく、清隆があたしを求めてくれるのは嬉しいし、こうやって海外旅行にも連れて行ってくれる。普段の生活と比べると、すごく幸せな経験をしているしさ」
「なるほど……えっとつまりどういう事かしら?」
そんな恋愛初心者の堀北と軽井沢が話し始めた。
「え?なんだろ、ま、確かに都合よくつかわれているってのは分かるんだよ。分かるんだけど、それで良いって言うか……どういって良いのかは分からないけど、ゴメン」
「軽井沢さんは綾小路くんと結婚は考えていないって事?」
「結婚!?いやいや、そんなの……でも、どうだろうな。結婚してって言われたら、そりゃああああああああするけど!!!でも、どうなの?いや、するのかなぁ~~~。えー、どうしよう、仕方ないからなぁ」
「はいストップ」
と、櫛田は一人この場にいない軽井沢を召喚し直した。
「甘いよあんたら、金曜夜のOLのコンビニでの買い物じゃないんだから、もっと真剣に考えないと」
「桔梗ちゃん?キャラ変わって……うん、前から気付いてたよ?」
「櫛田さん、良い事を言ったわね。そう、肉体関係というのはそういうものよ、分かっているわね」
「金曜夜の……OLの…コンビニでの買い物…とは」
場を整えた後で、櫛田はウイスキーのロックを喉に流し込む。
「わたしはね、綾小路くんとヤったわ」
「「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」
固まる3人。
1分間の余韻。
勝ち誇った顔。
対するは、黒い[[rb:眼 > まなこ]]と迎え撃つ笑顔の女子、固まる表情の女子、照れる女子。
誰も口を挟まない中、話始めたのは櫛田であった。
「今ので分かったわ。一之瀬さん、あなた、手を出されなかったんだぁ」
ニチャアという言葉がぴったりだろう、櫛田がそう一之瀬に言った。
「さぁね、綾小路くんに教えてもらえば良いんじゃないかな?あ、教えてもらえなかったって事かな?」
「やるじゃない、私の方が先輩のはずだけど?」
「上下関係はないって綾小路くんが言ってたよね」
「ふぅん……流石元仲良しっこクラスのりーだーね……」
やり取りの中で認めるところがあったのだろう、櫛田がそう一之瀬に声をかける。
「く、櫛田さんすごいね、痛くなかった?あの、あいつデカいからさ……」
そう言って来るのは軽井沢だ。
軽井沢は3年前に経験がある。
3年前とは言え、最近と言い換えることも出来そうな年数だ。
裏表のない軽井沢さんの言葉には、無抵抗になってしまいそうな感覚を覚える。
対抗することを忘れてしまいそうで。
「痛かったよ……なんか日付を跨いで経験したら慣れそうだったんだけど……あッ」
「あ、手を出されたの1回だけって感じ?」
「でも1回ってすごいよ桔梗ちゃん!頑張ったね!」
「……結構やることやってんのね、綾小路くんも……」
櫛田は墓穴を掘った。
「はい、シャラップ……失礼、あーとごめん、堀北さんドイツ語喋れる?」
「あぁ、英語通じるから私がやるよ、同じウイスキーで良いの?」
「ありがとう、でもゴメン、せっかくならラフロイグの30年、行っちゃう」
「オッケー」
口からピート臭のする櫛田が、出来上がりかけている。
彼女は酒癖が悪いようだ。
「ちょっと、櫛田さんペースが速いんじゃなくて?」
「……これで最後にするから」
というやり取りの中、一之瀬が水も一緒に頼む。
ビールの減った他3人も同じビールを注文した。
ビールとウイスキーのロックではアルコール度数が違う。
班で同じ部屋を取っているため、堀北はこの後のトイレでの惨状を嘆く。
せめて部屋の中でリバースしてもらいたい。
「ふぅ……」
「ちょっとちょっと、続きはまだ別日にした方が良いんじゃないの?」
これで最後にと言ったが、もう終わってしまいそうな櫛田をみて軽井沢はそうフォローをいれる。
「そうだね、また後で話した方が良いかも」
「ダメね、油断していたらこのまま吐くわ」
そして飲まれないラフロイグ30年が、テーブルに運ばれて来るのだった。
櫛田はかろうじて、水は飲んだ。
自室のトイレの便器に顔を突っ込んだまま、堀北に介護をされるのだった。