1
警官との対応を終え、坂柳と電話をした。
雨宿りがてら、コンビニでコーヒーを買う。
雨はすぐに止みそうだし、荷物になるから出来れば傘は買いたくないな。
そんな事を思い、コンビニの端で立っていると、一人の男が近寄って来た。
「これを」
「これは……?」
身のこなしから熟練の誰かであるという事は分かる。
月城の関係者かもしれない。
男が持ってきて、隣に置いたのはブランド物のキャリーケースだった。
「天沢一夏のモノだと聞いている。確かに渡した」
そういって男はその場を後にした。
男の後を見ると、近くに止めてあった車に乗り込む。
運転手は思った通りの人間だった様だ。
2
天沢のいるホテルを後にしてから1時間半程立っている。
時刻は午後10時になる所だった。
慌てて俺は近くのユニクロに入る。
そして、男物のパンツ、シャツ、そして家でも使えそうなスウェットを選ぶ。
天沢の場合も同様に。
ただしサイズが分からないため、Mサイズを選択し購入する。
じろじろと身体を見たわけではないが、Sはもう少し小柄なサイズだと思われる。
ホワイトルームで鍛えた観察力、動きを駆使してハンガーごとさらっていく。
当然下着も濡れているだろうから、無難な履きやすそうなネイビーの下着を選択した。
胸のサイズは良く分からなかったのでちょうど真ん中を選択。
こういう時に気付かれない足さばきを習っていて良かったと思う。
監視カメラでも画質が悪ければ、どれを選んだか分からないだろう。
そして、コーディネートについても女子の目から見ても無難な選択をしたはずだ。
なぜなら、マネキンに着せられているのと同じパンツスタイルの洋服をチョイスしたからだ。
お洒落は奥が深いようだが、店のマネキンと同じものを買っておけば間違いはないだろう。
軽井沢にも付き合っている当時、そう指南を受けたし、お墨付きをもらっているしな。
それ以降誰にも弄られる事なく、無難にやり過ごしているので問題ないと思われる。
後はサイズが合うか合わないかだが、それは試着してみれば済むことだ。
俺は一応試着をし、スウェットでも問題ないという事を確認する。
天沢の分はサイズが合わなかった場合も考慮して、スウェットも買っておいた方が良いだろう。
この店舗は会計の際に店員を介す必要がなく、ひとたび入れば、ひとことも話さずに買って出ることが出来る。
一通り必要そうなものは揃えたため、とりあえず電話で確認を取るべきだろう。
「天沢か?替えの服は用意した。お前のだと言うキャリーケースも預かっている。他に買うものがないならそっちに向かうが、他に必要なものはないか?」
『あ、先輩。大丈夫ですぅ~…!こっちの心配はいりません。買うものもないですぅ……お待ちしています。キャリーケースもありがとうございまあッす!』
電話に出なければショートメートでもしようかと思っていたが、その心配はないらしい。
塩らしかった天沢が少し普段の調子に戻ったようで、嬉しく思った。
*
1日でいろんなことがあった。
橋本との会話で、何も得るものがなかったかと言えばそうでもない。
まず、一之瀬や櫛田の守秘能力が分かった。
橋本は勘の鋭い男だ。
そんなヤツに、一之瀬も櫛田も俺と会っている事、仕事に協力している事を一切悟らせていない。
引き続き二人を信頼し、任せても問題ないだろう。
そして、坂柳。
まだまだ彼女については不明な事も多いが、富裕層に顔の利く坂柳家が今後、活動のキーになる事は間違いない。
やり取りしていて思う事だが、現理事長は、今でも篤臣と繋がっている可能性が高い。
そもそも、理事長と父との間は切っても切れない縁があるのだと思われる。
理事長と坂柳自身も、親子であり、坂柳は理事長のつながりで有利に動いている点も多い。
坂柳を通して坂柳家が敵なのか、味方なのかを判断する必要がある。
計画の横やりを本気でいれられたら、頓挫する可能性も十分考えられるからだ。
「天沢と会えたのは、僥倖だったな」
そろそろホワイトルームの関係者が接触してくるころだと思っていた。
先手を取れたのは、大きい。
3
◆
【優しくするのは子をなすための求愛行動である】
と言ったのはオーストラリアの偉人の…誰だっけ。
1年振りに再会した後輩の女子と、偶然の出会い。
彼女は悪い男たちに囲まれていた。
俺は平静を装いながら彼女に声をかけた。
大丈夫、大丈夫、俺が何とかしてやる。
だから、お前は何も心配するな。
彼女をお城に返した後に、風呂に入れ、その間に俺は事故処理がてら洋服を買いに行く。
彼女はお腹を空かせているだろうから、ルームサービスで口に合わないカレーを頼む。
そしてその後のマウスウォッシュを欠かさない。
俺は彼女に早く再会し、一緒にいたいから、事故処理を早急に終わらせる。
悪い男たちはボコって大人しくさせて、警察への証拠は握りつぶした。
これで彼女に火の粉が及ぶことはないだろう。
変な女に捕まり、2時間ほど拘束されたが、本命は後輩彼女である。
か、可愛い!!!
久しぶりに会ったした時にも思ったが、顔に出すのが恥ずかしいため無表情を貫き通した。
俺は子供のころから訓練を受けている。
アッチの方も、体力はある方が良い。
軽井沢という元カノ、一之瀬という元セフレとは満足出来なかった。
でも、後輩ちゃんになびくことは出来ない。
俺にも高校でやりたい事があったからだ。
でも、今日、やっと後輩ちゃんと結ばれる──。
*
ここはラブホテル。
つまり、そう言う事だ。
先輩に頂かれちゃうって話ね。
誕生日は確か10月のはずだけど、少し早いプレゼントって感じかな?
ベッドの上に設置してある電話が鳴り、フロントからカードキーを渡してよいか聞かれ了承する。
待ちきれない想いを我慢している。
ムードに合わないなと思ったカレーの匂いは、食べた後消臭スプレーをしたから綺麗さっぱりなくなっていた。
ファーストキスがカレーの味だなんて、ちょっともったいない。
カレーもカレーであたしに嫉妬されたくないだろう。
それにしても、時間がかかったなと思う。
3時間位待っていただろうか。
風呂にたっぷり1時間半くらい使い、一度1階にあるアメニティコーナーで化粧水や乳液を貰いに降りた。
その後私服が汚れている事に気付き、再度身体を流した後にバスローブを着ると言う徹底っぷり。
その間もいつでも電話に出られるようにコール音は最大だ。
胸倉を掴まれた跡は少し残っているが、すぐに消えるだろう。
フロントからの電話の後、先輩が来るまでの3分間が、[[rb:永久 > とわ]]に感じるくらい長い。
やがてガチャと開かれる扉。
「天沢、大丈夫だったか?」
先輩に近寄るあたし。先輩はキャリーケースと、買い物をした後の紙袋を持っていた。
紙袋には雨避けのビニールが掛けられていた。
あぁ、申し訳ない、なけなしのお金で買ったのだろうか。
全財産を5万円と言っていた先輩は、その全てをあたしに渡してくれた。
ホテル代を差し引いても3万円は残るだろう。
先輩がどこに住んでいるのかは分からないが、先輩の家に泊めてもらえば十分だ。
なんなら同棲を始めるのも悪くない、というか最高だ。
「先輩ッ!!」
ひしと先輩の胸に抱き着くあたし。
扉を閉め、手に持っていた荷物を下ろし、あたしを抱いてくれる先輩。
「天沢、心配したんだぞ……元気だったか?」
優し声音が上から聞こえて来る。
彼のゴツゴツした腕が、あたしの身体を守った。
そんな先輩に身体を預けるように、身を寄せた。
「あ、天沢……本当に大丈夫か?」
「先輩……会いたかった、怖かった、孤独だった……」
「でも、会えただろ?」
そう言う先輩の声を聞き、あたしは大きく頷いた。
「あたし、先輩に捨てられたんじゃないかって思って……」
「捨てる訳ないだろう、3月と4月は少しバタバタしててな、すまなかったな」
バタバタ……鳥かな?
いやいや、先輩の事だ、そんな事はないだろう。
後輩ちゃんが、生意気な後輩ちゃんが身を任せて来る。
妹の様な存在だと思っていたが、上から見ると結構胸があるではないか。
胸が腹を刺激すると、少しムラついてきてしまう。
「あ、あまさわ……す、すまないが少し離れてもらえないか」
という先輩に、「あたしがくっつきたいんですぅ……」と返事をする。
「や、柔らかい」という先輩の、ジュニアがどんどん硬くなっていくのを感じる。
先輩の服が少し濡れており、さりげなく香るオーデコロンの匂いが心地よい。
汗の匂いはしなかったが、しているのなら是非嗅ぎたかった。
先輩の匂いならばどんなに臭くても耐えられる自信がある。
そして、ジュニアがギンギンになった時、あたしはそれが自身のバスローブを開かせ、秘部を刺激していることに気付く。
少し高い位置にあるジュニアだが、少し背伸びをすれば位置を合わせることが出来た。
「あ、天沢!?」
「先輩……あたし、感じちゃってますぅ……」
もじもじと下を向きながらそんな事をいう。
ジュニアがあたしの、何も履いていない部分に、入りたがっているのは間違いない。
そのままだと先輩のズボンが漏らしたみたいになってしまうから、あたしは下を向いたまま、突起部分をまさぐり、ジジジと先輩のチャックを外し、熱くなったジュニアを取り出すと秘部に擦り付ける。
デカチンである。
天沢はホワイトルーム時代に八神拓也と組んで柔道をすることが多かった。
男女の身体の違いに目を付けた天沢は、一線を越えることはなかったものの、無感情な拓也のチンコをいじらせてもらったことはある。
こっぴどく叱られることになり、以後そういう事はしないと誓ったのだが興味はあった。
すでに先っぽから液体が漏れ出ていた。
あたしのも人の事言えないが、漏れ出ている。
液体は混ざり合い、刺激し合う。
ぬるぬると、先輩の液体とあたしの液体が、こすれ合いヌチョヌチョと音を立てた。
少しヌメりけのあるあたしの粘膜と、サラッとした先輩の液体が重なると、すでに妊娠の二文字を思い浮かべた。
ここであたしが妊娠するとしたら最高だ。
先輩の性格は2年間の付き合いでよく分かっている。
決して手放すような人ではない。
だが、簡単には思い通りになる相手でもない。
「天沢、危ない、やるにしても、避妊具を付けなければ……」
「先輩、嘘つき、ですね。生が良いんでしょ…?分かるよあたしには」
「天沢!!」
焦らし、擦り、敏感度を上げる。
あたしは痩せていて先輩から比べると小柄だ。
あたしの下腹部は、無事にデカチンを包み込むことが出来るだろうか。
でも、ジュニアはぴくぴく動いている。
「ふッふふ~♪早く入りたくて仕方ないって感じですねぇ~♪どうですか?後輩の女の子の、天沢一夏ちゃんとえっちするなんてぇ。あたし結構他人の噂に敏感なんですよぉ。クラスの男子何人にオナネタにされたか分かりません…で♡も♡、ホンモノを見るのはセ♡ン♡パ♡イ♡だけ♡」
そう言って焦らす。
先輩は恐らく自分から挿れてこないだろう。
そういう人間だ。
だからあたしはドアを背に、先輩を半ば拘束する感じで、片足を上げる。
背を伸ばし、挿れやすいように、ジュニアとあたしの下腹部を合わせる。
これは……合体するのか。
俺が、天沢と……。とうとう……。
感じすぎて、挿れただけでイってしまうかもしれない。
その瞬間──あたしは腰を下ろし、ジュニアを受け入れ────。
◆
「まずは服を着ろ。タグは外して置いた。悪いが、ネイビーの下着になった。ボクサーってヤツだな、ホワイトルームにいたときも似たようなヤツを履いてただろ?」
「(受け入れ───)……………」
「天沢。どうした?疲れてるのか?ちょっと重いぞお前、ちゃんと立て」
「(受け入れ───)……………」
「……オイ。すまんが俺も着替えたい。シャワールームを借りるぞ。それと着替えたら移動だ。とりあえず俺の家で作戦会議だが、その前にお前はゆっくり寝た方が良いだろうな」
ゴンッと音が鳴った。
あたしの頭が、扉にぶつかった音だった。
4
ラブホテルの前に一台のタクシーが止まっていた。
あたしはパンパンになったキャリーケースに、今まで来ていたユニクロの紙袋をトランクに詰める。
そして、先輩が買ってきた服の内、スウェットを選んで着た。
上下同じ色のスウェットで、上はパーカー。
残念ながら、下着と同じネイビーであった。
「すまんが、靴は履いているものを使ってくれ。流石に足のサイズは分からなかったし、俺のは合わないだろう。靴下はあるから、靴をタオルで拭いてから履くと良い」
そういって、ホテルの玄関に濡れたまま置いてあったブランド物のヒールシューズを目の前に差し出された。
*
「これで全部ですか?」
タクシーの運転手にそう聞かれ、先輩がそうだと言って発進する。
先輩と碌に話せていない。
なぜなら綾小路先輩は助手席に座り、ナビをし始めたからだ。
時刻は午後11時。そろそろ日付が変わるタイミングだ。
先輩は携帯を操作しながら、運転手に道を案内する。
そして、誰かと何かを話していた。
電話が切れるとすかさず話しかける。
ここからが勝負だ。
先輩のうなじを見てワンチャン、キスでもしようかと思った。
「せんぱぁい……どこに住んでるんですか?」
「行けば分かるが、そんなに遠くない。それにすまないな天沢、来客があるようだ」
「来客……?」
「前同じクラスだった生徒と、堀北の兄だ。なんか繋がっててな。そういえばお前、長谷部に会ったか?」
「長谷部先輩、長谷部先輩……」
すると思い出す数日前の出来事。
「あ、会いましたねぇ……」
「長谷部が教えてくれたんだ、天沢の事を。連絡先を聞こうとしたけど、聞けなかったってな」
うわ、あの時のだ……。
ちょうど病んでいる時だったから、塩対応だった。
先輩、怒ってる?もしかしたらチクられた……??
「いろいろ聞きたい事はあるが、とりあえずもうすぐ着く。合流のため一度家から近くのコンビニに寄ろうかと思うが、大丈夫か?」
会いたくない。
実際に嫌な場面は見られた。
見られたくない姿も見せた。
でも、同級生に後輩の悪口を言われるのは違くない?
「はぃ、大丈夫ですぅ……」
「どうした?元気ないな…」
天沢は「ぃぇ、キニシナイデクダサイ」と、棒読みであった。
*
「来ちゃったね…とうとう」
「まさか幸村君が綾小路くんの連絡先を知っているだなんて……」
長谷部と橘が会話をする。
珍しい組み合わせ。
啓誠が入学した大学の先輩に、堀北学と橘茜がいる。
今日はサークルの飲み会だったのだ。
2年生とはいえ、あまりサークルに馴染めない啓誠を心配して、大学生4年の堀北学は橘茜と高校の後輩でもある幸村と二次会に連れ立ったのだ。
それが午後8時。
幸村のアルコールが解禁され、打ち解けた三人は、内緒だった後輩たちの、学が卒業した後の事をちょっとずつ明かされることになる。
やがて、綾小路を呼び出せと憤るのは、学と橘だった。
分かりましたと返答した幸村は、綾小路に連絡するものの、事前にチャットでやり取りをしていないため連絡が付かなかった。
そのため綾小路グループを辿り、長谷部と佐倉、三宅にも声をかけることになった。
フットワークの軽い。というよりも交友関係の狭い長谷部と佐倉は「あたし達も行っちゃおっか?堀北さんのお兄さん会ってみたいし」と言って、声をかけてから30分位で姿を現した。
ちなみに三宅は住んでいるところが遠いらしく、帰れない可能性があるため遠慮した。
四人に見守られる中、佐倉からの連絡を取った綾小路は、今日は遅いため会えないと返答。
しかし、堀北先輩がどうしてもって……という啓誠の言い分に、譲歩をした形だ。
つまり綾小路との合流場所の近くのコンビニには
堀北学、橘、幸村、佐倉、長谷部の5人がいることになる。
少し歩けばネオン煌めくお店が連なるが、少し離れた住宅、オフィス街、緑も茂る超一等地。
「なんでこんなところを待ち合わせにしたんだ…清隆…?」
「ふむ、あいつの事だ、変わっていなければ、何か考えがあるのだろうが……」
「堀北先輩、妹からは特に聞いてないんですか?」
「……まぁな。だが、綾小路の進学先は知っている。アメリカの大学に行ったという事だが、1年で帰って来るとは、どういうことだと聞いてやるつもりだ。」
そう話す啓誠たちの前に、一台のタクシーが停まった。
「あ、綾小路くんだ!」
「うわっちゃーきよぽん、女子連れて…る…??」
「あれ?良いんですか佐倉さん、ああいうの許して…」
2次会で一緒になった橘は、佐倉の恋慕事情を頭に入れていた。
そして、タクシーから降りて来たのは──。
──お揃いのスウェットに身を包んだ、男女のカップルであった。
──女子は、一戦交えた後と言っても良いだろう、女子が見ればスッピンだという事が分かる。が、身を隠すように男子の後ろを歩く。
──男子は、髪が濡れており、トランクから取り出した女子のキャリーケースにユニクロの紙袋を二つ持っていた。
男子は主に堀北学に対して遠くから会釈した。
「「「ああああああああああ!!」」」
橘と長谷部と佐倉が、閑静なオフィス街に似つかわしくない声を上げる。
「……これは……堀北先輩、どうされますか?修羅場、かもしれません」
「修羅場上等だ、鈴音のためでもある…一言言ってやらねばなるまい…!」
そんな事を、酔いが冷めた二人が話していた。