4ー0 プロローグ
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「何が……!」
東京の埋立地にある日本政府が作り上げた国立の名門校。
通称は「高育」
今日は5月5日こどもの日。
祝日にも関わらず、生徒はケヤキモールや寮、部活動が行われており、
ほぼ全ての生徒は同じ敷地内にいた。
教師も例外ではない。
ここはその一角、理事長室。
坂柳がPCでとある生徒の履歴書を閲覧しているときだ。
PCの右下に一つの通知とポップアップに驚愕する。
通常であれば、コンピュータのウイルス感染が疑われたが、ここは高育。
生徒の情報管理が徹底された空間であり、いかに優秀なハッカーだろうと貫けない、防衛相きってのセキュリティである。
その懸念は万に一つもありえない。
[入金されました]
と通知された後、概要が提示される。
[〔預り金〕 100,000,000,000円 アヤノコウジキヨタカ]
その額──1000億円である。
驚愕していると光る理事長室の固定電話。
鳴らしたのは高校の経理を任せている事務員であった。
坂柳はコール音を待たずに受話器をあげる。
彼女は焦りを我慢し、淡々と話す。
『坂柳理事長、今よろしいですか?』
「どうしました?」
『先ほど、ケヤキモールが、何者かによって競売に出され、何者かの買い手が付き、何者かに売却されました……』
結論から話す出来る社員である彼女。
綾小路清隆によって、入金された件については坂柳は今知った。
高育は国によって運営されているが、寄付金を募っている。
税金の投入先として、国民に賛同が得られる事業ではないからだ。
毎月10万円もの費用を生徒一人一人に支払うのと、最新の設備・什器、それに採算の取れない飲食店や小売店を賄うのは、国民の目が厳しくなってきた今、無理があった。
寄付金はHP等で求めているものの、主な寄付元は市民党。
市民党は多くを高円寺グループの献金によって運営されており、市民党から献金の一部を企てて、何とか運営しているというのが現状。
極めつけは先日の米国からの自動運転タクシーの大量購入。
尻ぬぐいは娘の有栖に任せているものの、とある会社が米国と行った無断契約は、国庫から少なくない資金を抽出しなければならず、その煽りをもろに受けた高育は、運営自体がとん挫する可能性を残しつつも、国が所有する一部の土地や建物を売却する方を選んだ。
競売に出すか、出さないかを、市民党との相談の元水面下で計画していたが、既に申請は通され売却されたという事か。
──ケヤキモールの評価額は200億程だったはず。
それとは別で、1000億円もの振込。
銀行口座を見ればそれが寄付金であることが分かった。
なぜなら寄付金として公表してある明細の口座番号だったからだ。
「……購入者は、会社ですか?個人ですか?」
『分かりません、国に、文部科学省に直接振り込みがあったようです』
「そうですか……」
『しかし、電話の相手は女性だった言う情報は得ております。名前は確か、アマサワ』
天沢、天沢一夏か。
そうか。彼女が。
購入者は綾小路くんの関係者で確定か。
「それで、ハッキングされた方、ホワイトハッカーはなんて?」
『分かりません、祝日でエンジニアに電話がつながらず、担当者が分かっているベースですが、国の競売のサーバーは我らのと異なるようで、判明が難しいとのことです。すぐに追えなくなってしまったそうで……だ、大丈夫でしょうか?』
「問題ありません、私の方から、鬼島総理には進言します。高育自体も市民党に頼りすぎていました。私が売却を決めたとしても、褒められるだけかと」
そういうと、ホッとした息遣いが聞こえてくる。
『インターネットにアップロードされる前の物件です。正式な手続きになるのでしょうか?』
「事実として購入され、文科省に振り込まれたのであれば契約は成立したと言えるでしょう」
『そ、そうですか……。ホントにこんなことってあるんですね、中東の戦争が原因でしょうかね……』
「それも一つの原因かもしれませんね。でも、我々の管理とは別のところで起きたトラブルです、きっと競売は外部委託だったのでしょう。その穴を突かれたか、もしくはインターネットに蔓延しているウイルスが入り込んだか、分かりませんが」
コンピュータ・ウイルスの生み出し元について、ある程度の知識を持っている経理はそう聞いた。
しばらく話し、理事長と経理は電話を切った。
「しばらくは傍観させてもらいましょうか。綾小路君」
思わぬボーナスを手にし、肩に入っていた力が抜けた。
PCに映っていた生徒は、高円寺六助。
理事長は直接、高円寺グループに寄付金を直談判しようかと考えていた。
そのくらい、高育の運営はひっ迫していたのだ。
一人のエンジニアが起こした契約事故は、国庫の圧迫を招き、ところどころに綻びを生み出していた。
エンジニアの名前は山内。