※この作品はR-18です。

ようこそ実力至上主義の社会へ   作:〇彪

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4-2 事業計画

 1

 

 ミステリー小説を読めば、数冊読むことで作者の傾向を掴むことが出来る。

 

 とある作家は、犯人を目立たせない事で意外性を突く。

 そしてとある作家は、犯人を作らない事、偶然が折り重なる事で意外性を突く。

 つまり、読者の意外性を突く事。どんでん返しが、ミステリー小説の醍醐味と言える。

 だから読者は、作家の作品を複数読むことで、タネを判断し、来るべき犯人開示に備えるのだ。

 

 ◇

 

 ──薄々感付いていた。

 目を合わせたときは、分からなかった。

 目を見ればなんとなく嘘つきの目なのか、どうなのかが分かる、『第六感』である。

 1年のCクラスに配属された椎名ひよりは、入学後にさりげなく始まった特別試験で担任の嘘を見抜き、生活態度の最悪だったCクラスの中で一番、目立つ龍園にアドバイスをした。

 確信めいたアドバイスに龍園も従う事で、クラスポイントの減少を防ぎ最悪の結末を迎えずに済む。

 最悪の結末を迎えたDクラスは終わりかと思われた。

 しかし、Dクラスは復活する。彼──綾小路清隆の手によって。

 

 3年生の春、学力試験の結果を見て思った。

 彼には際限がないと。

 

 100点満点は取らせないと、そういう意志すら感じさせる激難テストを前に、学力Aの判定を貰う椎名はここで綾小路は手を明かすと推理した。

 結果的に100点を取得した彼は、同学年では唯一のA+。学力96以上を獲得する。

 1学年上から始まったOAAの指標であるが、椎名が知っているA+以上の生徒は、1つ上の鬼龍院楓花先輩だけ。

 1つ下には特別頭の良い生徒、石上がAの95,そして天沢の90がいた。

 学力90以上のステージを図るものさしは、進学校の高育の教師だとて中々務まるものではない。

 天才中の天才の領域。

 

 つまり、彼はその学力を遺憾なく発揮し、日本の最高学府への進学を進める……いや、進めないだろう。

 見ているのは、もっと先。世界の最高学府か。

 肩書を目指すものと思われた。だからスタンフォードかハーバードへ行くのだろう。

 誰もが驚き、畏怖する『学歴』という肩書を。

 しかし私には合格するほどの学力はない。

 それなら私は、そこの──ハーバード大学の──交換留学が可能な一橋大学に入る他はない。

 それでも例年1名のみが獲得できる狭き門である。

 でも、私の思惑が正しければ、彼は6年間、学校に通うはずだ。

 つまり6回のチャンスがある。

 難しそうなら、大学院に進むことも考慮すべきか。しかし家に払えるお金がないかもしれない。頼み込めば用意してくれる可能性はあるが、ハーバード大学での生活は日本の10倍以上はかかるのだ。高育から大学の学費は払ってもらえるが、大学院までは難しい。それならば、アルバイトをしつつ小説家としての一発逆転にかけるしかない。

 相当に欲張りなその願いだが、その願いにかけるしかない。

 

 ハーバード大学への入学は最難関である。

 世界中から親に金銭的な余裕があり、優秀な人材がこぞって受験をする超狭き門。

 でも、彼はそれを成し遂げる。

 作家であり犯人でもある彼は、そういう人間だ。

 

 彼は負けを許さない。

 超負けず嫌いだ。

 

 必ず読者をアッと言わせる。

 その『実力』で。

 

 ──そう、私は確信していた。

 

 2

 

 5月4日、日本時間で午後4時の夕方、俺は一之瀬にコンタクトを取る。

 

 ヨーロッパ旅行中のヤツ等は、今あっちは午前7時位の早朝のはずだ。

 本当はもう少し遅い方が良いかと思ったが、ホテルのチェックアウトが9時か10時だとすると、朝食前に済ませるのが良いと思ったからだ。

 

 コール音が3度ほど鳴り、一之瀬は電話に出た。

 

『もしもし?綾小路くん?あ、それとも社長って呼んだ方が良い?』

 

 朝だからだろう、電話先で布団に包まれていたであろう一之瀬が、シーツの布の擦れた音をさせる。

 

「朝から申し訳ないな、今はフランスか?」

 

『ううん、ドイツにいるよ。今日もドイツに泊まって、明日はイギリス』

 

「そうか。そっちはどうだ?パプアニューギニアとも違う感じか?」

 

『そうだね、フランスはやっぱりお洒落で、憧れてたから感動したかな。ドイツは日本人にはすごく好意的な国だね。また一緒に戦争しましょうねって言われちゃった、ふふッ』

 

「それは結構クレイジーな国民性だな」

 

 嬉しそうな、楽しそうな、そんなふわふわとした口調の一之瀬だった。

 クレイジーと、そんな事を言うと耳に心地よい一之瀬の笑い声が聞こえて来る。

 

「言葉では苦労していないか?英語は通じると思うが、田舎にいけば通じない可能性もあっただろ?」

 

『うん、そうなんだけどね、フランスは堀北さんがなんとか頑張っていて、ドイツは松下さんが少し話せるから』

 

 それは良い事を聞いた。

 ドイツ語を松下が。確かに、バイトをしているディーラーの本社はドイツだったか。

 

「そうだろうが、それでも会話に慣れていないだろうな。一之瀬は友人に外国人も多いから、話す機会もあるだろう。お前が上手く立ち回っているってことだ」

 

『それならそれで、必要性を証明出来て嬉しい事だね』

 

 まずはあちらの状況を伺う。

 すると、『あッ、電話中ね、ごめんごめん』という、白波の声が聞こえて来た。

 

「少し今から。そうだな、10分後でどうだろう?急ぎ櫛田と堀北、軽井沢もいるとありがたいが、特に堀櫛にコンタクトを取らなければならない」

 

『堀櫛……』

 

「部屋は別なのか?GW中で申し訳ないが、20分もかからないだろう。その後で作業をするとか、旅行に支障が出ることはない。事前に聞いていたから知っていたが、櫛田は会社携帯の連絡を一切拒否していた。まぁなんの問題もないんだが……」

 

『そ、そうだね。なんか櫛田さん結構溜まってるっぽいよ?……[[emphasismark:何が > ﹅]]とは、言わないけどね』

 

 柔らかい物言いだったが、何かを責めて来るような、そんな圧を一之瀬から感じる。

 藪蛇になりそうな話題。

 そのため俺は無視して話を続ける。

 これ以上旅行中に仕事の話を持ち出すのは良くないと思われたからだ。

 

「会社のPCは持ってきているだろう?10分後に合流できそうか?」

 

『どうだろうね、ううん、やってみるよ』

 

「あぁ、難しそうなら電話を貰えれば問題ないが、一之瀬一人に内容を伝えるから、他の3人に納得してもらう必要がある。その時は出来れば、会社以外の人間には話を聞かれない、個室に移動してくれるとありがたい。」

 

『うん、分かったよ。ちょっと待っててね』

 

 と言って、一之瀬は電話を切った。

 

 ◇

 

 10分後、俺のPCのオンライン通話画面にコンタクトがあった。

 許可を押すと、PCの画面に3人の女性が目に映る。

 その内一人は機嫌が悪そうであった。

 真ん中に一之瀬が座り、両隣に堀北と櫛田が座っている。

 

『はいはーい、お待たせ。聞こえるかな?ごめん、軽井沢さんは別の部屋にいるっぽい、堀北さんと櫛田さんが個室の1部屋だったから、そこで繋いでいるよ』

 

 今さっき、部屋のカーテンを開いたのだろうか、寝起きの櫛田と朝から散歩をしていた様子の堀北。

 一之瀬がはっきりとした口調でそう告げる。

 

「よし、それなら問題ない。堀北、櫛田、聞いているな?今から、明日、こちらで行う事について共有したい。そちらも忙しいだろうから、5分間、こっちが一方的に話し、残り5分でそちらの質問を聞く。質問が5分以上かかるのであれば、付き合うが、出来れば戻ってからにしてもらいたい。なぜならこれは決定事項だからだ」

 

 そこまで言うと、一之瀬が両隣に顔を向ける。

 堀北も櫛田も小さく頷いているため、話を続けた。

 

「質問がない場合は5分で終わりだ。全員の言質が取るのは、少なからずお前たちにも関係がある話だからだ。今の段階で質問があるヤツはいるか?いないなら次に進めたいと思う」

 

 と言って話を切る。

 特に反対がないため、次に進めることにした。

 

「よし、では担当を変わる」

 

 俺は連携しているPC画面をクリックし、天沢の画面と交換した。

 ちなみにここは俺の書斎、応接室である。

 リビングは堀北学の講座で今日も使われている。

 

 天沢は嬉しそうに画面をのぞき込む。

 ちなみに俺の画面には、天沢が操作しているPCの画面が映っている。

 

「はぁい、お久しぶりですねぇ先輩方。天沢一夏ちゃんです。二日前に先輩に猛烈なアプローチを受けまして……困りましたが、悩みましたが、手を貸すことにしました。」

 

 ドイツにいる3人に動揺が走った。

 櫛田は一之瀬の前にも関わらず眉間に皺を寄せた。

 でも通話を区切ることはしなかった。

 

「では、明日から行うプロジェクトの、発表をしますねぇ。私、天沢一夏ちゃんは、東京都内の不採算事業の買収を行い、採算事業に変えるって言う事をします♡」

 

 事前に天沢が用意して来たスライドを反映する。

 しかしスライドの中には、予算だったり件数だったりといった数値は入っていない。

 

「で、見てください、これが購入のリストです。不採算事業の内、民間で買えて旨味のありそうな事業が少ないのですが、方向性はそんな感じです」

 

 そう言いながら1枚のスライドを何10秒か投影する。

 5枚ほど動かし、そして最後の1枚のスライドで手を止めた。

 

「そして、これが先輩方に今日、コンタクトを取った理由です」

 

 PC画面には、[国立高校 専用モール]と書かれた文言と、1枚の写真。

 その写真は3人に取っても見覚えのある景色だろう。

 

「はい、これがどこか分かりますね?実は、ここが明日競売に掛けられます。そして、ここをあたしが買って、蘇らせると、そういう企画になっています」

 

 画面端に見える3人の女性が顔を近づけてPC画面を見ているのが分かった。

 

『ケヤキモールで間違いない?』

 

 そう言って来るのは堀北だった。

 質問の時間には少し早かったが、問題はないだろう。

 

「はいです♡」

 

『……メリットは?』

 

 そう聞いてくるのは櫛田だった。

 

「先ほど見せたスライド、国の不採算事業リストですが、先輩方も思われたと思いますが、到底採算が取れる様再生できるとはおもえません。そうでしたよねぇ?」

 

 と天沢が聞くと櫛田が代表して頷いた。

 

「恐らく、こういった民間に公表される前に、よい案件は内々で取引がされるとあたしは確信しました」

 

『なるほどね、続けて?』

 

「ですから、あたしはまず、高度育成高校敷地内にある埋立地の土地と建物を購入し、ここに綾小路先輩の社員であれば、いつでも行けるパイプを作ることにしました」

 

 天沢がニヒルな笑みを浮かべてそういった。

 

「高育の生徒は、先輩方も、だと思いますが、全国から優秀で、親のDNAも強く、時に訳アリな生徒が多く集まります。その中には国の関係者もいるでしょう」

 

 と言って、櫛田の方を見た。

 

「教師にも、学校関係者にも縁故採用を多く抱えているケヤキモールは、土地と建物だけの価値以上に、人脈という価値が手に入り、情報を武器に出回らない国の不採算事業の情報をキャッチし、我々で……買っちゃいましょう♡」

 

 底冷えのする、嫌らしい言葉遣い。

 悪女らしいとも言える。

 

 少し間があき、こちらの話は終了したという事が伝わる。これ以上敢えて俺が仕切る必要はないだろう。

 10秒間、天沢があちらに返答と納得する時間を与えている形だ。

 

『貴女の話は分かったわ。じゃ、綾小路くんに戻してもらえる?』

 

 とそこで予想外の事が起きた。

 なぜなら既に10分以上の時間が経過していたからだ。

 

 少し焦った様子の天沢を目の端で見ながら、俺は天沢に渡していたコントロールを戻すと、カメラをこちらのPCに戻した。

 すると堀北が話し始めた。

 

『天沢さんの話は分かったわ。GW中にも関わらず、色々動いているのね。高校の時もそうだったけど、貴方はいつもこんな事ばかり考えているの?』

 

 何を聞くのかと思えば、仕事というよりは日常会話よりの話題だった。

 

「すまんが、これは本当にたまたまだ。一昨日渋谷で天沢と再会した。近況を報告し合ったら、天沢と向く方向が同じだと分かった。俺と天沢は子供のころに少し会ったことがあると言った事があるだろ?信用できる人間だと判断し、会社にヘッドハンティングした。この企画自体もほとんどは天沢が考えた事だ」

 

『……商才があるとは思えないけど』

 

 と堀北が言った。

 すると今まで話さなかった一之瀬が口を開く。

 

『良いんじゃないかな?商売ってそんな簡単なもんじゃないでしょ?貧乏なウチはお金で苦労したし、ちょっと普通とは違う手段を使わないと、利益を出すことは難しいと思うよ。だからって訳じゃないけど、天沢さんを採用した理由は何かな?』

 

 これまた予想外の質問が来る。

 意外に天沢への風当たりは強いらしい。

 

「天沢と俺が会ったのが、国の機関での出来事だからだ」

 

 そこで俺は少し情報を開示した。

 

「それに、今聞いてもらったように、コイツは少し悪知恵が利く。お前たちでも対処できない事態は今後出て来ると思う。その時に俺が空いているかは分からない、天沢ならそれでも強引に話を済ますことが出来ると判断した」

 

『なるほどねぇ、そっちの、用心棒の役割も兼ねている訳だ』

 

 というのは櫛田だった。

 ここで先ほど聞いた一之瀬の『溜まっている』を解消しておいた方が良いだろうか。

 

「もう少し話しても良いならこっちからも質問良いか?櫛田、ちょっとむくれてるんじゃないのか?もしかしたら、睡眠不足なんじゃないか?旅行とは言えはしゃぎすぎるなよ。堀北は無人島試験で風邪を我慢していた時がある。お互いにたいちょ……」

 

『『オイ……[[emphasismark:殺すぞ > ﹅]]』』

 

 俺がいつの間にか女子の琴線に触れてしまうのは、変わっていない様だった。

 そこから8時まで。

 40分間の拷問を俺は受けることになった。

 ちょっと一之瀬も怒っており、天沢は愉快そうに笑っていた。

 

 四苦八苦しながら言い訳するものの、結局最後の5分間はずっと謝罪の言葉と、以後気を付けると連呼する羽目になったのだった。

 学の事を堀北に伝えるのは、また別の機会にしよう。

 

 

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