1
高校の時、カフェで一之瀬と二人で向き合っている時。
一之瀬は足をチョンチョンと俺の足に触れ合わせてきた。
そして、先ほどの愛里の反応。
愛里が長谷部のチョンチョンや、密着に気付いているかは分からない。
それでもまるで、連携しているかのように、車の後部座席から運転席と助手席側を除く愛里は、俺と長谷部を前の二人から隠す役割を担っているようにも見えた。
──もしかしたら、俺は今日、食われるかもしれない。
男であれば誉であろう、その願い。
逆に食ってやる。くらいの気概の方が普通だろう。
なぜなら、長谷部も佐倉も、どちらとも極上のスタイルであり、顔。と言えるからだ。
しかし、貞操観念というものがある。
結果的に俺は、一之瀬との秘密を墓まで持っていく覚悟を持ちつつも、再会した同級生の中では櫛田としか行為をしていない。
手を出す機会はあったと確信している。
再会した軽井沢とのキス。
それに、堀北との謎のキス。
天沢との情事。
そして、一之瀬との海外出張。
その中でも櫛田に手を付けたのは、それなりの理由がある。
つい2週間くらい前の出来事ではあるが、あの時は櫛田とヤっても良いという考えがあった。
それは、櫛田を縛り付ける[[emphasismark:何か > ﹅]]を俺も求めていたからだ。
日本に戻って来てから、一人で右往左往していた中、助けてくれた櫛田を俺は都合の良いように扱い、社員にし、細かな事を任せた。
櫛田の日本でのベース、女子特有のコミュニティ、人脈、そして知識を会社のために使ったのだ。
櫛田は元から計算高い女だ。身体の関係がなくとも金払いの良い就職先として、今と変わらずにK・Aの社員として入社し、接してくれる可能性はあった。
ただ、俺も急ピッチで事業拡大を行わなければならなかった。
日本に来てから考えていた速度の中で、一番早い事業展開だったと言える。
しかしながら同時にリスクも伴う。
一人に信頼しすぎていると、持ち逃げや裏切り、情報を流したりされると大打撃だ。
その結果、肉体関係を結ぶことになったが、例えば俺が他の女子に手を出せばどうなるだろうか?
櫛田の俺の評価が、良いモノから悪いモノに変わり、周囲にいた女子の評価も相対的に下がる。
櫛田が離れれば、代わりをすぐに見つけ出すのは困難だ。
勿論、9割の資産は櫛田達に開示しておらず、彼女らは自由に動かせない。
しかし、日本での俺の評価がどん底に下がる可能性が高い。
金が全てで、金で事業をしている訳ではない。
俺は困っているであろう同級生に手を差し伸べつつ、結果的に事業拡大をしているにすぎない。
1人の既婚芸能人が、1度の浮気で全てを失った。
信頼を取り戻すのには勇気と、時間がいる。
よほどのことがない限り、いや、何があったとしても、浮気や不倫はしてはならないのだ。
2
勘違いであれば問題ない。
だが、勘違いでなかったどうするか。
だから俺は権限のない綾小路グループだとて、お節介をすることにする。
ランチが終わり、動物園に向かう時。
昼食を食べた後で啓誠に声をかけた。
「啓誠、助手席は波瑠加に乗らせてくれないか?」
「波瑠加に?なぜだ?」
怪訝な目で見る幸村に、俺は事情を話す。
「知っているとは思うが、明人と波瑠加は付き合っているんだ。今日と明日はデートの予定だったんだろう。二人きりにさせた方が良い。波瑠加は車に乗っている時、少しそんな雰囲気を出していたからな。」
「……そうか、そうだな…気付かなかったな……すまん、そうする。どうもオレはその辺りがちょっと鈍いみたいだな」
「気にするな、俺が気にした事なんだ。その代わり景色が見たいだろうから、真ん中を譲ってやる」
そういって、愛里と波瑠加を遠ざけた。
*
動物園でもそうだ。
愛里と啓誠、そして波瑠加と明人をくっつける作戦を結構した。
「啓誠、お前、愛里の事はどう思っているんだ?」
「急にどうした、清隆」
久しぶりに会話をした俺達。
話題が共通の友人になるのは自然な流れだ。
ただえさえ所属が別になれば関係は希薄になる。
その男同士の関係を埋めるのは、女だったりする。
つまり俺たちが同じグループの女の子の話題を出すのは男女グループなら当然だと言える。
結果として幸村は、すこし驚くものの特に深く疑問に思う事はない。
「啓誠は恋愛に関心がないようだから教えてやるが、堀北学と橘茜はそういう仲なんだ」
「……それは本当か!?し、知らなかった」
「そうすると見えてくるものがないか?啓誠を誘って3人で飲みに行ったのも──」
「──二人きりになりたくて、オレを利用したのか?」
「必ずしもそうだとは言えない。でも、そう考えて確認するのは、社会人としての配慮ってヤツじゃないか?」
「確かにそうだな……うん、肝に銘じておく」
動物園に到着して、連れションをしている時にアドバイスをする。
言うと、啓誠は下を向き、決心した様子を見せる。
「それで、愛里はどう思っている?」
「あ、愛里だと?アイツはお前の事が好きなんだろ?」
そう聞かれて俺は顔を横に振った。
「いいや、今はどうか分からない。高校の時に視線は感じていたが、俺も当時は軽井沢と付き合っていたしな。流石に4年経つ。ここ数日でもアプローチはなかった。だからもう、進展することはないんじゃないか?」
「そうは言っても……お前だって今は誰とも付き合ってないだろ?」
「啓誠。俺はお前たちと違って既に就職した人間だ。俺が愛里のファンなのは認める。ファンの会員にも登録しているからな。でも、だからこそファンがアイドルとそういう関係になる事はあり得ない。分かるだろ?」
「……好きか嫌いかは置いておいても、スキャンダルの問題って事か。……ファンとアイドルが付き合ったってなれば、風当たりは強くなる」
「そういう事だ。当然、事務所も許さないだろう。ファンとの関係なんて。それなら、ただの元同級生として優秀な、お前のような人間との方がマシだというものだ」
そういいながら二人で、トイレの洗面台で手を洗う。
そうしていると、ポツリポツリと啓誠が言葉を紡ぎ始めた。
「………そうだな、愛里の可愛さは、もしかしたらオレも同じくらい、知っている……」
プールの時、そして、クラスにお披露目する前の──愛里退学前の変わりようは、綾小路グループで共有された。
勿論、正体が雫であるということは、櫛田と俺、そして堀北が先に知っていたのだが。
「……でも、釣り合うか?オレが。勉強ばかりしてきたオレが、だぞ?アイドルの彼女だなんて……正直、オレは愛里を遠い存在だと見てた。幾分か波瑠加の方が親近感があった。勉強を教えることはあったが、教えていて思った。愛里は、勉強じゃなく違う事がしたいんだと、勉強に前のめりじゃなかったからだ」
愛里は退学する時は、学力も体力もクラスで1番低い数値だった。
学力はセンスもあるが、反復練習の側面が多い。
歴史、化学など、暗記で得点を狙えるものも多い。
つまり、やる気がなかったのだ。
でも、そんな事をいうつもりはない。
「啓誠。同じ感覚を持った人間としか、付き合っちゃいけないというのは、考え直した方が良い」
「なんだって?」
「聞くが、お前は弁護士になるんだろう?様々なトラブルを扱う事になる。その時に、狭いコミュニティで生きて来た事を知るだろう。世の中にはお前の知らない世界が一杯ある。俺はハーバードでそれを知った」
「ハーバード、大学だと……?」
少し強引ではあるが、学歴が高いものほど、プライドが高い傾向にある。
東大だと、理科1類や理科3類など、細かなマウントの取り合いも存在する。
「あぁ、俺はハーバード大学を半年で卒業し、MHSも半年で医師免許を1年で獲得し、同時に日本の医師国家試験を受験し、医師免許を取得した。米国で医療行為をするためには始めは研修扱いになるが、日本の場合はその心配もいらない」
それがどれだけすごい事なのか、啓誠には分かるだろう。
本来、大学生活4年、ハーバードの場合は6年は見た方が良いだろう。それに、メディカルスクールで10年はかかる所を、1年で成し遂げたのだ。
啓誠にはアメリカの大学に行ったと伝えたが、大学名までは伝えていなかった。
驚く顔を前に、続けて説得する。
「お前は頭が良い。だからって頭の悪い人間を裁く権利があると思うか?」
「……いや、思わないな」
「偏差値が高い者と低い者が争っていたら、高い者のいう事を信じるのか?」
「……それは……当然違う。お互いの意見を聞いて、より証拠の多い方が正しいと判断する」
啓誠が答える。
聞きたい答えと違うが、その言葉をそのまま引用する。
「そうだな。だから、意見を聞くための下地作りが重要だ」
*
「ちょっちトイレ長かったんじゃないの?二人で何話してたのさ?」
「男同士の話だ」
トイレから戻ると波瑠加に声をかけられる。
啓誠は三宅に遅れた事を詫びた。
そして、佐倉愛里の元へ行くと、「愛里、良かったらオレと回らないか?」と声をかけたのだった。
3
5人はそうやって、二つのペアの間を俺が歩くように動物園を回る。
カピバラを撫でて、意外と硬い毛を触り、シャンプーをしたらフワフワになるのだろうかと考える。
動物園から帰る頃には、愛里と啓誠の仲は思ったより進んでいるようだった。
理解し合うという事が、信頼関係の始まりだ。
ルックスやスタイルと言った見た目で関心を持つことはあるだろうが、理解の先に、理解し合えないという結論が出てしまったら信頼関係も終わってしまう。
啓誠と愛里はお互いひたむきな人間。
相性は良いだろう。
──動物園から帰る道中。
啓誠が言い出し、助手席にいる波瑠加が愛里のアイドルグループの音楽を流し始めた。
「この声、本当に愛里なのか??」
「うわぁ……恥ずかしいよ」
「啓誠くんも愛里のファンになっちゃうかもなぁ。普段の、グループの雰囲気とは全然違うよ!始めはガチガチに緊張していたんだけどねぇ。ねぇ愛里?」
長谷部波瑠加は愛里のガチファンと言っても過言ではない。
その後、地産地消の道の駅により、つまみを少しとお酒を買って、旅館に向かった。
◇
旅館に到着すると、予想外の結果となった。
本館と別邸という2種類があり、俺達が予約したのは別邸であった。
そこはコンドミニアムのヴィラと言った方が正しい。
最新式の別荘で、畳の上に置かれたベッドが1階に4つ、2階に2つの計6つもあり、小さな露天風呂もついている。
自宅とはまた違った非日常な空間が広がっていた。
緑の景色も相まって、2階には解放的な星空が見えるテラスがある。
テラスの入口は全面ガラス張で、ガラス窓を開けると露天風呂で温まった身体を整える様配慮されたアウトドアラウンジという名前が付いていた。
本来なら家族水入らずで利用する名目で作られているのだろう。
サラリーマンの退職金で、退職祝いをするような、そんな一生に一度の特別を味わう空間。
まさか、大学生3人と他2人が予約するとは旅館側も思わなかったのではないだろうか。
しかし、温泉は別邸利用者も本館のものを使うことが出来る。
少し歩けば本館に行け、浴衣に身を包み、夜風に打たれるのも心地よい。
◇
「啓誠、愛里と仲良かったな」
「あぁ、俺は色んな世界を知る裁判官を目指しているからな」
「……なんの話だ?」
旅館に到着し、とりあえず温泉をという事で俺達3人は本館の温泉、その脱衣所で服を脱いでいた。
「清隆、早めに言おうと思ってたが、波瑠加の件、助かった」
口下手な明人がそう言って来る。
波瑠加がバイトしているファミリーレストランで起きた事件の事だろう。
概要くらいは聞いていると思われる。
波瑠加がバイト先の社員に飲み会で薬を盛られ、乱暴された可能性があった。
俺は病院から検査キットを送り、妊娠していない事はしっていたが、
診断については別の産婦人科医に任せていた。
レイプされたのか、されていないのかは分からない。
でも、波瑠加の性格的にされていないと見るのが正しいと思えた。
「あの時はオレも少し忙しくてな、ゴタついていたんだ。その、龍園や時任の件でな」
そういえば明人は龍園や時任、そして宝泉と近い地元だったか。
「気にするな。大したことはしていないからな」
「波瑠加は情緒不安定なんだ。出来ればもっと近くに住めれば良いんだが、そうはいかない。大学は同じだが、学部も違うしな。何より愛里と仲が良い」
「そうなのか?彼氏である明人よりも?」
そういうと、明人は少し嫌な表情をした。
そして、「いうなよ?」とくぎを刺されると、俺の了承を待たずに、小声で話す。
「あいつら、[[emphasismark:きっと出来てる > ﹅]]」
「どういうことだ?」
「……清隆は、相変わらずそっちの面は疎いんだな……今は啓誠と仲良くしているが、愛里が可哀想だった。まぁあの時は軽井沢もいたしな」
と、明人はため息を吐いた。
「オレは波瑠加と付き合って何年か経つが、キス以外していない。これで分かるだろ」
と、顔に似合わず少し恥ずかしそうな顔をした。
波瑠加が未経験であることは、以前電話をした時に知っていたが、知らない振りをする。
「そんなことがあるのか?」
「…ある。身持ちが硬いという事だろうが、波瑠加が何を考えているのかは、オレには分かんねぇ。付き合っているからには、あっちもオレを好いてくれてるんだろうが……まぁ、何か理由があるんだろ。オレが波瑠加を好きであれば、それでいいからな」
「おい、何の話をしている。先行っているぞ!」
皆の前で下を晒すのを恥ずかしがった啓誠が、離れて服を脱ぎ、下をタオルで隠していた。
温泉に入るのにメガネはかけたまま。
「お~。オレ達もいくわ~」
そういった明人の後ろを着いて行った。
綾小路グループの男子は、良いところで線引きをしてくれるので付き合っていて非常に楽だ。
今ある状況に、不満も疑問も思わずに、あるがままを受け入れる。
そんな懐の広さを感じた。
◇
風呂を上がり、ソファで横になっていると、女子二人も戻って来た。
数分後に夕食が開始するというので、ゴロゴロと食材の乗ったワゴンを引いた料理人と、仲居が現れる。
黒毛和牛に舌鼓を打ちつつ、日本酒のスパークリングを飲んだ。
旅行というものはこんなに良いものなのか。
職場から1時間半離れれば、身体が非日常を感じて休まりやすいというが、確かにこれは格別に良い。
「くぅぅううううう………さいっこう……帰りたくない……」
「波瑠加ちゃんそれ、禁句ね。次言ったら絶交するよ?」
「あ、愛里ぃ~~。ごめん~~~」
とやり取りする。
5人は2階のテラス席と、ラウンジで甘い日本酒のスパークリングにハマっていた。
「こんな事知ったら現実に戻れなくなるのは分かるな。やはり今知って良かったのかどうか……」
「……同感だ」
というのは啓誠と明人だ。
それに、那須塩原という地域もポイントなのではないか。
川のせせらぎの音を聞きながら、森、山、に囲まれた平原のど真ん中。
南国のリゾートホテルとも違った、落ち着きのある、澄んだ夜空。
2つあるベッドには、愛里と波瑠加が寝ころび、テラス席にあるベンチには啓誠と明人が寝ころぶ。
それを、テラス席のガラスとガラスの柱にもたれかかる俺は、今の時間だけは仕事の事は考えないでおく。
そのため、先ほどから鬼電をしてきている天沢に、電話には出ずにチャットを送った。
[今忙しい。どうした?]
[今どこですかぁ?]
[栃木]
[そーですかふーん。一応報告、ケヤキモールOKですた]
[流石だな、天沢]
[どうも]
[もっと褒めてくれても良いんですよぉ?声聞きたいなぁ♡]
[今声は出せない]
[え]
[あ、そういう感じ?]
[多分違う]
相手をすればするほどダメな気がして、俺は一方的に[明日連絡する]と言って通知をオフにした。
今は川のせせらぎに身を置き、森下が言っていたように、自然と会話をしたいと、そう思ったからだ。
4
その後、まだ夜も長いためリビングで5人トランプをした。
そして、大きいテレビモニターには動画サイトが写せたため、皆で愛里の出ている動画を見る。
酔いが回っているからか、愛里もそこまで恥ずかしがら……恥ずかしがっていたが、それでも皆が積極的にみたがった。
ファン2号を名乗っているにも関わらず、あまり見た事はなかった愛里の側面。
堂々と、力強く、元気に
『みんなー!ありがとー!!雫をよろしくねぇ~!!』
と、ステージの上で笑顔で手を振る愛里。
幼さは残るものの、キャラクターをしっかり考え、キャラクター通りの雫を演じている。
体力も少なく、どちらかというとドンくさいという言葉が似合う愛里は、
何度も練習したのだろうダンスを、スムーズに踊り、5人グループの1員となっていた。
ひらひらのコスチュームは、正直どこが良いのか分からなかった。
でも、新しい性癖を生み出された啓誠は、食い入るように見つめていた。
「良いね、愛里……ホント、頑張っているね。あ、皆飲み物ないじゃん?日本酒もなくなっちゃったー!」
「新しい飲み物出すか?」
波瑠加がまだまだ夜は長いとでも言うように、皆のグラスに気を遣う。
すると明人が提案をした。
「そうだな……オレはさっき買ったハイボールにしようか」
と、堀北学に勧められ、気に入ったであろうハイボールを啓誠がリクエストした。
「分かった!あ、新しいグラス持って来るね、氷も必要だぁ~」
そういって既に彼女の様な愛里が、自分の分と啓誠の分を作って持ってきた。
二人ともハイボールを飲む様だ。
ちなみにくじ引きで決まったが、2階のベッドには愛里と啓誠が、1階のベッドには俺と波瑠加、明人が寝ることになっている。
「あたしは瓶を空けて、そのまま飲んじゃおうかな~!」
「オレもそうする。清隆もそれで良いか?」
と、まだまだ余っている、波瑠加がハマっているという日本酒のスパークリングを3本だし、再度皆で乾杯した。
・
・
・
午前0時を回った。
明日は朝食が9時からあり、11時チェックアウト。
東京から2時間強の距離だが、一応おみやげの購入と、明人が行きたいと言っていたお店に寄り、帰宅する予定だ。
既にお開きになり、皆各々活動している。
俺は本館に少し興味があったので、どんな店があるのかを視察に向かった。
すると午前2時までやっているバーがあり、1杯引っかけて帰ることにした。
1人で[[rb:黄昏 > たそがれ]]る事30分間。
他のメンバーは寝たりなんなりをしているだろう。
明人と波瑠加が一緒にいる空間にはなんとなく居づらい。
なんならソファで寝ても良い。
アレだけ恋のキューピットになったんだ。
もしかしたら愛里と啓誠も良い雰囲気になり、何かをし始めているかもしれない。
俺達は20歳なのだ。
それ位の事はしても、怒られないのではないか。
30分間、一人でバーにおり、期待していなかったと言えばウソになる。
もし愛里が来ていたら、もし今でも俺を好きでいてくれたら、言葉を受け止めてしっかりと断る事も出来ただろう。
だが、啓誠のおかげなのか、それとも知らず知らずのうちに吹っ切れたのか、それならそれで構わなかった。
良い気分になってきたため、別邸に帰る。
別邸は薄暗く、飛び石の横にあるフットライトを目印に帰った。
──もう、皆寝ているだろうか。
と、1階のベッドルームのドアを開いた瞬間──。
「──だめッ!」
と、後ろから誰かの手でオレのクチが防がれる。
少しだけ開いた扉の先では、明人と波瑠加が立って、キスをしていた。
俺の背中に、柔らかいものが触れられる。
そして、ベッドルームの扉は閉められる。
後ろから抱き着いて来たものは、そのまま尻もちをつきそうになった。
俺はゆっくりと足を曲げていき、背後の人間がケガをしないよう、座り込む。
そして、二人とも尻もちをつくような格好になり、口を手で覆われていた俺は身長差から上を向かずにはいられない。
やがて、
クチュという音が聞こえた。
そして、口を覆われていた手が離される。
音の正体に気付いた時には遅かった。
手が離された瞬間。
俺の口は、唾液で濡らされた誰かの柔らかい唇が、そっと。
それでいて、包み込むように、
上を向いている口に、上から覆いかぶさるように。
誰かの、小さな口が。
誰かの、小さな両腕が首に回され。
大事な我が子にするように。
口付けされたのだった。