※この作品はR-18です。

ようこそ実力至上主義の社会へ   作:〇彪

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4-6 垢抜けの魔法

 1

 

「ふふッ、二人がみんなに内緒で露天風呂だなんて、誰にも言えないね……」

 

「一応家族風呂という事らしい。混浴は初めてだが、大丈夫だろう」

 

 深夜の2時半頃。

 再度ほかの3人の寝つきを確認した俺たちは、誰も使ったことのないコンドミニアムの露天風呂に一緒に入る。

 明人と波瑠加のベッドルームは愛里が入り、寝ているのを確認してくれた。

 俺は今日、どちらにせよソファで寝ることを決めた。

 愛里は怪しまれないために2階のベッドを使うことにした。

 

「あ、そうだね、うん。でも、波瑠加ちゃんには言えない……かな」

 

 チャプチャプと隣で身体を寄せる愛里がお湯を全身にかける。

 露天風呂はフットライトが少し明るく、愛里の裸がはっきりと見えてしまう。

 視線の置き場に困った俺は夜空を見上げていた。

 

「波瑠加がどうかしたのか?」

 

「ちょっと複雑な事情でね……それよりさ、清隆くんの話聞かせてくれないかな?私、頑張ってるでしょ?ファン2号って聞いたけど、本当?」

 

「本当だ」

 

「えー、それならもっと会場に足を運んでくれても良いんじゃない?それとも身体だけが目当てだったの?まぁそれでも良いんだけど……で、でも、やっぱりこんな関係、会社に悪いよね」

 

「愛里の他のファンには、申し訳が立たないな。だが、アイドルは意外と彼氏がいるという噂も聞く。一度や二度なら暗黙の了解の範疇なんじゃないか?」

 

「うん、そうだね。彼氏は、普通にみんないる感じ。私と同じメンバーにはいないけど、他のグループなんかだと、仕事欲しさにプロディーサーとか、出資者にアプローチする子もいるかな」

 

 10代中盤から始まる性長。

 同年代の男子からの情熱的なアプローチを躱せる女子は、どれだけいるのだろうか。

 ただでさえアイドルは見た目が良い。

 アプローチの数も他と比べ多いだろう。

 

「……キモチ良かった。またやろ?私を受け入れてくれて、すっごく嬉しかった」

 

 そういって愛里は当たり前のように俺の頬ににキスをした。

 

 2

 

 佐倉愛里の成長のためには自信をつけさせる必要があった。

 1年生の1学期に彼女が受けた暴行未遂事件。

 男に対する免疫を低下させ、嫌悪感すら産んだ1件は、愛里にトラウマを受け付けた。

 

 良くも悪くも、俺のサポートによって事なきを得たが、その後愛里は俺に依存するようになる。

 

 パプアニューギニアから戻り、佐倉と会ったとき、トラウマと戦いファンと向き合う佐倉がいた。

 

 4年間、彼女は変わっていないと俺は判断した。

 

 そもそも、幸せホルモン、通称セロトニンの分泌が少なく、その分泌を促すエストロゲンも少ない。

 エストロゲンを増やすためにはヨガやピラティスを行う女性が多いが、愛里はそういった事はしていなかった。

 ダンスのような激しい運動では、エストロゲンを増やすことは出来ない。

 

 長谷部のファミレスでの事件もあり、疲弊していた二人は、ここで手を差し伸べないと将来転落してしまう危険性が高かった。

 

 早めに処理すべき事案である。

 そう判断する。

 

 

 自分が愛され、受け入れられないと、自己開示が出来ない。

 そんな経験は誰にでもあるだろう。

 無償の愛を提供してくれる親と長年過ごし、その感覚が麻痺している中学生は、無償の愛から放たれ自己開示の方法を知らないと受け入れてもらえないと知る。

 すると自己開示の方法が分からず、開示したとて受け入れてもらえないと知った者は、自己開示すらしなくなる。

 

 

 愛里は先ほど、俺と肉体関係になり愛されたと感じ、自信をつけていくだろう。

 

 

 3

 

 露天風呂にいた時間が長かったが、ぬるめの湯は心地よく、ずっと浸っていたい気持ちになる。

 深夜の、日本人が一番起きていない時間帯。夜行生物の世界。それでもここは虫がほとんどおらず、遠くで川がせせらぎ、森がほのかに夏の匂いを吹かせてくれた。

 

 身体と心の距離が近づいた俺たちは話を続けた。

 

「愛里の仕事の邪魔だけはしたくない。今回はお忍びで、高級旅館、セキュリティも万全だ。俺の家にも波瑠加と一緒に出入りしてくれるからスキャンダルの心配はいらないだろう。事務所の目をかいくぐれるなら、俺もやぶさかではない」

 

「……うん。一応、社長には通してみるね」

 

「ステージの上に立つときは、皆を今の俺だと思って歌えば、もっとファンがつくかもしれないな」

 

「えッ、やっぱり分かっちゃう?」

 

 と驚いた顔の愛里を見て、頷く。

 顔を見た拍子に首、鎖骨、そして、その下の大きな二つのものに目の焦点が合いそうになった。

 

「ちょっと、話過ぎ?かな。でもね、私もこんなに心が晴れやかなのは初めてなの。それだけ清隆君が私にとって重要で、私にとって大好きで、私にとってかけがえのない存在だったから」

 

「あぁ」

 

 そういって、俺はまた夜空を見上げた。

 

「初めて見たときから、入学したときに少し話題になったって知ってる?イケメンランキングね。私はね、実は清隆くんが一番カッコいいって、初めから思ってたの。それが実は少し暗めの男子だって分かって、人気がなくなっちゃったんだけど、逆に私も同じく暗かったし、親近感って言うか。同じだって思って嬉しかった」

 

 彼女はまさに、初恋を思い出している少女なのだろう。

 

「それに、すごく助けられた。でも、きッ君は、もっと全体を見てたんだ。分かるよ、全体を俯瞰してみるって、とってもすごくて、私にとっては未知の領域。でも……そうしないと変わらない未来もあるって、やっぱり君が教えてくれたんだ」

 

 俺は黙って愛里の声に耳を傾けた。

 

「君のことを考えない日はなかったよ。毎日元気かなぁって。私の心配なんて、どうでも良くて、心配してもしなくても、君はどんどん先に行っちゃうんだろうなって。分かってた。だから私も君に胸を張って会えるように頑張ったの」

 

 ぐすッと鼻をすする音が聞こえる。

 愛里が目を伏せる。

 目から出た塩分を含んだ液体が、40度の液体と混ざった。

 

「この前、少し冷たくなかったかな。ちょっと、限界だった。理想とは程遠い、地下アイドル。それが私の今の限界。君の顔を見たとき、嬉しかったけど、それよりも見てほしくないって気持ちの方が大きかったの。君はいつも通りとてもとても輝いて見えたから」

 

 ここで肩を抱いて、泣くなというのは簡単だろう。

 でも、俺はしない。

 黙って声に耳を傾ける。

 

「清隆君が後輩の女の子とスウェットで出てきたときね、全く悲しくなかった。少し胸が痛かったんだけどね。あの後聞いたら本当に何もないっていうし、目を見ても何もなかったから」

 

 そして、ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。

 

「ずっとずっと、たぶん一生君のことが、私は好きなんだと思う。今さ、結婚しない女の子って多いでしょう?アイドルの先輩方も、結婚している人が目立つけど、逆にしていない子も多いんだよね。だからさ、私、一生君を待ってるね」

 

 4

 

 露天風呂から上がり、ソファで寝る準備をしていると、2階から愛里が降りてくる。

 そして、おずおずと、綾小路グループの愛里に戻った彼女は、私もソファで寝ると言った。

 手元には毛布を持っていた。

 5月、蒸し暑さはなく、心地よい気温。

 毛布1枚で問題ないだろう。

 何より俺も毛布1枚だ。

 

 流石に広いソファだったが、二人並んで寝るのにはスペースが少し狭いし、それに朝起きてくるメンバーに言い訳が立たない。

 どこで寝ても、クッションはフカフカだし、午前0時以降は各々活動していたからどこにいたって心配はない。

 でも、さすがに愛里と俺が同じ毛布に包まり寝ていたら問題になる。

 

 ソファはくの時になっていたため、俺はテーブルを少し離すと、外側に頭を向け、枕を置いて横になった。

 ソファは肘掛がないものの、その分足を伸ばすことが出来る。

 ソファ自体も大きく、長いものなのでスペースは申し分ない。

 

 愛里はそんな俺の足元に枕を置いた。

 愛里のソファと俺のソファは少しだけ離れているため、俺の足が愛里の顔に当たるという事はない。

 

 *

 

 レム睡眠になってから少し経ったとき。

 

 朝日がちょうど差し込む時間帯。

 

 俺は異常を感じて目が覚める。

 

 体感的には4時頃だろうか。

 

 防音ガラスは閉めたはずだが、窓の外ではチュンチュンと、鳥の声が鳴いていた。

 

 

 愛里との昨日の情事を思い出す。

 

 

 異常。

 

 

 俺の下腹部をなでる存在。

 

 俺が寝た後で愛里が3回戦目を希望したのだろうか。

 

 露天風呂に二人で入っていた時も、愛里の身体を直視していたらムラついてしまった可能性は感じていた。

 

 だからもし、3回戦であるならば、

 再度三宅と長谷部波瑠加の様子を見た後に、少し場所を移動して行うことも可能かと、そう思った。

 

 

「愛里……?何してるんだ?」

 

 

 俺は目を閉じたまま、下腹部へのスリスリを止めない存在に声をかける。

 

 

 その存在は、それよりも浴衣が脱ぎやすい設計になっているのが問題なのか。

 

 

 パンツの上から柔らかいもの、おそらく口をつけてクンクンを嗅ぎ始めた。

 

 

 とりあえず返答を待つべきだろう。

 

 

 今更、誰かに見られたって言い訳が出来る状態じゃない。

 

 

 このままの状態なら、ソファの背もたれでベッドルームの扉からは死角になっている。

 

 

 しかし

 

 

「良い匂い……」

 

 

 と言った声を聴いた。

 いいながら、ハムハムと俺の物を大きくさせようと画策する。

 

 

「ちょっとずつ硬くなってるね……スクイーズみたい、変な感じぃ」

 

 

 俺の中で感じる違和感。

 

 

 でも、そんな想定はしていた。

 

 

 やがて彼女はこう返答した。

 

 

「起きた?きよぽん」

 

 

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