※この作品はR-18です。

ようこそ実力至上主義の社会へ   作:〇彪

32 / 55
4-9 エピローグ

 1

 

 7日。

 この日は櫛田達が帰って来る日。

 

 先ほど天沢を高育に迎えに行き、家に戻った後で今度は車を変えて10人乗りのワゴン車を出す。

 雑用ばかりやっている様な気がするな。

 

 1日から始まった連休、旅行に行くために急遽用意したものだ。

 厳密には4月の末の夕方から出発した飛行機。

 送って帰る時には5月になっていた。

 

 これは松下のディーラーで買ったもので、これで俺の家には3台の車が揃っていた。

 スポーツカー、SUV,そしてワゴン。

 ワゴン車はどれもこれもその車種の用途から、積極的に運転したいと思うものではない。

 

 昨日の夕方、那須塩原から帰って来て、そのまま綾小路グループの面々は帰って行った。

 堀北学と橘茜も礼を言って。

 

 家に残されたのは天沢と俺だったが、天沢は買収した高育のケヤキモールと、理事長に用があるとかで、スポーツカーでドライブがしたいから送ってほしいと要望を出して来た。

 なんでも、理事長と話すことと、ケヤキモールの管理人に話があるとの事。

 俺も着いて来いというが、やる事があるため、午前中に車で送った後、いくつか会議に参加をした後に、天沢を迎えに行った。

 

 2

 

 ──3時間前。

 

 俺は書斎でオンラインの会議に参加する。

 

『良いプロジェクトを回してくれて助かったぞ清隆。今後もっと日本に自動タクシーが必要になる可能性はあるか?』

 

「こちらこそいいビジネスが出来た。感謝する。会社は別の者に任せているが、報告は聞いている。5万台が稼働し1カ月が経つが未だに事故は0。高齢者の多い我が国では既に重宝されていて、地方からの呼び出しもあるようだ。更に言えば、360度の監視カメラ搭載されているため、警察から会社へ、撮影した映像の提出を求める事が多いらしい」

 

『そうはいうが、そう易々と提供するような、お前じゃないんだろ?』

 

『貴方こそが金融のプロ。サウジアラムコの株を既に半分以上を手中に収めた貴方は向かう所敵なし』

 

『あぁ、あれは見事な戦略だった。金を預けていて良かったと思ったな!』

 

『去年会ってから、そうなるとは思っていたが、まさかお前がこのフィールドにくるとは、もう少し先だと思っていた。だが、歓迎する、清隆』

 

『日本のメンバーは初めてだね。サウードが失脚したという話はまだ聞いていない。清隆が上手くやっているのかな?』

 

『ともかく安心して良い。お前に預けていた我々の金は、既に返してもらった。その上で報奨金を払った。手続きに遅れが生じていたが、これでお前は個人資産で世界トップ9位になっただろう?だが、まだまだバレていない隠し財産があるようだな。全部でいくら持っている?』

 

「隠しているのはお互い様だろう、ルイ?だが、稼がせてもらったのは感謝する。それでニコラ、追加の発注についてだが、近々時期が来るだろう。悪だくみは必要か?」

 

『いや、次回以降は考えなくて良い。前回が上手く行き過ぎた分、今回はむしろ正式に依頼をしてくれ。日本の円には興味ないが、会社経営はしなければならない。後は、早くお前がアメリカに戻ってきてくれたらいう事はないんだが。』

 

「まだしばらくは、そうだな、3年ほどは日本を拠点にするつもりだ。中東へのマッチポンプで悔恨は少ないとはいえ、まだ王家の力は強いし、王家の人数も多い。仲良くしているつもりだが、寝首を搔かれかねない」

 

 世界の金融ピラミッド、その頂点に君臨する20数名の内の7名。

 名前のない、流動的な組織。

 治外法権。

 彼らは世界に守られている。

 

 今日の参加グループは、ヨーロッパから二人、アメリカから三人、中国から一人、そして、俺。

 

 ヨーロッパ、金融のロスチャイルド。

 ヨーロッパ、誰もがしっている高級ブランドのルイ。

 アメリカ、燃料のロックフェラー。

 アメリカ、連続起業家、ニコラ。

 アメリカ、小売業界の帝王、アマゾン。

 中国、新進気鋭の若手起業家、帳。

 

 俺はアメリカで、ニコラと知り合い投資を開始した。

 アメリカ政府と中東のいざこざの中、エネルギーに目を付けた。

 政府はニコラに戦争の兵器を発注していた。

 ニコラ社が持つ技術で、中東を完封できると見た俺はアドバイスをする。

 そして完封ギリギリで、俺が、中立的な第3者として登場。

 自堕落な生活をおくる石油王の家族に国民の不満が高まる中、サウジアラムコの株式を取得、経営に口を出すことによって鎮静化を図った。

 

 国債や文字列に変わる世界的な紙幣。それは金や銀、そしてエネルギー資源である。

 

 晴れて石油王となった俺は、ファイナンシャルエリートの仲間入りを果たす。

 

 金を世界でかき回す金融のトップ。

 ドル紙幣を発行する権利を持つ、ロックフェラー。

 発行権を持つことは、その国の金融を支配していると言える。

 

 金融ピラミッドは我等と他、数10名の資産家をトップとし、2に世界銀行、3に世界的な証券会社。4は各国の大企業、5は国の政府という5段階となっている。

 4の大企業は、5の政府発行の国債、日本なら円を活用することで、政府の下支えをしていた。

 

 俺達の様に、国に所属していながらも、円だけでなく、投資先を複数持っているのは、グローバル投資家と呼ばれる。

 各国の政府と持ちつ持たれつの大企業と比べ、国の通貨の変動リスクを恐れず、所在国の政府から完全に切り離して資産管理が出来るのは、一つのメリットだと思われた。

 

『分かった。清隆がそういうならそれで構わない。では議題を進める。次は世界銀行から、アジアの貧困国への投資金のお願いだ──。』

 

 3

 

 ゴールデンウィーク中はアルバイトだった。

 7日の夕方。

 椎名ひよりは少し残念に思いながらも、ケヤキモールの書店を出る。

 

 綾小路くんとの、大切な思い出の詰まった場所で働けるなんて、夢かと思いましたが、簡単ではないようですね。

 大学と、借りているマンションとの中間地点に位置する高育は、ひよりのバイト先としても申し分なかった。

 書店は下火にあり、高育へテナントを出すことで大きな収入を得ていたため、卒業生である彼女を採用することでなんとか継続させる心づもりだったのだろう。

 

 会社のご期待に沿えなくて、申し訳ないのですが──。

 世の中は弱肉強食。

 電子書籍の台頭、ネット小説の多様化。

 文章は、容量を食うものではない。

 パソコン内のメモ帳で、1メガバイトは10万文字以上。

 1メガバイトは粗い写真1枚、音楽だと30秒が良いところ。

 

 容量を食べるのは、紙であり、印刷技術であり、梱包であり、そして紙をめくる動作なのだ。

 

 

 仕方ないですよね。

 そう思いながら、正門とは異なる、関係者専用の裏道を通って行く。

 そこは関係者の駐車場や駐輪場、そして、高育を守るよう覆われた厚い壁と、頑丈なセキュリティチェックがある。

 ここを出ると、10分と少し歩けば電車があり、帰路に着く。

 まだ電車の時間が早いからと、少し開けた場所に簡易的なベンチと、自動販売機があるスペースに腰を落とした。

 夕方とは言え、まだ陽はさしており、出来れば日陰にいたい。

 

 出入り口からは見えない、元々喫煙スペースだった様な休憩所で一人落ち着いていた。

 

 出来るだけ、高育の空気を感じていたいから。

 

 すると、奥の建物から見知った顔、おそらく後輩が、出入口に歩いているのが見えた。

 

 私は誰か気になり、そっと顔を出して伺う。

 ジムの秋山さんや、元担任、ケヤキモールの管理人だったりしたら、少し話すのも良いかなと思ったからだ。

 ちなみに書店はワンオペ制なため他のバイトがいることはあり得ない。

 

 遠くに見える彼女はツインテールで、黒のジャケットとワインレッドのワイシャツにミニスカート、パンプスを履き、ブランド物の、大き目のバッグを持っていた。

 

 携帯を触り、画面を見ながら歩いていると、ちょうどセキュリティチェックにかかったスポーツカーが見える。

 

 ──はッとした。

 

 ──彼はセキュリティを通過し、ゆっくりとスポーツカーを動かすと、女の子の方へ車を動かした。

 

 ──女の子はそれを見て、はしゃぎ、近寄る。

 

 ──彼女は日本の助手席とは逆側、運転席側に回り込むと扉を開けた。

 

 そしてそのまま、建物近くの駐車場の空きスペースに駐車する。

 

「なんでこんな回りくどい事をしないといけないんだ」

 

「えぇ~?当然、このあたしがあまり歩かなくても済むように、ですよ~」

 

「それはおかしい。だってお前は今歩いているだろ?」

 

 すぐに顔を、隠してしまった。

 

 スポーツカーから歩いて出て来た男女。

 

 私はベンチに座り、下を向き、携帯を出した。

 

「坂柳理事長との話、そして管理人との話、一応報告してもらえるか?」

 

「そんなの万事オッケーに決まってるジャないですかぁ!」

 

「これでは報告とは言えないな」

 

 といって、自動販売機の方へ歩いてくる。

 

「ところでお前、小銭持ってるのか?高育の敷地内で、プライベートポイント以外の通貨は、小銭だけだよな。確か生徒以外の者と、プライベートポイントの交換を厳重に警戒するための措置だったはずだが」

 

「えぇ!マジですか!聞いてない……」

 

 そして、彼らがこちらに歩き、屋根のあるベンチに入って来た。

 

 

 

「──ひより?久しぶりだな」

 

「……綾小路くん?」

 

 私は既に気付いていた。

 だが、自ら話にいけなかった。

 

 彼は相変わらず、独特な雰囲気を纏い、それがさらに強くなっていた。

 魅力的すぎる。

 

 どんな状態でも安定を保ち、他人の感情など分からない。が、理解し納得するだけの要領を持つもの。

 人類の進化で生み出されたレアキャラ。

 

 彼に近づけば、破滅が待っていると分かるが、近付かずにはいられない。

 

 

 ──なぜなら、破滅的な物語にこそ、人は感動するのだから。

 

 




明日から毎日19時15分に投稿します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。