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渋谷にある、とあるIT企業に1名の美少女が降り立った。
グラビアアイドルかと思うレベルのルックスに、スタイル。
「よ、ようこそいらっしゃいました」
「初めまして、よろしくお願いします。一之瀬と申します」
「社長、オレが懇意にさせてもらっている、K・Aの別チームのリーダーだ」
「あ、あぁ。たまに櫛田さんと電話で話させてもらってます」
IT企業の社長が、ドギマギしつつも名刺を渡す。
天真爛漫がぴったりの、髪の長い少女がそういって笑顔を振りまく。
「名刺、当社は持ってなくって、大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫です!確か櫛田さんもそんな感じでしたから」
「それは良かったです。助かります」
いえいえ、と言いながら、社長は神崎を見る。
神崎は緊張しながら、一之瀬の横の席に座った。
神崎と年齢の近いIT企業。
綾小路が懇意にしている会社。
神崎を通さずに、ハキハキと要望を伝える一之瀬を見て、神崎は嫌な予感を覚えた。
「セキュリティにはいくらお金をかけて頂いても構いません、誤魔化す余地のないレベルで、強力なものを設計してもらえますか?」
物腰柔らかそうな言い分だが、有無を言わせない態度。
一之瀬らしくない様子。
これは、間違いなく綾小路が一枚噛んでいる証拠。
◇
「……ところで、一之瀬さんはお付き合いされている方などいたり?」
1時間打ち合わせが終わり、打ち解けて来たIT企業の社長。
結構お金を持っている口。
顧客だろうと、口説きにかかる。
しかし、今は辞めて欲しい。
「ええと……?」
と、笑顔で応対する一之瀬。
辞めろ……。
「ウチの会社には実はビールサーバーがありましてね、社内でも良く飲むんですよ。後輩の神崎君も、たまに参加をしたりして」
辞めてくれ……。
「そうなんですね、会社で仲が良いのは良い事ですね!」
「はい、ですので、一度一之瀬さんもどうかな?と思って声をかけたんですが」
「……?それがお付き合いとどういう関係で?」
「あ、いや、彼氏がいる方を誘うのもどうかなと思いまして」
「あ、そうなんですね。[[emphasismark:そういう会社 > ﹅]]なんですね」
終わった──。
一之瀬は、その場でやんわりと断り、会社を後にした。
神崎は一之瀬を追って、謝罪をする。
「気にしないで良いよ神崎くん、でも、あの人ちょっと失礼だったよね」
「悪気はないんだ。一之瀬が、どういう人間なのか知らなくって……」
「へぇ、まぁ、良いけど、ちょっと違うかなって思ったよね」
「すまない、でも綾小路も通してるんだ、今回の事は水に流してくれないか」
「んん?別に、綾小路くんには神崎くんを通せって命令されている訳じゃないよ?」
そう、予算は割り振られてたとは言え、必ずしも神崎のIT企業に依頼をする必要はない。
「ともかく、今回の件は保留にさせてね。クライアントに手を出そうとする取引先と、付き合っていける気がしないからさ」
「──一之瀬!」
「あ、HPの件についても、もしかしたら担当を変えるかもしれないね?一応、考えておいた方が良いよ?」
神崎の目の前が真っ暗になった。
綾小路と付き合えていない。
という事が、これほど一之瀬にとって突かれたくない所だったのか。
しかし、このツテを失う訳にはいかない。
今後、彼らから拒絶されたまま社会で生活出来る訳がない。
上に上がろうとすればするほど、障壁となってのしかかってくる。
神崎は唇を噛み、歯ぎしりをした後、決心したように言った。
「分かった。一之瀬、悪かった。俺も、この会社を見限ろうと思う」
「ん?そうなの?良いね」
と、一之瀬は良いのか悪いのか、判断の出来ない抑揚のない声で言った。
「だから、すまない、出資してくれないか。早速K・AのHPと、システム構築、俺の下でやらせて欲しい」
得意先をそのまま引き継いでの独立。
大学2年生だが、早い人は早いだろう。
それに、人脈も出来ている。
声をかければ集められるエンジニアもいる。
「分かった。綾小路くんも喜ぶと思うよ。話は通しておくから、3,000万円位?融通するね」
俺の様子を見て、ピタリと出資金を言い当てて来る。
やがて、「楽しみだね、神崎くん。人を待たせているから、じゃあね」と、彼女は言って、ビル1階に迎えに来たスポーツカーに乗った。
一之瀬は嬉しそうに運転手の腕にしがみ付いていた。
運転手は無表情のまま、車を動かす。
彼女が通った先で、見惚れるのは男だけでなく、女もであった。
2
「何この車?」
「メルセデスマイバッハ、プルーマンですよ真澄さん」
「どもども、有栖先輩のご友人様」
「いや、誰?」
「天沢一夏さんです。真澄さんが退学した高育の一つ下のAクラスです」
「あぁ、そういえばいたねこんな子」
神室真澄を伴って目指すのは坂柳邸。
その後、自動タクシーの会社へ行き、もう1名のチームメンバーと合流するようだ。
「時に天沢さん、あなたの同級生で使えそうな人はいないのですか?」
「いんや、あたしは結構一匹狼だったからなぁ」
「一人もいないなんて事はありえないのでは?少なくとも、綾小路くんと同じ場所で育ったのですから」
「先輩が特別なだけで、あたしはそこまででもないよ。それに、有象無象なら従ってくれそうな同級生はいるけど、そういう訳じゃないでしょ?」
「それもそうですね」
「ちょっと、何それ?綾小路と同じところで育ったって…?どういう事?」
「真澄先輩には話せない事だよ」
「っま、興味ないけどね、有栖の補助が出来れば私は良いからさ。で?何?今は綾小路の仕事を手伝ってる感じ?この車も綾小路の案件って訳?」
「はい、そうです。彼が行おうとしている事は、日本全国を超監視社会にする事。その監視カメラを集約し、利権に食い込むことです」
そこでサラッと坂柳から重要な事を告げられる。
「はい?何それ、そんな事をやっている訳?」
「えげつないよね、先輩も……悪い事も出来ない、国民同士、挨拶もし辛い。悪口も言えない~~!」
「芸能人、有名人のスキャンダルから、政治家の悪事、それと、裁判や、立法まで。ありとあらゆる事を根底から覆そうとされていらっしゃいます。既に警察から毎日問い合わせが数十件と寄せられ、証拠の提出を求められております。1件いくらと請求している訳じゃありませんが、国民の税金によって賄われている警察に無償で証拠を提供するなど愚の骨頂」
「悪い顔をしてる……」
「何人か刺客を潜り込ませておりますが、そろそろでしょう。民間からも証拠を消せと費用の提示が毎日なされています。富裕層の弁護士から」
「お金持ちからは取れるだけ取らないとダメだよねぇ?」
「天沢さん、おっしゃる通り。既に手は打っています」
そして、ふふふと笑うと、告げた。
「このチームが、一番お金を稼げると綾小路くんに示さなくてはなりません。どうですか?天沢さん、使えそうな人材はいませんか?」
そう言うと、天沢は少し考えた。
そして、思い当たる人を1人挙げる。
「いるね、そういうのが好きそうな、強面な男子」
今、どこで何をしているのかは分からない。
あたしと同じ、一匹狼。
「宝泉くん。監視カメラに引っ掛かるなら、こっちで引き入れちゃいたいですねぇ」
「お願いします。橋本君と鬼頭君。特に橋本君は大学生活を満喫されている様でした。鬼頭君は夢の邪魔をしては可哀想ですから」
「え、何?橋本が何してんの?」
「女の子のナンパばかりしてましたので、少しお灸を据えたのですよ」
「うわ、エッグ……」
そして坂柳は運転手と会話をするボタンを押して、運転手に言った。
「まずは白石さんとの合流を。自動タクシーだけでなく、ニコラ・ジャパンの社長へ、売値を1.1倍に引き上げる話もしなくてはなりません。まずは、私はそちらへ向かいます」
『分かりました、そちらから向かいます。綾小路くんへ話を通す必要は?』
「不要です。あのお方の脳を使わせる必要はありません。ニコラの日本法人の社長は私の手の者ですから」
『了解』
「貴方にも働いてもらいますよ、月城さん?」
『分かってますよ。そろそろご自宅です。用意できるまで待っております』
そういって車は坂柳邸に到着した。
坂柳がおり、神室が補助をしながら自室へ物を取りに行った。
着替えも同時に済まされており、スーツスタイルになっている。
「これが正装らしいのです。グループチャットに載っていました」
そういって、大きくない胸を張った。
その顔はどこか誇らしそうだった。