※この作品はR-18です。

ようこそ実力至上主義の社会へ   作:〇彪

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5-8 エピローグ 同窓会

 1

 

 5月の最終日。

 

 石崎たちの寮から帰ってからは大変だった。

 

 早朝5時半に着いたが、なぜか起きていた軽井沢に、「タバコくさ……」と言われ、石崎の話をする。

 そうすると、「へぇ、そうなんだ」と落ち着いた表情を見せて解放された。

 

 土木作業に従事していた1週間。

 やりたい事が溜まっていた。

 5月中に間に合わせたい案件もあったため、溜まっていたアポイントをいれつつ、最終調整にかかる。

 

 そして、今日の予定だが、午後の4時から櫛田発案の会議。

 午後の7時から堀北発案の同窓会を行うという事で、少し歩いた場所に行かなければならない。

 元から車で行くつもりだが、歩いて行った方が良いとアドバイスを貰う。

 しかし、飲み過ぎて帰れなくなる同級生がいないとも限らない。

 数日前に自身で洗車したばかりだし、実はSUVも気に入っている。

 櫛田が乗らないというのであれば、俺が運転しても良いと思われた。

 

 2

 

 午後4時

 

 会議が始まる。

 そんなに堅苦しく考えていなかったが、いつも朝食を取るキッチン近くのリビングではなく、モニター前のソファ席を、会議に見立てて設置してあった。

 意外と参加者は多いようで、レジュメも用意されている。

 PCのメールで議題は見れるが、紙であるとすぐに読めて便利だなと思う。

 

 櫛田チームは堀北と軽井沢が。

 坂柳チームは天沢と月城が…いや待て、月城?

 一之瀬チームは神崎が近くに座った。

 

 時間になる5分前に書斎から出てすぐ、やる気に満ち溢れた3チームを見て、思ってたのと違うと気付く。

 

「綾小路くん、こちらへ」

 

 糸目の元理事長代理が立ち、誘導された先は、一人のソファ席であり、モニターのど真ん中であった。

 ちょっとした嫌がらせをされつつ、着座し、斜め前にある小さいテーブルに置いてある紙を見た。

 モニターの横に席があるため、一人一人発表するスタイルなのかもしれない。

 

 月城に会釈しつつ座ると、そわそわとする両隣に座る軽井沢達。

 

 いや、今から何が始まるんだ。

 というか、PCも持ってきてないし、手に持っているのはスマホ1台だけ。

 そしてやはり、というか異なるのは服装であった。

 皆、ジャケットを着ている。

 かくいう俺は、ラフなワイシャツのみの恰好である。

 ちなみに下はスラックスだが、足元はクロックスのドライビングサンダル。

 色は黒で、前から見れば革靴に見えないこともないが……。

 

 しかし、ちょっと取りに行って来るといえる雰囲気ではなかった。

 

 なぜなら、既にモニター横の後ろに位置していた月城が声を発し始めたからだ。

 

 渋く、良く通る声で司会進行が始まった。

 

「では、さっそ──」

 

「いや、ちょっと待ってもらえるか?」

 

 そういって手をあげる。

 皆がこっちを伺うように見て来る。

 それは良い。

 

 しかし、お前は……そもそもなんだ?

 

「月城さんは運転手として雇ったものと思ってましたが?」

 

「はい、だから運転手を行っておりますが?」

 

 堂々としたものだった。

 そもそも月城を雇ったのは俺ではない。

 坂柳が、こっちの案件を動かすのに1台車と運転手を付けてくれというので、任せた結果、月城が手配された。

 というものだ。

 

 ん?俺だけ…?

 

 返答に窮していると、月城は「ですので、こうやって皆さんの運転手として、司会進行をしているのですよ」と言いのけた。

 そんな言い訳あるか?と思うが、恐らく一番目に話始める櫛田がピリピリしているため、黙る事にした。

 

 ◇

 

 会議はスムーズに進行する。

 俺は基本的に質問はせず、やり取りをする個々人の話から流れを理解した。

 

 とりあえず、櫛田チームの6月からの1.1倍の値上げは理解を得られたらしい。

 しかし、多すぎる業務に身を任せているのは及第点だろうか。

 今後の、会社の方針を理解し、全社へ発信できていないのはマイナスポイントかと思われる。

 軽井沢の迫真の、なんとか値上げの了承を得られた話は、聞いていてすごいなと思わされた。

 

 一之瀬チームは最早何をしているのか分からないが、神崎を使って上手くやっているという事が分かった。

 神崎が櫛田のような状態になっているのが、見てて申し訳ない気持ちになるが、出資をした甲斐があったというものだろう。

 石油の中継地点として活用する点も理解し、動いている。

 近日中に再度出張したいそうで、日程の候補を上げて話は終わった。

 

 そして、最後の坂柳チーム。

 

 彼女達は、莫大な利益を上げていた。

 発表からして、違っていた。

 スクリーンに映ったのは桁が違う0の数。

 発表は数10秒で終わり、堀北を中心に質問をして行った。

 天沢も坂柳と一緒に高育に足を運んでいる様で、少しずつだが人脈を拡大しつつあるとの事。

 そして、近いうちに天沢の同級生を引き入れるという話で終わった。

 

 3

 

「お疲れさま」

 

 会議は2時間に及んだ。

 7時から元1年Dクラスの同窓会と聞いていたため、ゆっくりはしていられない。

 が、書斎で残務を終わらせていると、堀北が入って来た。

 

「おい堀北、マスターキーを使っているのか?」

 

 そう、普通書斎に入る事など出来ない。

 堀北の手に持つ、名称のない黒いカード。

 本来なら金庫に入れておかなければならない、カードであった。

 

「何?コーヒーを淹れてきてあげたのにその言いぐさは」

 

 といって、書斎の前のソファに腰を下ろし、うう~んん!と背伸びをする。

 テーブルに二つコーヒーが置かれているという事は、こっちに来いという事だろうか。

 

「はぁ、頭が痛いわ。坂柳さん、相変わらず優秀ね」

 

「そうだな、しかし堀北の発表も良かった。農家の出庫先を見つけながら交渉するなんて思いもよらなかった。大学に行きながらなのに、よく頑張ったな」

 

 と、PCの操作をしながら話す。

 堀北はそれに返答せず、カチャリとコーヒーカップを持ち上げ、一口飲んだ。

 

「お前たちのおかげで日本での活動は目途がついたと言っても良い。今後は経営する会社を見ながら、現地に足を運んでくれ」

 

「そうは言うけれど、櫛田さんが坂柳さんの発表を見て火が点いちゃって……」

 

 櫛田発案の月末会議だったが、やった意味はあったという事だろう。

 数字上だけでは分からない事こそ、大事にして欲しいものだ。

 そういった点では、他者を圧倒したとは言え、坂柳の発表の仕方は俺の欲しかったものとは異なり、逆に質問をすることで理解が得られたのだが。

 

「別に金を稼いでも悪い事はないが、必ずしも良い事とも言えない。稼ぐ側がいれば、その逆もある。俺達が稼ぐ側だとすれば、負ける人たちの生活も考えるべきだ。そうだろ?」

 

「意外。飲食チェーン店に嫌がらせをしたり、銀行を潰したり、暴君かと思っていたけど、そうではないのね」

 

 現に、チェーン店は売り上げ自体変わっていない。多少コストの見直しと、人員配置をしたが。

 それに、銀行の場合は倒産したとしてもすぐに転職先は見つかる。

 転職出来ない年齢の人は、転職先の斡旋まで行っているのだから。

 

「暴君なら暴君だと思わせておけば良い。俺は表には出ていないんだ。黒幕が怖い、くらいに思われていた方が、お前たちもやりやすいんじゃないか?」

 

「そうね……」

 

 ちょうど最後のメールを送り終えると、ノートPCを閉じて、堀北の方へ行った。

 真向かいに座り、眠そうな彼女を見る。

 

「少し冷めちゃったんじゃない…」

 

「いや、まだ温かい」

 

 コーヒーカップを持ち、口を付けた。

 美味いコーヒーだ。

 櫛田の淹れるものとも、椎名ひよりの淹れるものとも、軽井沢が淹れてくれるものとも異なる。

 

 堀北はリラックスしていた。

 

 そして、前髪を手櫛であげて、「はぁ~~」と息を付く。

 

「聞いてほしいアピールは辞めろ」

 

「は?そんなことしていないわよ」

 

「じゃあ…聞かなくて良いのか?」

 

「別に、聞きたかったら聞けばいいんじゃないかしら」

 

 と言われたため、俺は黙る事にする。

 

 沈黙が流れる。

 

 カチャと、コーヒーカップを置く音、時計の音すらも聞こえない無音。

 

 今は大体6時半ほどのはずだ。

 同窓会は7時。

 ここからの距離は15分。

 

 こいつは、こんなに悠長な時間を過ごしていていいのだろうか。

 

 お互い、携帯を取り出さずに、コーヒーを飲み合う。

 

「──分かっ……」

 

「はい、あなたの負、け。」

 

「お前……」

 

「何よ?」

 

「こんな時に、余裕持ってて良いのか?」

 

 同窓会の調整の事だ。

 もう、軽井沢や櫛田は出ているかもしれない。

 

「同窓会?何を言っているの、あなた?」

 

「ん?」

 

 そして告げられる、『同窓会の様なもの』の正体。

 

「篠原さんと、池くんの結婚式の2次会でしょうが」

 

 4

 

 俺は急いでスーツに着替え、ドレスを着る堀北を助手席に乗せて車を走らせた。

 

「早く言えよ、遅刻じゃないか」

 

「あなたが正確に聞き取らないから悪いんじゃなくて?」

 

「いや、待て待て。俺はざっくりと同窓会と聞いていたぞ」

 

 そういえば、いつ言われたのだろう。

 しかし、元1年Dクラスの集まり。

 という事は、なんとなく耳に入れていた。

 でも、そうであれば納得のいく事もあった。

 

「どうりで軽井沢や櫛田は先に行っている訳だ。佐藤や松下達女子の仲いいグループでまとまってるんだろう。つまりお前はハブられたんだ」

 

「あなたに言われたくないわねぇ。三宅君や平田君はどうしたの?声をかけてくれなかったのかしら?」

 

 そう言われればそうだ。

 もしかして、俺達は二人ともハブられているのかもしれない。

 少し考えると、そうなると、参加をしない方が良いかもと思われる。

 

「ちょっと待て堀北、俺達、参加して大丈夫なのか?」

 

「……今更ビビってるの?あなたが?」

 

 急に不安になって来る。

 二人とも、騙されているのかもしれない。

 

 そもそも俺は高校3年生で裏切った側の人間だ。

 元リーダーにアテンドされ、晒上げられる可能性も0ではない。

 

 しかし、無情にも現地に到着してしまった。

 

 5

 

 急いで近くのパーキングに停める。

 もう時刻は7時を回っていた。

 

 二次会会場は、結婚式上併設のレストランの様だ。

 ウェディングドレスを着た篠原と、白のタキシードを着た池が、中心に立ち、マイクを握っていた。

 

 元1年Dクラスだけでなく、篠原の中学の同級生や、池の中学の同級生も参加しているのだろうか。

 40人で済まない、100人位の人数が参加していた。

 見ると、Dクラスだけじゃない、AもBも、Cもいた。

 それに、1年先輩もいるし、どこから聞きつけたのか、堀北学もいるではないか。

 

「……素敵ね……」

 

 隣にいた堀北が篠原を見て、ポツリと呟く。

 学を見ずに、一直線に真っ白なウェディングドレスに包まれた花嫁を見ている。

 

 人の生垣を見て、俺は納得した。

 

 ──なるほど、そういう事だったのか。

 

 参加者が多いからか、少し遅れて行った所で誰も咎めない。

 2次会で、結婚式場だから、ドレスコードではあるのだろうが、

 

 俺達は見えやすい、ベランダ側に移動する。

 誰にもバレないように、間に合っていますよアピールをするように。

 

 店の受付も、スタッフも、開始のスピーチは忙しいようで、池や篠原の写真撮影をしていた。

 

 

「……ちょっと、綾小路くん」

 

 

 と、堀北の方を見ると、人差し指をちょいちょいとして、何かを求めて来る。

 

 何を求めているのか分からない俺は、耳を近づけた。

 

『篠原とは高校で出会って──』

 

 と、池のスピーチが聞こえて来る。

 

 

「──見えないから、乗せて?」

 

 そう、堀北が言いながら、俺の肩をよじ登って来る。

 

 俺は少し身を下げて、お転婆な隣人を肩に乗せた。

 

 仲の良い友達の女の子に触れるという背徳感。

 仲の良い友達の男子に触れられるという嫌悪感。

 

 堀北も花嫁を見るために背に腹は代えられないのだろうか──。

 

 

 

 一枚、背景を撮影していたスタッフがいた。

 

 彼女は、裏方に徹していたが、あまりの良い構図に思わずカメラを構えた。

 

 ──カシャ。

 

 音が鳴り、シャッターが押された。

 世の中に一枚の写真が、生み出された。

 




次は6月1日19時15分からです。
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