※この作品はR-18です。

ようこそ実力至上主義の社会へ   作:〇彪

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6-1 阿鼻叫喚

 1

 

 アルコールを覚えたての大学生とは本当に怖いものだ。

 

 橋本と二言三言話し、更には喫煙所で1本吸わされて会場に戻ると、須藤が声をかけて来た。

 

「おい綾小路ィ!!待ってたぜぇ~~~!!」

 

「久しぶりだなぁお前!相変わらず生気のない顔してんじゃんよ」

 

 赤ら顔の須藤と山内が肩に手をまわして連れていかれる。

 

「おいおい、なんだよこの騒ぎ」

 

 と、後ろをついてきた橋本は、目的地にいるある人物を見かけて逃げ出した。

 

 到着すると元1年Dクラスの生徒が集まっていた。

 茶柱先生と堀北が少し離れてこちらを見ている。

 そういえば茶柱先生とも話もしていなかった。

 ふと時計を見ると2時間経っていて、時間が圧倒言う間にすぎるという事に気付く。

 

 今日は椅子に座らされることが多い……。

 

 結婚式場から持ってきたのだろうか、客席にある椅子に半強制的に座らされた。

 

 キャイキャイと騒いでいるドレス姿の元同級生達。

 

「おい!準備できたぞ!」

 

 という須藤のかけ声で、出てきたのは──。

 

 小さな花束を持った、佐藤麻耶であった。

 

 周囲が騒ぐ中、佐藤は恥ずかしそうに、エメラルドブルーのドレスをはためかせて、俺の少し前に立った。

 

 佐藤の後方では花嫁が、花嫁らしからぬ声で野次を飛ばしているのが見えた。

 その隣で花婿が「答えはイエスしかねーぞ綾小路!!」と声を大にしていっていた。

 

「静かにしろお前ら!今から佐藤が話すからよ!」

 

 という須藤の一喝で、野次を止める、軍隊のような統率の取れた堀北クラス。

 堀北……流石だな……。と感心したのもつかの間の事。

 平田が少し、不安げな表情を浮かべているのが目に留まった。

 

 しばらくして。

 

「──あ、あやッ……あやのこうひクンッッ……え!?」

 

 佐藤が噛む。

 すかさずどこからか手が上がった。

 

「ちょっと良い?抜け駆けはダメ!麻耶ちゃん!」

 

 目を向けると、右手をスッとあげながら、ポニーテールの女の子が注目を集める。

 そして、ロックグラスをくいッと煽ると、くぅ~~!と言い、前に歩き出した。

 

 俺の目の前に、二人の女の子が並んで立っていた。

 

 こうなったらもう、本来の目的をなさない。

 誰か止めるだろう。

 平田あたりが……

 と思っていたら

 

「良いぞ軽井沢!!そうなると思っていた、篠原!!」

 

 と、須藤が篠原に声をかけた。

 篠原はしたり顔をして、右手を握り、親指をあげた。

 

 篠原と池の後ろのテーブルに、ブーケの余りが置いてある。

 

 良いのかそれで……。

 そう思いながらも止まらない。

 

「ガンバッテ!!」

 

 と、軽井沢に声をかけた井の頭が、ブーケを持って軽井沢に渡した。

 

「よし!綾小路、選ぶんだ」

 

 何をだ?

 と、後ろで立っている須藤に振り向くと、「結婚相手だよ!オラ!お前たち高校時代からいい感じだったじゃねぇかよ」と言った。

 

 そして、軽井沢と佐藤の方を見た。

 すると、軽井沢が大きな声で言った。

 

「べ、別に好きだからじゃないわよ!いい感じだったのは認めるけど……でも、結婚したいの。綾小路くんなら、良いかなって。ホラ、他の男子と比べたらさ」

 

 と、同意を求めてくる。

 なるほど、上手く好意を隠した感じかもしれない。

 軽井沢は本堂の言っていた、ツンデレ属性がありそうだ。

 

 20歳の女子は結婚観が高まるという情報を見たことがある。

 結婚式にあてられて、モチベーションが上がったのだろう。

 堀北も素敵、とか言って感動していた気がする。

 

『あれはツンデレでござるッ!!』

 

『可愛いッ!1年ぶりに会う同級生の破壊力たるや……!』

 

 そんな野次も聞こえてきた。

 軽井沢が照れていると、スッとまた手が上がった。

 

「あ、じゃあそういう事なら私も立候補して良いかな?」

 

 二人より身長が高く、大人びた女性が、勝手にブーケを一つ持ってカツカツと歩いてくる。

 女性は後ろ手にもったブーケを、正面に持ち直し、佐藤と軽井沢にウインクをした後で、並んだ。

 

 どよめきが起こった。

 

「「「松下……!!!」」」

 

 

「大丈夫だぜ!綾小路!オレのにらんだとおり、お前の隠れファンは多いみたいだな……!流石だぜ、あっぱれだ」

 

 と、後ろから須藤が声をかけてくれる。

 

 三人になった。

 

 すると、人垣から押し出されるように、一人のアイドルが、真剣な表情で現れた。

 彼女の後ろにはおでこを出した長い髪の女子に、メガネの男、そして、ニヤつく短髪の、見知った顔。

 

「「「「佐倉!?」」」」

 

「おい、やっぱり、見たことあるぞ」

 

 そう思うのも無理はない。

 佐倉を知らないものは、存在感のなさに会話をしたことすらないだろう。

 同じクラスメイトだとしても。

 

 長谷部にブーケを渡され、佐倉愛里が堂々とした足取りで歩いてくる。

 思わぬ存在に、佐藤も、軽井沢も、松下ですら、強敵として認定していた。

 

 この瞬間、この場で。

 

 パーティなのである。

 誰もとがめない。

 

 ここは学校ではないのだ。

 

 非情な時間が過ぎている。

 

 佐倉が現れたことで、真剣味が出て、引くに引けない3人。

 鎮まる空気。

 ひりつく感覚。

 須藤は「綾小路、わりぃ、逃げらんねぇかもしれねぇ。池と篠原の婚姻届けの余りがあるって、さっき言っててよ……」と逃げ道を塞いできた。

 

 

 そこで会場の扉が開けられた──。

 

 ど派手な登場で、皆がそっちを見る。

 

 2

 

「おやおや、面白いことをなさっておりますね」

 

 反対側の、既に別の場所で飲み交わしていたもう一人。

 

「坂柳さん、貴女が出るなら、私も行くしかないよね?」

 

 そして外。大きい音楽を流し、ドタドタと乗り込んでくる長髪の男。

 

『池と篠原、遅れたぜ、小宮もいるよな?』

 

 坂柳が神室と山村、その後ろに森下、白石と西川を率いてぞろぞろとやってきた。

 

 対するは一之瀬と神崎、網倉、柴田と外国から一時帰国した渡辺もいる。

 渡辺は肌の色が黒くなっていた。

 

 龍園は大勢を引き連れてやってきては、この惨状を見て、口角を挙げた。

 

「面白いことやってんじゃねぇか…仲間外れにしないでくれよ」

 

「龍園君、遅れてきてまずそれはないんじゃない?まずは池くんと篠原さんに挨拶をするべきじゃないかな?」

 

 と、一之瀬が言うと、龍園は花嫁と花婿の方を見た。

 

「おい池!篠原!」

 

「「は、はい!」」

 

「やることやって子作りしろよ!選別はくれてやる」

 

 と一言。

 

 後ろで須藤が焦る。

 須藤の後ろに控えていた、山内も本堂も、三宅ですらも龍園の登場に酔いが冷めたかのように見えた。

 

 しかし、そのままカツカツと龍園は俺の元へ来た。

 そして、肩に腕を置いて、周囲に話しかける。

 

「まぁまてお前ら。少し酒の力を借りているようだがな……の前に、おい石崎酒だ、酒を持ってこい!」

 

「へい!」

 

 呆然とする花嫁候補が、石崎が飲み物を持ってくるのを待たされる。

 茶柱先生も、星之宮先生も未成年がアルコールを飲んでいることに何も言わない。

 何かが変わった?

 しかし、今は目の前に集中する。

 

 石崎が急いでシャンパングラスになみなみと注いで龍園に渡す。

 龍園はそのままシャンパンを飲み干した。

 

「よし、良いか、花嫁共。まずは綾小路の気持ちを聞かなきゃならねぇ。その過程を飛ばして結婚だ?笑わせるぜ」

 

 と話し始め、坂柳と一之瀬に目配せをした。

 思わぬ正論の前に、周囲に「確かにそうだ」という雰囲気が漂い始める。

 

「綾小路ぃ!!」

 

 と、会場に響き渡る声で俺の名前を呼ぶ。

 コイツ、もしかしたら叫びたいだけなんじゃないか?

 

「お前は、結婚しても良いと思ってるのか?」

 

 と、聞いてくる。

 龍園に場を奪われた須藤たちは、既に離れたテーブルで酒を飲んでこちらを伺っていた。

 

 結婚。

 別に、契約上の物だろう。

 最近だと結婚の前に書面を交わすのが通例だと聞いていた。

 それに、日本の法律で守られた婚姻。

 財産の半分は流石に辞めてほしいが、最悪そうなったとしても問題はないと思われた。

 

「あぁ、別に──」

 

 言葉を続けようとした瞬間。

 スッとまた、別のところから手が挙げられた。

 

 3

 

「少し、待ってもらえますか?龍園くん」

 

 

 俺が答えようとした時だった。

 元龍園クラスの女子が……割って入ってきた。

 

「本のお友達が結婚すると、本のお話がし辛くなります。私も立候補しますね」

 

 のほほんとした表情、声で、椎名ひよりが4人の元へ行った。

 するとあっけにとられた4人を見て、キョロキョロと周囲を見回す。

 そして、篠原の手に持ってあるブーケを見て、「こちら、頂いてもよろしいですか?」と聞くや否や、並び立った。

 

 ドサッ!!!!!

 

 ──誰かが足先から崩れ落ち、その誰かのメガネが割れた。

 

「そういう事でしたら、私も立候補させていただきましょうか。綾小路くんとはチェス友達、ですから」

 

 杖をつきながら、坂柳が歩き、隣を神室が付き添い、苦笑いをする篠原からブーケを受け取り、並んだ。

 中心が大きくなってしまったため、全体が下がる。

 

「そういう事じゃないんだよな」

 

 誰かがポツリとつぶやき、会場にこだました。

 

「分かってないよ皆!そういう友達?とか、趣味?とか、それで結婚して良いの?」

 

 演劇のような動作。

 張りのある声。

 

「私は、綾小路くんが好き!だから結婚したい!」

 

 堂々とした告白に、再度ピりつく花嫁候補。

 

 ──ドサドサドサドサッ!!!

 

 元1年Bクラスの男子と、一人の女子が腰から倒れた。

 

 

「よ、よし。まぁこんなもんで良いだろ。時間かけすぎだお前ら、とりあえず綾小路、良いな?こいつらから一人選べよ」

 

 流石の龍園も引いている。

 

「だが、待て、さっきの綾小路の声を聞こうじゃねぇか。椎名に遮られちまったからなぁ」

 

「あぁ、別に──」

 

 *

 

 一之瀬は篠原からブーケを受け取り、「ありがと」と言って並ぶ。

 少し身長の低い、ふわふわとした椎名が、おしとやかという言葉がぴったりの様そうで、ブーケを胸に立っていた。

 

 一之瀬は椎名を見て、「うまく便乗したね♪」と、小声で声をかけた。

 

 椎名は、焦点の定まらない目をゆっくりと一之瀬に向けた。

 谷間が見える胸部を一瞥し、一言。

 

「肩こり、大変じゃないですか?」

 

「うん、ちょっと大変かな……なんで?」

 

「……重そうですね……読書の邪魔になりそうで」

 

 一之瀬の眼の色素が濃くなっていく。

 そんな彼女の様子に、ひよりは一瞬たりとも気遣わなかった。

 

 本日最大の雷が、二人の間に落ちた。

 

 *

 

「別に、この中の誰かと結婚しても構わない」

 

 言った瞬間、キャーともワーとも判断のつかない、声なき声が会場に響いた。

 

「聞いたか?よし続けるぞ!石崎、シャンパンを持ってこい!」

 

 と、そして、続けようとした時だった──。

 

 

 並んでいた坂柳が突然、胸に手をやった。

 そして前のめりに倒れた。

 咄嗟に手を伸ばしたのは神室。

 皆がそちらに注目した時。

 

 近くで、何かが爆発する音が聞こえた。

 

 

 4

 

 音は俺たちの家の方向から聞こえた気がした。

 火花が少し散っているのが見えた。

 それはまるで花火大会の、火薬が弾けた光であった。

 

「有栖!有栖!?」

 

 と、坂柳を抱き寄せるのは神室。

 近くの爆撃の音で、会場は狂気した。

 

 携帯を出してニュースを見るもの。

 会場から逃げるもの。

 

 俺はゆっくりと坂柳の方へ向かった。

 

「揺らすな」

 

 と、神室に声をかける。

 坂柳は眠ったように、目を、口を閉じていた。

 

「綾小路、これって……」

 

 そう聞いてくる神室。

 神室の後ろで白石が心配そうにしている。

 俺はジャケットを脱ぎ、白石に渡すと、「坂柳の顔を隠せ」と伝える。

 

 そして、いつの間にか近くにいた天沢を呼び、月城に連絡させた。

 

「先輩、月城さんはもうちょっとかかりそう……」

 

「仕方ないな、神室は天沢に坂柳を渡せ。二人までなら付いて来ていい」

 

 と言って、「天沢、救急車は手配したか?」と聞く。

 すると、「この渋滞で、時間がかかるって言われました」と返答された。

 

 ただでさえ、高いビルかマンションか、どこかで爆撃があったのだ。

 下にいたものもケガをしているかもしれない。

 

 すると、違うところからこちらに駆けてくるものがいた。

 

「綾小路くん!」

 

 櫛田である。

 櫛田は両手で、大事そうに携帯を持っていた。

 

 

「コンシェルジュから連絡……やっぱり、私たちのマンションに、ミサイルが当たったみたい…!」

 

 

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