1
櫛田の携帯から音声が漏れていた。
『櫛田様、もしもし、もしもし?綾小路様もお近くにおいででしょうか』
心配そうにこちらを見上げてくる櫛田。
「家は無事なのか?」
「うんっ!ガラスにひびも入らなかったって……壁に煤は付いたみたいだけど」
頑丈すぎる。
何はともあれ、ただの火薬で良かったと思うべきか。
犯人の心配、よりもケガ人の心配の方が重要だろう。
「多分……パニックで電車も止まると思う。どうしよう……」
「二の矢三の矢が来る可能性もあるから、なるべく出歩かない方が良いだろうな」
「うん、だから、もし良かったら何人かウチに泊めても良い?」
そう聞いてくる。
ここから家までは徒歩15分。
走れば10分とかからない。
結婚式業の窓ガラスを見ると、薄く、デザインに凝ったもの。
ここよりは家の方が何倍も安全だろう。
俺は櫛田に対して頷いた。
それをみた櫛田が振り返ると、既にこちらを伺う堀北や軽井沢、平田が見えた。
「先輩、どうしますか……?」
櫛田と話し終えると天沢が聞いてくる。
そして、坂柳に近寄って、脈を測った。
息はしているが、荒い。
表情はすぐれない、発熱もある。
「どうしよう、どうしよう綾小路……!」
と焦るのは神室真澄。
「すぐに死にはしないが、機材の整った病院に行かなくてはならない」
そう診断する。
「あの……」
と、声をかけてきたのは山村。
山村に目を向けると、山村はマイペースに話しかけてきた。
「お久しぶりです、綾小路くん」
「……あぁ?久しぶりだな、山村」
「えッ?えッ!?こんな状態で何?」
「ちょっと黙ってください神室真澄。今から山村美紀がしゃべりますから、ホラ、聞こえないですよね周囲の音もうるさいですから」
お前が一番喋っているんだが。
「私は医学部、看護学科です。えっと、お医者さんの指示は……?」
「そうだな、では人工呼吸をしてくれるか?」
2
片道3キロ。
車に乗せて、坂柳のSPをする警察官が先導し病院まで直行した。
到着すると山村に坂柳を任せ、俺は病院の医者と会話をする。
それが終わり、外に出ると天沢が携帯を差し出してきたため、電話に出た。
天沢の顔に似合わない、表情を消した、ホワイトルーム生のような、そんな表情であった。
『もしもし?綾小路くんかい?』
久しぶりに会話をする、坂柳理事長であった。
少し遠くから声が聞こえてくるところを見るに、車で移動中、スピーカーで話しているのだろう。
「はい、綾小路です」
『すまない、とりあえず有栖の携帯のGSPから、慶應義塾大学病院にいるとは知っているんだが、合っているね?』
「合っています。無事に送り届け、今は同級生の看護学生が付き添っています」
『分かった。ありがとう』
話は終わったと思われた。
だから、携帯を返そうとする。
『……終わったら、明日、もしくは明後日でも良い。お見舞いに来て貰えるかな』
元気のない声だった。
元からそんなに元気のある人間ではない。
だが、無力感を感じる、そんな声。
「なぜです?」
『君には聞いてもらいたい。隣には妻もいる。妻も、同じ症状なんだ。有栖の病気は、遺伝だ』
「俺に家族の事情を聞けとおっしゃるのですか?」
『なんでもする』
そう、坂柳は言い切った。
強い言葉だった。
「なんでも……?娘さんは、ちゃんと入院していれば問題なく復帰できる状態です、そこまで言う必要があるとは思えない。それとも……」
続きを言えるだろうか。
言えないだろうか。
しかし、俺は淡々と言葉を続けた。
「俺に奥さんや、娘さんの手術をしろとでも言うのですか?」
『あぁ、そうだ。綾小路くん。私たちを……私の家族を助けてくれ』
そこで俺個人の携帯が鳴った。
俺は話を切り上げる。
「とりあえず、話は聞きます。明日か明後日、病室でお会いしましょう」
『……ありがとう』
そう言って、俺は携帯の画面を拭き、天沢に返した。
3
そして、家に帰る。
山村には住所を教え、終わったら来るように伝える。
帰りがけに見えた坂柳は、すやすやと眠っていた。
白石、西川、森下は山村に合わせるようで、坂柳のそばにいた。
俺は警察に会釈し、天沢と共に車に乗り込んだ。
◇
家に着くと元1年Dクラスの面々がくつろいでいる。
他にも数名いるが、多くたって問題はない。
俺は近寄ってきた櫛田と平田と会話をし、俺の顔を見た平田と共に風呂に入った。
すると、携帯を鳴らした主との約束の時間が来る。
モニターに国営放送が流れていた。
世界は震撼しているようだ。
情報は少ないが、こんな状態でも楽しく生きなければ。
結婚式の主役である、篠原と池も私服に着替えてソファに座っていた。
挨拶をするのを忘れていたと思い出した。
◇
モニターに映るのは6名である。
『大変なことが起こった……!誰の差し金だ…?我々を差し置いて、こんなことをするのは……』
『待て、被害状況を教えてくれ。まずは私の会社、工場が炎上した、いくつもの防波堤を張り巡らせた工場だ。ミサイルが飛んでくるなど到底信じられない……警察の話によると近くをウロツイテいた不法移民が怪しい』
『あたしのところは大きな被害はなかった…本店が火災事故。でも、最近出したバッグのデザインが悪いわ、不祥事になってしまう』
『バッグだ?そんな事どうでもいい。清隆、君のところはどうなんだ?』
「俺のところはとりえず人災はないが、家にミサイルが撃ち込まれた」
そういった瞬間、6名の顔に驚きの表情が生まれた
『まじかよ……』
『清隆もヤバいけど、ウチもやばい。なんせ、ネットサーバーから火が点いた。本当に、どこの国の、誰なのか分からない』
そこで、一人黙っていた一番高齢の男性が口を開く。
『しらばっくれるなよ、帳?ワタシの銀行のデータサーバーがトラブルを受けた。出来るのは情報を知っているお前だろ?近くで捕まったお前の国の集団が、自白したと連絡を受けた』
『馬鹿な……そんな数時間で自白する犯人がどこにいる?』
『あたしの所も似たようなものかもしれない。怪しんでいるわけではないけど、キヨタカ、貴方の国の、参議院議員に言われてやったと、犯人が自白したわ』
「各地で似たようなことが起きているな」
『少なくとも先日送った車は無事だと思うが、皆、今は落ち着くんだ。それで、正確な被害状況は?』
と、この中で一番ランキングの高い男がそういった。
4
でも。
この集まりは終わりだろう。
お前たち、もう二度と会うことはない。
この中で二人を残し、後はこの流動的な組織から姿を消すだろう。
[富裕層ランキング、1位は正体不明の男]
小さな記事が、ネットに出た。
俺はこいつらを気遣いながら、サウジアラムコの王族との約束を取り付ける。
それは本当に心配しているように見えるだろう。
でも。
俺が勝てれば、それで良い。
──さぁ、答えのないゲーム。
──犯人捜しを始めようか。