※この作品はR-18です。

ようこそ実力至上主義の社会へ   作:〇彪

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6-5 殺戮

 

「天沢、お前知ってたんだな」

 

「うん、知っていたよ」

 

「いつからだ?」

 

「家に来てからすぐかなぁ。3日後くらい?」

 

 だから存在感が薄かったのか?

 そんな事を言いたくなる。

 

 隣で、天沢一夏が──俺を抱き枕にして、捕食する前の、虎を想起させた。

 こんな時高校ではどうだっただろうか。

 

 捕食前の草食動物である俺は動けない。

 

 しかし、そんな時にもアイツは来るだろう。

 

 ピッ

 

 カチャ

 

 誰かが来た。

 

 堀北あたりにカードキーを借りて。

 

 焦り、寝たふりをする虎と俺。

 

 犬は……少し悩んだ挙句。

 

 ゴソゴソ

 

 ?

 

 なんか押されてる……。

 

「──ふぅ」

 

 それは俺のセリフなんだが。

 

 セミダブルベッドに3人。

 

 なんとも窮屈だ。

 

 右にいる虎も、左にいる犬も。

 端っこの部分は出てるんじゃないだろうか。

 

 ──どういう状態……?

 

 密室殺人事件かもしれないな。

 

「あ、よっと……」

 

 俺の左腕…。

 

 それをぐいっと頭の方へ連れていく。

 コテンと置かれた誰かの頭。

 

 どこかで嗅いだことのある匂い。

 

 あれは──高校2年生の、無人島試験だったか。

 

 頼む。

 森下でも、誰でも良い……。

 

 しかし、俺の願いは叶えられなかった。

 

 1

 

 体感時間で言えば朝の6時位か。

 

 睡眠不足。

 

 旅行でもあるまいし、ホワイトルームでねっとりと侵略されたタイムスケジュールを恨む。

 ルーティーンは大事だが、もう少し寝るべきだ。

 しかし、とてつもなく起きたい。

 そんな相反する気持ち。

 

 防音の部屋のため、部屋の外の様子は分からないが、5時になり、電車が動き始めると生徒は帰っていくだろう。

 

 左からすぅすぅという寝息が聞こえ、右は左が俺のせいで見えなくなったからか、頬をツンツンつき、ふぅふぅと耳を刺激してくる。

 

 サササ……と右側の手が、真ん中を侵略してくると、ザッ。と寝息を立てているはずの左から手が飛んでくる。

 

 無音のセミダブルベッドで、俺たちは戦争を繰り返した。

 これは地中海東南、ガザ地区で、今も争っているアラブ人とユダヤ人に似ている。

 最近嫁姑問題に関心のある堀北ならば、重婚罪について淡々と私見を述べてくれるかもしれない。

 いつの時代も争うのは領土であり、家族という事か。

 

 俺が領土ならば、頭は首都で、後は土地、ということになる。

 

 俺の領土は、塔が建築中だ。

 右にいるユダヤ人がまずは建て始め、左にいるアラブ人が追随する。

 

 いや、おい。

 何してんだお前たち──。

 

 2

 

「──先輩?」

 

「あッ、綾小路先輩、お疲れ様です」

 

 上半身をあげて、二人を見る。

 俺の上半身のスウェットは、首までたくし上げられており、乳首には二人の唾液が付着している。

 耳元で感じていたが、口臭の全くしない二人の口。

 七瀬からはリステリンのアルコール臭がしていたものの、綺麗なものであることは確かだろう。

 

 重要なのはそこではない。

 俺の塔についてだ。

 

 男らしい名称[俺の塔]俺の、と付けばなんでもエロそうに聞こえる。

 と言ったのは、本堂だっただろうか。

 

「お疲れ、七瀬。それで、何してるんだ?」

 

 赤い下着を着ている女子、一之瀬や佐倉に負けないくらい大きいソレを持ち合わせる彼女。

 

「……えっと…?綾小路先輩のおっしゃる意味が…」

 

「辞めろって言ってるんじゃないの?七瀬さん、先輩に嫌われるのかもねぇ……だってさ、日本に帰ってきてから2か月も放置してたんだよ?先輩を」

 

「放置じゃありません。濡れ衣を着せないでもらえますか?と、いうかなんですか貴女、綾小路先輩にこんなハレンチなことをして!」

 

「先にやってきたのはそっちでしょお?あ、もしかして経験済み…とか?ハレンチだって認識があるって事はさ、七瀬ちゃんも成長したって事かな?」

 

「複数人と淫行の経験がある天沢さんに言われるのは心外ですね。知ってますよ?いろんな男子にパンツ見せてるって」

 

「そんな噂に振り回されて可愛いねぇ、おっぱい、揉んであげようかなニャ♪」

 

「悪いが、よそでやってくれるか…」

 

 そうはいうが、このまま立って、部屋の外に出られるかというと懐疑的だ。

 俺を無視して争う両隣はエスカレートしている。

 

 今は、七瀬が下の方の下着を俺の塔にこすり合わせている最中だ。

 

 2人の口論は、天沢に軍配が上がっているようだな。

 

「お前たち、じゃれてないで起きるぞ」

 

 もう勃てたままでも良い。

 その状態で起きて、シャワーをして頭をスッキリさせよう。

 

「「ああッ!!」」

 

 と言って手を差し出してくる天沢の手を払いのけ、俺は部屋を出る。

 扉を開いたときに見えたのは、パンツに手をかけ、半ケツ状態になった二人だった。

 

 3

 

 リビングに行くとまだ複数人の生徒が残っていた。

 時刻は7時半を回る。

 

 椎名がキッチンにいるのを見つけて声をかける。

 キッチンに置いてあるのは、1冊の小説であった。

 

 [殺戮に至る病 / 我孫子 武丸]

 

「物騒な名前の小説を読んでいるんだな」

 

「おはようございます、綾小路くん。はい、最近のトレンドです……コーヒー、飲まれますか?」

 

 返事をし、椎名がコーヒーを淹れてくれた。

 ついでにか分からないが、朝食を出してくれる。

 簡易的に、ヨーグルト、レモンサラダ。

 そして、櫛田たちのドイツからのお土産だろうか?ソーセージに、ザワークラウトにピクルス。

 パンかご飯か聞かれ、ご飯を選択すると同時に味噌汁が出てきた。

 変な組み合わせだ。

 だが、ドイツ産のソーセージに醤油をたらせば、おかずにならないこともない。

 同じような変な朝食を椎名も食べていた。

 

 コトッと置かれた皿、俺の分も用意してくれ、二人で黙々と食べた。

 

 身長の低い椎名。

 先日の情事が少し思い出されては、その後、昨日の2次会での罰ゲームの様相が頭に浮かんだ。

 

「龍園たちは帰ったようだな」

 

 朝食も残りはサラダと、ヨーグルトという時に話し始める。

 キッチンの遠くではまだ何名か寝ているものがいるが、広く、聞こえない。

 8時になるが、昨夜は夜遅くまで飲んでいたものもいるのだろう。

 

「はい、彼らはあの後、飲み足りなかったようで、運転手以外はお酒に手を出していました」

 

 流石だな。

 あの状態で酒に走れるとは。

 

「坂柳さんは、大丈夫だったのでしょうか」

 

「大丈夫だ。病院に連れて行って、安静にしている。今日か、明日にでも見舞いに行く予定だ」

 

「そうですか。お身体が悪いとは思っていましたが……」

 

 そういって椎名はコーヒーを一口飲んだ。

 

「綾小路くんは、将来の事を考えていますか?」

 

 椎名が、よく知らないものは変わっていないと思うだろう。

 淡々とした、のほほんとした表情。

 良い姿勢。

 そのままで、そんなことを言い始めた。

 

「あまり考えていないかもしれないな」

 

「ふふッ。初めて一本取ったような気がします。そうですね、実際、考えても意味のないことですし」

 

「[[emphasismark:椎名 > ﹅]]は考えているのか?」

 

 そう聞くと、聞かれると思わなかったのだろうか、ピクっと椎名の身体が反応した。

 

「はい、考えていました。ですが、社会というのは予想とは異なることが起きますね。考えていた将来から、軌道修正をしないといけなくなりました」

 

「確かお前は一橋という大学に通っているんだったな」

 

 国公立で言えば、東大レベルの経済と法律に特化した大学。

 官僚の予備校ともいえる東京大や京都大と比べると異質な存在。

 

「ええ、ですが、大学は関係ありませんね。皆さんを見ていて、そう思いました」

 

 椎名の中でも予想外の事があったという事か。

 質問に答えているようで、答えていないちぐはぐな感覚を覚える。

 

 俺はどうも、[[emphasismark:感情が絡む問題には疎いようだ > ﹅]]。

 

 4

 

 社会情勢は刻一刻と変化をしているようみ思われたが、円の価値暴落は対岸の火事。

 俺は円でもっている割合が全体の1割に満たない。

 他はドル、金や銀、それに株式や証券など、複数に投資している。

 長期投資とは不思議なもので、上下する場合もあるが、じっくりと右肩上がりを実現すると信用も得られる。

 俺の資産は石油王から継いだものが半分を占めるが、前オーナーはだらけて見えて、投資の能力が高かったらしい。

 何年も投資していた先が、ことごとく利益を出していた。

 実業でも利益率を出しており、安定的な運用を行っている。

 

 更に、危険な状態が続くと買いだめが起きる。

 石油が高く売れる。

 食料、米に価値が付く。

 昨日の会議で気になった、堀北の取引先について考えた。

 堀北は勘所を分かっている節があるな。

 

 9時になった。

 

「どこか、行かれるんですか?」

 

「あぁ、椎名は、大学か?」

 

「今日はお休みです。土曜日は何も入れないことにしてるんです」

 

 土曜日に授業のある大学もある。

 起きて帰ったのはそいつらだろう。

 

「坂柳さんの所に行かれるんですか?」

 

「あぁ、白石や西川、山村もいるからな、様子を見に行こうと思っている」

 

 そういうと、椎名はそうですか。

 と返答した。

 

 天沢、七瀬は書斎で寝ているのだろうか。

 それにしても七瀬はいつのまに家に来て、いつのまにシャワーを浴びて、更に俺の使っているリステリンを使ったのだろう。

 堀櫛がいないところを見ると、堀櫛か?

 天沢が気をまわしたとは到底思えない。

 

「──私も付いて行っていいですか?」

 

「あぁ」

 

 考えていた。

 

 七瀬は誰から指示を受けて、ここに来たのか。

 

 夜通し、何をやっていたのか。

 

 考えていたから椎名の質問に安易に返答してしまった。

 

 

 連れて行かなければ良かったと思ったのは、それから3時間後だった──。

 

 

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