───綾小路がパプアニューギニアに向けて飛行機に乗車した後、一人の女性が綾小路からメッセージを受け取った。
彼女は受け取ったメッセージを見て微笑み、パソコンを開く。
行う手続きは会社名の変更だけであった。
4月2週目の金曜日
●午前9時
千葉港で国際サミットが開催される。
日本の総理大臣を始めとした各国の代表が一堂に介す。
マスメディアも多数おり、大イベントであった。
●午前10時
千葉港に異様な景色が広がる。10台もの大型自動車運搬船が到着する。
1台に5,000台の何かの車両が乗っているため、なんと5万台もの車両が運び込まれた。
運搬船の管理者によると輸入元はアメリカ。
国際サミットにはアメリカの大統領もおり、好意的な表情をしていた。
虚を突かれた総理大臣は、中身が何かも確かめずに許可をしてしまう。
やがて各国の首脳の目前で、5万台もの車が納車されてしまった。
納車に対して秘書が総理から許可を貰い急いで国璽を押す。
問題が起きたら後で処理すれば良いという判断だった。
●午前11時
秘書が輸入をした日本の会社を探すが、見つからない。
閉鎖しているわけでもなく、良く聞く名前の会社だった。
新進気鋭のアメリカの起業家が経営している会社だ。
なぜ情報が引っかからないのか分からなかった。
秘書は総務省に問い合わせるものの原因が不明。
そんな会社はないとまで言われる。
そのため、浮いた5万台が千葉港を占拠することになる。
5万台もの車が占拠した千葉港は、当日の運搬を停止せざるを得なくなった。
政府は原因究明を余儀なくされる。
綾小路が買収したSテクノロジーは古いIT企業だった。
◇
●午後0時
高育の退学後、転校した高校を卒業した山内は、システムエンジニアとして就職をするも、創造性がないとされ、総務省の法人名変更システムの管理を任されていた。
基本的には行政書士から届けられるシステムの入力を行うだけの、簡単な仕事だと思っていた。
しかしそれでも、2年務めているが細かいミスの多い山内は同僚から煙たがられる。
しかし当日、たまたま上長が有休を取っており、0時にソーシャルゲームをやりながら、行政書士から上がってくる変更届け出書をパソコンでチェックする。
データが届き、チェックを始めようかというときに、会社に電話口で良く喋る仲の良い行政書士から電話がかかってきた。
先ほど送った会社の社名変更を、急ぎ処理して欲しいとの事だった。
ゲームも忙しかった山内は、上長が有休を取っている事を伝えずに、任せておけと良い返事をしてしまう。
そして、おもむろに上長のパソコンを開き、審査を通す。
仲の良い行政書士の社名変更でミスをした経験が無かった。
社名変更の審査で落ちるとすれば、同じ都に同じ社名があるか、
海外関連の事業者と重複しているといった、聞く人が聞けば小さな問題だけでだった。
普段は綿密に行う審査を上長のパソコンのパスワードを知っていたからか、仲の良い人から期待されてしまったがためか、ダブルチェックをせずに独断で通してしまう。
これで大丈夫だと安堵し、ソーシャルゲームを始める。
これは0時、7時、10時から30分間だけ、チームでポイントを取り合うもので、同じグループの『にゃんちゃんさん』に好意を持っていた。
好意のある女性のアカウントの中の人に良く思われたい山内は給料をつぎ込み強いアカウントを作っていた。
●午後1時
Sテクノロジーの清算人が、登記簿謄本と会社の印鑑を持ち、麻布十番のある不動産会社に現れる。
ゆっくりと現れたその少女は、綾小路の知り合いと名乗る。
清算人の選定の中でたまたま社外取締役に指名されただけと言うその女性は、用途を言わずに30万坪程の土地を探しているという事だった。
佐藤の先輩は綾小路の印象が強かったためか特に疑問に思わず早々に案件をまとめてしまう事にする。
調べると最近ちょうど良い案件が入っている事に安堵し、交渉に入った。
目の前の女性も大金を持っている。
隣に立つボディガードが柔道か剣道の有段者だと一目で分かるほど屈強で、彼に守られている少女は人間であると身なりで判断をする。
●午後2時
千葉港ではやっと5万台の購入者が分かった。
巡り巡って農林水産省の予算で購入していたものだと分かる。
金額として2兆円ものそれは、農林水産省の年間予算だったが、ふたを開けたら車両輸入は国土交通省の管轄のため国土交通省も支払わなければならなくなる。
ちゃんと確認せず申し訳ないと繰り返す部長は、車両の名目上は、中型のトラクターとなっていたため、農林水産省も国土交通省が見落としていたと決裁権者同士で謝る事になった。
しかし、総理大臣が許可されたと話を聞きホッとする。
●午後3時
めぐり巡って、農林水産省の2兆円の入札を行ったのは、Sテクノロジーという会社であり、先ほど社名変更を行ったという事が分かる。
農林水産省は一つの農業法人から派生して、新たなトラクターの導入を全国的に行いたい旨の企画書を作成し、前年度に提出済みで、国会も通してある正式な予算であった。
●午後4時
Sテクノロジーは株価が暴落し、現在は社外取締役の一人が清算人を務め、株は全て投資会社が購入することが決定していた。
清算後の新社名に今は変更されており、新たな体制で事業に取り組んでいくという事だけが分かった。
●午後4時50分
本日中に済まさなければ土日は動かない官僚のシステム管理者が、整合性が取れている旨を総理の秘書に伝える。
予算組みも問題はない。
5万台の車両を、国が買い上げ、Sテクノロジーが管理運営する事になっていた。
そして、Sテクノロジーは、社名を変更したため、アメリカ側の主張にも整合性が取れていると判断する。
●午後5時
国際サミット後の夕食前に解決しておきたかった総理大臣は、アメリカの首相に問題なさそうだと返答し、高級なすき焼きを食べに行った。
●午後5時30分
タイミングを察知したのか分からないが、輸入した車両が、自動で動き始め、東京都内に散らばる。
その内の10台を、総理大臣を始めとした各国首脳が使用したためマスメディアが沸き、SNSも大いに盛り上がる。
●午後6時
東京都小平市の医療法人の裏の30万坪の空き地に、一つの法人が住所変更をし、届出書を行政書士に提出する。
●午後7時からの2時間
空き地は急ピッチで整えられる。
単独で動く車の充電器が揃えられるが、充電器は車の半分の2万5千台であった。
二日に1度充電をしに帰るため、半分揃えれば問題ないという判断であった。
●午後8時
綾小路がパプアニューギニアに到着する。
朝の7時から12時間、時差は+1時間。
ビジネスクラスとは言え、腰が痛い。
Wi-Fiがつながるとは言え有料だから俺は繋がなかった。
インターネットに接続されずに12時間過ごしたことになる。
タブレットで読むのも良いのだろうが、久しぶりにディスプレイとは関係のない時間を過ごしたかった俺は、何も考えずに絵を書いて過ごした。
ビジネスクラスとはいえ半個室だった。
そのため一之瀬が何をやっていたのかは分からない。
到着したことを知らされ、キャビンアテンダントにバッグを持ってもらい、一之瀬と合流する。
「長かったね…。全然眠れなかった」
「俺もだ。景色ばかり見ていた。一之瀬は何をやっていたんだ?」
「私は30分の無料Wi-FiでSNSを見たり、後は備え付けの映画を見たり、していたよ。ねぇねぇ、知ってる?日本今すごい事になっているよ…」
「すごい事?なんだそれは?というか無料Wi-Fiなんてあったのか?」
初耳だ。
こういった所のWi-Fiに接続するのもセキュリティ上ちょっと不安だしな。
「ニュースサイトで数分事になんかすごいことになっていて…。後で教えてあげるね!!それにしても初海外かぁ。あれよあれよという間にすごいことになっちゃったなぁ…」
一之瀬が飛行機を降りながら周囲を見回す。
日本の景観と似ている様で全く似ていない。
俺は一之瀬の得意顔を見ながら、連れてきて良かったと思いつつ飛行機を降りてゆく。
南国はカラッとしており日本とは違うなと肌で感じる。
空港の入口でたむろっている黒人の口が赤いことから、パプアニューギニアの危険な匂いも多少感じ、午後8時なのに待っていてくれるJICA職員と合流を果たす。
一之瀬はさっそく先行して職員と仲良くなっている様だ。
後で日本大使館も回らなければならないが、まずは宿泊先で夕食だ。
現地の食事を食べてみたい。
そう思っていると、俺の携帯が小刻みに震える。
俺は電話をかけてきた人を確認し、一之瀬に一言いってその場を離れた。
『綾小路くん、お久しぶりです』
「良く分かったな、坂柳」
『まさか直接連絡くれるとは思いませんでした…。たまたま社名変更手続きをする前に、新しい社名のアイディアをくれるなんて。』
「お前が清算人をやるなんて、予想外だったな」
『いえ、誰でも出来る簡単なことを押し付けられただけですよ。結局私は専門家の橋渡しでしかありませんから』
「国家資格より大事なものをもっていると思うけどな」
『それにしても、ただの清算人だと思っておりましたが、社名変更をしたとたんに電気自動車が5万台も手に入りました…。流石の手腕ですね。所有者も全て事前に揃えてくるとは…』
「車両の所有者が省庁でなくてクレームが来なかったか?」
『実行した前経営者は既にアルツハイマー型認知症を患いましたので、クレームなど来ませんよ』
坂柳の声音は変わらなかったが、内容から感情の負担の心配をする。
「嫌な役を押し付けてしまったか?」
『いえいえ…逃げ道を沢山残していただきありがとうございます。それよりも日本に帰ってきていたのなら教えてくれたら良かったんじゃないですか?というか、どうやって私の番号を?』
「お前の父に聞いた」
『なるほど…。勝手に人の個人情報を渡すなんて、父にはおしおきが必要ですね』
「お前のおしおきほど怖いものはないな」
そういうと坂柳は愉快な笑い声を出した。
『ふふふ…。綾小路くんには前回の続きをお願いします』
「前回会った記憶を思い出せないかもしれないぞ」
『そうなったら思い出してもらうしかないでしょう』
話していると一之瀬が既に車に乗り込み、しばらく待たせていると気付く。
そろそろ戻らないと、一之瀬を困らせることになってしまう。
「話は変わるが、電話の周囲の音が聞こえるな?今、海外に到着したばかりなんだ。日本に帰ったらまた連絡しても良いか?」
『そうですか、かしこまりました』
「久しぶりに声を聞けて良かった。来週の月曜日には日本に帰るから、その後でゆっくり会おう」
『…はい…来週が待ち遠しいです…』
終わらせるつもりだったが、名残惜しさを感じる。
「Sテクノロジーの件は悪いが後は大丈夫そうか?」
『Sテクノロジーではなく、ニコラ・ジャパンです、綾小路くん』
「悪いな。ニコラ・ジャパンの正式な引継ぎ書類の作成、任せたぞ」
『任されました。それでは、海外を楽しんでください』
と、坂柳の方から切ってくれた。
「あぁ」と言って、俺は電話を切り、一之瀬の方へ向かう。
一之瀬はJICA職員と英語で会話をする。先方はアメリカ人のようだ。
「一之瀬、待たせたな…。Hi,Nice to meet you」
「ううん、大丈夫だよ!車でホテルまで送ってくれるってさ」
俺たちはパプアニューギニアには似つかわしくない頑丈な車に乗り込む。
そうして、近日中に東京都内のタクシー会社がバタバタと倒産することになった。
計画は着々と進行している。
──どこに向かっているのか、今は誰も知らない。