【完結】Angel-04 この世界の女には人権がない 作:コベヤ
俺はAngel-04の腕を引いて、風呂場に連れて行こうとした。
そして、ふいにその場で立ち止まった。
別に怒っているわけではない。
トイレの場所も教えていないのだから、彼女がおしっこを漏らしてしまったのは俺の落ち度であるし、そもそもペットが粗相することは怒ることではない。
むしろ、この状態の彼女をこのまま放置することのほうが気の毒であるとも思える。
それなのに、俺はAngel-04を風呂場に連れていくことを考えるだけで疲れてしまいそうになった。
この理由のわからない嫌悪感は何なのだろう。
俺は少女の手を離すと、トイレからトイレットペーパーを何枚か持ってきて、椅子とフローリングに広がった小水を吸水すると、今度は濡れ雑巾で丁寧にふき取って、あたりに消臭スプレーを散布した。
思えば、常日頃から垂れ流しだったんだろう。
そういえば、ペット用のトイレ売ってたな。猫砂みたいなやつ。
でも、このアパートにそんなの置くスペースないからなぁ。
「じゃあ、今日からここでおしっこしてくれるか?」
俺は少女をトイレまで連れてくると、先ほど使ったトイレットペーパーの山を流していく。
ついでに少女をトイレに座らせてみるが、彼女はキョトンとこちらを見上げるのみで、意思疎通が成立しているとも思えない。
これは結構、大変かもな。
まぁ、ペットを飼うというのはそういうことだ。
気長にやっていこう。
Angel-04を立ち上がらせると、脱衣所に連れてきた。
そして、少女の服に手をかけた時、自分が感じていた嫌悪感の正体に気づいた。
俺は少女を裸にすることに躊躇いがあったのだ。
だから、風呂より先に食事を済ませたし、少女を風呂に入れるよりも先に粗相の処理をした。
それはお腹が空いていたとか、浴槽に入れている間に掃除をしていたら溺れてしまうのではないかなんて理由でなくて、俺は少女を裸にしてその後に続くかもしれない本能的な行為から目を背けようとしていたのだ。
だとしても、飼い主としてペットの体を清潔に維持しないといけないし、今はお漏らしをしたのだからなおさらのことである。
俺はそこまで考えて、やはり彼女の服の結び目を解いて、その小振りな胸を露わにした。
白い肌はシミ一つなく、薄っすらとした膨らみの中心で淡い桜色の乳首が息づくたびに微かに上下している。
細い腰のくびれが下腹部へと続き、柔らかな太ももの内側に股間の柔肉が覗く。
恥丘の下の花弁は未だ穢れを知らぬ蕾のように閉じていた。
まだ誰も触れたことのないそれが、俺によって穢されるのを静かに待っている──そんな妄想に俺の股間が膨らみ始めている。
それを自覚した瞬間、確かな嫌悪感が浮かび上がった。
無垢な存在を前にして、こんな反応をする自分を浅ましく感じる。
だから、少女の裸を見たくなかったのだ。
ため息一つ吐くと、自分も服をすべて脱ぎ、Angel-04を風呂場へと導いた。
俺はシャワーの蛇口をひねり、水の流れを自分の手に当てて、温かくなるまで待った。
冷たい水が徐々にぬるくなって、湯気と共に心地良い温かさになる。
「掛けるぞ」
返事も聞かず、温かくなったシャワーを少女の足先に掛ける。
足が微かに震え、指の間を水が滑り落ちていく。
次にふくらはぎ、膝裏、太ももへと上げ、お腹、控えめな胸へと湯を這わせる。
少女は微動だにせず、ただシャワーを受け入れていた。
水を嫌がらないのは良いことだ。
目に水がかからぬよう気をつけながら、頭にもそっとシャワーをかける。
前髪が濡れて額に張り付き、彼女のぼんやりとした瞳が何度か瞬いた。
「そのまま目閉じてていいから」
シャンプーを手に取り、泡立てて少女の頭を優しく洗う。
指先を髪の根元に沈めて、頭皮をマッサージするように。
最後に頭からもう一度シャワーをかけると、泡と水が首から胸、足先へと流れていく。
次に体を洗う。
「どうしよう、ボディタオル持ってきてない」
それなら直接肌に触れることになるが、いいのか?
短時間の逡巡の後、仕方なくボディソープを手に馴染ませる。
手のひらにヌルヌルとした泡を乗せ、そのまま少女の肌に指を滑らせる。
ほっそりとした肩を撫で、鎖骨の線や窪みをなぞる。
控えめな胸に手を移すと薄い膨らみが掌に収まり、指先が小さな乳首に当たるたびに少女の体が微かに震える。
肋骨の浮き出たラインを指で辿り、肉のついていない腹を円を描くように撫でる。
腋の下の滑らかな窪み、細い腕、手のひらを広げて指を絡めて洗う。
柔らかな太ももを両手で包むように滑らせると、泡が足の内側を滑り落ちていく。小ぶりな尻を掴むように洗い、丸みを確かめるように撫でる。
そのまま無毛の恥丘に優しく触れ、閉じた割れ目を泡で滑らせる。指が秘裂に沿って動く度に少女の体が反応し、水滴が混じった白い泡が太ももを伝っていく。
そして、膝裏からふくらはぎ、足を持ち上げて踵から指先まで丁寧に擦って洗う。
最後に全身の泡を洗い流す。
シャワーのお湯が頭から降り注ぎ、黒髪を滑り落ち、首筋を伝って胸の間を通り、お腹を流れ、腰のくびれ、秘部を優しく洗い浄める。
その水滴が太ももの内側を滴り、足元に溜まって、排水口に流れていく。
そうして現れた少女の艶々と濡れた裸体を前にして、俺は完全に勃起していた。
だが、俺はそれを無視して、少女に掛け湯をし、浴槽へと入れた。
彼女が溺れないよう見守りながら、自分の頭と体を素早く洗い、自分も浴槽に入る。
狭い空間で、俺は少女を足の間に挟むように抱え込むと、その背中が俺の胸に密着し、滑らかな肌の感触が伝わる。
濡れた黒髪の張り付いた首筋がすぐ近くにあり、自分以外の存在と浴槽に浸かる不思議な感覚が胸の奥をざわつかせる。
人肌のぬくもりに性欲と安心感。
俺は今何を感じているのだろう。
そうやって無理に考え事をすることで、自分を落ち着かせていく。
そうして何もせず十分間ほど湯に浸かり、風呂を出る。
濡れた肌をバスタオルで拭い、薄い胸の膨らみや股間の秘部を拭う手にさっきの余韻を感じるが、それを隠すように二枚目の薄布を着せると、自分も体を拭いて寝巻きに着替えた。
ドライヤーとヘアブラシを手に取り、Angel-04をリビングへ連れると、ソファに腰掛けさせた。
ドライヤーのプラグをコンセントに差し込み、スイッチを入れる。
突然の音と温風に、少女は珍しくその身をソファの奥に引いたが、席を立とうとはしなかった。
それを信頼と呼ぶのは早計だろう。
遠くから風を当てながら、濡れた髪を指で分け、持ち上げ、丁寧に乾かしていく。
少し長めの黒髪は、湿り気を失うにつれて輝きを取り戻し、指先をすり抜けるたび、さらさらと静かな音を立てた。
絡みつくこともなく、ただ素直に流れていくその感触が新鮮で心地よい。
ヘアブラシを取り、根元からゆっくりと梳く。
湯上がり特有の、石鹸と湯気の名残が混じった匂いが微かに漂う。
髪の手入れを終えて、何気なく顔を覗き込むと、半分閉じかけた瞳がこちらを捉えていた。
眠気を隠しきれないその視線としばらく向き合っていると、言葉も無く、時間だけが緩やかに流れていく。
それは初めての感覚だった。
今までの人生でこんなに穏やかな気持ちになったことなんてあっただろうか。
だが、いつまでもそうしているわけにはいかない。
名残惜しさを振り切るように、少女に背を向けてその場を離れる。
洗面所で洗濯機を回す。
その間に食器を洗い、風呂掃除を済ませる。
脱水が終わると、洗濯物を浴室に干し、乾燥機を稼働させる。
リビングへ戻ると、少女はソファの中で埋もれるようにして眠っていた。
普段使っている敷布団をソファの前に敷いてみたが、寝るにはまだ早い時間である。
家事をしている間は、この置き場所のない感情について思考することを先送りにできていた。
それでも、何もすることがなくなれば、再び向き合わざるを得ない。
少女のほうに目をやる。
頭を背もたれに委ね、黒髪が頰に柔らかく落ちかかり、穏やかな寝息に合わせて小さな胸が上下している。
その安らかな寝姿はなぜか尊いもののように思えた。
起こさないよう、そっとその場を離れる。
キッチンへ行き、コップに氷を数個落とし、もらい物のウィスキーをゆっくり注いだ。
琥珀色の液体が氷に触れ、軽い音を立てて溶けていく。
一口含むと、オークの煙とその中に隠れていた甘みが広がり、喉を滑り落ちる熱さが胸の奥に染み渡る。
ただその場に立っているのも疲れるので、机へと向かう。
椅子に沈み込むと、わけもなく深いため息が漏れた。
手持ち無沙汰にスマホに手を伸ばすと、佐伯からのLINEが一件来ていたことに気づく。
『どうだった?』
それがいったい何のことを指しているのか考えて、即座に思い当たる。
むしろ、一瞬でもそのことを忘れていた自分に驚く。
佐伯のことだ。
一緒に食事を摂ったとか、風呂に入れてやったとか、そういうこと聞きたいわけでもなくて、単純にAngel-04の使い心地はどうなのかと聞いているのだろう。
少女に目を向ける。
その寝顔は、穢れを知らぬ天使のように清らかで、見る者に安らぎを与える。
一方、薄布から伸びた足はあられもなく投げ出され、その形の良いふくらはぎは無自覚に女らしさをさらしている。
佐伯への返事を考えようとして、知らず知らずに眉をひそめていた自分に気づく。
俺はAngel-04と性行為をしていない。
だから、「わからない」とか、「してない」とか返してもいいのだが、そんなことを書いても次会ったときに聞かれるのは明白で、ましてや「しないことにした」などと伝えたら何と言われるのやら。
それなら「結構良かったよ」とか返信してもいいのだが、わざわざそんなつまらない嘘をつかなくてはならない理由が自分には無いのだ。
『これからする』とだけ文字を打って、送信ボタンを押す手が動かない。
なぜ?
それは自然なことなのに?
わからない。
どうして、俺はこんなつまらないことで考え込んでしまうのか。
どうして、Angel-04を抱くことを考えないようにしていたのか。
わからないからだ。
居酒屋の「性処理所」に囚われていた女が何を俺に伝えようとしていたのか。
ドールバーの少女たちが俺をどう思っていたのか。
わかるのは、こんなことを考えてしまうのは、この社会に生きる人間として不適格であるということだけ。
そう考えると、こんなつまらないことに悩まされていることが腹立たしくなって、俺はスマホを投げ捨てると、手元の辛い液体を一気に飲み込んで、眠っているAngel-04の元へと向かった。