種付けおじさん戦記~勇者召還で外れスキルと言われ追放された元工場長の俺! これまで培った経済スキルで無双します! 作:鯉@
きらびやかなシャンデリア、豪華な衣装に身を包んだ高貴な人々、そんな高い身分と教養がある人物が、我を忘れて子供のように歓喜の感情を爆発させていく。
「はっ⁉」
そんな中で、この場において最も高貴な服を身に着け、上座ですべてを見下ろす男が呆気に取られていた。
「もう一度、もう一度、称号を口にせよ」
「ですから、種付けおじさんです」
圧倒的な沈黙が場を支配した。
ある者は周囲を見渡し、こんな称号聞いたことがあるのかと確認し、またある者は、これまで上級の称号が出た分、ここで揺り返しが来たんだと嘆く。
そして、俺と同じく異世界から召還された面々は……、
「なんて下品な」
「おっさんの精神の下劣さが現れたみたいな称号じゃん」
「うわ、引くわ~」
「エロ漫画の世界かよ」
「いや、実際に犯罪を犯したわけじゃないんだから、さすがにそんなことを指摘するのはダメなんじゃないのか」
それぞれが、こちらに否定的な言葉を投げかけてくる。
異世界特有の表現だったからか、意味を理解できていなかった面々に彼らは種付けおじさんがいったいいかなる存在かを説明した。
「まじか! そんな下劣な存在が神聖なる勇者召喚の儀式に迷い込んでいたのか」
「こんな称号、一体何の役に立つんだ」
「このような下品な男、どこかに追放してしまいなさい」
先ほどまで、歓迎の言葉を投げかけていたというのに、これである。
こちらをさげすんでくる目には俺は覚えがあった。
妻が娘が、そして息子が俺に対して投げかけてくる目だった。
いきなり、こんな訳の分からないところに呼び出しておいて、その上でこの扱いである。
俺の中で、憤怒の念が湧き上がってくる。
しかし、ここは我慢だ。
こんなところで怒りを顕にしても一銭の得にもならないのだから。
そうだそうだと、さげすみが雪だるま式に大きくなる。
俺はどうにかこうにか弁明の言葉を口にしたのだが、一度根付いてしまったマイナスイメージを払拭するのは難しい。
「えっとその……。何もあなたが戦う必要などありません。
ここには、これだけの優れた称号持ちがいるのですから。
どうか、城下町で、いや、田舎でゆっくりとお過ごしください」
お優しい王女様のお優しい戦力外通告。
どうやら、俺が同じ町にいるのもいやらしく、城下町から田舎にランクダウンさせられた。
戦わなくていいとなったのはうれしい限りだが、それでも、これはどうなんだという違和感が喉に引っかかる。
「3日、いえ、2日後に馬車の用意をしますから」
きっと、大至急用意したのだろう。心配になるのは、ここまでいそいで、引っ越し先の準備ができるかどうかだ。
「分りました、ですが一つお願いがあります。
これからわたくし目は頼れるものが一切いない田舎に過ごすこととなります。
当面の生活費をいただけないでしょうか」
快適に過ごせるように金を要求する。
というわけで、この国の貨幣の額について聞いたのだが、金貨1枚が1万円。大銀貨で5000円。小銀貨で千円、銅貨が100円、鉄貨が10円くらいということが分かった。
「それで、当面の金額として、いくらほど欲しい」
「金貨千枚」
「いくらなんでも、それは多すぎでしょ!」
「おい、おっさん、たかるのもいい加減にしろよ」
俺としては相手が国ということで、これくらいならポンと払ってくれるだろうという思いから、この金額にしたんだが……。
どうしてか、金を払うわけでも、懐を痛めるわけでもない、同じ世界の住人から猛反発を受けてしまった。
「いえ、やはり、金貨1200枚ほど頂けませんか」
「それは幾らなんでも、欲張りすぎじゃないのかい」
周囲からの反発の声、それを代表するような形で黒髪さわやかイケメン勇者君が前に出た。
「話を聞けば、この国の人たちは魔王軍の侵攻によって苦しんでいる層じゃないか。
そんな人たちが苦しい思いをしてどうにか納めた税金を、そんなたくさん横取りしようとするなんて」
うん、うん、正論正論。
そして、正論で場を収めようとする相手に対して、どう対応すればいいのかというのははるか昔から決まっている。
「俺はもう40代だ。あと数年で50にもなる」
「それが、どしたん。
おっさんはちゃんと立って歩けるんだから、死ぬ気で働けばどうにかなるでしょ」
このギャル容赦ないな。
情に訴えかけるべく、こちらの事情を話しても同情の色が見えない。
親父だとか中年に何か恨みでもあるのだろうか?
「当然、俺にはあんたたちと年の近しい、息子や娘もいる」
「へぇ」
同郷の陽キャ軍団の俺を見る目が変わる。
「この国の、この世界にいる多くの人間を救うのが、非常に大きな使命であることは俺も否定しない。だから、お前らが真摯にこの国を思い戦うというならば、俺は否定などしない。
だがだ、向こうに残された家族はどうなる」
息子は俺に対して顔を合わせてくれない。
娘に関しても、顔を合わせるたびに獄潰しだなと罵声を浴びせかけてくる。
家族への情はあれど、もう俺はいろいろとつかれてしまっている。
なので、こっちに来た時、これはチャンスだと思い、こっちにいることを選んだが、そのことはもう秘密だ。
「こっちの世界の絵画や宝石に関しては、本当に価値があるのかどうかなど分からない。
でも金は、金くらいならば、向こうの世界に持ち帰っても金に換えられるんだ。
一家の大黒柱がいなくなったせいで、困窮しているあいつらの生活を支えてやれるかもしれない!」
「いや、でもそれは……」
おい、ギャル!
お前人の心解かないのか。
国家からしたら、一千万などはした金だというのに、何でそこまでつっかかる。
「分りました。お支払いしよう」
だが、王様は了承してくれた。
ありがたや、ありがたや。
狙いはわかる。彼らは異世界にやって来たばかり。そんな連中に家族の話題を思い出してほしくないのだ。
冷静になってみれば、魔王討伐になど、何年かかるのか分かったもんではない。あとに残されたメンツを思い出せば、今からでも帰ると言いかねない。
だから、金を払って俺の口をふさいだ。
「でも、こんなやつに、そんな大金渡す必要ないっしょ」
あのねぇ、ギャル。
俺お前に何かした!
王様が金を払ってもいいって認めたんだから、それでいいじゃん。
王様の方も王様の方で、支払う報奨金が少なくなるのは都合がいいのか、こっちのことをにんまりと眺めているし。
畜生!
本当に優秀だな。
「勇君。実は折り入って君に一つお願いがあるんだ。金貨200枚を預かってくれないか」
そういって、俺は彼に自分の住所。
息子と娘の名前と容姿、加えて言うならば、俺の知り合いの連絡先を記載したメモを渡した。
「見ての通り、俺は昔っから腕っぷしはからっきしでね。
それに年も年だ。
とてもじゃないが、険しい魔王とうばつのたびになんて出られるとは思えない。
魔王を退治して、元の世界に戻れるといっても、奇跡に奇跡が重なっても、その場にいる面々が帰還するだけで精一杯かもしれない。
もしも、君たちが、日本に帰還できたら、この金貨を家族に届けてくれ」
「だったらさあ、全額預ければいいじゃん」
感動的な話に水を差すギャルに、さすがの勇も肘で牽制した。
「確かにそうかもしれない。しかし、俺も俺で、自分の脚で再び家族に会うことを諦めていないんだ」
宣言すれば、分かりましたと彼はうなずいてくれた。
いい子だね。本当に。
こうして俺はこれからの商売のもとでとなる、金貨1000枚。
現代の物価感覚でいえば、約一千万円の資金が手に入ることとなった。
本当に、本当に人生何が起きるのか分からないな。
ここに来るまで、一体何があったのかを俺は改めて思いだしていた。
もし面白ければ、お気に入り、評価をお願いします。