種付けおじさん戦記~勇者召還で外れスキルと言われ追放された元工場長の俺! これまで培った経済スキルで無双します! 作:鯉@
「へぇ、サムエラさんって騎士だったんだ」
ツルヒコと最初に交わした言葉がこれだった。
ツルヒコからしたら、何気ないやりとりだったろうに、鼓膜だけでなく、心まで震えた。
彼と出会ったのは本当に偶然だった。
しかし、私は運命だったと信じている。
同じ隊商に同時刻に参加することを決めたから、しばらく並んで歩いた。
どこかで、私の名前を聞いたのだろう。
ツルヒコは鎧を着込ん姿を見て、何気なくそういった。
「サムエラだ」
「えっ!」
「呼び捨てでいい、そちらの方が年上のはずだ」
ドクンドクンと脈打つ心臓。
本当は、ただ仲良くしたいだけなのに、どうしてかツルヒコの顔を正面から見ることができずに、地面を見つめながら、ぶっきらぼうな態度をとった。
『へぇ、サムエラさんって騎士だったんだ』
本当は、この何気なくも特別な言葉にお礼したかっただけなのに。
女が騎士などムリだ。
早く嫁に入れ。
騎士ごっこ。
どんなに剣を振るっても、誰も私を認めなかった。
どんなに、私が騎士になりたいと力説しても、誰も応援してくれなかった。
女だからという、それだけの理由で。
でも。ツルヒコは違った。
私がどんなに望んでも、どんなに努力しても、もらえなかった賞賛をくれた。
それからだ。彼から目を離せなくなったのは。
そうしていると分ってくる。ツルヒコのちぐはぐさが。
あのでっぷりとした腹を見れば分かる。
もともとは裕福だったのだろう。
奇麗に切り剃らえられた髪と髭。
それらは時間がたつにつれて、不揃いになっていく。
それは逆に言うならば、これまではきれいに手入れできていたのである。
肉体面はイマイチで、軽い荷物でもひぃひぃ言っている。
でも計算は早く、そろばんも使わずに、むずかしい計算をして皆を驚かせた。
きっと、元は立派な商人だったのだろう。
それも、相当なやりて。
『へぇ、サムエラさんって女騎士だったんだ』
だというのに、常識がない。
こんな私を心底から頼れる騎士だと思ってるのだから。
女で、華奢で、経験もない私をだ。
それが嬉しいのに、こんな私の誇りを守ろうと上司にかみつく姿を見ると、どうしてこんな私にここまでしてくれるんだと、不安になってくる。
そして、彼を見ていると、そのずれの大きさがより鮮明に、より確かにわかってくる。
まずは出身地。
お前はどこから来たと聞いたら、遠くだ、もう帰れないと話をされた。
ここにいる連中が安月給で働く理由は故郷に帰るためだ。
なのに、この男ははじめから故郷に帰るつもりがない。
同じ思いのやつらも、それなりにいる。
単純に食い扶持がない、家族仲が悪いとかならまだましで、戦場で脱走してしまったものだから、故郷に合わせる顔がないと新天地を求めたり。
なら、こいつも兵士なのかというと、あの体形を見るかぎり、それはないはずだ。
他のメンツも疑問に感じているようだが、こんな場所だ。暗黙の了解のもとに、過去を詮索しないという決まりができている。ツルヒコも好んで過去を話したがらないから、誰もが彼がどこから来て、どこに向かおうとしているのか知らない。
加えて言うならば、その学の深さもまた異端だった。
「落ち着いて、一体何があったんだ」
ツルヒコは言い争いになっている2人の間に割り込んだ。
元々統一王朝だったこともあり、他国であろうとも、きちんと言葉は通じる。
それでも、国をまたげば、方言、つまり言語に独自色が強くなっていく。
話している内容はなんとなく分かるものの、細かいニュアンスは妖しい。
そのニュアンスの違いで、争いが起きることはざらだった。
しかし、ツルヒコは、両者の言葉に完全に適応し、細かな勘違いを露にしてのけたのだ。
このコミュニケーション能力の高さが、肉体的に弱者であり、ろくに荷物を運べない彼が皆から愛され、重宝される理由だった。
一方で、この言語能力の高さが、なおさら、彼の来歴を探るのを困難にしている。
巷で話題になっている勇者様には、言語理解というスキルを持ち、どんな言語でも操れるというけど、ツルヒコが勇者なんてわけがないし。
謎は深まるばかりだ。
だが、それよりも輪にかけておかしいのは、その価値観だった。
「人の悪口なんてもの、気にするな」
ツルヒコは、お前なんかが騎士になれるはずがないと言われるたびに、そういって励ましてくれた。
女の騎士など、戦争で男が減りすぎたからこその、その場しのぎ。
勇者が召喚されれば、あるいは戦争が終わればすぐに消えてなくなるという考えが主流なのにだ。
ツルヒコは私が強くて、立派な騎士だと信じて疑わない。
私自身、心の奥底では自分が騎士になどなれるはずがないとあきらめているのに、当然のように騎士になれると信じているのだ。
もしかしたら、ツルヒコは女でも当たり前のように騎士になれる国からやって来たのかもしれない。
そんなはずないのに。
「残念ながら、断る。私は娼婦としてここにいるわけではないのだ」
コック長が私を誘ってきた。
強がって見せたが、大多数がコック長と同じ認識なくらい、とっくの昔から私はお見通しだ。
そうなっていないのは、ひとえに、
「頑張りなよ」
「旅の中、ちゃんとものにしな」
「金はないけど、まじめだし、あれだけ口がうまいなら、どこででも食っていけるさ」
周囲の人間。特に女衆が種族を越え、私とツルヒコの関係を誤解しているからだ。
考えてみれば、無理もないと思う。
元は貧乏とはいえ貴族だったから、文字の読み書きをできる私のもとに、彼は積極的に訪れ金をはらい文字を習っている。
そのせいでよく会話するし、そのお礼ということもあってか、私が壊滅的なまでに苦手な皿洗いを変わってくれる。
どこまでも、真摯に私と接してくれているツルヒコだが、時折、その瞳の奥にグツグツと煮込んだような、情欲があることをとっくの昔に見抜いていた。
が、無理やり私を手籠めにしようとはしていなかったから、その欲を見て見ぬふりをしていた。
それがあらぬ誤解を加速させ、皆がいらぬ気を回したのである。
にやにやと笑いながら、頑張るんだよと、応援する姿はさながら、親せきのおばあちゃんである。
だが、ツルヒコと一緒にいる限りコック長は例外として、それ以外の男が私にちょっかいをかけてくることもない。
正直、助かっていた。
そして、共に仕事をしている間に、段々とツルヒコの人なりも分かってくる。
まず、まじめ。
それでいて、自分ならできるという自信家だった。
子供との対応を見ると、妙に手馴れているから、もしかしたらどこかに子供がいるのかもしれない。
とはいえ、このご時世だ。生きている保証はないし、借りにいたとしても、妻はいるかという問いに、苦々しい顔でいないと答えたので、問題はあるまい。
あれ、そう考えたら、ツルヒコって意外と優良物件ではないだろうか。
元来の物覚えの良さもあり、あと1月か2月もすれば最低限の文字は書けるようになるだろうし。
加えて、複数の国の方言を使えるのを見ると、将来くいっぱぐれることはないだろう。
他の男のように、私を束縛してこないのは高得点だ。
女が剣を振ろうとしても、温かい目で見てくれる。それだけで、気が楽になる。
他の男のもとに嫁いで、籠の中の鳥のようにすごすよりも、ずっとましなのではなかろうか。
「いやいやいや、なにほだされてるんだ。騎士になるという夢はどうした」
一瞬、穏やかな顔で、普通の村娘のように、子供を見守る自分を想像してしまい、思わず、己を叱咤した。
家を出たとき、私は自分の道を決めたのだ。
仮に、途中であきらめたとして、生半可な男を連れ帰ることになれば、家族は私を一生許さないだろう。
立派になって、故郷に帰ると決めたのだ。
だから、仮に、そう仮にだ。そういった関係になるにはツルヒコが大商人となる確信が欲しい。
最低でも、こいつが……、あの訳の分からない理論で、金貨を錬成してから出ないとな。
もし、無から金貨を生み出せたら、その時は……。
こいつの将来性にかけてみるのも悪くないのかもしれない。
ツルヒコ
現所持金。 金貨22.5枚
現在のクエスト
①食事の帳簿を使い、金貨を10枚稼げ!