種付けおじさん戦記~勇者召還で外れスキルと言われ追放された元工場長の俺! これまで培った経済スキルで無双します! 作:鯉@
「お~い、町が見えたぞ」
足はガタガタ震え、杖を使わなければ真っすぐ歩けないほどに疲労していたというのに、知らせを聞いた途端、俺の体は羽になった。
我ながら、現金なものだ。
俺たちが参加している隊商は、道中で、小さな村を何度も何度も経由しながら、ゆっくりと、だが確実に足を進め、レイ国からヘイ国に移動した。
レイ国とヘイ国は密接な同盟関係にある。
宗教的な権威は時として国境すら越えてくるという。
なので、指名手配されていないか、ひやひやとしていたのだが、その気配はない。
そもそもの話、勇者種付けおじさんなんていませんでしたと、多数の人間が目にしたのに、権力によって俺は存在そのものを抹消されたのである。
だからこそ、レイ国さえ出れば安全と信じれたし、いざ出ると、全身に巻き付いていた鎖から解き放たれたように感じる。
浮かれ気分のままに、今日は遊ぶぞと、軽い財布(全財産)を振って、意気消沈。
やはり俺には地に足がついた生活が向いていると思いなおすのであった。
とはいえ。勝手に意気消沈している俺は例外中の例外。
皆は、今すぐ遊びに行くぞと張り切っているところを、隊商の隊長がその権限を利用して抑え込んでいる。
今日は大騒ぎをすると決めていたドワーフ連中の反発がことさらに強かった。
それでも、最低限の予定を聞かなければ困るのは自分たち。
市が開かれるのは2日後。今日は疲れを取るために羽を休め、明日は市の設営が終われば休み、明後日の市に関しては参加したいものだけが働けばいい。
3日後、この町を出発するというお触れだ。
この町に不慣れな俺たちを心配してか、単に問題を起こされたらたまらないと考えたのか。
隊商の幹部の一人が俺たちを先導していく。
そして出てきたのはおんぼろの宿屋だった。
ただでさえ狭い室内に、7、8人を強引に押し込んだ。
床にマットを敷いて横になっただけで、近場の複数人にぶつかる劣悪な環境だ。
「じゃあ、俺たちはこれで」
そういって、幹部連中はここから、3つばかし隣にある個室付きの立派な宿に吸い込まれていく。
「いいよなぁ、幹部さまは!」
「お前、道の途中に故郷があるんだろ。ついたらさ、1泊か2泊、泊めてくれよ」
「実家の作物を買ってくれたらいいぜ」
「これからどうする」
「酒と飯、ドワーフ連中は今からどんちゃん騒ぎだそうだ」
「俺は女」
幹部という、押さえ役が消え去った途端、部屋が混沌のるつぼと化した。
背徳都市、ソドムとゴモラのように、皆が普段は内に秘めた欲望をたぎらせ、それを実行するぞと隠しもせずに公言する。
なに、長旅でたまったうっぷんをここで発散してやると燃えていた。
その熱は俺もまた、同様だった。
稼いでやる、ようやく自由になったこの町で俺は思う存分稼いでやると燃えていた。
どうやら、俺の欲望はほかの連中と少し違っているらしい。
ただ一つ言えることは、それがいいことなのか悪いことなのかは人によって大きく意見が分かれるということだ。
この町に数度足を踏み入れたことがある、先輩の先導の元、外に出て遊びに行こうという連中をしり目に、俺は、夜に全てをかけると言って、紙をすいている男連中に右ならえ。
割れて売れものにならないからという理由で、ただでもらった、手鏡を使い、身だしなみを整える。
「おい、お前は外に行かないのか」
夜間外出組はもう夢の中。
まだ起きている俺を見て、同僚が声をかけてくれた。
「しばらくすればな」
しかし、俺はその誘いに乗らない。
「よし! ちょっくら商売してくるぞ」
鏡を見て、見た目に及第点を出せた。
俺はニヤリと笑う、幼女に向けてなら通報されるだろうが、女性相手なら愛嬌があると判断してくれそうな笑顔だった。
「それで。一体何しようってわけ」
商品の準備があるから、ここからは時間との勝負。
そういう風に思っていたのに、さっそくサムエラにつかまってしまった。
俺のギラギラとした野心を嗅ぎ取り、面白そうだと思い、首を突っ込んできたそうだ。
どうにも、鼻が良いのは俺だけではないらしい。
内心では邪魔だなと思いつつ、使えるものならばそれが猫の手でも使えと、社長時代、散々部下に行ってきた教訓を生かすべく、身だしなみの確認をお願いした。
見た目に関しては、総じて男性よりも女性の方が目ざといのである。
サムエラは、服のしわやら、乱れ、糸くずといった、俺が見過ごしていた問題をパパッと修正していく。
身だしなみが全くなっていないと言われた時は鏡を見て、これはなかなかと思っただけにショックだった。
「それで、今から何をしに行くのだ」
「ただ飯を食いに行く」
服装を見てもらったお礼に、目的を明かした。
「ということは、この町に知り合いがいるんだな」
「いないぞ。親切な店主と楽しくおしゃべりするんだ。何せ俺は補給担当の、実働の最高責任者なのだからな」
サムエラはこらえきれず笑いだした。
「ただの下っ端なのに」
「一番働いているのは俺なんだ。だから、実働隊長。
もともとそんな役職がないんだ。自称であるならば、嘘ではないはずだ」
「そうだな、確かに嘘ではないが……、これは捏造の領分だ」
思ったよりも核心をついた反論に、俺は何も言い返せず、固まってしまった。
「じゃあ、俺はもう行くから」
と、別れを切り出すとも、サムエラはアヒルの子供のように、俺にぴったりついてきた。
どうしてついてくんだと聞くと、
「お前についていけばただ飯を食えるんだろ」
と返された。
俺は、お前にまでただ飯を与えるつもりはないのだが。
と、近すぎず、遠すぎず。絶妙な距離を保ち歩いていると、
「ああ、安くしろ、ふざけんな」
怒鳴り声がする。
なんだろうと見て見ると、見知った顔が酒場の店主らしき男と言い争っている。
昼間っから飲んだくれたはいいが、金が足りないのか、あるいはこれからの生活を思い、節約したいのか。
もめにもめていた。
「よう、大将。どうだ、俺の家で食事でも」
ちょうど90度。
十字路の先では、これまた見知った顔である、俺の隊商の隊長殿が、ただでもいいから、自分のところで食事をしないかと誘われていた。
ぜひ食ってくれと言われた隊長は、そのお願いを袖にした。
もっと、喰わせてくれとお願いした下っ端は強制的に財布の中身をすべて搾り取られた。
同じ隊の仲間だというのに、上と下で、ここまで待遇の差が出るているのである。
酒場にいた男は、知り合いである俺を見つけると、目を輝かせ、手を広げ走り寄って来た。
俺は、そちらに目を向けることもなく、先ほど、袖にされた男のもとに向かった。
「やぁ、はじめまして。補給の実働部隊の最高責任者である、ツルヒコだ」
「私はサムエラよ」
と、同じ釜の飯を食った仲間であれば抱腹絶倒してるだろう、チントンカンな嘘を迷いなく口にした。
「ほう……」
商人は俺とサムエラを頭の先から、つま先までなめるように見つめた。
ちなみに、勝手についてきたサムエラの設定は妻らしい。
こんな隊商の中で妻を同伴する奴なんていないとつっこんだら、だったら愛人でと返された。
倫理的にそれはどうかと思い、なら妻でと返したのだが、そこで、こいつを連れて行かなければ、こんな面倒な設定を練りこむ必要がないことに気が付いた。
しかし、言い争いは向こうのほうが一枚上手で、連れて行かないと、実行部隊隊長の捏造をばらすと脅された。
そのせいで、しぶしぶ同行を許すことになったのだ。
「は、はぁ。それで一体何の御用ですかな」
商人は俺への態度にを決めかねているのだろう。
明らかにうさん臭いしな。
「なに、こちらは安月給で散々こき使われている身でな。
少々、旨味がある仕事がしたい。ただそれだけだ」
途端に、商人が一歩後ろに下がった。
どうやら、警戒度が上がったらしい。
「そう警戒する必要はない。俺が持ってきたのは儲け話なのだから」
そういって、俺はこれまでせっせと記載していた、皿洗いの記憶を提出した。
「なるほど、責任者というのは間違いがないようですね」
詳細な記憶を出したおかげで、最高責任者というほらにも信憑性が出たらしい。
「それで、儲け話というのは、私の商品をそちらの隊商で扱うという事でいいのかな」
「残念だが、それだけの権限は俺にはない」
ここで吹かせば後で面倒なことになる。
目に見えて、商人は落胆した。
「だが、扱う様に口添えをするくらいならば可能だろう。
少し、岸を変えないか」
もちろん、答えはイエスだった。
俺たちが店に入るのと、同じタイミングで、飲んだくれが同じ路地にやって来たが、幸いなことに発見されなかった。